生活リズムの根幹になるのは「正しい睡眠」
「子どもがなかなか寝ない」「毎朝きちんと起きられない」など、生活リズムの乱れが気になっていませんか。叱ってもなかなか効果がでずに困っている方も多いのではないでしょうか。
子どもの生活リズムを整えるためには、まずは生活リズムが乱れる原因を知ることが大切です。
生活リズムをつかさどる大きな要因は「睡眠」です。正しく睡眠がとれていないと生活リズムが乱れてしまいます。
例えば、子どもが朝になっても起きられない理由はシンプルで、睡眠が不足しているから。睡眠不足で起きられないのなら大人と同じ感覚と思いがちですが、実は大人と子どもでは「正しい睡眠」が異なります。
子どもにとっての正しい睡眠とは
子どもにとっての正しい睡眠とは、「年齢に合わせた十分な睡眠時間をとる」「太陽が沈んでいる間は眠る」ということ。このふたつが習慣として身についていれば、正しく睡眠がとれていると考えます。
睡眠時間については、子どもの理想的な睡眠時間は年齢ごとに決まっています。例えば小学生の理想の睡眠時間は概ね10時間です。ところが、日本の小学生の平均睡眠時間は8時間15分という調査結果も報告されています。
小学生の多くは、理想の睡眠時間よりも2時間も短い時間しか寝ていないのです。
このことも頭において、子どもの生活リズムを整えるための方法を考えていきましょう。
出典:日本小児保健協会2011「幼児健康度に関する継続的比較研究」特例社団法人 日本小児保健協会 衛藤 隆
睡眠をとることの重要性
大人が子どもに正しい睡眠をとらせるためには、まずは睡眠をとることの重要性を知ることが大切です。理解しておきたい睡眠のメカニズムについて解説します。
睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類があります。ノンレム睡眠とは、脳の深い部分が休んでいる状態のこと。正常な睡眠では入眠態勢に入ってから30分ほどでノンレム睡眠が始まります。ノンレム睡眠のあとに現れるのがレム睡眠で、このレム睡眠は目覚めてはいないものの脳活動は覚醒に近く、起きている時と同じような脳波を示し活発に活動しています。このノンレム睡眠とレム睡眠を4~5回繰り返す睡眠時間が十分な睡眠時間です。
ノンレム睡眠中は、脳と体の疲労の回復が行われ、成長ホルモンが大量に分泌されています。成長ホルモンは骨や筋肉をつくり身長を伸ばします。また免疫力を高めケガや病気に強い体をつくります。
レム睡眠中は、脳が盛んに機能することで記憶の整理と固定が行われます。その日に学んだ知識や経験が整理され脳に記憶されていきます。
また、睡眠には、疲労を回復させる大切な役割があります。疲労の蓄積は、種々の病気の原因となるので注意が必要です。
さらに重要なのが、脳の機能を高めてくれること。特に危険に対して適切に判断する能力は、毎日十分な睡眠をとることで維持されます。人が生きていくためには脳と体の休息が必要で、そのためには十分な睡眠が必要不可欠です。
子どもの生活リズムの整え方【睡眠習慣をつける】
子どもに正しい睡眠の習慣をつけ、十分な睡眠時間をとらせるのは親の役目です。睡眠についての正しい知識を持った上で、以下を実践していきましょう。
まずは親がしっかりと睡眠をとる
睡眠不足の子どもがいる家庭は、親が睡眠不足というケースが多いのだそう。子どもの生活リズムの乱れを整えるには、親も早寝早起きの習慣をつけましょう。
仕事や家事が忙しくて「早く寝るなんて無理」と思いがちですが、睡眠不足が続くと心身に不調が起きやすくなります。十分な睡眠を確保することが家事や仕事の効率を上げることにもつながります。
太陽の光をしっかりと浴びさせる
現代の子どもたちは、ゲームやスマホばかりで運動不足の傾向が見られます。体を動かさないと自立神経の働きを鈍らせてしまうので、天気がよい日には外に出て日光に当たるようにしましょう。
体を動かすのは、子どもに合った方法で大丈夫。例えば、自転車に乗る、追いかけっこをする、公園で遊ぶ、散歩もよいでしょう。一日最低でも30分、日光を浴びながら体を動かせば夜もぐっすり寝られるはずです。
入浴を効果的に取り入れる
生活リズムを整えるためには入浴も効果的です。夜の入浴は、寝つきをよくするためや消化のためにも夕食前がベストです。時間のない夜はシャワーにして、睡眠時間を優先してください。
成田先生によると、寝起きが悪いお子さんと親が朝一緒にお風呂に入ってみたところ、機嫌が回復したというケースもあるとのこと。朝の入浴は、目覚めも良くなるのでおすすめです。
乳幼児のお昼寝は15時までに終わらせる
幼児の場合、お昼寝の習慣が夜の睡眠に悪影響を与えている可能性があるので注意が必要です。お昼寝の目安は、1歳頃は午前と午後に1回ずつ、1時間程度の昼寝が一般的。2歳頃になると午後に1回、1時間半程度の昼寝で十分になり、3歳~4歳には昼寝の必要はなくなります。
その理由は、4歳頃には朝になったら活動をして、夜になったら眠るという体内リズムを完成させるためです。とはいえ、保育園に通う子どもはお昼寝タイムがあるケースがほとんど。可能であれば、「お昼寝が長いと夜に眠れなくなってしまう」という事情を説明し、保育園には午後3時台には起こすように昼寝を短縮してもらえないか交渉してみましょう。
乳幼児の寝かしつけのポイント
寝かしつけが必要な乳幼児の場合、なかなか寝てくれないとイライラしてしまうという親は多いでしょう。
子どもの効果的な寝かしつけの方法は、まず親自身がリラックスすることです。
まだ自分で自分の身を守れない5歳くらいまでの子どもは、親が作ってくれる落ち着いた環境のもとで「ここは安心安全な場所だ」という確信を持ってはじめて安心して眠れます。親がイライラした状態では、子どもはいくら抱きしめられていても、寝つくことはできません。まずは親自身が、落ち着いた状態になれるような環境を整えましょう。
子どもを朝すっきり「起こす」コツ
夜更かししがちな子どもの生活リズムを整える方法は、決まった時間に起こすことから始めましょう。
幼稚園や保育園、小学校に通う子どもの場合、家を出る1時間半~2時間前に起床することが理想です。朝、子どもが自分から起きなくても、時間になったら「何がなんでも起こす」を目指してください。
まずはカーテンを開けて部屋を明るくし、朝日を浴びさせます。その時に、窓なども開けて外の空気も感じさせましょう。決まった時間に太陽の光を浴びさせることで、体内時計の機能が強化されます。
なかなか起きない時には、子どもの好きな音楽をかけたりビデオを流すなどもおすすめです。
その後は、ベランダや庭で簡単な体操をする、家の周りを散歩するなどで身体を動かすことができればなおよいでしょう。
子どもを決まった時間に「寝かせる」コツ
子どもの生活リズムを整える方法は、決まった時間に寝かせることも大切です。
例えば夜の9時に寝ると決めたら、その時間には布団に入れるような準備をしましょう。できれば寝る時は部屋を真っ暗にすると理想的ですが、暗闇を怖がる子どもの場合は豆電球などをつけても構いません。子どもがぐっすり寝てから、消灯してください。
なお、寝る1時間前からは、テレビやスマホを見せないようにしてください。テレビやスマホなどの強い光は寝つきを悪くします。夜寝る前は、読書やボードゲームなどで静かに過ごすのがおすすめです。
とはいえ、なかなか寝ない子どもを寝かせるのは至難の業でしょう。無理やり布団に入れても寝つかず、こっそりゲームをしているというようなこともあるかもしれません。
そのような場合は、「寝かせる」よりも「起こす」ことを重視するのがポイントです。朝早くに起こすようにして、夜自然に眠くなる生活リズムをつくるようにしてみましょう。
子どもの生活リズムの整え方【朝食と夕食を工夫する】
生活リズムを整えるためには食事も重要です。朝食は日中の活動に備えて体と脳にエネルギーをチャージすることを考えた内容に。夕食は早めに寝ることをふまえて軽めに済ませるようにすれば、翌朝は自然とお腹が空いてしっかり食べることができるでしょう。
朝食前には白湯、朝食にはみそ汁がおすすめ
朝起きてから最初に子どもに飲ませる飲み物は白湯(さゆ)がおすすめです。白湯は内臓が温まり、血流がアップするなどの効果が期待できるので、朝食を待つ間に白湯を飲む習慣ができると理想的です。小さい子どもには、はちみつや黒砂糖で少し甘みを足してあげるとよいでしょう。
朝は食が進まない子どももいます。食欲がなくても、まずは味噌汁を1杯でも飲ませるとよいでしょう。味噌汁は、たんぱく質、ビタミン、ミネラルなど10種類以上の必須アミノ酸が含まれていて、必要な栄養素が1品でとれるメニューです。また、味噌は発酵食品なので、腸の中の善玉菌が増えて腸内環境も整います。このほか納豆やヨーグルトなどの発酵食品も積極的に取り入れましょう。
夕食は消化のよい軽めのメニューにする
子どもを夜8時から9時までの間に寝かせようとすると、夕食から寝るまで1~2時間しかない場合も多いでしょう。そのため、夕食は胃腸に負担がかからない軽めのメニューにします。例えば、鶏と野菜のあっさりしたスープにそうめんを入れたものや、雑炊を少量だけ食べるなどのメニューも取り入れることをおすすめします。
また、子どもはお腹が空くと、自分の好きなものから食べる傾向があります。そこで夕食は、野菜料理や納豆など「食べさせたいもの」から食卓へ出すようにしてみましょう。「それを食べたら次のおかずね」と声かけするのもよいですね。また、消化効率を上げるためによくかんで食べることも大切なので、一口につき最低でも10回はかむように促してください。
寝る前に飲むならホットミルクがおすすめ
寝る前に何か飲みたがるようなら、ホットミルクにはちみつや砂糖を入れたものや、すりおろしたしょうがの入ったノンカフェインのハーブティーなどがおすすめです。
カフェインなど刺激の多い飲み物は避けてください。カフェインの影響は、摂取してから6~8時間続くので寝つきが悪くなってしまいます。
小学生の生活リズムを立て直すためのヒント
幼稚園や保育園に通っていた頃は生活リズムが整っていた子どもが、小学生になると乱れてしまう場合があります。それは勉強が始まり宿題などで時間を取られ、寝る時間が遅くなることが原因です。
低学年なら週末や長期休暇を利用して調整する
小学校低学年の生活リズムを立て直す方法は、週末を利用して調整するところから始めます。家族で早起きをして、朝から楽しく遊びましょう。外出を含め楽しいことをできるだけ午前中にまとめて、午後からはゆっくりと過ごし、早めに寝る支度を整えます。家族全員で、早寝早起きを心掛けることがポイントです。
さらに長期休暇は、生活リズムを立て直すチャンスです。特に夏休みは早寝早起きがしやすく、朝から活動が活発に行える時期なので、生活習慣もより整えやすいでしょう。日中遊び疲れてしまったら、30分から1時間程度のお昼寝は大丈夫ですが午後3時までには起こしましょう。
高学年は子どもの自覚を促すことが必要
小学校高学年でも8~9時間の睡眠が必要です。しかしこの年齢になると自我が芽生え、親のいいつけを守らずゲームなどに夢中になって生活リズムが乱れることも多いでしょう。それを立て直すためには、子ども自身に睡眠不足の悪影響を自覚させることが必要です。
「決まった時間に夕食を食べて決まった時間に寝る」この2点を守らせます。そして決まった時間、例えば夜9時に寝られるような生活をするためにはどうすればよいかを、子ども自身に考えさせます。
子どもにルールを考えさせる時のコツは、たくさんの約束事を作っても守れないので、シンプルに1~2個までにすることです。例えば、ゲームは夜8時には終わらせるなど。とはいえ、なかなかうまくいかないかもしれません。そんな時は、親が睡眠はなぜ大事なのかその理由をきちんと伝えていくことが必要です。
生活リズムは脳の発達にも影響あり
親なら誰もが気になる子どもの脳の発達ですが、ここにも生活リズムが関係します。生まれてから約18年かけて発達していく脳の働きにポイントをあてて説明します。
0歳から5歳に盛んに育つのが「起きる」「寝る」「食べる」「体を動かす」といったことをつかさどる「からだの脳」(脳幹・間脳・小脳)です。「からだの脳」は、子どもの五感(味覚・触覚・嗅覚・視覚・聴覚)を刺激することで育ちます。その中でも、太陽の光の刺激によって睡眠~覚醒のリズムが作られるので、太陽の光を浴びながら活動することは重要なことなのです。
1歳から18歳くらいまでにかけて発達するのは「おりこうさん脳」(大脳新皮質)といわれる部分で、「言葉を獲得する」「細かい体の動きを発達させる」「知識をため込む」などの仕事をする脳です。日中学習して、夜はしっかりと寝るという生活リズムによって学んだことが脳に定着していきます。
また、「からだの脳」「おりこうさん脳」が完成していくにつれて、10歳以降には感情のコントロールをしたり、思考、判断が育つ「こころの脳」(主に前頭葉)が発達していきます。
「からだの脳」「おりこうさん脳」「こころの脳」をきちんと育てるためには、正しい睡眠に基づく早寝早起きという生活リズムを、大人が整えていくことが重要です。
おわりに
子どもにとって正しい生活リズムがなぜ必要なのか、またそれを実現するための方法について紹介しました。ポイントは早寝早起きと朝ごはんをしっかり食べること。まずは親が積極的に子どもに働きかけながら、規則正しい生活リズムを目指していきたいですね。
参考:成田奈緒子、上岡勇二「子どもが幸せになる「正しい睡眠」」(産業編集センター)
参考:成田奈緒子、石原新菜「子どもにいいこと大全」(主婦の友社)