災害時、避難所には入れないかも?!
災害が発生したら、「避難所へ行こう」と思っている方は多いと思います。しかし、約9割の世帯がマンションなどの共同住宅に住む中央区では、防災計画で在宅避難を基本的な方針としていますし(※1)、文京区では避難所の収容可能人数は人口の17%(2017年度)です(※2)。つまり、都心などの人口密集地帯では、災害時に避難所に行こうと思っても、入れない可能性があるのです。
また、最近では新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人が密集する避難所よりも在宅避難を選ぶ人も多いと考えられます。避難所ではなく自分たちの家で非常時を過ごす可能性が高いことを踏まえて、今一度在宅避難のための備えについて見直す必要があります。
※1. 中央区「わが家わがまちの防災ハンドブック」
※2. 日本建築学会技術報告集 第23巻 第53号「文京区民の避難行動と避難所初動期に関する意識調査」2017年2月
災害時のライフラインの復旧には時間がかかる!
大規模災害が起きると、停電や断水などが発生し、生活に必要なライフラインが停止してしまいます。東京都防災会議によると、都直下型大地震が起きた際のライフライン復旧の目標日数は、電気やガスのエネルギーは最低でも1週間程度、上下水道は1カ月程度と想定されています(※3)。道路の損壊が激しければ、支援物資もすぐには届かないかもしれません。
できるだけいつもの生活に近い状態で在宅避難するために、何を備えておけばよいでしょうか。そのヒントを探るため、東京ガス都市生活研究所では、災害に対して生活者がどのような備えをしているか、一都三県の居住者に対して調査を行いました。
※3 東京都地域防災計画(震災編)平成24年11月
防災に関する情報は得ているが、実践できていない人が約40%
はじめに、普段防災情報をどのくらい入手しているのか聞いてみました。自分に必要な防災情報を日常的に入手している人は約24%(あてはまる+ややあてはまるの値)であり、情報を得ているが実践できていないと回答した人が約40%(あてはまる+ややあてはまるの値)でした。自分に必要な防災情報を日常的に入手することも、情報を得たときに実際に行動に移すことも、まだ十分にできていないことが分かります。
在宅避難の不安要素は、「トイレ」「ライフライン」
在宅避難について心配なことや不安なことを聞いたところ、上位は「トイレが使えないこと」「ライフラインの停止」「暑さ・寒さ」「食料や物資の不足」でした。
飲料水や食品の備蓄は「2~3日分」が最も多い
農林水産省が定める飲食物備蓄の基準では、「最低3日~1週間分×人数分」としていますが、人口密集地域では支援物資が不足することが予想され、少なくとも1週間は外部に頼らずに飲食できる量の備蓄が望ましいと言われています(※4)。
今回の調査で飲料水、食品ともに何日分を備蓄しているか聞いたところ、ともに「2~3日分」が最も多く、飲料水は約37%、食品は約40%でした。1週間分以上備蓄している人は、飲料水は約27%、食品は約23%でした。多くの人は1週間分の備蓄として十分な量を用意していないことが分かります。
※4 農林水産省「災害時に備えて食品の家庭備蓄を始めよう」令和元年8月
備蓄品にも新型コロナウイルスの影響が!
次に、普段からどのようなものを備蓄しているか聞いてみました。非常用に備蓄しているものの上位には、「飲料水」「缶詰・インスタント食品」「懐中電灯」「マスク」が並びます。新型コロナウイルス感染拡大により、マスクや消毒用アルコールを備蓄品に追加した人もいるのではないでしょうか。
ライフライン停止に備えた設備を持っている人は少ない
では、エネルギーに関するライフラインの備えはどうでしょうか。在宅避難で不安なことを聞いた調査(図3)で、ライフラインの停止に不安がある人が多いということが分かりましたが、停電・ガス停止時に備えて、エネルギーを自給できる「太陽光発電」やエネルギーを蓄えておける「蓄電池」の所有状況を調査したところ、最も高い太陽光発電でも自宅に取り入れているご家庭は6.6% でした。
太陽光発電や蓄電池などは、設置条件や費用面から誰もがすぐに所有できるものではありませんが今後より普及してくるかもしれませんね。ライフライン停止に備えて比較的多くの方が備えているものとしては懐中電灯があります(図6)。他にも、携帯ラジオ、モバイルバッテリーを用意していることが分かります。また、約23%の人はカセットコンロ・ボンベを備えていました。
非常時でも温かいご飯が食べたい!
多くの人が備蓄している飲食物ですが、1週間分を備蓄していたとしても、冷たい食事が続いたら温かいものが食べたくなるでしょう。特に寒い時はなおさらです。そんな時にカセットコンロとカセットボンベがあれば、温めることや調理することができます。
しかし、カセットボンベ1本でどのくらい使えるのかを知らない方は多いのではないでしょうか。食品備蓄の目安とされる1週間、日常に近い生活を送るためにカセットボンベを何本用意すればよいかが分かれば、備えの目安になり安心ですね。そこで今回、非常時を想定した食事を作る際にカセットボンベがどのくらい必要なのか実験してみました。
非常時にカセットボンベはどれくらい必要?
今回の実験では、カセットコンロとカセットボンベを使い、非常食の調理にかかるガス量を測定しました。4人家族1日分のメニューとして、ご家庭に備えてあるようなレトルト食品を用意し、次のように実験を行いました。お湯を沸かす実験は3回実施しその平均値を、それ以外は1回ずつの測定値を記載しています。また、カセットボンベの使用量は、使用前後の重量差から測定しました。
【朝ごはん】
朝ごはんのメニューはレトルトおかゆ、インスタント味噌汁、温かいお茶です。
4人分を温めるためにはカセットボンベ約1/4本(59.6g)が必要でした。
【昼ごはん】
お昼ごはんのメニューはパスタ、レトルトパスタソース、カップスープ、温かいお茶です。
4人分作るためにはカセットボンベ約1/4本(57.7g)が必要でした。
【夜ごはん】
夜ごはんのメニューは、パックご飯、レトルトカレー、野菜ジュースです。
4人分作るためにはカセットボンベ約1/5本(45.5g)が必要でした。
4人家族1週間でカセットボンベは5本必要!
カセットコンロを使い、上記のメニューを調理するには、4人家族1日分で合計162.8gのガスが必要なことが分かりました。7日分では1139.6gになります。カセットボンベのガス量は250gですので、4人分を7日間調理するにはカセットボンベ約4.6本が必要となります。各家庭、最低でも5本程度備蓄しておくと、電気が復旧するまでの間、温かいものを食べることができますよ。
鍋を使った炊飯もおすすめ!
今回の実験ではパックご飯を使用し、沸騰した鍋で15分間温めましたが、実はほぼ同程度のエネルギーで、炊飯鍋を使用して3合のご飯を炊くことができます。パックごはんを1週間分備えるのは大変ですが、お米でしたらある程度備蓄があるご家庭が多いのではないでしょうか。
炊飯器でしかご飯を炊いたことがない方は、ぜひ一度鍋での炊飯もお試しください。
おわりに
家族4人が1日3食とるためにはこれだけの食品備蓄が必要であり、さらに飲料水も必要です。これを1週間分用意するとなると7倍の量が必要なのです。収納スペースも限られていますので、家にあるものを食べつないでいく工夫も大切です。ローリングストックという考え方がありますが、例えば、普段の生活に非常食を取り入れ、食べたら買い足し、常に備蓄するという意識をもって買い物をすることもその一つです。
また、家の設備を見直す際には、ライフライン停止時に備えたエネファーム(家庭用燃料電池)や蓄電池などを設置するのも選択肢の一つです。いつ何が起きても慌てることなく、できるだけ日常と変わらない生活を送れるよう、この機会に家での備えを見直してみましょう。
参考:実験時使用器具
・イワタニカセットコンロ(カッセトフ―達人スリムⅢ CB-SS-50)
・イワタニカセットガス(オレンジ)3P CB-250-OR
・ゆきひら鍋 20㎝
・深型フライパン 28㎝
・炊飯鍋(RTR-300D1)
・鍋ふた
・温度測定器 コンパクトサーモロガー AM-8010K
・熱電対Kタイプ シース型
・精密電子はかり
執筆者:
研究員 三柳茉史・木村康代
統括研究員 松葉佐智子