防災用品として準備するリュックの選び方

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「防災リュック」という言葉がよく使われますが、避難時にはリュックサックタイプでないバッグを使ってもよいのでしょうか。
「避難時にスーツケースなどを使う人もいますが、避難するときには両手を空けておくことが大前提です。特に子どもが小さい場合は、抱っこや手をつないで避難することもあるでしょう。私は東日本大震災の時、2人の子どもと手をつないで避難しましたので両手は使っていました。また、余震も多かったので、途中で揺れると子どもを守らないといけませんでした。高齢者の場合、転倒したときに手をつけないことで骨折などのケガにつながる可能性もあります。こういった不安がある方の場合は、片手がふさがるタイプのバッグよりリュックに荷物を入れて避難したほうがよいと思います」(しほママさん)
また、防災リュックに使用するリュックサックを選ぶときのポイントは、以下に着目するのがおすすめだそうです。
- 重量:中身を入れるとかなり重くなるのでリュック自体は軽量タイプを
- 素材:耐久性が高く、撥水/防水加工されているものを
- 背負いやすさ:背面やショルダー部分にクッションパッドが入っているものなど
「避難所では床に座って過ごすことが基本になります。長時間座っていることが難しい高齢の方などには椅子代わりにもなるタイプのリュックがおすすめです。また外ポケットがついているものだと、頻繁に使うものがすぐに取り出せるのでよいでしょう」(しほママさん)
防災リュックの作り方
ここからは、防災リュックの作り方のポイントをしほママさんに教えていただきます。
ポイントは以下の3つです。
- 入れるものをそろえる
- 取り出しやすさを考えて詰める
- 重さを軽減するように詰める
詳しく見ていきましょう。
【防災リュックの作り方1】入れるものをそろえる

提供:柳原志保
防災リュックを作ろうとするとき、入れなければと思うものが多すぎて、何から手をつけたらよいのか分からない人も多いのではないでしょうか。
それに対して、しほママさんは次のようにアドバイスします。
「防災リュックに入れたほうがよいものはたくさんありますが、すべてをリュックに入れることはできません。しかも家族構成や健康状態などによって入れるべきものや入れる量のバランスは異なります。そのため、防災リュックを作るときには、まず本当に入れる必要があるものは何かを考えることが大切です。入れたいものに優先順位をつけて取捨選択していきましょう。
また、つくり方に正解と完璧はありません。あくまで参考程度にしてもらい、家族構成や避難先までの距離、移動手段などに合わせてカスタマイズしてほしいと思います」(しほママさん)
上の写真は、しほママさんが自分用にカスタマイズした防災リュックの中身です。
役立つ防災リュックにするためのコツは、下記の記事を参考してください。
リュックの中身はカテゴリ別に分けて防水袋に入れる
しほママさんの防災リュックの中にはたくさんのジッパー付き袋が入っています。
「基本は1泊できる分の食料(3食分)や荷物を入れてあります。令和2年7月豪雨の時は、避難所に持っていたリュックの中身が雨にぬれて使えなかったという人がいました。ですから雨に備えリュックの中身がぬれないよう、また何が入っているのかがわかりやすいよう、カテゴリごとにジッパーつき袋に入れています。ただし、ぬれても大丈夫なものはそのまま入れています」(しほママさん)
【防災リュックの作り方2】取り出しやすさを考えて詰める

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緊急時には、必要なものをすぐに取り出せることが重要です。取り出しやすくするポイントをしほママさんに伺いました。
「外ポケットにはすぐに使うテレビラジオ(情報)、ヘッドライト(移動中)、体温計(避難所に入るとき)を入れておきましょう。また笛もすぐに吹けるよう、リュックの外側につけておくとよいですね。子どもはおもちゃ、女性は生理用品、高齢者は薬など、すぐに取り出したいものは人によって異なります。自分がすぐに使いたいものをポケットやリュックの上部など、取り出しやすい位置に入れておきましょう」(しほママさん)
【防災リュックの作り方3】重さを軽減するように詰める

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防災リュックに必要なものを詰めていくと相当な重量になります。そのため、詰め方を工夫して、できるだけ軽く感じるようにすることも大切です。
「リュックに荷物を詰めるときは、基本、下(底)に軽いもの、上に重いものを入れるようにしましょう。加えてリュックの肩ベルトを調整することで、背負ったときに軽く感じます。詰め方とベルトの調整はセットです。これはアウトドアなどの日常でも使える知識なので、知っておくと役立ちますよ」(しほママさん)
加えて、重いものは背中側に、軽いものは外側に、ということも意識して詰めるとよいそうです。
- 下に詰めるとよいもの:毛布、タオル、衣類などの布製品
- 中間に詰めるとよいもの:トイレットペーパー、おしりふきなどの紙類
- 上に詰めるとよいもの:水、軽くてもつぶれる可能性がある食料品など
【実践編】ウチコト編集部が防災リュックを作ってみた!

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しほママさんのアドバイスに基づいて、ウチコト編集部が防災リュック作りに挑戦してみました。
作り始めると、カテゴリごとにアイテムをそろえてジッパーつき袋に入れていくという作業が、予想以上の時間がかかることが判明。品物によってはコンパクトにするためにパッケージから出した方がよい場合もありました。

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防災リュックの中身は緊急時にすぐ使えることも大切なので、機器と電池、ラジオとイヤホンなどをセットにしてパッキングしました。
結果、1人で一度に家族全員分の防災リュックを作ろうとすると、時間も手間も相当かかってしまいました。
しほママさんによると、「家族みんなで一緒に作ったほうが時間短縮になると思います。ラジオなど、大人だけが持つものもあるので、家族で一緒に作ることでお互いに持っているものを共有することができます」とのことです。
詰め方による重量感の違いについて

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実際に重いものを下に入れた場合と、軽いものを下に入れた場合でそれぞれ背負って比較してみたところ、若干の差ではありますが、たしかに軽いものを下に入れたほうが軽く感じました。リュックの肩ベルトの調整をきちんとしていないと効果が薄くなるので、ベルトの調整も忘れずに行うことが大切だとしほママさんは言います。
おむつや紙製品を多くいれる、水をたくさん入れるなど、それぞれのリュックの内容によっては、「重さを感じにくい詰め方」はかなり重要になってきそうなので、詰め方を変えて背負い心地を試してみることも必要だと感じました。
作った防災リュックは必ず体感チェックを!

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一般的に背負えるリュックの重量限度は、男性15㎏、女性10㎏程度といわれます。しかしそれでも重いのでは、としほママさんは言います。
「人によってどのくらいの重さまで背負えるのかは個人差がありますが、女性用の10㎏というのも実際に背負ってみるとかなり重く感じられると思います。私の防災リュックは7㎏ですが、それでもかなりの重さを感じます。どこまで背負えるのかは、実際に背負って確認するのがおすすめです」(しほママさん)
詰めるものを選択し、詰め方に工夫しても、実際に重すぎる防災リュックになってしまっていたら、非常時には負担が大きくなります。リュックが完成したら、必ず背負って歩くなどして重量感を確認しましょう。
負担を軽減する背負い方
かなりの重さになる防災リュックですが、次のことを意識すると背負いやすくなるとしほママさんが教えてくれました。
- 背中とリュックの間にスペースができないようにする
- ショルダーハーネス(チェストベルト)がついている場合はそれで固定する(リュックが肩からズレ落ちることなく安定性が増す)
- 腰よりも高い位置でリュックの底辺が収まるように背負う
【実践編】ウチコト編集部が作ったリュックを背負ってみると・・・

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実際に編集部で作った大人1人分の防災リュックも7kg程度になりました。背負ってみると、しほママさんがおっしゃっていたように、想像以上に重さを感じました。でもなんとか走って最寄りの避難所まで背負っていけそうです。
しかし、体力に自信のない人や避難所まで距離が遠い、途中に坂道などがあったりする場合は、より動きやすさを意識して、目安の10kgよりはかなり軽めに作った方がよさそうであると感じました。
防災リュックはどこに保管しておくのが正解?

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作った防災リュックはどこに保管しておけばよいのでしょうか。持ち出しやすいからと玄関近くに保管する人も多いと思いますが、それは必ずしも正解ではないとしほママさんは言います。
「防災リュックの最適な保管場所は、その人の住居環境によって異なります。防災リュックが複数個ある場合はスペース的な問題もありますが、大切なのは、普段寝ている場所から最も逃げやすいルートはどこなのかをイメージすることです。戸外への避難ルートは玄関だけではありません。庭に面した窓や勝手口など、安全に逃げられそうなルートはどこなのかを確認し、そのルートに沿って、防災リュックのベストな保管場所を考えるとよいですね」(しほママさん)
また、就寝中に被災することを想定して、しほママさんからは以下のアドバイスも。
「熊本地震は夜に起きました。防災リュックを寝室に置かない場合は、寝床近くにヘッドライト、笛、ケータイの充電器、履物(家の中もがれきなどで安心して歩けないこともあるため)を常備しておくと安心です。停電した中での夜の移動は怖いですよ」(しほママさん)
せっかく作った防災リュックが、いざという時に役に立たないと困るので、保管場所には注意したいですね。
おわりに
防災リュックはポイントを押さえて作ることで、必要なものが取り出しやすくなったり、持ち運びがラクになったりして機能性がぐんとアップすることがわかりました。市販の防災リュックにも基本的なものは入っていますが、家族の状況によってさらにカスタマイズしておくとより安心です。家族で話し合いながら防災リュックを作るのも、防災意識を高めるよい機会になりそうですね。