前回のおさらい
近年、刺繍が根強い人気です。かわいい図案が載った本が多数出版され、材料がすべてそろった刺繍キットも多く販売されています。刺繍は針と糸さえあればでき、狭いスペースでも完結する手軽さも人気の理由です。独自のモチーフが人気の刺繍家、「クロヤギシロヤギ」の千葉美波子さんに、1回目では刺繍の道具や糸など、始める前に知っておきたい刺繍の基本的なこと、2回目では英字プリントのエコバッグにフリーハンドで描く花とネコの刺繍、3回目ではオリジナルアルファベット図案を使ったハンカチへのワンポイント刺繍、4回目ではアルファベット刺繍のマットの作り方を教わりました。
刺繍があると暮らしがもっと楽しくなる~Vol.1 刺繍の魅力
刺繍があると暮らしがもっと楽しくなる~Vol.2 市販のエコバッグを刺繍でアレンジ
刺繍があると暮らしがもっと楽しくなる~Vol.3 アルファベット刺繍のハンカチ
刺繍があると暮らしがもっと楽しくなる~Vol.4 アルファベット刺繍のマット
今回は最終回、前回の応用編です。千葉さん描き下ろしの「ウチコト」オリジナルのアルファベットの刺繍図案を使い、刺繍のピンクッションを作ります。
アルファベット刺繍のピンクッションを作ってみよう!
今回は布にアルファベットの刺繍をして、それをピンクッションに仕立てます。「N:ボタンをつける」を例に刺繍の手順、仕立て方を紹介します。今回も使用しているステッチは、イラストと動画でもご覧いただけますので、そちらも参考になさってください。
今回のポイントを千葉さんに伺いました。
千葉さん「前回のマットから少しステップアップ。今回は刺繍した布でピンクッションを作ります。とはいえ、途中で綿を詰める工程が入るだけなので、仕立てる手順はほぼ同じです。でも綿を詰めるだけで立体になるので、ピンクッション、オーナメントなどアイテムの幅がグンと広がります」
では、早速作っていきましょう。千葉さん描き下ろしの「ウチコト」オリジナルアルファベット図案はこちらからダウンロードしていただけます。
刺繍ピンクッションの作り方1
少し大きめに粗裁ちした布の表側を上にして置き、その上に図案を重ねてまち針でとめます。布と図案の間に、手芸用複写紙のインク面を布側にして挟みます。透明のビニールを重ね、その上から鉄筆で図案をなぞります。
千葉さん「写した図案が薄い場合は、チャコペンで線を上からなぞって描き足してください」
刺繍ピンクッションの作り方2
布を刺繍枠にはめます(写真では8㎝の刺繍枠を使用しています)。図案は刺繍枠の中心にくるようにします。
刺繍ピンクッションの作り方3
始めにボタンをサテンステッチで刺繍します。糸端を玉結びし、丸の上の印から針を出し、その真下の印に針を入れます。この1針を目安に左右を交互に埋めていきます。左側に1針刺し、つぎに右側も1針刺します。図案がきれいに埋まるまで左右を交互に刺していきます。
千葉さん「今回も前回同様、仕立てるため、裏側の糸玉を気にしなくてもいいので、縫い始め、縫い終わりは、玉結びと玉どめで糸始末をします。左右対称図案のサテンステッチは、左右の刺す回数をそろえる必要はありません。目で形を確認しながら刺していきましょう」
刺繍ピンクッションの作り方4
針をバックステッチで刺繍します。図案の針先から1針進んだところに針を出し、1針を入れます。これで1針刺せました。これを繰り返して、針を刺繍します。
刺繍ピンクッションの作り方5
糸をバックステッチで刺繍します。図案の糸端から1針進んだところに針を出し、1針を入れます。これを繰り返し、ボタンの手前までバックステッチをします。
刺繍ピンクッションの作り方6
ボタンの手前までバックステッチで刺せたら、ボタンの内側に1針ストレートステッチを刺します。そこからまた続けて、バックステッチで針の手前まで刺します。
刺繍ピンクッションの作り方7
針の手前までバックステッチで刺せたら、針の内側に針を出します。針のバックステッチに交差するように、1針戻って針を入れます。
刺繍ピンクッションの作り方8
次に図案の糸の1針進んだところに針を出し、1針戻って針を入れます。続けて糸端まで刺し、刺繍の完成です。
千葉さん「これで針に糸が通っているように見えます。細かいひと手間ですが、こうすることでグッとかわいくなります」
刺繍ピンクッションの作り方9
布を刺繍枠から外し、裏側に好みの大きさの出来上がり線を描きます。その周りに1㎝の縫い代を描き、それに合わせて布をカットします。刺繍した表布に合わせて粗裁ちした裏布、手芸綿、紐を付ける場合は直径0.2㎝長さ15㎝丸紐を用意します。
千葉さん「出来上がり線は、好みの大きさ、形をフリーハンドで描いてください。小さすぎると縫った後に返しにくいので、そこだけ注意が必要です。今回は5×4㎝くらいで線を描きました」
刺繍ピンクッションの作り方10
表布と裏布を中表に合わせ、ずれないようにまち針でとめます。下側に2㎝程の返し口を残し、ぐるりと縫います。縫い始めと縫い終わりは返し縫いをします。※わかりやすいように白糸で縫っています。実際には布の色に近い色の糸をお使いください。
刺繍ピンクッションの作り方11
周りの縫い代を三角にカットします。縫い代をカットすることで、カーブラインがきれいに出ます。縫い代を開き、表布の縫い代は表布側に、裏布の縫い代は裏布側にアイロンをかけます。この時、返し口の出来上がり線にもしっかりと折り目を付けておきます。
刺繍ピンクッションの作り方12
表に返して、中に綿を詰めます。綿の量はお好みですが、ヘラや指先、定規などを使い、端まで満遍なく詰めます。
千葉さん「この時、強く押して縫い目や布を裂いてしまわないように気を付けてください」
刺繍ピンクッションの作り方13
返し口をまち針でとめます。縫い糸を縫い針に通し、糸端を玉結びして、返し口をコの字とじします。縫い代から針を入れ、出来上がり線の折り目の山に針を出します。折り目の山を1針ずつすくっていき、縫い終わりは玉どめし、少し離れたところに針を出して引き、玉どめを隠します。コの字とじはイラストでも紹介しますので、ご参照ください。
完成
アルファベット刺繍のピンクッションの完成です。刺繍した後にフリーハンドで描いた柔らかい印象の出来上がり線がかわいいです。このままピンクッションとして使っていいですし、オーナメントにしたい場合は紐をつけても素敵です。紐の付け方もご紹介します。
縫い糸を2本取りで針に通し、糸端を玉結びします。丸紐を二つ折りにして端をそろえ、糸をかけて、わに針を通します。丸紐の端から1㎝のところに糸を持ってきて、ピンクッションの裏布に縫い付けます。
オーナメントの完成です。たくさん作って飾ってもかわいくなりそうですね。今回も使用したステッチの刺し方をイラストと動画でご確認いただけますので、ぜひ参考になさってください。
サテンステッチの刺し方
バックステッチの刺し方
ストレートステッチの刺し方
4文字を組み合わせたオーナメントのアレンジです。周りに額のような枠の刺繍をプラスして、黒一色だけですが、華やかな印象になりました。この枠の図案もダウンロードできますので、ぜひ文字を組み合わせた刺繍もチャレンジしてみてください。
千葉さん「このオーナメントは、図案ではサテンステッチを使っているところをバックステッチに変えて刺しました。こんな風に、ステッチは違うものに変えても刺せますので、違うステッチに変えてアレンジしてみるのも楽しいと思います」
自分と向き合う時間
さまざまな刺繍アイテムを紹介してきましたが、最後に刺繍の楽しさとはどんなところにあるか、千葉さんに伺いました。
千葉さん「刺繍の楽しさは上手い下手がないこと。みんなそれぞれの理想があり、目指しているところが違うので、自己基準としては上手い下手はあるかもしれませんが、刺し続けていれば、必ず前の自分よりは上手くなっていきます。だから、厳密には上手い下手なんてないんです。あと、だれでもできるのも魅力です。大人でも子どもでも、裏側から針を刺して、またそれを裏側に刺す、それを短く刺すか長く刺すかだけで絵が描けるんです。布の上で自由に表現ができるなんて、とても楽しいことだと思います。
手紙を書ける余裕を持ちたいと『クロヤギシロヤギ』を始めましたが、今はそれが刺繍に変わっただけな気がしています。根本は同じで、手を動かして自分と向き合う時間を持つ、刺繍をするのもそんな時間だと考えています」
刺繍に上手い下手はないという言葉を聞いて、ぜひ刺繍にチャレンジしてみたくなりました。布の上で自由に表現ができるというのも魅力的ですよね。
まとめ
5回にわたって、刺繍の基本からアルファベット刺繍の楽しみ、刺繍アイテムの作り方まで、千葉さんに教えていただきました。この連載で少しでも刺繍ができそうと思われた方は、ぜひ1度針を持ってみてください。
おまけ
東京ガスのキャラクター、パッチョを千葉さんに刺繍していただきました。今回のアルファベット図案のストーリーの中に入り込んだパッチョにご注目です。
パッチョのグラデーションも細かく表現されていて、パッチョも心なしかうれしそうです。