前回のおさらい
近年、刺繍が根強い人気です。かわいい図案が載った本が多数出版され、材料がすべてそろった刺繍キットも多く販売されています。刺繍は針と糸さえあればでき、狭いスペースでも完結する手軽さも人気の理由です。前回は、独自のモチーフが人気の刺繍家、「クロヤギシロヤギ」の千葉美波子さんに、刺繍の道具や糸など、始める前に知っておきたい刺繍の基本的なことを教わりました。
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フリーハンドで図案を描いて刺繍してみよう!
今回は、市販の英字プリントのエコバッグにフリーハンドで図案を描いて刺すという、図案写しがいらない刺し方を紹介します。刺繍をしたことがないという方にもおすすめ。シンプルな英字プリントのバッグがかわいく生まれ変わります。使用してるステッチは、イラストと動画でご覧いただけますので、そちらも参考になさってください。
今回の刺繍のポイントを千葉さんに伺いました。
千葉さん「図案を写すのが苦手という声をよく耳にします。そんな方にチャレンジしてもらいたいのが、このフリーハンドで図案を描く刺繍。フリーハンドと聞くと、絵が描けないとおっしゃる方も多いのですが、丸や三角が描ければ大丈夫です。普段レッスンをしていて思うのは、絵が描けない方って実はあまりいないということ。上手い下手の基準が個人で違うので、描けないと考えてしまう方が結構いるんだと思います。今回は英字がプリントされた市販のものを使い、その上から刺繍します。もとのデザインと刺繍が調和して、素敵に仕上がりますので、安心してチャレンジしてみてください。太めの5番刺繍糸を使うので、あっという間に完成するのも魅力です」
今回刺繍するエコバッグ
千葉さん「今回はこちらに刺していきますが、エコバッグに限らず、衣類やインテリアアイテムなどへの刺繍もおすすめです。アイテム選びのポイントは、文字も全体のデザインも、シンプルなものを選んだ方が、刺繍が映えると思います。素材は普通地で、特殊な加工などされていないものが刺しやすいです」
使用する糸
今回使用するのは5番刺繍糸です。1回目でも紹介しましたが、一般的な25番刺繍糸よりも太い2本の糸が撚り合わさった、綿100%の光沢のある糸です。長さは約25mあるので、その都度60㎝程に切って、1本取りで使用します。針は4号刺繍針を使いました。
千葉さん「刺繍糸の色は好きな色を選んでください。組み合わせの失敗も少ない3色がおすすめです」
花を刺してみよう!
最初に花を刺してみましょう。シンプルな形なので、誰でもチャレンジしやすいモチーフです。今回は、ストレートステッチ、オープンレゼーデージーステッチ、フレンチノットステッチ、レゼーデージーステッチという基本的な4つのステッチを使って刺していきます。
花の刺し方1
チャコペンを使い、フリーハンドで花の図案を描いていきます。茎の線を3本引き、線の先に丸、5弁の花、ハートを描きます。
千葉さん「花の大きさはお好みですが、あまり大きくなり過ぎない方がバランスがいいです。今回の図案は、繊細に細かく描くというよりは、大まかな形を捉えるというイメージで描くのがポイント。太めの糸で刺すので、その方が刺しやすいと思います」
花の刺し方2
刺繍枠の内枠と外枠を外します(写真では8㎝の刺繍枠を使用しています)。内枠をバッグの内側に入れ、円の中心に図案がくるように合わせて上から外枠をはめます。ネジを締めて布をしっかりと固定します。持ち手は邪魔にならないように、軽く縛って短くします。
花の刺し方3
針に60㎝程にカットした黄色の糸を通し、糸端を玉結びして刺し始めます。茎をストレートステッチで刺します。裏から茎の端に針を出し、もう一方の端に針を入れます。糸は切らず、茎3本を続けて刺し、刺し終わりは裏側で玉どめします。茎が刺し終わりました。
千葉さん「刺し始めや刺し終わりの糸端の始末の仕方はいろいろありますが、裏側に糸玉があっても気にならないものの場合は、玉結びや玉どめで始末します」
花の刺し方4
次に5弁の花を刺します。水色の糸を針に通して糸端を玉結びし、1枚の花びらの端に裏から針を出します。反対側の端に針を入れ、花びらの上に針先だけ出します。針先に糸を掛けて、針を抜き、輪の形を整えます。
花の刺し方5
輪をとめるように、花びらの外側に針を入れます。花びらが1枚刺し終わりました。このステッチをオープンレゼーデージーステッチといいます。あと4枚も同様にして刺し、5弁の花ができました。
花の刺し方6
次に丸の内側を刺していきます。ここにはストレートステッチをクロスさせて、バツの刺繍をします。まず丸の内側に針を出し、適度な長さで針を入れます。続けてバツになるようにもう1針交差させます。丸の内側ができました。刺し終わりは裏側で玉どめします。
千葉さん「1つの図案の中で同じ色の糸を使う時は、1回1回玉どめせずに、なるべく続けて刺していきます。ただし、裏側に渡る糸が長くなる場合はその都度玉どめしましょう」
花の刺し方7
次にハートを刺します。これも4~5で紹介したオープンレゼーデージーステッチで刺します。赤の糸を針に通して糸端を玉結びし、ハートの凹みに針を出します。下の角から針を入れ、針先をカーブに出します。糸をかけて針を抜き、カーブの形を整えます。
花の刺し方8
輪をとめるように、カーブの外側に針を入れます。ハートの反対側のカーブも同様に刺します。ハートの花ができました。
花の刺し方9
続けて5弁の花の中心に、赤の糸で花芯を刺します。中心に針を出し、針に糸を2回巻きつけます。そのまま出した穴の隣に針先を入れ、巻きつけた糸を引いて形を整えます。裏から針を引き、フレンチノットステッチの花芯ができました。
千葉さん「今回のフレンチノットステッチは糸を2回巻きましたが、1回巻き、3回巻きなど、巻く回数を変えることで、ステッチの大きさが変わります」
花の刺し方10
続けて同じ糸で、9と同じ2回巻きのフレンチノットステッチを丸の線上に5個刺します。大体五角形になるように、バランスをみながら刺します。刺し終わりは玉どめをします。1つの図案が完成しました。
花の刺し方11
次に放射状の花を2個刺します。チャコペンで5本と6本の放射線をそれぞれ1個ずつ描きます。黄色の糸を針に通し、5本の放射線の中心から針を出します。出した隣に針を入れ、線の端の針先に出します。針先に糸を掛け、針を抜いて、形を整えます。
花の刺し方12
輪をとめるように、外側に針を入れます。花びらが1枚刺せました。このステッチをレゼーデージーステッチといいます。残りの花びらも同様に刺します。5弁の花ができました。
花の刺し方13
糸を赤に変え、5弁の花の中心に、9を参考にしてフレンチノットステッチで花芯を刺します。続けて6本の放射線の図案に、6を参考にしてストレートステッチを3本クロスさせます。糸を水色に変え、その周りにフレンチノットステッチを6個刺します。この図案の完成です。
花の刺し方14
次に1~10で刺した図案をアレンジして、茎、丸、4弁の花、ハートをチャコペンで描きます。丸だけ、前と違う刺し方をするので、中心に点を描いておきます。針に糸を通し、丸の印から出し、中心の点に針を入れます。
花の刺し方15
最初に出した丸の印の隣に針を出し、中心の隣に針を入れます。このストレートステッチを繰り返し、ぐるりと刺していきます。花びらが放射状に広がる花ができました。
千葉さん「花は自由度が高く、フリーハンドでも描きやすいモチーフです。今出てきたストレートステッチ、オープンレゼーデージーステッチ、フレンチノットステッチ、レゼーデージーステッチの4つの組み合わせだけでもいろいろな形の花ができます。組み合わせて自分だけの花を刺してみるのも楽しいですよ」
ネコを刺してみよう!
次にネコを刺してみましょう。三角の耳と、しなやかで丸みのある体、ここさえ押さえればネコは描けるので、ぜひチャレンジしてみてください。
ネコの刺し方1
チャコペンを使い、フリーハンドでネコの図案を描いていきます。バランスを取るため、体から先に描き、次に頭、耳の順で描きます。
千葉さん「今回は文字の上にのったネコにしたかったので、接地面の体から先に描きました。その方が頭の大きさなど、バランスが取りやすいと思います。座り姿で3頭身くらいのバランスをイメージして描きました」
ネコの刺し方2
輪郭はすべてオープンレゼーデージーステッチで刺します。青の糸を針に通し、最初に頭を刺繍します。頭は上下に分けて、初めに上を刺します。頭の丸い形がきれいに出るように、糸はやさしく引きます。下も同様に刺します。
ネコの刺し方3
次は耳を刺繍します。耳も同様に刺しますが、ピンと立った三角形になるように糸をしっかりと引きます。
ネコの刺し方4
次に体の前側を3回に分けて刺します。1つのカーブを1回のオープンレゼーデージーステッチで描くイメージです。
ネコの刺し方5
背中を刺繍します。背中のなだらかな丸みは1回のオープンレゼーデージーステッチで描きます。しっぽを刺繍し、輪郭の完成です。
千葉さん「ネコはカーブの多い体の輪郭を分けて刺繍するのがポイントです。オープンレゼーデージーステッチは糸の引き具合で形が変わりますので、図案に合わせて調整してみてください」
ネコの刺し方6
目をフレンチノットステッチで、鼻、ひげをストレートステッチで刺繍します。このネコの図案の完成です。
ネコの刺し方7
今度は違う形のネコを刺繍していきます。チャコペンで図案を描きます。これも体、頭の順で描くとバランスが取りやすいです。
千葉さん「この図案もこの形で3頭身くらいのバランスを意識しました。背中の丸みの描き方でネコっぽさが出ると思います」
ネコの刺し方8
頭、耳の順に刺します。頭は2と同様に上下に分けて刺します。
ネコの刺し方9
次は背中を2回に分けて刺繍します。2回に分けることでゆるやかなカーブが出せました。続けてしっぽも刺繍します。
ネコの刺し方10
次は後ろ脚を2回に分けて刺繍します。細かな形が出せました。続けて前脚も刺繍し、輪郭の完成です。
ネコの刺し方11
目をフレンチノットステッチで、鼻、ひげをストレートステッチで刺繍します。もう1つのネコの図案の完成です。
完成
刺繍が終わったら、刺繍を霧吹きなどでぬらします。そうするとチャコペンで描いた図案が消えるので、乾いたら完成です。
フリーハンドで図案を描いた刺繍の完成です! 3色のみの刺繍ですが、色鮮やかな太い糸を使ったので、元のエコバッグのポップなデザインに負けず、それぞれが引き立てあうかわいい刺繍に仕上がりました。花やネコが文字から飛び出てきたような雰囲気はアルファベット刺繍に通じるところがあります。
今回使用したステッチは、動画やイラストでも刺し方を確認できますので、ぜひご覧になってください。
ストレートステッチの刺し方
レゼーデイジーステッチとオープンレゼーデイジーステッチの刺し方
フレンチノットステッチの刺し方
まとめ
今回は英字プリントにフリーハンドで図案を描いて刺繍する方法を学びました。
千葉さん「刺繍が初めての方に、フリーハンドで図案を描くというとすごくハードルが高いと思われがちです。でも、そんなことはありません! シンプルなモチーフなら誰でも図案は描けるし、心配な人は今回のように市販の英字がプリントされたアイテムに刺繍してみてください。元々の文字というデザインがあるので、それと刺繍が調和して素敵に仕上がります。気軽に試してみて欲しいです」
次回はいよいよお待ちかねのアルファベット刺繍が登場します。千葉さん描き下ろし、「ウチコト」オリジナルの刺繍図案も詳しく紹介します。どうぞ、お楽しみに!