仕上げ磨きはいつ頃まで必要?
子どもが自分で歯磨きができるようになると、親はラクになりますが、子どもだけできちんと磨けているのか心配も。仕上げ磨きは何歳頃まで必要なのでしょうか。
「子どもの仕上げ磨きは、永久歯が生えそろう12歳頃までしてあげたほうがよいでしょう。永久歯が生えそろい、自分で歯磨きをする習慣がついていれば、12歳以下で卒業しても大丈夫です。しかし大きくなるにつれ、歯磨きの習慣よりもほかのことを優先するようになってしまうことがあります。そのため仕上げ磨き卒業後も、『歯磨きした?』という声掛けは続けた方がよいでしょう」(飯田先生)
大人でもしっかり磨けていない人は多くいると飯田先生は言います。お子さんが嫌がったりしても、歯磨きの声掛けは続けた方がいいそうです。
子どもが虫歯になりやすい理由
子どもの歯は虫歯になりやすいといわれますが、大人と何が違うのでしょうか。
飯田先生によると「子どもの乳臼歯は丸いカボチャの形をしているため、歯の根元のくびれ部分が磨きにくい構造をしています。またかみ合わせ部分の歯の溝が迷路のように入り組んでいるので、汚れがつきやすくなっています」とのこと。
ほかにも永久歯への生え変わり期には、乳歯と永久歯の大きさがでこぼこするので、磨き残しが起きやすくなるそうです。そして、生えたばかりの永久歯はエナメル質が弱く、虫歯になりやすいと飯田先生は言います。
「エナメル質は歯の表層の歯質で、汚れを落としてくれるコーティングの役割があります。体の細胞の中で一番硬いので、歯ブラシに対して歯の強度を保ったり、食べ物をかみ砕けるよう歯を保護したりしてくれています。
もともと子どもは細胞が若く修復力も高いので、エナメル質の回復も早いのですが、大人の10分の1ではきかないくらい柔らかくできています。そのため大人用の歯ブラシで磨くと簡単に削れてしまうのです。
エナメル質が削れて歯の表面がザラザラになってしまうとさらに汚れがつきやすくなり、悪循環に。親としては汚れを取りたいと思ってしまいますが、子どものエナメル質を傷つけないよう、磨くときの力加減や歯ブラシの選び方には注意が必要です」(飯田先生)
また、乳歯は、永久歯より歯の内部の神経が表面に近いところにあると飯田先生は言います。そのため大人と同じ大きさの虫歯でも、子どもの方が簡単に神経に到達してしまい虫歯の進行が早いといわれるそうです。
飯田先生のお話から、子どもの歯をしっかり磨くことの必要性がよく分かりました。そのためにも、親は正しい仕上げ磨きの方法を知っておきたいものですね。
仕上げ磨きのコツ
仕上げ磨きをするときに、きちんと磨けているのか自信がない親御さんもいると思います。歯ブラシの選び方や力加減、歯ブラシの持ち方など、仕上げ磨きのポイントを飯田先生に教えていただきました。
歯ブラシの選び方
子ども用の歯ブラシは多く市販されていますが、どのようなことに気をつけて選べばよいのでしょうか。
飯田先生によると、次の項目を満たしているものを選ぶとよいそうです。
- 持ち手が太くまっすぐなもの
- 飲み込み防止の円盤がついているもの(0~2歳向け)
- 毛先が柔らかいもの
- 歯ブラシのネックが柔らかいもの
「子どもが小さいうちは、歯ブラシをくわえたまま走り回るなど、危険な行動をする場合があるので、まず安全面に配慮する必要があります。飲み込み防止の円盤がついているものや、グニャグニャ曲がる歯ブラシであれば、万が一転倒したときにもけがを防げます。
また毛先が柔らかな歯ブラシを使うことで子どもの歯のエナメル質を不必要に削らないようにします。子どもの歯茎は弱いので、傷つけないためにも柔らかい毛先を選ぶとよいでしょう」(飯田先生)
飯田先生おすすめの子ども用歯ブラシを教えていただきました。
「市販されている子ども用歯ブラシは、最低限の基準をクリアしたものではありますが、質はさまざま。中でもライオンの【DENT.EX systema genki j(デントイーエックスシステマ ゲンキ ジェイ)】、【クリニカKid’sハブラシ】はおすすめです。毛先が細かく柔らかい、丈夫で持ちがよいという特徴があります。またグリップが太めで持ちやすく、子どものことを考えて作られています」(飯田先生)
歯磨きは幼少期から習慣化できると、大人になっても無理なく続くと飯田先生は言います。歯磨きを習慣にするために、歯ブラシは、キャラクターがついたものなど、子どものモチベーションが上がるデザインを重視して選んでもOKとのこと。とにかく毎日続けられることが大切なのですね。
歯ブラシの交換目安
歯ブラシは使い続けていると、だんだんと毛先が飛び出て、開いてきてしまいます。しかしどのタイミングでとり替えるのかは迷うところです。
「歯ブラシの交換目安は、大人も子どもも1カ月です。歯ブラシの背中から見て毛先が1~2本でも飛び出ていたら交換の目安。毛先が開いた歯ブラシは新品のものに比べ、汚れ落とし率が2~3割低減してしまいます。特にかみ癖のあるお子さんは毛先がつぶれやすいので、1カ月を待たずに交換するとよいでしょう」(飯田先生)
歯ブラシの持ち方
歯ブラシの持ち方には、鉛筆と同じ持ち方の「ペングリップ」と、手のひらで握る「バームグリップ」があります。
「子どもが自分で磨くには、ペングリップは力加減が難しいと言えます。指先の細かな操作を獲得できるようになるのは小学校高学年くらいなので、子どもが小さいうちは、しっかり握ってしっかり磨けるバームグリップでOKです。
歯ブラシを手のひらで握ると力が入りやすいので、毛先が柔らかめのものを選んでください。子どもによっては大人のまねをしてペングリップで磨く子もいますが、小さいうちは力が弱すぎてうまく磨けないので注意が必要です」(飯田先生)
仕上げ磨きの力加減
仕上げ磨きをするときの力加減として、「皮膚の柔らかい場所を擦っても痛くない程度」という目安がありますが、いざ仕上げ磨きをしていると、親も力加減を意識し忘れてしまうことがあります。
「生えかけの永久歯は歯茎と位置が近いので、強く磨こうとすると歯茎まで傷めてしまいます。力が入りすぎてしまうと子どもは歯茎が痛くなり、歯磨き自体が嫌いになってしまうことも。親も一生懸命になりすぎず、とにかく力任せにやらない、強く磨き過ぎないよう気をつけましょう。ある程度圧をかけても歯茎を傷めないためにも、柔らかめの歯ブラシを推奨しています」(飯田先生)
歯磨きを嫌がる子どもには、親の仕上げ磨きもつい力が入ってしまうことがあるかもしれません。仕上げ磨きをするときは、とにかく強くなりすぎないよう意識することが大切だそうです。
仕上げ磨きの方法
飯田先生によると、磨き方は次のようなポイントを意識するとよいそうです。
- 歯の表面に毛先を直角に当てて磨く(特に歯と歯茎の間はしっかり当てる)
- 横向きに磨くときは歯ブラシを横に、縦向きに磨くときは縦にして小刻みに動かす
「小刻みに磨く回数は、10回できたら理想的です。そこまでしっかりできなくても、汚れをかきだして磨くことを意識するといいですね」(飯田先生)
また磨きにくい箇所について飯田先生は次のようにアドバイスします。
「磨きにくい箇所は人によって異なります。子どもは自分でどこが磨き残ししやすいのか分からないので、磨き残ししやすい箇所を絵や箇条書きにして見えるところに貼っておくと効果的です。目で見る絵やイメージは習慣化しやすく、親子で確認しながら磨くと自然と子どもも覚えるでしょう。
また、舌は意思では制御できない動きをすることがあり、無意識に歯ブラシを排除しようとするときがあります。そのため歯の外側のほっぺた側は磨きやすいのですが、舌側はかきだして磨くのは難しいので、小刻みに磨くとよいでしょう」(飯田先生)
ほかにも、前歯の裏側の磨きにくい箇所については、「大人の場合、前歯のアーチが狭い方が多いので縦に歯ブラシの毛先で磨くのが普通ですが、子どもの歯ブラシは小さいので前歯の裏も横磨きで磨いてOKです」と、飯田先生は言います。
タフトブラシやフロスも併用する場合
タフトブラシやフロスは併用したほうがよいのでしょうか。使う頻度や使い方などを先生に教えていただきました。
「タフトブラシは、奥歯の一番奥(のど側)を磨いてあげるときに使用します。奥歯の奥は意外と汚れがつきやすい箇所。歯ブラシの毛先でも届きますが、歯ブラシが入りにくい箇所であり、歯ブラシだとオエっとなってしまう子のために併用するとよいでしょう。汚れにピンポイントに届くので、歯ブラシの補助的なものとして使用します」(飯田先生)
またフロスについて、飯田先生は次のように説明します。
「昔の子どもは乳歯が生えそろっても歯と歯の間に隙間があいていてフロスが不要でしたが、現代の子どもは小顔であごが小さい子が多く、歯と歯がくっついてしまっているので使った方がよいです。
また、先ほど乳歯はかぼちゃのような形と言いましたが、歯と歯の間は歯ブラシが入りにくく汚れが取り除きにくい構造をしています。そのため乳歯の中でどこか1カ所でもくっついているところがあれば、仕上げ磨きが必要な乳歯の頃からフロスは毎日、歯磨きとセットでやってほしいです」(飯田先生)
さらに、フロスの種類についても教えていただきました。
「持ち手付きフロスの形は、平らなものよりもカーブしている形の方がよいでしょう。カーブしているタイプは奥まで入れやすいのでおすすめです。平らなタイプの方がやりやすければそれでよいですが、奥までいれるとオエっとなりやすいのでサイズは小さいものを選んでください。使いやすいものであれば継続しやすいので、毎日続けられるものを選ぶことが大切です」(飯田先生)
一人磨きへのステップ
子どもが自分できちんと一人磨きができるようになるには、どのようなステップでフォローしていけばよいのでしょうか。
「6~9歳くらいになると、乳歯の奥歯の後ろに新しい永久歯、6歳臼歯が生えてきます。6歳臼歯は一生使う歯なので、しっかり生え終わったなというところまでは、親がしっかり磨いてあげたほうがよいでしょう」(飯田先生)
そのため9歳ごろまでは、親がしっかりと仕上げ磨きをしてあげる必要があるそうです。6歳臼歯が生え終わった9~12歳くらいになると、基本的に子どもが自分で磨き、親は子どもひとりでは磨きにくい部分を中心に、必要に応じて仕上げ磨きをしてあげるとよいそうです。
そして、仕上げ磨きをしなくてよい年齢になっても、「歯磨きした?」の声掛けは継続することが大切だと飯田先生。お子さんが一人磨きをきちんとできているか、ある程度の年齢までは意識してあげると良いですね。
仕上げ磨きのQ&A
子どもが0~2歳くらいの時期は、言い聞かせてもじっとしてくれず歯を磨かせてくれない、泣いて嫌がる、大きくなると自分ひとりでやりたがるなど、仕上げ磨きについての悩みは尽きません。仕上げ磨きで困ったときの対処法や疑問に、飯田先生に答えていただきました。
Q.子どもが嫌がる場合にはどうすればいい?
A.「子どもの歯磨きは、毎日何が何でもやらなくてはいけない訳ではありません。食べ残しがあるからすぐに虫歯になるのではなく、唾液の量がどのくらいなのか、口の中の糖分はどれくらいなのか、歯の形はどうなのかなど、複数の要因が組み合わさって虫歯になります。
夜寝る前は、歯ブラシを軽くしてもらうのが理想ですが、しっかり磨くのは週に1〜2回でもよいでしょう。無理やり押さえつけて磨くのは、お互いつらいものです。できる範囲でよい、と気楽にかまえましょう」(飯田先生)
子どもが歯磨きを嫌がるときの対策について、飯田先生は以下のようにアドバイスしてくれました。
「歯磨きを嫌がる子どもには、彼らなりの理由があります。子どもにとっては、『いま』だからやりたくないということも。5分後など時間を置いて再度歯磨きを誘うと、『いいよ』とあっさり磨かせてくれることがあります。
もし子どもが嫌がるようでしたら、気持ちと場所を切り替えた少しあとに、再度声を掛けてみてください。また歯ブラシを嫌がるようであれば、ガーゼなどで拭くだけでもOKです」(飯田先生)
また、以下のような対策もあるとのことです。
- 甘い味や香りのついた子ども用の歯磨き粉を使う
- 好きな歯ブラシを子どもに選ばせ、歯磨きのモチベーションを上げさせる
- 歯磨き後のごほうびをつくる
- なぜ磨く必要があるのかについて書かれた絵本などを読み聞かせる
- 子どもにぬいぐるみに歯磨きをさせるなど、疑似体験させる
飯田先生自身も、小学生のお子さんを子育て中のママなので、ご自身の経験談も教えてくださいました。
「わが家ではよく、歯磨きの時間に即興でお話を作って聞かせています。子どもは聞くだけでよく、視覚・聴覚を使わせることでじっとしていてくれます。また歯磨きの時間だけタブレットを見せるなど、メリハリを持たせて特別な時間にするのもいいでしょう。あとは、歯磨き中でも子どもが返事できるような、イエス・ノーで応えられる問いかけをすると、親子のコミュニケーションの時間になります」(飯田先生)
子どもが歯磨きを嫌がるときの対応は、家庭や子どもによって千差万別です。子どもの反応を見ながら、その子にあった方法を探してみてくださいね。
Q.子どもが自分だけで磨きたがる場合はどう対応する?
子どもが小学校中学年くらいになると、寝転んで仕上げ磨きをしてもらうことを子どもっぽく感じて、嫌がる子も出てきます。どのように対応すればよいのでしょうか。
「女の子は精神的な自立が早く、小学校3~4年生くらいになると仕上げ磨きを嫌がるケースがでてきます。そんなときは薬局などで売っている染め出し(汚れ部分を着色できるもの)を使わせると効果的です」と飯田先生。
「本人はしっかり磨けていると思っていても、染め出すことで客観的に磨けていないことを自覚でき、磨き残し箇所をチェックすることができます。また、自分でできると思っている子には、声掛けの仕方にも工夫が必要です。『できていると思うけど』とできていることを前提に、『大人でも磨き残しがあるのだよ。ちょっとやってみて』というように声掛けをすると、スムーズに聞いてくれる傾向にあります。
子どもが何かをやりながら片手間に歯ブラシを使っている場合も、『磨けていると思うけど、最後に鏡でチェックしようね』などと声掛けするとよいと思います」(飯田先生)
頭ごなしに「ちゃんと磨きなさい」と指摘することは、子どもの反発を生み逆効果なのだそう。子どもの年齢によって対応に気をつける必要があるのですね。
Q.キシリトールは仕上げ磨き後がよい?
子どもの歯のためにキシリトールは使ったほうがよいのか、また使うのは仕上げ磨き後がよいのか気になっている方も多いのではないでしょうか。
「キシリトールは必須ではありませんが、使うのであれば歯ブラシで汚れをしっかり落としてから使いましょう。また、キシリトールを含む歯磨き粉の場合、泡立つタイプはおすすめしていません。泡立つタイプは磨いた気になってしまい、磨き残しが発生しやすくなるからです。ジェルタイプなど、発泡剤が入っていない、もしくは少ないものを選びましょう」(飯田先生)
おわりに
親としては「虫歯になると困るから毎日しっかり磨いてあげなくては」と仕上げ磨きに一生懸命になりがちです。しかし飯田先生によると、大人も子どももストレスにならない程度に、ゆるくざっくりと続けることが大切なのだそう。「親が子どもに仕上げ磨きをしてあげる期間は長いようで短いもの。その時間を大切にしてもらえたらなと思います」と飯田先生。子どもとのコミュニケーションの時間として、仕上げ磨きを親子で楽しめるといいですね。