介護費用は平均的にどれくらいかかる?
日本には介護保険制度がありますが、介護保険サービスを利用する際は、金額の一部を自己負担する必要があります。また通院時の交通費やおむつ代など、介護保険の対象にならないお金もかかります。家族に介護が必要になった場合、一体いくらのお金がかかるのでしょうか。
生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる費用は月々の費用が平均8.3万円です。これは介護する場所によっても大きく異なり、在宅介護では平均4.8万円、施設介護では平均12.2万円となっています。
また月々の費用とは別に、自費購入の介護ベッドなどで一時的にかかる初期費用の合計は平均74万円。また介護期間は平均5年1カ月となっています※。
※出典:公益財団法人 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査2021(令和3)年度」
人それぞれの介護費用。どう見積もればいい?
介護・福祉ライターで現在もご自身の親をサポートしている浅井郁子さんによると、『介護にかかる費用はケースバイケース』だと言います。
浅井さん「一般的には、介護にかかる費用は平均的に月7〜8万円で介護期間が4〜5年と言われています。この試算にもとづけば総額500万円くらいですが、実態を見ていると人によって本当にさまざまだと感じます。介護が始まってから一気に悪化して短期間でお亡くなりになる方もいれば、要支援の頃から介護を続けて20年という方も。また自宅介護か施設介護かによっても、かかる費用が大きく異なります」
平均額を見るよりは、ご自身やご家族の場合にどうなるかを具体的に試算してみることが大事だと浅井さん。以下の条件で介護費用がどれくらいかかるかで大きく変動するそうです。
- 介護される人の状態を見て、どの程度の介護が必要か(要介護度はいくつか)
- 介護される人にどの程度の医療が必要か(医療費にどれくらいかかるか)
- 家族に介護力があるか(すべて介護保険サービスに頼らざるを得ないか)
- 住環境が介護に適しているか(リフォームが必要か)
- 自宅介護と施設介護のどちらを選ぶか
- 介護が必要な期間がどれくらいになりそうか(要介護者の年齢)
【介護費用を抑えるコツ1】良いケアマネージャーと繋がること
介護保険サービスの自己負担額は、介護を受ける人の所得によって1割〜3割と定められていて、月額の利用額には上限があります。例えば、自宅介護の1割負担の場合、1カ月あたりの支給限度額は、要介護度によって約5千円(要支援1)~3万6千円(要介護5)です(2023年現在※)。
浅井さんは、「大切なのは、なるべく支給限度額中で介護保険サービスを上手く利用することです。そのためには、良いケアマネージャーと繋がることが第一です」と強調します。
「ケアマネージャーさんの大事な仕事は、利用者の状態に応じて介護保険サービスを組み合わせて、自己負担額の中で収まるよう計算すること。従って、介護が始まる当初からケアマネジャーに相談し、介護のプロを入れることで、費用を抑える工夫をしてくれ、無理なく続けられるプランになります」と浅井さん。
介護生活が長く続くと、親も家族も年をとっていきます。親が90歳、100歳まで生きていられることを想定して、継続可能なプランを立てるのが大切なのだそうです。
介護保険サービスは点数をカウントしていくシステムですが、素人が計算して自己負担額以内で抑えるのは至難の技だと浅井さん。サービスごとに点数が異なり、事業所ごとの加算点がある場合も。自己負担額を超えて利用すると、超えた分が全額自己負担になってしまいます。例えば、訪問リハビリを月に4回で予定しているのに、月によって5回になってしまい、自己負担限度額を超えてしまうことも起こり得ます。
ケアマネージャーに確認して毎月の点数をきちんと把握し、どれくらいの余裕があるのかを常に知るようにしましょう。
※出典:厚生労働省「介護サービス情報公表システム>介護保険の解説サービスにかかる利用料」居宅サービスの場合
良いケアマネージャーの選び方
ケアマネージャーを選ぶ際には、「本人の状況をこまめに見てくれて家族と密に連携を取ってくれる人」が良いと浅井さん。ケアマネージャーが本人の状態や家庭の状況を分かっていなかったり、家族と密に連携してくれなかったりすると無駄な介護保険サービスを利用し、費用がかさむケースがあると言います。
介護される側は費用について不安な気持ちになりやすく、それでも必要と言われればつい頼んでしまいがちです。本人とともにケアマネージャーと家族が一緒に相談しながら必要性を見極めることが大切なのだそう。
特に離れて暮らす家族が介護する場合には、ケアマネージャー選びが鍵になります。では、自分に合ったケアマネージャーはどのように選べば良いのでしょうか。
浅井さん「介護保険サービスを利用するには、まずお住まいの自治体で要介護認定の申請をします。調査員による訪問調査を経て認定通知書が届きます。要支援の場合は原則として地域包括支援センターがケアマネジャーになりますが、要介護の場合はケアマネジャーが所属する『居宅介護支援事業者』の中から自分たちで選ぶことになります」
ケアマネージャーを選んだら、一緒に介護プランを立てていくことになります。ケアマネジャーは自宅からの近さなど安易な理由で決めてしまわずに、実際に話を聞いたり、口コミ情報を元に選ぶと良いと浅井さん。
浅井さん「地域包括支援センターには介護事業所のリストがあります。公平性の観点からおすすめの介護事業所を具体的に教えてもらうことはできませんが、医療系に強いなどどんな特徴があるのかを聞くことはできます」
介護保険サービスやケアマネジャーとの相性は実際に利用してみないと分からないもの。ケアマネージャーが合わない場合、後から変更することもできるそうです。
【介護費用を抑えるコツ2】初期費用を上手く節約する
自宅での介護が始まると、車椅子や介護ベッドなどの介護用品や、手すりや段差解消のリフォームが必要になることがあります。こうした介護に必要な用品やリフォームの一部は介護度に応じて、介護保険サービスを利用できると浅井さん。
浅井さん「介護に関わる用品や設備は高額になりがちです。通販などで買ってしまわず、使える介護保険サービスがないかをケアマネジャーに必ず相談してください。要介護も要支援もつかない場合でも、社会福祉協議会や自治体に相談してみると、車いすなどは一定期間、無料でレンタルさせてくれることがあります。また、行政サービスにはリフォームの助成があります」
施設介護は高いからと自宅で介護するケースもありますが、家が古く段差が多いとリフォームにお金がかかり過ぎて、結果的に施設介護の方が安く済むことも。まずはケアマネジャーや行政の窓口で相談するのがよいようです。
【介護費用を抑えるコツ3】家族が状況の変化を見過ごさない
若い人なら怪我や入院を経験しても、治り次第、また普段の生活に戻れますが、高齢者の場合、筋力の衰えからリハビリテーションが上手くいかないケースがあるそうです。そうすると、精神面に影響が出て体調が大きく変化することもあります。退院後しばらくの間は、リハビリが必要だったり、入浴や家事ができなくなったりします。このように短期的な介護が必要になる場合も介護認定の申請をしておいたほうがよいそうです。
生活の中で日々いろいろと支障が出てくる中で、何にどれくらいかかっているか確認しながら、予算の中でどの介護保険サービスを利用するかを決めていく必要があります。
浅井さんは、こうした管理は本人だけでなく家族が協力した方が良いと勧めます。
浅井さん「介護は本人の状態の変化に伴い必要なサービスや支援が変わっていきます。介護される本人の状況を見つつ、予算内でどんなサービスを利用するかをその都度決めていくには、家族の視点があったほうがいい。ケアマネージャーと連携しながら柔軟な姿勢で臨みましょう」
介護する側とされる側との信頼関係も欠かせないと浅井さん。例えば、子どもが親を介護している場合、親子の信頼関係があれば、困った時に親が本気で頼ってくれて、早めのSOSをキャッチできます。
「親子で密なコミュニケーションを取り、子どもの方で親のこだわりや人間関係、楽しみや趣味を把握していくことが大切です。親にとって一番怖いのは、子どもが急に乗り込んできて、急に生活を変更されること。子が自分のことを尊重してくれると理解し、信頼関係があれば、親の方も生活を長く維持するために努力し、生き続けたいという気持ちを持ってくれます。それが家族をも楽にしてくれるんです」
介護は始まったら止まれないからこそ楽しみも大切だと浅井さん。介護される親と介護する家族が、介護以外の部分においては、お互いにできるだけ普段通りの生活を続けられるために、介護が始まる前から親子の良い関係を築いていけると良いですね。
介護費用の準備の仕方
終わりの見えない介護。数カ月で終わってしまうこともあれば、数十年続く場合もあります。どのようにお金を工面していけば良いのでしょうか。
「まずは親の収入と預貯金をざっくりと把握することが大切」だと浅井さん。お金が足りなければ、家族間で金銭的な支援をするか、もしくは親の財産の一部を処分するかなどの対策を講じなければなりません。
施設介護、自宅介護のどちらであっても、親が90歳、100歳まで生きた場合を想定して試算しておいた方が良いそう。特に施設に入居した場合は資金不足で途中で施設を出なくてはならないことになったら大変なので、予算をきちんと計算しておく必要があります」
浅井さんによると、早めに準備できる場合には、民間の介護保険も有力な選択肢の一つだと言います。民間の介護保険は公的な要介護度等の条件と連動していて、介護度に応じて保険金が支払われる仕組みです。最近の商品には、掛け捨てではなく、年金として受け取れたり、介護状態にならずに亡くなった場合には、払い込んだ保険料の一部や全額が支払われたりするものもあると言います。
おわりに
親の介護で子どもが経済的に支援せざるを得なくなるケースも少なくないと浅井さん。親子で共倒れにならないように、早めに親のお金事情を把握し、現実的な介護プランを立てていくことが大切です。