防災リュック基本の「キ」

uchicoto
防災リュックとは、災害時に避難するとき持ち出すリュックサックのことで、中身は避難中や避難所で必要となるものです。
地震、豪雨などの大災害を経験した防災士のしほママさんによると、「災害時の状況はそれぞれ異なり、想定外のことも多く起こるので、普段からどんなに準備をしていても完璧とはいきません」とのこと。そしてそれは防災リュックの中身についても言えることだそう。
それでもなぜ防災リュックを準備する必要があるのか、そして、実際に役立つ防災リュックを作るにはどうすればよいのかをしほママさんに詳しく教えてもらいました。
防災リュックはなぜ必要?
災害時には、避難所に避難すれば食料や物資の支給があるから大丈夫だろうと思っていませんか? でも、しほママさんによると、これは決して「当たり前」ではないのだそう。
「実は自治体の備蓄品は人口の2~3割分しかないのです。そのため、支給がないことを前提に考えておく必要があります。東日本大震災のときは、物資が支給されたのは避難して3日目でした。そのため、防災リュックを持っていないと困るのは自分と大切な家族になります。つまり、自分や大切な家族を守るためには防災リュックでしっかりと備えておかなければならないのです」(しほママさん)
また、防災リュックを持っていることで、災害時の精神の安定にもつながるのだそう。
「災害時は不安が増大し、心のゆとりがなくなります。私は手ぶらで避難したので、不安しかなく心にゆとりが持てませんでした。物を持っていたら違ったと思います。防災リュックで備えをしておくことで、『3つの不(不便・不快・不自由)』の状況を緩和させることができます。心にゆとりを持って状況に対処していけるようにするためにも、防災リュックは大切なのです」(しほママさん)
防災リュックは家族全員分を用意するのが基本
防災リュックは、家族1人につき1つずつ用意するべきだとしほママさんは言います。
「災害はいつ起こるか分からないため、家族みんなが一緒に避難できるとは限りません。東日本大震災のとき、避難所では、家族バラバラで避難してきた人がたくさんいました。夜であれば比較的家族がそろっていることが多いですが、東日本大震災のときのように平日の昼間に発災すれば、親は仕事で不在、子どもだけが在宅というケースもあり得ます。そのような状況に備え、わが家では子どもだけでも避難できるように一緒に防災リュックを作っています。
また防災リュックを家族がそれぞれ持つことは、『重量』を分散する目的もあります。必要なものをすべて大人だけで運ぶのはたいへんでも、各自がリュックを持つことで負担を分散できます。幼い子どもでも、小さなリュックに荷物を入れれば運ぶことができますよ」(しほママさん)
防災リュックの重量の目安

uchicoto
防災リュックに満杯まで詰めるとかなりの重量になることが予想されますが、どのくらいの重さにするのがよいのでしょうか。しほママさんに伺いました。
「防災リュックの重さの目安は一般的に、男性15キロ、女性10キロ程度といわれていますが、わたしのリュックは7キロ。しかしかなり重いです。
また、その人の年齢や体力、体調に加え、避難経路(上り坂があるなど)や距離によっても運びやすい重量にはかなりの差がでるので、無理なく背負える重さは一定ではありません。子どもを抱っこして避難するケースではさらに負荷がかかることが予想されるので、状況によってリュックの重さを調整する必要があります」(しほママさん)
防災リュックを作ったら、実際に背負って無理なく避難所まで行けるかなど、あらかじめ確認しておくとよいですね。
防災リュックの基本的な作り方の考え方は、以下の記事に詳しくご紹介しています。ぜひ参考にしてみてくださいね!

防災リュックの作り方~リュック選びから上手な詰め方、保管法まで防災士が伝授!
家族に応じたオリジナルの中身にすることが大切

PIXTA
防災リュックはあらかじめ中身を詰めた市販品もありますが、緊急時に必要なものは家族構成や状況によって変わるため家族オリジナルの中身にすることが大切だとしほママさんは言います。
「防災リュックの中身は、1泊2日分(食料は3食分)を用意することが基本です。しかし入れられるものには限りがあるので、『優先順位をつける』ことが大切です。
例えば、高齢者など小食な人は、食料を少なめにして代わりに薬や衛生用品(口腔ケアなどをしないと病気につながる可能性がある)など健康維持のためのグッズを多く入れる方がよいケースもあります。また赤ちゃんがいる場合は、おむつやミルク、清潔を保つグッズなどの割合が多くなるでしょう。
このように、家族の年齢や性別、健康状態によって必要なものの優先順位は異なります。実際に役立つ防災リュックにするために、中身は使う人に応じたオリジナルにすることが大切なのです」(しほママさん)
【基本編】防災リュックの中身

写真提供:SHIHO YANAGIHARA

uchicoto
大人1人分の防災リュックに入れる基本のものをしほママさんに教えていただきました。以下で詳しく見ていきましょう。
食品

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
飲料水
大人は1日2Lほど水を使います。そのため防災リュックには、500mlペットボトルを3本(重ければ2本でもよい)入れておくのが基本です。500mlペットボトルは持ち運びやすく、飲み切りやすいので衛生的というメリットがあります。
また水だけではなく、野菜ジュースや栄養ドリンクなども用意しておくと気分転換に役立つでしょう。
非常食
非常食は缶詰や乾物など、3日分入れるのが基本です。加水や加熱が不要でそのまま食べられるもの、栄養バランスが良いものがおすすめです。アレルギーがある人は避難所では手に入らないアレルギー対応食が必須です。
他にも好きな食べ物やおやつ、甘いものがあると心が元気になります。また、キシリトール配合のシュガーレスガムは歯磨きできないときに口腔内がスッキリし、イライラ解消にもなるのでおすすめです。
衛生用品・生活用品など

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
携帯トイレ

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
被災してトイレ問題で困った経験があるしほママさんが開発に携わった携帯トイレ
災害時にはトイレが使用できなくなる可能性があるため、1泊2日分の携帯トイレを用意しておきましょう。一般的な1日のトイレの回数は5~7回といわれていますが、自身の頻度に合わせ準備するとよいでしょう。
「防災リュックに入れる携帯トイレは、使いやすさや付属品、ニオイ対策を確認して選ぶことをおすすめします。便は本当に臭うので、ニオイ対策は重要です」としほママさんは言います。
救急ツール
避難時にケガをする場合もあるため、消毒薬、ばんそうこう、ガーゼ、爪切り、ピンセット、体温計などの応急処置に使えるツールを用意しておきましょう。セットになっているものを準備しておくのもよいでしょう。
常用薬・常備薬・お薬手帳

PIXTA
解熱剤、風邪薬、胃腸薬といった常用薬のほか、普段飲んでいる薬がある人は防災リュックに忘れず入れる必要があります。
「熊本豪雨で被災したとき、高齢者の方たちは防災リュックを持っていませんでした。でも、お薬手帳だけは普段からかばんに入れて携帯していたため、避難後にすぐ薬を処方してもらうことができました。避難生活が長引くと、薬の有無は命にも関わります。避難時にお薬手帳を携帯することは非常に重要です」(しほママさん)
歯磨き用品
口の中の菌が増殖すると、身体に悪影響を及ぼすことがあります。口腔内を清潔に保てるよう、歯磨きセットは用意しておきましょう。マウスウオッシュは歯磨きの代わりにはならないので、液体はみがきをおすすめします。歯磨きシートも便利です。
感染対策用品

uchicoto
避難所では感染症に注意が必要です。マスク、ビニール手袋やスリッパ・上履きなど、除菌シートやせっけん、アルコール消毒液など、感染対策のためのものを入れておきましょう。
バスタオル、フェースタオル
フェースタオル1枚、バスタオル1枚程度を目安に。
ケガの応急処置などに使えるほか、バスタオルは防寒対策や寝具の代わり、車中泊の寝床づくりに使えます。また赤ちゃんがいる場合はおくるみとして代用でき、授乳時の目隠しにもなります。
「バスタオルはかさばるので、私は入れていません。必要な人が必要な分入れるとよいと思います」(しほママさん)
ドライシャンプー、ボディーシート
避難中は長く入浴できないこともあるため、ドライシャンプーやボディーシートがあると便利です。赤ちゃんのおしりふきは大判で体を拭きやすく、肌にも優しいので大人用としてもおすすめです。またシャンプーシートは100円均一でも買うことができます。
ティッシュペーパー、トイレットペーパー
どちらも絶対的に不足するので、十分備えておきましょう。
ウエットティッシュ
手が洗えない、お風呂に入れないとき、ウエットティッシュで拭くことで清潔を保つことができます。子どもや肌がデリケートな人は、刺激の少ないノンアルコールのものを用意しましょう。
マスク
避難途中に煙、砂ぼこり、悪臭などから喉を守るためだけでなく、避難所での感染症対策や、顔を隠す際にも役立ちます。使い捨てマスクは多めに準備しておくことをおすすめします。
アイマスク・耳栓
多くの人が集まる避難所では眠りにくいことが多いです。安眠確保に役立つグッズもあるとよいでしょう。
メガネ・コンタクト用品
自分の度数にぴったり合うものは支給されにくいので、予備も忘れずに用意しておきましょう。
衣類など

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
衣類・下着
衣類はかさばるので圧縮袋に入れてリュックに詰めます。女性はカップ(ブラジャー)つきの肌着だと荷物を減らせて便利です。寒い時期は、帽子や手袋、ネックウオーマー、レッグウオーマーなど防寒具はリュックに詰めず、避難時にできるだけ身につけていくと荷物を減らせます。
雨具・防寒具
レインコートやウインドブレーカーなどの雨具は、雨よけのほかにも防寒着や簡易トイレを使う際の目隠しとしても活用できます。
「防災リュック自体の水ぬれ対策も重要です。熊本豪雨の際、避難時に防災リュックがぬれて、入れていた機械系のものが使用不能になった人もいました。リュックの中身をカテゴリ別にジッパーつき袋に入れる、リュックカバーを装着するなどの対策をおすすめします。リュックカバーはアウトドアや平時にも使えて便利ですよ」(しほママさん)
また、しほママさんは実体験から防災リュックに防寒具を入れておくことの重要性も話してくれました。
「避難所はとても寒く、眠れないほど冷え込みます。東日本大震災のときには津波でぬれたこともあり、低体温症で亡くなった人もいました。冷え性の人、体温調節が苦手な子どもや高齢者は特に低体温症になりやすいので、極寒時でなくても防寒対策は念入りにしましょう。『折り畳めるアルミシート』は、軽量・コンパクトで防寒具としても便利です。
私は東日本大震災のとき、床からの冷えが直接体にきました。また床が固いため体が痛くて長時間寝ることができなかったので、エアーベッドがあるとよいと思います。今は足踏み式など、女性やシニアでも簡単に膨らませることができるタイプもあります」(しほママさん)
避難所での履物
忘れがちですが避難所で履くものも必要です。滑って転倒する恐れがあるスリッパよりも上履きなど滑らないものがよいでしょう。
「東日本大震災のときには避難所が土足になり、床が汚れて衛生面が悪化しました。汚れた床に寝なければならず、土やほこりが原因で気管支系の病気になった方も多かったようです。避難所での履物は衛生を保つためにも必須です。また履物があると、寒い時期は床からの冷えが防げ、感染症対策にもつながります」(しほママさん)
貴重品

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
健康保険証、運転免許証などのコピー
水ぬれや汚れを防ぐ対策をして携帯します。必要な人は「ヘルプカード」も忘れずに。
保険証などはスマホで撮影してデジタル保存もしておくと安心ですよ!
パーソナルメモ
家族や職場、知人などの連絡先を記載したメモを作成して防災リュックに入れておきます。また緊急連絡先だけでなく、アレルギーの有無などパーソナル情報も記載しておきましょう。
現金
10円玉などの小銭を3,000円程度用意しましょう。
「災害時はATMが使えません。私は東日本大震災のとき店頭販売で買い物をしましたが、レジがなくおつりが出ませんでした。公衆電話を使用する際にも小銭が必要です。お札以外に小銭も必ず用意してください」(しほママ)
家族の写真

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
写真は離れ離れになってしまった家族を捜すときに役立つほか、心のケアにもなります。
「私は息子の写真とメッセージを、非常食の缶に貼って防災リュックに入れています」(しほママさん)
非常用品(防災グッズ・日用品)

写真提供:SHIHO YANAGIHARA
ヘッドライト、懐中電灯、ランタン

uchicoto
ヘッドライトは両手があくので懐中電灯よりもおすすめです。可能なら一人1個の用意を。照明関係は電池が劣化していないかを含め、定期的に動作確認しておきましょう。
「ヘッドライトを首から提げておくと防犯意識の高さをアピールでき、防犯対策としても役立ちますよ」(しほママさん)
携帯ラジオ

多機能のポータブルラジオ・TV
innowa buddyくまモンVer
(NH Technology)
電気が使えない中での情報収集に役立ちます。手回し充電機やライト機能がついているもの、スマートフォンを充電できるバッテリーを備えたものなど、さまざまなものが販売されています。中でもしほママさんのおすすめは、テレビも見られるラジオ(手回し式)だそう。
「東日本大震災のとき、『津波がくる』といわれても、ラジオの情報だけだと被害の状況をイメージできませんでした。聴覚に障害がある方でも、情報をより正確に把握することができるので、テレビ機能がついたラジオはおすすめです」(しほママさん)
モバイルバッテリー
携帯電話などの機器充電用に。電池式や太陽光で充電するものも便利です。容量の目安としては、10,000mAh程度のもので携帯電話の充電が3回程度可能です。
軍手・ヘルメット
軍手は寒さ対策にも役立ちます。ヘルメットはすぐに装着できるよう、サイズを調整しておくことがポイントです。
万能ナイフ・缶切り、ハサミなど
避難所でないと困ります。万能ナイフは避難する途中にも必要になるかもしれません。非常食といえば缶詰ですが、プルトップの缶でない場合、缶切りがないと食べられないので忘れずに!
ハサミは、袋(携帯トイレの凝固剤袋や食材の袋など)の封を切る際に必要になります。手が汚れている場合もあるので、ハサミで切ると衛生的です。袋に切り口がついていても開けにくい物も意外とあるので用意しておきましょう。
キッチン用ラップ
皿などの食器類にラップを敷いて使えば、水が少なく洗えないときにも衛生的です。包帯の代わりや腹巻きカバーとしても使えますよ。
紙皿・紙コップ、 割り箸、スプーン
エコではありませんが、非常時には、衛生面も考えて使い捨て食器の利用も考えましょう。
災害用ホイッスル
ホイッスル音は人間の声より遠くまで届き危険を知らせることができます。避難時はリュックから出して首から提げます。見える化することで、避難所では防犯対策にもつながります。小さなお子さんは音を出すのにコツが必要なので練習をしておくと安心ですね。
油性ペン、付箋紙、接着テープ類
避難所でのメモや家族へメッセージを残すときに必要です。ペンは文字が見やすく水ぬれにも強い油性のものがよいでしょう。
セロハンテープ、ガムテープなどは接着や梱包(こんぽう)以外にもメモを書いて貼り付けるなどの用途に使えます。養生テープはガムテープよりもきれいにはがせるのでおすすめです。
予備電池
ラジオやライト用などの予備電池を必ず入れておきましょう。未使用品でも経年劣化するので定期的に確認が必要です。
予備電池が使い回せるように、電池を使う製品は単3電池使用のもので統一すると便利です。
使い捨てカイロ
寒さ対策のほか、ミルクや離乳食の保温にも役立ちます。ただし、水で調乳してカイロで温めるのは粉ミルクの菌が増えるのやめましょう。
ゴミ袋
ゴミやオムツを捨てる用途のほか、避難所での支給品を入れるのにも役立ちます。
工夫すれば防寒着やレインコート、授乳ケープや着替え用の目隠しポンチョ、オムツ、三角巾など多機能に活用できます。
おわりに
実際に使える防災リュックをつくるためには、人によって必要なものが大きく異なるということをしほママさんから教えていただきました。
防災リュックに入る量は限りがあるため、家族それぞれに何が必要なのかを見極め、日ごろから準備しておくとよいですね。