停電かな? と思ったら、まず周囲の確認を
電気が使えなくなると、普段の生活はできなくなります。停電時の自宅や外出先での対処法や、子どものために、どのような注意や備えが必要なのかについて、防災士である柳原志保さんに伺いました。
まずは、停電になった時のチェックポイントを押さえましょう。
部屋の明かりが突然消えるなどして、「停電?」と感じたら、慌てずにまずは電気が消えている範囲を確認してください。
【自宅の一部が停電している】
電池や電球切れ、電気器具の故障、また機器がショートしたり、許容電流を超えた電流が流れた時(複数の電気器具を同時に使ったときなど)に作動する「回路用(安全)ブレーカー」や、「漏電ブレーカー」の作動によって電力供給が止まった可能性が高いです。
【自宅全体が停電しているが、周囲の他の家は停電していない】
消費電力が電力会社との契約アンペア数を超えると作動する「アンペアブレーカー(サービスブレーカー、契約ブレーカー)」が作動して電力供給が止まった可能性があります。
ブレーカー作動による停電の復旧方法は、東京ガスのホームページ、または各電力会社のホームページなどで確認できます。
【自宅だけではなく、近隣一帯が停電している】
災害や事故によって、電気会社の設備が故障して、停電が起きたと考えられます。
このように停電範囲を確認することによって原因が予想でき、それにより対処法が決まります。
自宅が停電した時にすべきこと・してはいけないこと
自宅のみの停電ではなく、近隣一帯が停電してしまった場合、どうしたらよいでしょうか。
停電してもすぐに復旧するなら大きな影響はありませんが、停電した時点では復旧までの時間は予測できません。そのため、復旧までに時間がかかることを想定して、まずすべきこと・してはいけないことを柳原さんに伺いました。
停電時にすべきこと
連絡と情報取得
近所一帯が停電している場合は、まず電力会社に確認をしましょう。確認の手段としては、電話連絡だけでなく、スマホなどが使えるなら、電力会社の停電復旧情報にアクセスすると、停電の規模や復旧の見通しなどが掲載されている場合があります。また、近年では、Twitter等のSNSにて停電の情報を発信している電力会社も数多くあるため、あらかじめチェックしておくとよいかもしれません。
家電などはスイッチをオフにするかプラグを抜く
停電時には「全ての家電の電源プラグを抜かなければ」と思っていませんか?
確かに電源プラグを抜く必要がある家電もありますが、全てではありません。
「停電などの際に電源プラグを抜いた方がよいのは、『発熱するもの』『回転するもの』と覚えておいてください」(柳原さん)
暖房器具、電気ポット、アイロンなどの「発熱する家電」は、電源が入った状態で再び電気が供給されると火災につながる恐れがあります。実際に、阪神淡路大震災ではそのような事例があったそうです。
また、ハンドミキサーや電気ドリルなど高速で回転するものは、急に電気が供給されて動き出すと、近くにいた人がけがをしてしまう可能性があります。
その他、パソコンや周辺機器は、停電による故障やデータ消失のリスクがありますが、復旧した際にも、過大な電圧・電流が通電することにより故障する恐れがあります。
上記のような電化製品は、停電時には電源プラグを抜くか、ON/OFFスイッチがあるものはスイッチをOFFにしておきましょう。
「逆に冷蔵庫、エアコンなどは電源プラグを抜く必要はありません。ただし、生命維持には関わらないテレビについては電源プラグを抜くようにしてください。また、その他の家電も復旧した際、一斉にONになると故障する可能性があるので、スイッチをOFFにしておいた方が無難です」(柳原さん)
携帯電話やスマートフォンは省電力モードに切り替える
停電などの災害時には貴重な連絡ツールとなるため、電池が切れてしまわないように「省電力モード」に切り替えておきましょう。
暑さ・寒さへの対策を行う
停電によって冷房や暖房が切れると、屋内でも暑さ・寒さにさらされることになります。
暑い時期には、扇子やうちわ、クールタオルなどを用意し、寒い時期には、毛布や防寒着、湯たんぽ、使い捨てカイロの使用をおすすめします。自宅にあるならば電池で点火できるストーブなどを用意して対策を行いましょう。
停電時にしてはいけないこと
柳原さんに、停電時にしてはいけないことをその理由とともに教えてもらいました。
冷蔵庫の頻繁な開け閉め
「庫内温度の上昇を防ぐため、できる限り冷蔵庫は開けないようにしてください。外気温にもよりますが、意識して開けないようにすることで庫内の食品の温度をある程度保つことができます」(柳原さん)
屋内での発電機の使用
柳原さん「災害の備えにもなる家庭用の小型発電機ですが、ガソリンやカセットボンベを燃料とする場合は、屋内や風通しの悪い場所での使用は絶対に避けてください。一酸化炭素中毒を起こしてしまう可能性があります。ただし、最近では塩水や太陽光で発電する発電機などもあり、それらは室内でも利用できます」
明かりのために火を使う
暗いからといって、倒れやすいろうそくなどを安易に使用すると火災の原因となる可能性があり危険です。明かりが欲しいときは懐中電灯など、安全性が確保されているものを選びましょう。
停電に備えて用意したい! しほママセレクトベスト3
停電はいつ起こるか分かりません。そのため、普段から停電時に役に立つものを備えておくことが大切です。懐中電灯など電池式の明かりを備えているご家庭は多いと思いますが、その他にもあると便利なものを柳原さんに伺いました。
「備えておくとよいものを挙げるときりがありませんので、これがあったら便利というものを『しほママセレクト ベスト3」として3つご紹介します」(柳原さん)
しほママセレクト1【モバイルバッテリー・ポータブル電源】
「停電時に電気を得るためのモバイルバッテリーやポータブル蓄電池は必須といえます。スマホやタブレットなどはモバイルバッテリーで充電できますが、ポータブル電源があれば、家電の充電も可能です。それぞれ容量などによって価格に幅があり、どの程度継続して使えるかは価格によりますので、各ご家庭の考え方やご予算で選んでください。ただし、家族の人数も考えないと、場合によってはほとんどもたないこともあるでしょう。
ソーラー式のものは、しばらく停電が続いても太陽光で充電が可能なので、そういうものだと安心ですね」(柳原さん)
しほママセレクト2【ガーデン用のソーラーライト】
柳原さん「庭やベランダに置いておくだけで、太陽光を吸収して発光するのがガーデン用のソーラーライト。夜間の停電時にあると便利です。電池もコードも不要で、おしゃれなものも販売されていてインテリアにもなりますよ。100円くらいのものもありますが、明るさは価格によって違います」
しほママセレクト3【シガーソケット充電器(車載充電器)】
柳原さん「自家用車のある方は、シガーソケット充電器(車載充電器)を購入しておくとよいでしょう。車から電力が取れます」
柳原さんによると、「備え」であっても普段も使えるものであるのがポイントとのこと。
「用意するためにはコストもかかりますので、いざという時だけに使うのではなく、普段から使える、役に立つものの方がよいと思います。それに普段使っているもののほうがスムーズに使えますよね」(柳原さん)
あると便利な手回し式ラジオ
上記に加えて、普段から使うものではないけれど、しほママおすすめのグッズが「手回し式ラジオ」です。
「テレビがつかない、インターネットが使えないという場合に活躍するのが、ハンドルを回すことで充電して使用できる手回し式ラジオです。災害時は情報がないと不安ですし、安全も確保できないので、東日本大震災の時には手回しラジオを持っている方が避難所にいてとても助かりました」(柳原さん)
「さらに最近はTVも見られる多機能なポータブルラジオ・TVもあります。私が愛用しているのは、くまモンデザインで可愛いので、外出時やアウトドアなどで普段使いしています」(柳原さん)
覚えておきたい! 大規模停電時の注意点
外出先で大規模停電に遭遇することもないとはいえません。そんなときに最も大切なのは安全に帰宅することです。具体的に危険なポイントを把握し、自分はもちろん、周囲の人の安全も守れるように行動するためのポイントを柳原さんに教えてもらいました。大災害に3度も遭遇した経験からのリアルなアドバイスを伺うことができました。
切れた電線などには近寄らない
感電する恐れがあるため、切れた電線を見かけたら近寄らないようにしましょう。
信号は消えていることもあるので注意
「警察官の方などが誘導してくださる場合は、それに従って動いてください。そうでない場合は、周囲をしっかり確認して注意しましょう。車を運転している場合は、信号が消えていても、交差点などでは必ず減速して一時停止しましょう。譲り合いを心がけてください」(柳原さん)
エレベーターの中にいても落ち着いて
エレベーターには閉じ込め防止機能があり、それが作動すれば最寄りの階に止まりドアが開くようになっています。
その機能が働かなかった場合は、全ての行先ボタンを押してください。それでも動かない場合は、非常ボタンを押して外部に通報し、救助を待ちましょう。
「閉じ込められると不安だと思いますが、基本的な知識を知っておき、落ち着いて行動することが大切です」(柳原さん)
防犯セキュリティが機能していない可能性を考える
停電のため、ホームセキュリティも使えず、無防備な状態になることがあります。できる限り知り合いと行動を共にしましょう。一方、予備バッテリーを内蔵しており、一定時間は作動するホームセキュリティもあります。
万が一の時に備えて、ご自宅のホームセキュリティの仕様を確認しておきましょう。
駅構内や車両内では駅員や乗務員の指示に従う
電車の利用中に停電が起こった際には、まず、駅員や乗務員の指示に従って落ち着いて行動しましょう。
停電時には、すぐに非常用照明と避難方向を示す誘導灯が点灯する地下鉄もあります。電車は停車し、照明は消えますが、一部の照明はバッテリーによって点灯し、必要な明るさは確保されるので安心してください。
「駅のエスカレーターにも注意を。停止しているエスカレーターを階段として使用すると、ステップが下がってしまう可能性があり、とても危険です」(柳原さん)
参考:停電したとき 名古屋市交通局
停電や災害時に子どもを守るために備えておきたいポイントとは?
お子さんがいる場合は、大人だけのとき以上に安全対策が必要です。
「まずは自分が持つ防災に関する知識をお子さんに共有してください。災害時には大人が全部請け負うのではなく、子どもも自分で正しい行動を取れることが大切です」(柳原さん)
いつ起こるか分からない停電や災害。自宅のどこに防災グッズがあるのかについても、親から子へ事前に共有しておくことで、子ども本人に正しい知識や行動が身に付くので安心です。
ここからは、停電時に自宅でお子さんと安全に過ごすために行っておきたい対策をご紹介します。
明かりを確保できるようにする
特に幼い子どもは、電気がつかないことで真っ暗になるのを怖がる場合があります。そのため、懐中電灯やランタンなどをあらかじめ備えておきましょう。
用意がない場合は、「サラダ油を用いたオイルランタン」作りもおすすめです。
「ジャムなどが入っていた瓶にサラダ油を入れて、オイルランタンを簡単に手作りできます。廃油でもOKですし、使用後もキャップをしてしまっておけます。サラダ油は、常温・常圧では引火しませんので、安全に使えるのがポイントです」(柳原さん)
柳原さんは、ご自身のYouTubeチャンネルでオイルランタンの作り方を紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
冷蔵庫をむやみに開けないことを子どもに伝える
停電時には冷蔵庫をむやみに開けてはいけないことを、お子さんにも前もって伝えましょう。知らないと、いつもと同様に開けてしまうかもしれません。
夏は熱中症対策を普段から行っておく
暑い時期に停電でエアコンが使えなくなると、熱中症になり命に関わることもあります。うちわ、扇子、保冷剤、クールタオル、充電式の扇風機など、電気がなくても身体を冷やせるグッズを用意しておきましょう。
「グッズを用意するだけではなく、普段から実際に子どもに使わせることがポイントです。そうすれば、いざとなった時にもスムーズに使えます」(柳原さん)
また、身体のどこを冷やせば熱が冷めるのかも共有しておくとよいでしょう。
「3点クーリング法では、『首のまわり、脇の下、股のつけね』を冷やします。そうすることで、冷えた血液が身体を巡ります」(柳原さん)
食料をある程度備蓄しておく
停電によって買物に行けない、行けたとしても、電気が使えないため、購入できるものが限られてしまうということも起こります。
「マンションの高層階にお住まいの方はエレベーターが使えないと、買い物自体苦労します。ある程度備蓄しておくと安心だと思います」(柳原さん)
また、「停電や災害だけではなく、今なら、親が新型コロナウイルスに感染した場合、子どもだけで買い物に行ってとも言えないため、困ってしまいます。そういう意味でも、備蓄はしておくべきでしょう」と柳原さん。
最適な食料備蓄量や、注目の備蓄法である「ローリングストック」など、備蓄食品のポイントは以下の記事で紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
大規模停電時に子どもが外出している場合に備えるには?
大規模停電の際、子どもと連絡が取れない。これほど不安なことはありません。いつこのような事態になるとも限らないので、早めに以下の対策をしておきましょう。
出かける際の連絡やメモの習慣をつける
特に中学生以上の子どもは、行動の自由も増え、場合によっては親が居場所を把握していないことも増えます。
「スマホなどが使用できない場合も考えて、アナログですが、お互いに行先をメモで残し、スマホや携帯電話が使える時は、目的地についた時に連絡を入れるのを習慣にしましょう」(柳原さん)
避難ルート・避難所の確認をしておく
自宅や学校付近の避難ルート・避難所をお子さんは把握しているでしょうか? 地図を一緒に見てイメージしたり、避難ルートに沿って一緒に避難所へ行ってみるなどして、事前に確認しておきましょう。
公衆電話のかけ方を教えておく
「停電時でも公衆電話は使用できます。しかし、今どきのお子さんは公衆電話のかけ方を知りませんので、教えておくと安心ですね」(柳原さん)
困った時は大人に頼るということも伝えておく
自宅に帰れずに困ったときは、周囲にいる大人に頼ることも教えておきましょう。
「今は、知らない人にはついていかないようにと教えられるため、困っても大人に声をかけられないお子さんもいます。しかし、子ども一人ではどうにもできない時もあるでしょう。その場合は、周囲にいるなら警察官や駅員の方、またはお店の方など、できる限り身元のはっきりしている大人を探して頼るように教えてください」(柳原さん)
もしもの時のために、子どもに携帯させておくべきもの
大規模停電に備えて、外出する際必ず携帯させておくべきものは、以下の通りです。
その1. パーソナルカード
本人の名前、住所、親の名前や連絡先などを記載したパーソナルカードを作り、普段から携帯させておきましょう。
「今はスマホなどに連絡先のすべてが入っていて、お子さんは覚えてないこともあります。電池が切れたら困りますので、作っておくといいですね」(柳原さん)
熊本市東区のホームページでは、「いつもン!もしもン!みんなのくらし安心術 家庭でできる防災のイロハ」として防災に役立つ情報を発信しています。柳原さんが監修したパーソナルカードのダウンロードもできますのでぜひご覧ください。
しほママ監修 パーソナルカードはこちら
家庭でできる防災のイロハはこちら
その2. 現金
停電時は電子マネーやATMも使えなくなります。現金を用意しておくと安心です。10円や100円も、公衆電話を使うために入れておきましょう。
その3. 笛
停電でエレベーターに閉じ込められた時に助けを呼んだり、まわりが暗くなった時の防犯対策に役立ちます。
その4. 暑さ、寒さの対策グッズ
夏の外出には扇子やうちわ、水筒など、暑さをしのぎ、熱中症を予防するものを。冬の外出には、カイロ、上着、手袋、マフラーなどを持たせておくとよいでしょう。
おわりに
いつ起こるのか分からない停電だからこそ、起こった時に冷静に対処していくことや、普段の備えが大切です。そして、停電の時の対処法は大人が知っているだけでは不十分で、子どもへの情報共有も欠かせないということが、柳原さんへの取材を通して分かりました。
子育て家庭なら「いかに子どもを守るか」という視点に立てば、事前の備えの大切さもより強く感じられるのではないでしょうか。もしもの時のために対策をしておけるといいですね。