災害時、避難所で寝起きするということ

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大きな災害が発生すると、家屋の損壊などで避難所生活を余儀なくされることがあります。多くの場合、避難所となる体育館や公民館などでは、床に直接布団などを敷いて寝る生活が始まります。
しかし、体育館やホールの床は想像以上に冷たく、硬いものです。寒い時期には、床から伝わる冷たさで凍えるような思いをすることもあります。一方、暑い時期には、冷房がないため、湿気や汗で蒸れて寝苦しくなることもあります。
そのような過酷な状況でも、非常時であれば一晩程度なら我慢できるでしょう。しかし、避難生活が続くと、硬い床の上で寝ることで体が痛くなったり、ホコリで体調を崩したりする危険も出てきます。
また、床で寝起きする生活は、高齢の方にとっては起き上がるのが大変で苦労することも多く、同じ姿勢を続けることでエコノミークラス症候群など、深刻な健康被害につながることもあります。
「段ボールベッド」ってなに? おすすめの理由は?

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東日本大震災や熊本地震などの大災害後、長期に及ぶ避難所生活の中で活用されるようになったのが、段ボール製の簡易ベッド「段ボールベッド」です。
床でのつらい生活を少しでも改善しようと、支援物資の箱を並べてベッド代わりにしたのが始まりだといわれています。その有効性が広く認識され、現在では行政でも避難所に段ボールベッドを設置する取り組みが進められるようになりました。
参考:内閣府「避難所開設当初からパーティション・段ボールベッド等の簡易ベッドの迅速な設置について」(令和6年7月4日)
段ボールベッドのメリット

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そんな「段ボールベッド」には、避難所生活をより快適にするために、どのようなメリットがあるのでしょうか?
防寒・蒸れ対策ができる
床から伝わる冷気や熱気を、段ボール箱の中にできる空気の層で遮ることで、寒い時期の体温低下や暑い時期の蒸れを和らげます。
ホコリ対策ができる
高さがあるため、床に落ちているホコリを吸い込むのを防ぐ効果も期待できます。
立ち上がりやすい高さ
床に直接寝るのではなく、ベッドであれば立ち上がりやすく、腰掛けるのにちょうど良い高さがあるため、高齢者や足腰の弱い方にも安心です。
空間を仕切る道具にも
配置を工夫すれば、手軽にプライベートな空間を作ることができます。
軽量で移動が簡単
素材が段ボールなので軽く、持ち運びや移動が簡単です。
保管・リサイクルが楽
たたんで保管できるため、備蓄時にも収納スペースをとりません。使用後は解体して再利用でき、不要になった際は段ボールごみとして処分できます。
低予算・簡単に作れる
特別な工具を使わず、誰でも簡単に組み立てられます。段ボールベッド用のキットも販売されていますが、一般的な段ボール箱を使えば、より安価に作ることができます。
段ボールベッドの注意点と対策

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メリットが多い段ボールベッドですが、素材ならではの注意点もあります。
より快適に使うためには、段ボールの弱点を理解し、対策をとることが大切です。
湿気に弱い
水にぬれると強度が低下します。床にブルーシートを敷くなどの対策をとりましょう。
耐久性に限界あり
長期間、過度な荷重をかけると、つぶれてしまうことがあります。強度を高めるために、中に補強材を入れるなどの工夫をしてみましょう。
害虫対策
不衛生な環境で長期間放置すると、害虫のすみかになってしまう可能性もあります。定期的に掃除をしたり、防虫剤などで対策をとりましょう。
「段ボールベッド」を作ってみよう!

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市販の段ボール箱を使い、実際に段ボールベッドを作ってみました。
今回用意したもの
- 段ボール箱(33cm四方)17個(うち、補強材用として5個、上敷き用として2個)
- ガムテープ
- ハサミ
- 梱包用ヒモ
強度を保つためには、厚手の段ボールを使用するのがおすすめです。今回は33cm四方の箱を使いましたが、大きさがそろっていれば、他のサイズでも問題ありません。

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さっそく、組み立てていきましょう。
1. 箱を組み立てる

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基本的にはガムテープで上下をしっかりと留めます。ただし、一晩だけ使用したい場合などは、使用後の再利用や収納のことを考えて、ガムテープを使わなくても問題ありません。
その場合でも強度を保つために、補強材として段ボール箱を半分に切った仕切りを入れてください。
2. 補強材(仕切り)を入れる

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仕切りを入れる際のポイントは、箱を閉じたときに仕切りが上下の面にしっかりと密着するようにすることです。
仕切りが高すぎるとふたが閉まらず、低すぎると強度を保てず、上に寝たときにへこんでしまいます。仕切りは、段ボールのふたになる部分の折り目に合わせて設置しましょう。
3. 補強材を入れて組み立てた箱を並べる

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箱の形に組み立てたら、並べていきましょう。
今回は立方体の段ボール箱を使ったため、5箱を2列に並べました。
このとき、縦と横の長さが異なる段ボールの場合は、互い違いに配置するなどして、並べた際に高さや幅、長さがそろうように設置します。
4. 並べた段ボール箱を固定する

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今回は一晩だけ使用することを想定して作成したため、ロープで全体をしっかりと縛りました。
災害時に中長期間使用する場合は、ガムテープで2箱ずつ固定し、最後に全体をまとめて固定するなど、配置が崩れないように工夫しましょう。
5. 上部に開いた段ボールをのせる

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段ボール箱の一辺を切り開いて天板のように敷けば、ベッド本体の完成です。
段ボール1枚敷くだけで、箱のへこみを防いだり、箱の凹凸が体に当たるのを防ぐ効果があります。

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ベッドが完成したら、その上に布団やシーツを敷いて使用します。
今回完成したのは、幅約70cm、奥行き約170cm、高さ約35cmのベッドです。身長155cmの筆者が一人で一晩過ごすには十分なサイズですが、身長の高い方や、より広いスペースを求める場合は、段ボール箱の数を増やして調整できます。ご自身に合ったサイズに工夫してみてください。
ひと工夫すればより快適に
就寝時に周囲が気になる方には、さらにひと工夫を。
段ボール製の簡易パーティションを設置します。

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段ボールの一辺を切り開き、ガムテープで固定するだけで、簡易的なパーティションが作れます。
今回は段ボール箱1枚分で作成しましたが、ベッドの幅に合わせて2枚をつなげるなど、工夫してみてください。

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そのままでも問題ありませんが、上部に角度をつけることで、頭部を守るための小さな庇(ひさし)を作ることができます。
就寝時に光を遮りたい場合や、頭部をしっかり守りたい場合、寝ているときに顔を見られたくない場合などには、上部を90度に曲げて頭部を覆う方法もおすすめです。

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段ボールベッドは収納にもなる

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大きな工夫ではありませんが、ベッド本体として使っている段ボール箱は、ちょっとした収納スペースとしても活用できます。
避難所生活では物を置く場所が限られるため、私物を入れておくのも良いでしょう。ただし、寝ている間に人は汗をかくため、ベッド下にはどうしても湿気がこもりがちです。湿気に弱いものや食品などは入れないようにしてください。
体感!自作「段ボールベッド」の寝心地は?

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筆者宅のリビングに設置した「手作り段ボールベッド」に、せっかくなので一晩寝てみました。
使用したのは6月の晴れた日でしたが、災害時を想定してエアコンを切り、窓を開けて暑さも体験できるようにしました。ベッドの上には薄い毛布を敷き、タオルを枕代わりにし、掛け布団として薄い毛布を用意しました。
一晩寝てみた結果、普段使っているベッドと全く同じとはいきませんが、それでも快適に過ごすことができました。
ただ、寝返りを打つと落ちてしまいそうになったので、もう少し幅を広くすればよかったかなと思いましたが、避難所では限られたスペースをみんなで使わなければならないため、これも一つの経験だと感じました。
ベッドの方はというと、へこみもなく朝まで無事でした。段ボール自体の強度に加え、中に入れた補強材がしっかり効いていると感じました。
起床後は、次の機会に使えるよう、たたんで保管しました。
ベッドだけじゃない!避難生活で役立つ段ボール活用術
避難所は、被災者が共同生活を送る場所です。そうした避難所で役立つアイテムを、段ボールで作ることもできます。
区画を仕切るためのパーティションと椅子の作り方をご紹介します。
段ボールパーティションの作り方
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段ボールを三角に組み立てて、切り込みを入れます。これが土台になります。
そこに広げた段ボールを差し込んで立てるだけで、簡易的な仕切りを作ることができます。

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段ボールのサイズを変えることで、区画を仕切るだけでなく、高さを出して目隠しとして使うこともできます。高さのある段ボールを立てて使いたい場合には、ある程度厚みと強度のある段ボールを選び、土台となる三角の足を狭い間隔で設置することがポイントです。
段ボールで椅子を作る

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避難所では主に床で生活することになりますが、高齢者や足腰が弱っている方には床に座った状態からの立ち上がりは困難です。そんなとき、少し腰掛けられる椅子があるだけで、生活が大きく楽になります。
まず、段ボール箱の底をしっかりとガムテープで留め、上部のふたの2面だけに半分の切り込みを入れます。

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切り込みを入れた部分から、底の角に向かって軽く折り目をつけます。このとき、カッターやハサミの刃を使うと後の作業がしやすくなりますが、切りすぎないよう注意してください。

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反対側の面にも同じように線を引き、その線に沿って箱を三角形になるようにつぶします。

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切り込みのないふたを合わせ、ガムテープで固定します。ここが座面となります。

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椅子が完成しました。体重が80kgの大人が座っても壊れない、十分な強度があります。
使用する段ボール箱のサイズによって仕上がりが変わるため、子ども用の場合は、いくつか試して座りやすい高さを見つけてみるのもおすすめです。

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ベッドやパーティション、椅子だけでなく、段ボールは工夫次第でさまざまなものに生まれ変わります。
家族や仲間と一緒に、工作感覚で楽しみながらアイデアを出し合えば、災害時に役立つものをさらに作ることができるかもしれません。
普段の生活の中で、楽しみながら段ボールの活用アイデアをみんなで考えてみましょう!
おわりに
災害発生後の避難所生活では、思い通りにいかないことが多くあります。しかし、そのような状況の中でも、いかに「生活」を快適にするか工夫することが大切です。身近な材料や道具だけで作ることができる段ボールベッドは、こうした工夫から生まれました。避難所は「生活」を営む場所です。だからこそ、そこにいる人たちが助け合い、アイデアを出し合い、それぞれが少しでも健康に過ごせることが大切です。普段からアイデアの「種」をたくさん持っておくことが、いざというときの避難所生活への「備え」となります。
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