ステーキの焼き加減は難しい?!
外食のイメージが強いステーキですが、コロナ禍以降、ご自宅で楽しむ機会が増えているのではないでしょうか。2021年8月に東京ガス都市生活研究所が実施した調査では、46%の方が2~3カ月に1回以上、ご家庭でステーキを焼いていることが分かりました。
実際にご家庭でステーキを焼いている方に聞いてみたところ、以下のようなコメントが見られました。
・熱を中まで通したくて、結局焼き過ぎてせっかくのステーキが硬くなってしまった。(48歳男性)
・どのくらいの焼き加減がよいのか分からない。焼き過ぎると硬くなるし、レア過ぎても衛生的に不安になるし、難しい。(34歳女性)
・ミディアムレアにしたかったのに、タイミングを見誤ってウェルダンになってしまった。(31歳女性)
焼き加減のお好みはいろいろですが、コメントからはミディアムレアを好む方が多いことが分かりました。しかし、どの焼き加減でも、ちょうどよい焼き加減に仕上げることができない、というのが皆さん共通のお困り事のようです。
せっかくご馳走にしよう! と張り切って買ってきた高価なステーキ肉。やわらかくジューシーに焼きたかったのに、焼きすぎて硬くパサパサになってしまったらガッカリですよね。
そこでプロの技を参考に、ご家庭でもおいしいステーキを失敗なく焼く方法を、東京ガス都市生活研究所と食情報センターが調査しました。
焼き方のポイントは「肉にストレスをかけない」こと!
ステーキを焼くとき、シェフがコツの一つに挙げていることに、「肉にストレスをかけないこと」があります。
それを踏まえて、私たちが提案するご家庭でおいしいステーキを焼くポイントは、次の3つです。
ポイント1:肉は冷蔵庫から出して室温に戻しておく
ポイント2:フライパンの予熱をせずに、肉を入れてから火をつける(コールドスタート)
ポイント3:こまめに返す(15秒ごとに返すのがおすすめ!)
ご家庭では、フライパンを予熱してから肉を入れる方も多いと思われますが、いきなり熱いフライパンで焼くのは肉の表面だけが急に加熱されるため、肉にとっては大きなストレスになります。フライパンを予熱する前からフライパンに肉を入れておくことで、徐々に火を通すことができますし、また、こまめに返しなら焼くことで、肉の両面から均一に火を入れることができるのです。
これらポイント3つを取り入れた焼き方でステーキがどのように仕上がるか、実験して特徴を確かめてみました。
一般的な焼き方と「ストレスをかけない」焼き方を比較!
ステーキの焼き方にはいろいろありますが、今回私たちは、こまめ(15秒ごと)に肉を返す焼き方を「ストレスをかけない焼き方」、ある程度時間をかけて(90秒ごと)片面ずつしっかりと焼く方法を「一般的な焼き方」として比較実験してみました。なお、焼き加減はお好みの方が多いミディアムレアとしました。どちらの焼き方もステーキを焼く際の火力は中火(上記写真参照)で、火力は一定にしました。
【調理条件】
使用コンロ:家庭用ガスコンロRHS71W22E6VC
使用鍋:フッ素樹脂加工フライパン(直径26cm)
使用した肉:オーストラリア産サーロイン 厚さ約2cm(重さの目安250g)
※肉は、あらかじめ冷蔵庫から出して30分間ほど放置し室温に戻して使用
【肉にストレスをかけない焼き方(15秒返し)】
フライパンに肉を入れて点火し、中火で片面15秒間焼いたら裏返すことを繰り返し、肉の中心温度が55℃になるまで加熱しました。スタート時はまだ生の状態ですが、15秒ずつ返していくことで、徐々に肉に熱が入っていく様子が分かります。加熱時間は、5分30秒から6分程度でした。
【一般的な焼き方(90秒返し)】
フライパンに肉を入れて点火し、中火で片面90秒間焼いたら裏返すことを繰り返し、肉の中心温度が55℃になるまで加熱しました。1回目に返すときには、すでにフライパンに触れていた面の色は変わり火が入っています。90秒ごとに返すたび、加熱されていく様子が肉の色の変化からよく分かります。加熱時間は、6分30秒から7分程度でした。
ステーキ肉の切り口の断面を10倍に拡大して比較
それぞれの方法で焼いたステーキ肉の切り口の断面を10倍に拡大して比較してみました。よく見ると、「15秒返し」は表面から中心にかけて、肉の色が焼けた茶色からミディアムレアのピンク色にグラデーションしています。
一方、「90秒返し」では、表面は焼けて茶色く外側と中心部の肉の色にはっきりと境界が見られました。中心部がより鮮やかな赤色の肉が残り、火が通っている部分と生焼けの部分がはっきりとして、表面と中心部で焼きムラが見られました。
こまめに返すとジューシーに!
では、肉のジューシーさはどうでしょうか? 調理前後での肉の重量変化を調べました。
グラフに示したように、わずかに「90秒返し」で調理したステーキ肉の方が調理後の重量が軽くなっており、調理によって水分や肉汁が外に流出してしまったと考えられます。つまり、「15秒返し」で調理した方が、ジューシーさが保たれる傾向にあると言えそうです。
どちらの焼き方の肉の方がやわらかい?
続いて、肉のやわらかさの評価です。「15秒返し」で焼いたステーキ肉と、「90秒返し」で焼いたステーキ肉、どちらがやわらかいのでしょうか? 機器測定による評価と、人が食べる官能評価の2つの方法で評価しました。
機器測定による評価
その結果、上のグラフのように「15秒返し」の方が「90秒返し」よりも噛み切るのに必要な荷重が小さいことが分かりました。つまり、「15秒返し」で調理したステーキ肉の方がやわらかいと言えそうです。
実際に食べた結果は?
食関連の業務に携わる女性16人に、実際に「15秒返し」「90秒返し」の2種類の方法で調理したステーキを食べて評価してもらいました。評価の際は、調理したステーキを写真のように1.5㎝幅にカットしたものを食べ比べました。
その結果、上記グラフに示したような結果が得られました。グラフは官能評価で各項目についての点数を平均したもので、点数が高いほど、その傾向が強かったことを表しています。
グラフより、肉の噛み切りやすさや飲み込みやすさで「15秒返し」の方が「90秒返し」よりも高い結果であることが分かります。一方、香ばしさやうま味などには差が見られず、ひっくり返し方によって香りや味には明らかな違いはありませんでした。
さらに、総合評価(食べやすさ)は「15秒返し」の方が高い評価となり、総合評価時のコメントでも「15秒返し」の方が「やわらかくふっくらしており、パサつきが少ない」、「外側と内側の硬さの差がないように感じた」、「焼き加減が程よく感じた」など、中まで火は通っているものの、程よい硬さで食べやすいという回答が得られました。
この官能結果は、機器測定で得られた結果とも合致しており、こまめに15秒ずつ返して焼くことによって、肉の両面から徐々に加熱し表面だけが急に加熱されたりすることがないため、表面も硬くなりにくいと言えそうです。
ご家庭で焼き加減を確認するには?
今回の実験では、加熱中のステーキ肉の中心部の温度を測定し続けていたので、加熱を終了するタイミングが分かりました。しかし、ご家庭での調理の際はそうはいきませんよね?
ご家庭で加熱具合を確認する場合は、焼いたステーキ肉を一度フライパンから取り出し、竹串などで刺して出てくる肉汁の色をチェックしてみてください。透明がかった赤っぽい肉汁が出るときは、まだ中は生焼けのことが多いです。一方、火が通っているときは、写真のような暗赤色の肉汁が出てくるはずです。
写真のステーキは、表面はしっかり焼けていて、中心はミディアムレアというちょうどよい焼き加減です。焼き上がってすぐだとこのような肉汁が出てきますが、焼き上げて数分置くことで、肉汁を落ち着かせることもできます。
また、15秒返しの場合でも、火力を中火にして焼いていると4分程度で「もう焼けたな」と思うほどの、かなりの焼き色がついてくると思います。しかし、ここで終了せずにもう少し焼き続けるようにしてみてください。
15秒ずつ返せば、両面から少しずつ熱が入っていきますので焦げすぎる心配はありません。5分半ほどでミディアムレアのちょうどよい焼き加減に仕上げることができます。
ステーキの焼き加減の好みは人によってさまざまです。
レアが好きな方、ウェルダンが好きな方、人それぞれ好みは違うと思いますが、この方法は、肉をやわらかく焼きたい場合には好みにかかわらずおすすめです。
次に、簡単なステーキのレシピを2つご紹介します。ぜひ15秒ごとにこまめに返す方法を取り入れて、おいしいステーキをご家庭でお楽しみください。肉は室温に戻しておくこと、予熱なしで焼くこともお忘れなく!
牛ステーキ 2種の和風ソース~グリル野菜添え~
【材料(4人分)】
牛肉(ステーキ用)・・・2枚(400g)
塩・・・小さじ1/2
コショウ(黒)・・・適量
サラダ油・・・小さじ1
ミョウガ・・・2コ
オクラ・・・4本
エリンギ・・・1本
カボチャ・・・100g
サラダ油・・・小さじ1
ニンニク(皮つき) ・・・1粒
塩・・・適量
[A]
砂糖・・・大さじ1
酢・・・大さじ2
塩・・・少々
«ゴマソース»
練りゴマ(白)・・・大さじ1
醤油・・・大さじ1
酢・・・大さじ1
みりん・・・小さじ1
«ワサビソース»
マヨネーズ・・・大さじ2
ワサビ・・・小さじ2
醤油・・・小さじ1
【準備】
・牛肉は室温に戻します。
【作り方】
1.牛肉は塩、コショウをします。
2.フライパンにサラダ油を入れ、1をおいて点火します(中火)。15秒ごとに裏返しながら、5分ほど焼きます。焼き上がったらアルミホイルに包んで休ませ、肉汁を落ち着かせます。
3.ミョウガは縦半分に切ります。オクラはガクを取り、エリンギは石づきを取って縦4等分に切ります。カボチャは7~8mm厚さに切ります。サラダ油をからめます。
4. 3、ニンニクをグリルで焼きます。
両面焼き水なしグリル 上・下強火 3分~焼けたものから取り出します。
ミョウガは熱いうちに合わせたAに漬けます。オクラ、エリンギ、カボチャは食べやすい大きさに切って塩をふります。
5.ニンニクは薄皮をむいてつぶし、ゴマソースの材料と混ぜ合わせます。
6.ワサビソースの材料を混ぜ合わせます。
7.2をひと口大に切って4と共に盛りつけ、2種のソースを添えます。
※グリルの焼き時間の目安・・・ミョウガ 約3分
オクラ、エリンギ 約5分
カボチャ 約8分
ニンニク 約15分(薄皮が黒く焦げるまで)
牛ステーキと温野菜のサラダ仕立て~ジンジャー風味~
【材料(4人分)】
牛肉(ステーキ用)・・・2枚(400g)
塩・・・小さじ1/2
コショウ(黒)・・・適量
サラダ油・・・小さじ1
ジャガイモ・・・大1コ
サヤインゲン・・・6本
キャベツ・・・200g
塩・・・適量
ミニトマト・・・6コ
≪ジンジャーソース≫
酒・・・1/4カップ
みりん・・・1/4カップ
醤油・・・大さじ1と1/2
ショウガ(すりおろし)・・・20g
ニンニク(すりおろし)・・・少々
バター・・・15g
【準備】
牛肉は室温に戻します。
バターは小角に切って冷蔵庫で冷やします。
【作り方】
1.牛肉は塩、コショウをします。
2.フライパンにサラダ油を入れ、1をおいて点火します(中火)。15秒ごとに裏返しながら、5分ほど焼きます。焼き上がったらアルミホイルに包んで休ませ、肉汁を落ち着かせます。
3.ジャガイモは皮をむいて2cm角に切ります。サヤインゲンは筋を取ります。キャベツは大きめのざく切りにします。
4.鍋にジャガイモと水、塩を入れ、ふたをして茹でます(強火→中火)。ジャガイモに火が通ったら、サヤインゲン、キャベツの順に加えて茹で、ザルに上げます。サヤインゲンは5cm長さの斜め切りにします。
5.2のフライパンにジンジャーソースの材料を入れ、1/2量になるまで煮詰めます(強火→中火)。火を止めてバターを加え、溶かします。再び点火し、ひと口大に切った2を入れてからめます(中火)。
6.器に4、5、半分に切ったミニトマトを盛り付けます。フライパンに残ったジンジャーソースを器に入れて添えます。
おわりに
今回ご紹介したステーキの焼き方の良いところは、焼き加減を調整しやすいところです。15秒ごとにこまめに返すことで均等に火が入るため、外側だけ焦げて中は生などの失敗を防ぐことができます。レアをお好みの場合は加熱時間を短めに、ウェルダンなら長めにするなど、加熱時間を調整してください。
ぜひ今回ご紹介した「こまめに15秒ずつ返す焼き方」をお試しいただき、ご家庭でもおいしいステーキをお楽しみください。
執筆者:東京ガス都市生活研究所兼食情報センター 統括研究員 松葉佐 智子
レシピ監修:東京ガス食情報センター 田中 有美