日本の薬湯の歴史
日本人はお風呂が大好きな民族。ゆっくりとお湯に浸かる沐浴という文化は、奈良時代に仏教の広まりと共に始まったといわれています。
仏教では「温室教」という経文などにより沐浴の功徳を説き、汚れを洗うことは仏に仕える者の大切な仕事と考えられてきました。寺院では七堂伽藍の1つに浴堂を数え、施浴が盛んに行われていました。
ここでの沐浴は庶民に対しても施され、やがて平安時代の終わりに、銭湯のはしりである湯屋が京都に登場することに。
また、寺院での施浴の習慣は、鎌倉時代や室町時代にはとても盛んになり、「功徳風呂」と呼ばれ、特定の日を定めて庶民に施されるようになります。
そして民間にも施浴の習慣が広まり、近所の人たちを招いて、様々な趣向が凝らされた施浴の後、茶の湯などが振る舞われるという「風呂振舞い」が始まったと言われています。
庶民の間で湯屋が広まったのは江戸時代。江戸の湯屋では季節の行事として、夏の盛りの土用には「桃湯」、端午の節句に「菖蒲湯」、そして冬至に「柚子湯」というように、旬の植物を材料にした薬湯が楽しまれてきました。
薬湯を楽しむ際の注意点
・薬湯の材料は、汚れを落としてから用いる。
・茶葉として販売されている材料を用いる際は、添加物のない、無農薬のものを選ぶ。
・直接浴槽に入れる場合は、浴槽の循環口につまらないよう、細かい材料は布などでしっかり包む。
・妊婦や子供、肌の弱い人などはかかりつけ医に相談する。
・入浴中に異常を感じたらすぐにお湯で洗い流す。
・汚れが付着する場合があるので、入浴後はその日のうちに浴槽を掃除する。
・大理石の浴槽は、浴槽を傷めることもあるので使用を避ける。
・その他の点については、浴槽や機器の取扱説明書を参照する。
1月「松湯」: 縁起のよい松湯で新年をスタート!
お正月にも登場する「松」は、花言葉が「不老長寿」で昔から縁起のいいもの。松の葉には鎮痛、強壮、血行促進作用があるといわれているため、冷えや肩こり、神経痛やリウマチ、疲労などに効果が期待できます。また爽やかな森林の香りで、リフレッシュすることも!
【作り方】
まず葉についた樹脂をぬるま湯で洗い、100gを15分ほどかけて煮出します。布でこした後、煮汁をお風呂に入れてください。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
2月「ハトムギ湯」: 漢方にも使われる生薬のお風呂
「ハトムギ」はビタミンB1やアミノ酸などの肌の調子を整えるのに役立つ成分を多く含んでいるといわれています。古代の中国では、ハチミツと合わせて美顔剤として用いられたそうです。
また種や皮を取り除いたものは、関節炎、リウマチ、疼痛などの疾患や強壮剤として使われています。漢方薬局などで手に入れることができますよ。
【作り方】
まずハトムギ100gを布袋に入れ、水から5分ほど煮出します。煮汁と袋をお風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
3月「蓬湯(よもぎ湯)」: 早春の香りのアロマバス
身近で手に入れやすい「よもぎ」は、昔から世界各地で邪気を払う植物として重宝されてきました。
抗菌、消炎、鎮痛、収斂、止血作用があるといわれており、葉の部分を生薬として、出血の症状や冷え、腰痛、神経痛、かぶれ、湿布などのトラブルに用いられています。
【作り方】
生のヨモギの葉先20cmくらいを5〜6本を細かく刻んで、水から煮出します。煮汁だけをこしてお風呂に入れてください。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
4月「桜湯」: 春の香りを満喫しよう!
見た目も美しい「桜」は、薬湯にする場合には樹皮を使います。もちろん花びらを浮かべて、四季を感じてみるのもOK。
樹皮を煮出した桜湯には、湿疹、打ち身などの炎症を抑える働きがあるといわれています。
最近では漢方薬局で樹皮が売られている事もあるので手に入れやすいです。また季節になると、お花屋さんで桜の枝を購入することもできますよ。
【作り方】
はぎとった樹皮を刻んで日干します。乾燥した樹皮を袋に入れて15分ほど煮出し、煮汁と布袋をお風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
5月「菖蒲湯」: 無病息災を祈って端午の節句をお祝いしよう!
「菖蒲」は昔から厄払いのために、端午の節句や式日に季節湯として用いられてきました。主に菖蒲の「根」に血行促進や疲労回復の効果がある精油成分が多く入っています。ただ比較的手に入れやすい「葉」を使うこともできますよ。
【作り方】
細かく刻んだ葉を布袋にひと掴みほど入れ、洗面器に熱湯を注ぎ10分ほどおいたら、お湯と袋をお風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧ください。
6月「どくだみ湯」: 十薬とも呼ばれ多くの効能を持つどくだみは初夏におすすめ!
「どくだみ」は消炎、抗菌作用があるため、お風呂に用いれば、あせも・湿疹などの吹き出物、水虫・かぶれに効果があると言われ、汗をかき始める夏の初めにぴったりなお風呂になります。
【作り方】
まず茎と葉を水洗いして適度な大きさに刻みます。布袋に詰め、浴槽に入れて水から沸かします。落とし込みの浴槽の場合は、お湯があたるところに袋を置きましょう。袋をもみながら入浴すると効果的です。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
7月「桃湯」: 夏の土用は桃湯に入ろう!
桃湯に使われる「桃の葉」には消炎、解熱に有効なタンニンという成分が含まれており、日焼けやあせも、しっしん、虫さされなど、トラブルの多い夏の肌に効果的と言われています。
【作り方】
まず生の葉を30〜40枚布袋に詰め、15分ほど煮出します。その煮汁ごと袋をお風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
8月「薄荷湯」: 体感はひんやりでも身体の内部はぽかぽか!
日本古来のハッカである和ハッカは、ペパーミントに香りが似ていますが、ペパーミントに比べてメントールの含有量が圧倒的に多いのが特徴です。
清涼感がある香りで肌に触れると気化熱を奪って蒸発するために冷たいイメージがありますが、体内に取り込まれると末梢血管を広げて温める働きがあるといわれています。
【作り方】
両手いっぱいか陰干しした葉を2つかみ分布袋に入れます。上から2Lほど熱湯をかけて15分ほど蒸らし、その汁と袋を一緒にお風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
9月「菊湯」: 夏の疲れをほぐす初秋の香り
元々長寿や無病息災を祈る花である「菊」。漢方では菊花を婦人病、咳止めに使うなど、植物療法のための植物として大いに活躍しています。保温効果がとても高く、身体を芯まで温めるといわれています。季節湯に用いるのは、乾燥したものでも生のものでもOKです。
【作り方】
まず2つかみ分ほどを布袋に入れます。上から2Lくらいのお湯をかけ、15分ほど蒸らしてください。その汁と袋を両方お風呂に入れます。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
10月「柿湯」: 秋の味覚の葉っぱでゆったりバスタイム
「柿の葉」は殺菌作用から食べ物を包むために使われます。またヘタを乾燥させたものは生薬としてしゃっくりや鎮咳、鎮吐に用いられることも。
【作り方】
生の葉を20枚ほど用意し、布袋などに詰めてお風呂に入れます。葉を乾燥させた場合は、袋に入れる前に葉をちぎってください。
その他詳しい効果・作り方は以下の記事をご覧くださいね。
11月「蜜柑湯」: おいしく食べた後の皮を有効活用!
「みかん」は果実にビタミンCが豊富であり、寒い時期には風邪を予防し、高血圧、老化防止、美肌効果が期待できるといわれています。
果皮の橙色の部分には「リモネン」という精油成分が爽やかな香りを生み出すので、リフレッシュにもうってつけです。
【作り方】
まず皮を陰干しします。そして20個分ほどの皮を布袋に入れ、お風呂に浮かべます。
その他詳しい効果・効能は以下の記事をご覧くださいね。
12月「柚子湯」: 上品な香りでリラックス
柚子は、冬至の日の「柚子湯」・季節湯の定番として用いられる果実。リモネンやα-ピネンなどを成分として含有し、抗菌、消炎、血行促進作用があるといわれています。また、ちょうど冬至の頃に悩まされるような冷え、ひび、あかぎれ、風邪などに効果があるとされています。柑橘系の香りの中でリラックスし、疲れた心身もゆっくりとほぐれます。
【作り方】
特に煮出したりせず、果実を2〜3個ほどまるごとお風呂に浮かべます。皮や実を切って入れると肌が刺激を受ける場合があるので、注意してください。
その他詳しい効果・効能は以下の記事をご覧くださいね。
おわりに
誰でも楽しめる「季節湯・薬湯」は、日本の四季を感じるのにうってつけのもの。季節の植物が、お風呂の効果を更に高めてくれるのも嬉しいですね。是非、より充実したバスタイムを送る参考にしてみてください。