人だけでなくペットの命も守るための危機管理を

kiyotaka suzuki
2011年の東日本大震災の経験を踏まえて、環境省では2013年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作成しました。そして、このガイドラインをさらに広めるために、全日本動物専門教育協会が、ペットとの避難や避難生活、平常時の防災対策などを教育するための団体(ペット災害危機管理士会)と認定講座を立ち上げました。
「ペット災害危機管理士」の認定講座で講師も務める鈴木さんは、災害時に人間だけでなく大切なペットの命を守るためには、ペットの防災についての正確な知識を持つことと、平時からの準備が大切だと言います。ペットの避難に関する用語や具体的な避難方法について、わかりやすく解説していただきました。
「同行避難」「同伴避難」を正しく理解しよう

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災害時のペットの避難について語られる際、「同行避難」と「同伴避難」という言葉がよく使われます。似た言葉ですが、以下のような違いがあります。
- 「同行避難」:災害の発生時に、飼い主が飼養しているペットを同行し、指定救急避難場所等まで避難すること
- 「同伴避難」:被災者が避難所でペットを飼養管理すること
しかし、この2つの用語は誤解されていることもあると鈴木さんは言います。例えば、「同伴避難」とは、一緒に避難して避難所でペットをそばに置き、世話ができることだと考えている人も多いそうです。
「この2つの言葉は避難方法の違いを表すものではありません。同行避難は避難行動そのものを指し、同伴避難は避難所での状態を指す言葉なのです。私たちは人とペットが同じ部屋で過ごすことについては『同室避難』という言葉を使っています。しかし、同室避難は一般の避難所では実現が難しく、同室避難可能な避難所というのはごく限られているのが現状です」(鈴木さん)
ペットとの【同行避難】を安全に行うには

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ペットとの「同行避難」を安全に行うにはどのようなことに気をつければよいのでしょうか。避難のタイミングや方法、注意点などをご紹介します。
ペットと一緒ならいつ避難するべき?
災害の種類によって避難のタイミングは異なりますが、特に水害時は警戒レベル3(高齢者等避難)での避難開始が推奨されています。
地域の防災情報が共有される防災速報アプリなどを使い、警戒レベルをリアルタイムでチェックしましょう。
「ペットを飼っている方は、家族に高齢者や妊婦、小さな子どもがいる方と同様の配慮が必要だと考えてください。通常の避難者よりも荷物が多く、移動にも時間がかかるためです」(鈴木さん)
実際、2019年の東日本台風では、避難が遅れたことによる深刻な被害もあったそうです。
「多頭飼育されている方が避難をためらったため、マンションの1階で犬や猫と共に被害に遭われました。このような悲しい事態を防ぐためにも、早めの避難を心がけていただきたいのです」(鈴木さん)
ペットと同行する場合の避難方法

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ペットと避難する時には、基本的に徒歩で避難しましょう。
ペットは、キャリーバッグなどに入れて飼い主が運ぶか、歩かせるかなど、ペットの大きさや種類に応じて方法を選んでください。
「車での避難は車中泊によるエコノミー症候群のリスクが高まるなど、飼い主の健康管理が難しいため、原則として推奨していません。ただし、津波災害時や多頭飼いの場合など、状況によっては車の使用を検討する必要があります。その場合でも、渋滞や道路状況を考慮し、十分な余裕を持って移動を開始することが重要です。また、避難所近くで車中泊する場合、避難所にペットと車で避難生活を送っていることを必ず伝えましょう」(鈴木さん)
犬の避難についての注意点
犬の避難については、犬のサイズによって対応が異なります。
小型犬や中型犬の場合

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小型犬や中型犬の場合、キャリーバッグに入れて同行避難も可能です。
「最近では両手が使えるスリング式の『ライフバッグ』と呼ばれる商品も普及しています。これは避難時の安全確保に非常に有効です」(鈴木さん)
大型犬の場合

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一方、大型犬の場合は自力での歩行が基本です。
「大型犬は抱えての避難が物理的に難しいため、歩行させる必要があります。その際、道路上のがれきやガラスから足を守るため、肉球保護シューズを着用させるとよいでしょう。肉球保護シューズは災害時に初めて装着させようとすると難しいため、日頃から着用の練習をして、慣れさせておく必要があります」(鈴木さん)
肉球保護のグッズはシューズのほか、ゴム素材でできたドッグ・ブーツと呼ばれるものもあります。こちらも犬の足にフィットし地面を歩く感覚で使えるそうです。
猫の避難についての注意点

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猫の同行避難では、特に逸走防止に注意する必要があるそうです。
「猫はストレスがかかった時に逃げ出そうとする習性がありますので、キャリーケースの使用は必須です。さらに安全のために、洗濯ネットの活用も推奨しています。猫を洗濯ネットに入れてから、キャリーケースに入れてください」(鈴木さん)
その他のペットの避難と注意点

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小動物(ハムスター、フェレット、鳥など)の避難には、特別な配慮が必要です。
「小動物は環境の変化に特に敏感であり、飼育温度の管理も重要です。避難所に同行避難する場合は、他の動物との接触も考慮しなければなりません。そのため、避難所での生活が困難な場合が多いので、可能な限り在宅避難を検討しましょう。あるいは、もしもの時に備えて、親戚や知人宅など一時預かり先を確保しておくことをおすすめします」(鈴木さん)
ペットと【同行避難】する時の持ち物

提供:ペット災害危機管理士会
ペットと一緒に同行避難する際の持ち物は、災害時にすぐ持ち出せるよう、日頃から準備しておく必要があります。持ち物のチェックリストを作って準備しましょう。
持ち物チェックリスト
- 使い慣れているキャリー・ケージ(避難する時にも使用)
- ペットシューズなど肉球保護グッズ(避難する時に使用)
- フードと水(5~7日分)
- 常備薬(5~7日分) ※多めに用意しておくと安心です
- 予備の首輪・リード(伸縮しないタイプ)、
- トイレ用品(ペットシート、マナーバンド、猫はトイレ砂など)
- 猫の場合、猫が入る大きさの洗濯ネット
- 食器
- 口輪、エリザベスカラー(シリコン素材や折り畳み式のものなどがあれば)
- ペットの情報を記載したメモなど(ペットの名前・飼い主連絡先・病歴・かかりつけ動物病院など)、ペットの写真
- 狂犬病ワクチン接種、寄生虫予防の記録、既往歴や性格上の注意点などの記録
- ブラシ、 ボディータオル、タオル
- おもちゃ
- 養生テープ or 布テープ(ケージの補修など多用途に役立つ)
※そのほか、愛犬・愛猫に必要なものがあれば、追加して準備しましょう。
避難の持ち物についての注意点
同行避難の際の持ち物については、どのような点に注意すればよいのでしょうか。鈴木さんに伺いました。
避難所にペット用の食料はある?
避難所にはペット用の食料はないことを前提に準備が必要です。
「災害時に地域の支援拠点としての役割を担い、支援物資や情報などが集まるのが指定避難所ですが、人間用の食品や飲料が優先して配給されるため、ペット用の食料品は配給が遅れることが多いでしょう。また配給されたとしても、ペットが普段食べているフードではないことがほとんどです。そのため、ペットの食料は飼い主が必ず準備しましょう」(鈴木さん)
非常時に備えて、ペットの食料もローリングストックしておくと安心ですね。
ペットの写真を持っていく理由は?
ペットと同行避難する場合は、万が一迷子になってしまった時の備えも必要です。人に尋ねながらペットを捜索する場合には、写真があると有効だと鈴木さんは話します。
「スマートフォンにペットの写真があるからと安心しないでください。災害時は電池切れになる可能性も高いため、印刷した写真を用意しておくのが望ましいと思います。飼い主と一緒に写っている写真と、ペットの特徴がよくわかる写真の2種類を準備しておきましょう」(鈴木さん)
家族の情報をまとめた防災手帳に、ペットの情報も一緒に記載しておくと安心ですね。
ペットの迷子対策については下記の記事をご覧ください。

災害時にペットを守るために普段からやるべきこと【ペットの防災vol.2】
ストレス軽減のために慣れたおもちゃを
「避難先でのストレスを軽減するため、普段使っている毛布やおもちゃを用意しておきましょう。そのほか、飼い主の匂いのついたタオルなどをジップロックに入れて持っていくと、避難時の精神安定に役立ちます」(鈴木さん)
ペットと避難した先での注意点【同伴避難】

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ペットと同伴避難した先ではどんなことに注意すべきでしょうか。避難所で配慮すべき点などを含めて伺いました。
避難所では周囲への十分な配慮を
避難所でペットと一緒に過ごす際に、飼い主が注意すべき点は多くあります。
基本的なしつけをトレーニングしておく
「避難所でのトラブルの多くは、基本的なしつけができていないことに起因します。トラブルを避けるためにも、『待て』『おすわり』などの基本的な命令に従えること、キャリーケースやケージにペットがスムーズに入り、落ち着いて過ごせることは必須です」(鈴木さん)
もしもの時に備えて、普段からトレーニングしておきましょう。
クレートやキャリーに段階的に慣らす方法については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。

災害時にペットを守るために普段からやるべきこと【ペットの防災vol.2】
衛生管理に気をつける
周囲への配慮としては、ペットの衛生管理も重要な課題です。
「避難所ではたくさんの人が共同生活をすることになります。その中にはペットが苦手な人、動物アレルギーがある人も含まれます。一般的にペットのニオイや抜け毛などは、他の避難者にとって不快要因になる可能性があると考えておいてください。避難所では特に衛生管理に気を配りましょう」(鈴木さん)
ペットを清潔に保つためには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
「災害時、水が使用できない状態を想定して、ドライシャンプーを用意しておきましょう。犬や猫も避難生活が長くなりストレスを感じると、アドレナリン等のホルモンが分泌され、皮脂腺の活動が活発になります。それにより、常在菌が増殖し、体臭が強くなることがありますので、ドライシャンプーを使用して清潔な皮膚を保ちましょう。また、抜け毛や飛び毛に注意しながら、ブラッシングも欠かさずに行いましょう」(鈴木さん)
鳴き声、吠える声にも注意する
鳴き声や吠える声が、周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。
「飼い主と離れることにより吠えてしまう状況が多く見られます。対策としては、お留守番用に推奨されるような知育玩具を使用し、飼い主がいない環境でも、気を紛らわせることができるようにするのも一つの方法です」(鈴木さん)
自宅の安全が確認できれば、在宅避難を検討
鈴木さんは、ペットのためには自宅から離れず、可能な限り在宅避難を検討するのも一つの方法だと話します。
「ペットにとって一番快適なのは、日常と同じ環境であること。環境の変化は大きなストレスになるので、もし建物の安全性が確保され、備蓄がしっかりできている場合は在宅避難も有力な選択肢となります」(鈴木さん)
ただし、水害や津波の場合は注意が必要です。
「水が引いたからといって、またペットが外に出たがるからといって、すぐに散歩に行くのは危険です。水たまりにはさまざまな細菌が繁殖している可能性が高く、感染症のリスクがあるからです。やむを得ず外を歩かせた場合は、帰宅後すぐに洗うなどして清潔にしてください。断水している場合は、ドライシャンプーやシャンプーシートを活用するとよいでしょう」(鈴木さん)
おわりに
災害時にペットの避難を安全に行うためには、防災に関する正しい知識を持ち、日頃から準備しておくことが不可欠です。
「災害時には、飼い主自身の安全確保が、結果としてペットの命を守ることにつながるということを忘れないでください」(鈴木さん)
しっかり意識しておきたいものですね。