「完璧な防災セット」より「家族にフィットする備え」が重要

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防災において重要なのは、「あれもこれもと網羅することではなく、自分たち家族の生活や避難の環境をベースに必要なものを見直すこと」だと、防災士の五十嵐浩子さん。
五十嵐さんは、東日本大震災で福島県浪江町にて被災し、避難所を含む5カ所の避難先を転々とした経験を持っています。現場をよく知る立場から「本当に必要なもの」と「その人にはいらないもの」を見極める考え方を教えていただきました。
「何か買わないと落ち着かない」という心理は、単なる不安の裏返しに過ぎません。しかし、市販のセット品をクローゼットの奥に置いているだけでは、本当の意味での備えにはなりません。
大切なのは、被災したときに、自分が「いつ、どこで、誰と過ごすのか」を具体的にイメージすることだそう。避難所へ向かうのか、自宅で避難するのかによって、必要なものは劇的に変わります。不安を「物」で埋めるのをやめ、自分の生活になじむ形にカスタマイズすることが、失敗しない防災の第一歩です。
【避難所編】防災士が語る、いらなかったもの・本当に役立ったもの

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避難所という「限られたスペース」と「他者との共同生活」という特殊な環境下では、便利なアイテムでも使いにくいことがあります。五十嵐さんは実際に次のアイテムは使わなかったと言います。
避難所で使わなかった防災グッズとその理由

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防災トイレ
汚物を入れる袋と凝固剤がセットになった防災トイレ。市販の防災リュックには、必ず入っているものの、避難所で使う機会はなかったと言います。体育館のように多くの人が集まる避難所では、「持っているからすぐ使える」とは限らないそうです。
例えば、共用トイレが使える状況なら、まずは避難所の案内やルールに従って行動することになります。自分の持っている簡易トイレを、どこでどのタイミングで使うのか。使用後の袋をどこに置くのか。周囲に人がいる空間で処理できるのか――。準備の段階でそこまで想像しておくことが大切です。
一方で、移動中に渋滞にはまったときや、車中避難をする場合、自宅のトイレが使えない場合など、役立つ場面もあります。「避難所で必ず使うもの」と考えるより、避難所以外の場面も含めて必要性を考えておくとよいでしょう。
大型の防災リュック
必要な防災グッズを詰めた、市販の防災リュックが人気です。プロが選んだ品ぞろえだと、安心感がありますね。ただ、重すぎるリュックは、移動の大きな負担になります。避難時は、ただ歩くだけでなく、急いで移動したり、足元の悪い場所を通ったりすることもあります。さらに、小さな子どもがいる家庭では、手をつないだり、抱っこをしたりしながら動く場面もあるでしょう。ペット連れの家庭なら、キャリーやペット用品を一緒に持ち出す必要もあります。
そう考えると、「たくさん入ること」よりも、「その家族が実際に無理なく運べること」の方が重要です。市販のセットをそのまま使うのではなく、家族構成や避難方法に合わせて中身を見直し、必要に応じて不要なものを除外したり、荷物を分散させておきましょう。
手回し式ラジオ・懐中電灯
手回し充電式のラジオや懐中電灯。充電設備が確保できなくても使える点は安心です。ただ、五十嵐さんによると、避難所で使うには少し配慮が必要なのだそう。気をつけたいのは、手回し時の動作音です。静まり返った避難所や夜間には、その音が思った以上に周囲の人は気になることもあります。特に就寝時間帯や共用スペースでは、使いづらさを感じるかもしれません。
手回し充電式は「どうしてものときの補助」と考え、乾電池式や電池交換できるタイプ、モバイルバッテリーなどと併用するのが現実的です。非常時に使える選択肢を一つ増やしつつ、使う場所や時間帯には気を配ることが大切です。
アルファ米

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アルファ米は長期保存ができ、在宅避難用の備蓄としては便利な食品です。ただし、避難所で過ごすことを想定した「持ち出し袋」の中身としては、優先順位が高くない場合もあります。
避難所生活の初期は、まず飲み水の確保が最優先となります。アルファ米のように水やお湯を使って戻す食品は、水そのものが十分に手に入らない状況では使いにくくなってしまうことに。特に限られた水は飲用に回されることが多く、調理に使う余裕がないケースも少なくありません。
そのため、持ち出し袋には、開けてすぐ食べられるゼリー飲料や栄養補助食品、菓子類などを優先し、アルファ米は在宅避難用の備蓄として準備しておく、という分け方が現実的です。避難所に持っていくものと、自宅に置いておくものを分けて考えると、備えがぐっと実用的になります。
また、アルファ米はお湯で戻すとおいしく食べられますが、冷たい水で戻した場合は食べにくいという声もあります。離乳食や流動食など、不可欠な場合を除き、お湯が使えないなら無理に米を食べない、という割り切りも大事と五十嵐さん。代わりに、ゼリー飲料や菓子類で、カロリーを取る方が現実的です。
大量のカップ麺
避難所では貴重な水も少なく、ガスコンロなどを使った湯沸かしも難しいそう。また、残り汁の処理も問題に。地震などの後は、排水設備の故障により、下水の利用が制限されることが少なくありません。そうした場合に、カップ麺の残り汁は、深刻な衛生問題と周囲への迷惑につながります。
防災ヘルメット

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突発的な揺れの際、まずは「その場での身の安全」が最優先です。揺れが落ち着いてから、避難所に移動する際に、防災ヘルメットが必要なら使いましょう。ただし、防災ヘルメットは使用機会が限定的で、持ち歩きの負担も小さくありません。避難経路が安全と想定され、かぶらなくていい場合には家に置いていく選択肢もありえます。荷物の中で、優先度は低めです。
サバイバルナイフやキッチンナイフ
サバイバルナイフは、使い慣れていない人には危険であり、避難所という緊張感のある場では、刃物の持ち込みを避けるべきだという雰囲気があったと五十嵐さん。実務的な「切る」作業は、携帯用の小さなハサミがあれば十分事足ります。
また、避難所には、緊急的に逃げ込む場所と、一定期間生活を送るための施設(指定避難所)があります。生活の場となる後者の施設であれば、公民館の調理室などが活用できる場合もありますが、施設の設備や自治体の判断によって状況は大きく異なります。あらかじめ地域の避難所の状況を調べておくことが大切です。
ロウソク
地震災害では余震が続くことが多くあります。ロウソクは、火災の危険性があるため、使用できない避難所がほとんどです。
フリーサイズの軍手
フリーサイズの軍手は、サイズが合わないと作業効率が著しく下がり、滑りやすいため危険です。片付け作業・運搬作業などを手伝う際も、自分の手にフィットし、グリップが効く「工事用・園芸用手袋」の方が圧倒的に安全で役立ちます。
大型蓄電池などの多機能充電器
避難所は限られたリソースを共有する場所です。あまりに便利すぎるものや、目立つ大型機器は、共有の場で「人の目」を気にすることになり、心理的な負担やリソースの取り合いといったトラブルを招く恐れがあります。便利さだけで選ぶのではなく、共同生活の中で無理なく使えるかどうかという視点も持つことが大切です。
避難所で意外に役立った防災グッズ
ロープ

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ロープは、避難所での目隠しや洗濯物に使えて、意外と便利だったそうです。
お菓子やジュース
子連れで避難した五十嵐さんですが、避難所での生活は子どもたちへの負担が大きく、ストレスを抱えることが多かったそうです。室内でじっとして動くことを制限されることも多く、普段、食べ慣れているお菓子やジュースが、ストレスの発散や気持ちの安定にも役立ったと言います。
災害時のお菓子の重要性や、子連れ避難については以下の記事で詳しくご紹介しています。
車(状況に応じた活用)

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沿岸部では地震災害時、車での移動では、津波に巻き込まれるリスクがあったり、避難行動が同時に進む際には、車の渋滞を招くリスクもあります。避難所によっては、車での来訪を禁止しているところもあります。
五十嵐さん「車での移動には、リスクもありますが、小さい子や高齢者の場合、徒歩での避難が困難なこともあります。台風など事前に情報を得られる災害の場合など警報が出る前に、安全なうちに家族で車で避難してしまうのも手です」
防災リュックに詰められる物資の量には限りがありますが、車なら多めの荷物を積んでおくことも可能です。避難所が禁止していない場合には、警報が出る前の段階で車での避難を検討しましょう。
なお、避難所に行けば、必要な物資や食料が入手できると思いがちですが、一般的な災害では物流が停止することも多く、物資が届き始めるのは4日目からと五十嵐さん。初日から3日目まで、必要な食料品や飲料、下着、衣類、雨具、防寒具、薬、衛生用品、現金などが必要です。詳しくは、以下の記事を参考にしてください。

東日本大震災で子連れ避難した防災士に聞く「避難所の生活の実態や準備しておくことについて」
【在宅避難編】防災グッズの備え方と実際に使えなかったもの

Hiroko Igarashi
在宅避難の最大のメリットは、住み慣れた自宅でプライバシーを守りながら、普段に近い環境で生活できることです。避難所のような集団生活では、感染症リスクや人間関係の気疲れ、ストレスの心配などが懸念されます。要介護の家族がいる場合や、家族に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎がある場合は、避難所での生活が難しいことがあります。
ただ、「在宅避難の場合、避難所とは異なる注意点がある」と五十嵐さん。
五十嵐さん「食料品や飲料は、避難所で支給されるというイメージがあるかもしれませんが、私たちが経験した避難生活の中では、避難所で物資が足りない場合に『避難所の人たちが優先』だという雰囲気がありました。また、物流が復旧して、買い物に行けるようになっても、物資が不足する傾向が続くことも。長蛇の列で並んでも、欲しいものが手に入らないこともあります。在宅避難の場合には、3日だけではなく、なるべく長い期間の物資を用意しておくと良いでしょう」
では、どれくらいの量を用意しておけば良いのでしょうか。
五十嵐さん「最低でも1週間。長ければ長いほど安心です。わが家では1カ月、在宅避難できる食材や飲料水、防災トイレを常備しています」
在宅避難で使わなかった防災グッズとその理由
専用の「防災食」の過剰なストック
乾パンやアルファ米など、特別な防災食は高価で、口に合わないことも多いもの。普段から食べているものを多めに備える「ローリングストック」が基本です。
ローリングストックについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
アウトドア用鍋や土鍋
鍋は調理後に、水で洗う必要があります。断水時に、貴重な水を使って鍋を洗うのは、極めて困難です。在宅避難の調理は「洗い物を出さない」ことが鉄則。鍋に湯だけ沸かして、ポリ袋に入れた食材をゆでる「ポリ袋調理」が便利です。
段ボールトイレ
便座が割れた場合に備えて、段ボールを使ってトイレを作る講座も人気ですが、便座は丈夫でなかなか壊れないもの。備え付けの便座に袋をかぶせて、防災トイレとして使う方法が主流です。座った時の安定性や、安全性もあります。
在宅避難で「本当に役立つ」防災グッズと工夫

TOKYOGAS
五十嵐さんの実体験から、役立った防災グッズを紹介していただきました。
高密度ポリエチレン製のポリ袋
「ポリ袋調理」は、災害時の必須スキルです。お米の炊飯からオムレツ作りまで、何でも作れます。一つの鍋で同時に調理したり、お湯を流用することもできます。鍋を汚さずに、温かい食事が提供できます。
詳しくは、以下の記事でもご紹介しています。参考にしてみてください。

災害時に活躍! ポリ袋と湯煎で作る「お湯ポチャレシピ(R)」とは?
グミサプリメント・野菜ジュース
長引く避難生活で、野菜や果物の入手は困難になります。
五十嵐さん「避難生活で完璧な栄養バランスを整えるのは、不可能に近いもの。サプリメントを活用しましょう。子どもには、おやつ感覚で栄養補給できるグミタイプがあります。栄養バランスの整った健康な食事ではなく『飢えない、死なない』が最低ラインの戦略です」
五十嵐さんは、サプリメントや野菜ジュースも常備しているそう。野菜ジュースは、小さいパックでたくさん常備しておいて、子どもに与えたり、スープに加えたりして活用していると言います。
パウチ式の食材
缶詰の食材は便利ですが、缶や瓶のゴミの管理は負担になります。最近は、蒸した食材やレトルト食品のパウチが便利です。ツナ、コーン、キノコ、カットトマトなど、多様な食材があります。パウチ式のゴミなら、保管も処分も手軽です。
防災トイレの備蓄

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ポリ袋と凝固剤のセットを用意しておきましょう。地震では排水設備が故障して、水を流せなくなります。便座にポリ袋をかぶせ、中に凝固剤を入れた状態でセットしておき、用を足します。凝固剤の代わりに、おむつやペットシートも代用できます。排せつ後は、汚物が入ったポリ袋の口を閉じて、保管しておきます。自治体の指示に従って、処理する必要があります。
災害時のトイレの備えや、オムツやペットシーツを代用した防災トレイについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。参考にしてみてください。
おわりに

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五十嵐さんによると、防災グッズを備えるには、「日常」の延長線上で考えることが大切だと言います。避難生活で、いきなり防災食を食べようとしても、慣れない食材は使いきれないこともあります。普段から、パウチ式の食材やサプリメント、ジュースを活用し、ローリングストックで備えていくことが、長期の避難生活にも、対応できる備えとなります。
重要なのは「足す」より「見直す」こと。不安を埋めるために物を買うのをやめ、一度すべての備蓄を棚卸しすることで、スペースを空け、本当に自分たちの生活に必要な防災グッズが見えてきます。自分にフィットした「生きた備え」こそが、いざという時にあなたを助ける力になります。
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