【有名料理長に聞く】魚の臭み取りが必要な理由やタイミング
魚独特の臭みが気になるという方も多いと思います。数々の高級和食店で料理長を務めあげた舘野雄二朗さんに、家庭でできる魚の下処理の方法などについて教えていただきます。
まずは、一概に「魚臭い」と言っても、そのすべてが「取るべき臭み」ということでもない、と舘野さん。魚特有のにおいがあるからこそ、おいしさが引き立つ料理もあるからです。そもそも、完全に魚のにおいを消す、ということは不可能です。
そのため、魚のにおいすべてを「悪いもの」「取るべきもの」だと思うのではなく、「魚の個性」だと捉えてほしいというのが舘野さんの考えです。魚臭さが苦手だというお子さまにも、「これが魚の個性なんだ、と伝えることも大事な食育です」とのこと。
その上で、不要な臭みについてはしっかりと取ることが、料理をおいしく仕上げるには大切なのだそうです。
魚の臭みの正体は?
捕獲された魚の腐敗が進む過程で、魚の中に含まれる「トリメチルアミンオキサイド」と呼ばれる成分が微生物によって分解され、「トリメチルアミン」という物質ができます。この物質が増えるとアンモニア臭のような臭みが発生し、魚特有の生臭さになるのです。
この「トリメチルアミン」は魚の死後から発生します。そのため、まずは、手に入れた魚をできるだけ早めに調理することが魚の臭みを抑えるポイントです。
さらに、魚の臭みは、魚の周りについたぬめりや腐敗が進んだ内臓・血合いをしっかり取り除くことで、ある程度抑えられます。魚をさばく下処理の段階で、ぬめりや内臓、血合いを取り除くためにしっかりと洗うように意識しましょう。
【有名料理人に聞く】魚の臭みの取り方
魚の不要な臭みを取るには、とにかくしっかりと洗うことが大切です。といっても、ただやみくもに洗えばいいというものではなく、魚本来のおいしさを引き出す洗い方があります。
実際に舘野さんも心がけているという、魚の洗い方と下処理の方法を伺いました。
1. 表面を水洗い
まずは、おろした魚のぬめりが取れるまで、しっかりと水洗いをします。お湯などは使わずに流水でしっかりと洗い流すことが大切です。流水で洗った後は、キッチンペーパーなどで軽く水気を取りましょう。
また血合いや内臓もしっかりと取り除き、洗い流しましょう。血合いや内臓が残ってしまうと臭みの原因になります。血合いや内臓取りにおすすめなのは、毛の柔らかい歯ブラシです。切り身魚でも、調理前に柔らかい歯ブラシで血合いや内臓部分をこすり落としてから料理すると、魚特有のいやな臭みが薄れます。
2. ふり塩をする
しっかりと魚を洗った後は、魚の表面に塩をふった状態で少し寝かせます。魚は70%以上が水分。塩をふることによって脱水状態になるため、うまみの要因であるアミノ酸が魚の体内で凝縮されるそうです。
3. 塩水で洗い流す
魚の表面にふった塩を洗い流します。その際、海水に近い、濃度3%ほどの塩水で洗い流すことが重要なポイントになります。ふり塩をした魚は脱水状態ですが、これを真水で洗ってしまうと、浸透圧で水分が魚に戻ってしまいます。すると、ふり塩の工程が無駄になってしまうだけでなく、魚が余計な水分まで吸収してしまい、水っぽい仕上がりになります。そのため、ふり塩後の魚は塩水で手早く洗うというのがおいしく仕上げるポイントです。
この後、焼き魚にする場合は身についた水分を拭き取らず、そのまま焼く方がおいしく仕上がるそうです。刺身や煮魚の場合はキッチンペーパーなどで軽く水気を取りましょう。
魚の下処理で気をつけること
魚をおろすときに使う包丁やまな板はその都度しっかりと洗い、水気を取るようにしましょう。包丁やまな板に魚の内臓や血合いが残っていると、それが魚や別の食材に移ってしまい、臭みの原因になります。
青魚の臭み取りに、もうひと手間
基本的には、下処理の段階で魚の表面をしっかり洗えば不要な臭みは取れます。しかし、魚の中でも特に生臭いとされる青魚の場合には、酢で洗う方法もおすすめです。魚の臭みの原因になるトリメチルアミンはアルカリ性のため、酸性であるお酢で中和すると臭みが和らぎます。
ただし、初めからお酢で魚を洗ってしまうと、魚の繊維が傷つきボロボロになるため注意が必要です。その状態で料理をすると、パサパサして魚のおいしさが半減してしまいます。
舘野さんによると、お酢で青魚を洗う前に、ふり塩までの基本の工程を済ませることが重要だそうです。塩で魚の身を締めることが、魚の繊維を守ることにつながります。
魚の種類や料理によっては霜降りも
青魚や赤身の魚を調理する場合、熱湯をかけたり、熱湯にくぐらせたりする霜降りもおすすめです。魚の表面のぬめりや生臭みを抑えられるだけでなく、表面の繊維がギュッとしまって旨みを凝縮させることができます。
ただし、霜降りはほとんどの刺身には向きません。刺身は、ふり塩、塩水で洗う、酢でしめるといった下処理にして魚本来の香りを楽しむ方がよいでしょう。
【調理法のコツ】魚をおいしく食べるためのワンポイント
切り身の魚を焼く際は、下処理が終わった後、表面に薄く下味をつけておくと、よりおいしく仕上がるそうです。これを「うすじお」といいます。
魚の照り焼きは、魚を焼く前にみりん3:醤油2のたれを魚の表面に塗って30分ほど置いておきます。そのあとはいつも通り魚を焼き、最後にたれを絡ませるだけです。「先に魚の表面に下味がつけておくことで、味をつけた時に調味料が馴染みやすくなります」と舘野さん。
この「うすじお」は、他の調理法にも有効です。例えば、煮魚は加熱前にあらかじめ塩をふっておくと、身がぎゅっと閉まって煮崩れを起こしづらくなります。
舘野さんのおすすめの調理方法は、魚の天ぷらだそうです。「うすじお」後にてんぷら粉をつけ二度揚げをすると、本来の魚のおいしさが存分に味わえるそうです。
魚の臭みとりの裏ワザ
「魚の変な臭みは、時間をおいてしまったからこそ出てしまうもの。本来はそうなる前に食べきってほしいです」と舘野さん。
さまざまなメディアなどで紹介されている裏ワザも、決して間違っているわけではありません。ただし、「新鮮なうちに魚本来のおいしさを味わう」ことが最善だとのこと。
ヨーグルトにつけると魚の臭みが消える、という方法をご存じでしょうか? 臭み成分のトリメチルアミンをヨーグルトで中和させる方法です。
間違った方法ではありませんが、ヨーグルトの風味がついてしまうため、魚本来の味は消されてしまいます。そのため、どうしても魚の臭みが苦手なお子さんに魚を食べてもらう手段としては、有効かもしれません。しかし、本来の魚の風味を消してしまう方法でもあるようです。
魚の保存方法や食べきる期間は?
魚は生鮮食品のため、生の状態ではあまり日持ちはしません。また、日が経てば経つほど魚の臭みは増してしまいます。どうしても魚を保存したい場合は、一度火を通してから保存するようにし、それも2~3日のうちにはできるだけ使いきるようにしましょう。
魚は冷凍保存できる?
魚は冷凍しても、もって1週間ほどだそうです。それ以上日が経った魚も、食べることはできるかもしれませんが、本来の魚の旨みは消えてしまいます。生の魚を買った場合には、できるだけ、早めに食べきるようにしましょう。
魚のおすすめの保存方法は?
一度火を通して保存したい場合、舘野料理長によると、蒸すのがおすすめなのだとか。いわしなどであれば、輪切りにした玉ねぎの上に乗せて蒸し、粗熱をとって冷やします。その状態でレモンをかけて食べるカルパッチョなどは、翌日でもとてもおいしく食べることができるそうです。
おいしい魚の見分け方
魚を買うときには、少しでも鮮度のいい魚を見分けたいですよね。「おいしい魚を手に入れるには、魚屋さんと仲良くなるのが一番です」と舘野さん。旬の食材の情報や、おいしいものの見分け方を教えてくれることもあるそうです。
ただし、魚屋さんが近所にない、魚屋さんがやっている時間に買い物に行けないという方も多いのではないでしょうか。そこで舘野さんに「スーパーなどでも使える、おいしい魚を見分けるコツ」を伺いました。
切り身魚の見分け方
切り身の魚の見分け方には、いくつかのポイントがあります。
まずはドリップ(汁)具合です。身からしみでる赤い汁には旨みの成分がたくさん含まれています。一概には言い切れないようですが、新鮮な切り身はドリップ自体が少ないそうです。そのため、できるだけドリップが出ていない切り身を選びましょう。
また、軽く指で押して弾力を感じるなら、その切り身は新鮮な証拠です。
スーパーでは、よく魚のパックが重ねて並べられていますが、下の方にあるパックはできるだけ避けた方がよいそうです。生ものなので重みがかかると、そこから傷む可能性が高いためです。
刺身の見分け方
刺身を選ぶ場合には、筋の入り方でおいしいものを見分けることができるそうです。全体的に斜めの筋が入っている刺身は、おいしく食べられるそうです。
避けた方がよいのは、木目のようにカーブがかかった筋が入っているものや、真ん中に1本まっすぐな筋があり、そこから斜めの筋が入っているような刺身です。これはしっぽの部分や端の部分で、好みもありますが、筋っぽく脂がのっていない可能性が高いそうです。
おわりに
「魚臭さは、魚の一つの個性であり、おいしさです」と舘野さんはおっしゃっていました。新鮮なうちに食べること、丁寧で適切な下処理を行うことを心掛ければ、鼻につくような嫌な臭みは少なくなります。下処理のコツを知って、ぜひ魚本来のおいしさを味わってくださいね。