避難所への避難、手ぶらで行けばいい?
避難所には備品や食料がそろっていて行けば何とかなる・・・。そういう考えで避難してくる人はとても多いそう。ただ、防災士の五十嵐浩子さんによると『避難所での生活に各家庭での備えは不可欠』だと言います。
福島県浪江町で東日本大震災に遭遇し、2歳と5歳の子と実母を連れて避難した五十嵐さん。徒歩で近くの中学校に避難したものの、急ごしらえの避難所には何もなかったと言います。大規模災害の時は、自治体の職員も被災者となってしまいます。
五十嵐さん「その日は卒業式があった日で、ブルーシートが敷いてありました。避難してきた数人がだるまストーブを囲ってお話をしている状況で、自治体の職員さんもいませんでした。受付や物資の配布などもありません。周囲の人に倣ってそのまま土足で入り、子どもたちと母をそこに待たせ、自宅に毛布や布団、軽食を取りに戻りました」
区画も決まっていなかったため、取り急ぎ、逃げやすいように入り口に近い場所に布団を敷いたそう。その日の夕飯は、自宅から持ってきたジュースとお菓子でした。
子どもたちは夜にお菓子を食べられて喜んでいましたが、五十嵐さんは避難所に避難する際に準備が必要なことを痛感しました。
五十嵐さん「水害や土砂災害など一刻を争う避難の時は、着の身着のままで避難し、身の安全を確保することが第一です。でも、地震の場合には揺れが収まってから避難所に行くまでの間に数十分、準備する余裕があることも多いんです。3日分の食糧や必要不可欠な日用品はバッグに詰めて避難したいところです」
一般的な災害で物資が届き始めるのは4日目から。初日から3日目まで必要な食料品や物資は自分で用意しておく必要があります。防災バッグに詰めておいておき、いざという時は持っていきましょう。
避難所に持っていく防災バッグを準備しておこう
五十嵐さんによると、避難所生活で必要なものはすぐに持ち運べるように防災バッグに詰めておくのが良いそうです。
五十嵐さん「避難所生活ですぐ必要になるものを3日分は用意して防災バッグに詰めておきましょう。家屋がつぶれても取りに行けるよう、玄関や出入り口の近くがおすすめです。納屋や倉庫、車に積んでおく方法もありますよ。お住まいのエリアによっては水害のリスクがあり、1階に置くのが適さないケースもあります。その場合は上階の室内に置いた方がいいかもしれません」
備えておきたい防災グッズ
すぐに必要となるのは、食料品、飲料、下着、衣類、雨具、防寒具、薬、衛生用品、現金など。防災リュックの中身はローリングストックで消費しながら入れ替えていくのが良いそう。
五十嵐さん「保存食や飲み物は賞味期限があるので、期限前に使い切り、ローリングストックで備蓄しています。また子どもの衣類もサイズアウトするので、着替えもローリングストックで入れ替えていく必要があります。大人は1週間、着替えずに済みましたが、子どもは汚れるので着替えが多めに必要でした」
上の写真は五十嵐さんが防災リュックに詰めていた中身です。密閉袋に食料品、菓子、衛生用品、衣類など、種類ごとに入れておきます。子どもの衣類は密閉袋に何セットか入れて、決まった場所に置いておくのがよいでしょう。サイズアウトしたタイミングで袋ごと入れ替えます。
腐らないものは防災リュックに入れておき、消費期限やサイズがあるものは決まった場所に置いておくのが、管理するコツだそう。
五十嵐さん「一般的に被災4日目から食料や物資が届きますが、子ども用品、おむつ、ミルク、離乳食などは少ない傾向にあります。また持病がある人の専用の薬や流動食は用意がないことも多いです。また生理用品や衛生用品もあまり届きませんでした。避難所で不足しがちなものも用意しておくのがおすすめです」
救援物資は被災4日後から届き、1週間たつと災害ボランティアのお風呂や洗濯機、医師や看護師に相談できる場所も設置されてきます。まずは3日、できれば1週間を乗り切る物資を用意しておきましょう。
ここまで短期の避難生活で必要な防災グッズを紹介してきましたが、避難生活の長期化に備えて、用意しておきたい物もあります。
避難所生活の長期化に備えて準備しておくもの
五十嵐さん「避難所のコンセントは限られていますし、充電器を持っている人も少ないので、1人1時間などルールを決めて譲り合いながら順番で使用していました。ソーラーパネル式の充電器や蓄電器があったら助かると思います」
ただし避難生活は助け合いなので、人に貸すことも考慮して準備する必要があると言います。その他、マスク、おりものシート、汗拭きシート、水のいらないシャンプーなどもあると便利です。
また避難所によっては、スリッパや上履きなど室内履きが必要になることもあります。
五十嵐さん「一軒目の避難所は放射能漏れの恐れがあるとのことで、翌日に別の地域の避難所の中学校に移りました。その避難所は土足のルールでした。靴のおかげで足が冷たくないというメリットはありましたが、布団の横を土足で歩き回ることに衛生面での疑問もありました」
室内履きがあれば室内も汚れず、足も冷えにくいので良いですね。また自家用車があれば、ガソリンを入れておくのも大切だそう。
五十嵐さん「被災地から車で1〜2時間移動した際、電気も水道も通っていて温かい食事もありました。そこに普通の暮らしがあることに驚きました。ガソリンを普段から半分以上入れておけば、タイミングを見て被災地の外に移動できます」
避難所での生活のために知っておきたいこと
意外と知られていないことですが、避難所の運営主体は、基本的に避難してきた住民自身です。避難所の開設は自治体が行うことが多いですが、自治体の職員も被災者で災害対応業務もあるため、地域住民や地域の自治会、ボランティアなどが主体となって避難所運営委員会を組織し、自ら運営を行います。
日頃から避難所開設の訓練をしている場合には、開設や運営もスムーズですが、そうでない場合は避難者同士で協議して開設や運営を進めていく必要があります。
自宅近くの避難所のルールをチェックしておこう
一般的には、トイレの利用、消灯時間、物資の配給、プライベートスペースの区分、洗濯物の干す場所や時間帯、喫煙、ペットの受け入れについてなどのルールが定められている場合が多いようです。
ご自宅近くの避難所が、避難所開設の訓練をしている場合は、どういうルールになっているか確認しておくと良いでしょう。そうでない場合には、避難してから掲示板や壁に掲示されたルールを確認する必要があります。
五十嵐さんによると特に注意した方が良いルールがあると言います。
五十嵐さん「国としてはペットの同行避難を推奨していますが、受け入れている避難所は多くありません。また受け入れてくれても、外でないとダメだったり、室内でも狭い場所に多くのペットを押し込める形になることもあります。ペットがいる人は事前に確認し、ご自身のペットに適した避難所を選んでおく必要があります」
小さな子どもや高齢者など和式トイレの使用に不安がある場合、避難所で洋式トイレが使えるかも大事なポイントになります。
また、着替えや授乳などの際、プライベートスペースをどう確保するかも考える必要があります。
五十嵐さん「避難所のパーティションは用意されていない所が多かったです。ダンボールがあっても腰の高さくらいで、みんなが立って歩くと丸見えになってしまいます」
ポップアップテントがあると便利ですが、避難所が狭いと使えないこともあります。自家用車を避難所近くに駐車して着替えやおむつ替えの時に使用する方法など、避難所に合わせていくつか対策を考えておくと良いでしょう。
おわりに
「子連れで5カ所を避難してきて、転々と避難生活をしている間に子どもたちが大人の顔色を見るようになってきたのを感じ、高山市に避難することを決めました。1週間ほどで表情が変わってきたことに気づきホッとしましたが、子どもの心のトラウマのケアも必要なのをすごく感じます」と五十嵐さん。知識が身を救うことを肌を持って感じ、防災士として各地で講演活動をされています。