ランニング中のケガや足がつる時の原因や対策法を知る
ジョギングやランニングの人気が高まっています。一方、ケガや痛み、急に脚がつる時の対処法に悩むケースも少なくないようです。
「入浴×スポーツ」をテーマに、さまざまな専門家にお話を伺い、第1回では疲労回復と血流の関係、第2回はスポーツ後におすすめの入浴法、第3回は、ケガと痛みに備える入浴法をご紹介しました。最終回となる第4回では、ランナーに多いケガと入浴との関係についてフォーカスを当て、五輪マラソン代表選手から一般ランナーまで、あらゆるランナーを指導してきたTopGearインターナショナル合同会社 代表ヘッドコーチの白方健一さんにお話をお聞きしました。
ランナーを悩ませるケガや痛み
東京ガス都市生活研究所の調査によると、普段からランニング・ウォーキングに取り組んでいる方が多いことが分かりました。
このように人気となっているランニングでは、片足にかかる負荷は体重の3~4倍とも言われており、着地の衝撃でひざや関節を痛めることがあります。特に多いのが「ランナーズニー」「ランナーひざ」とも呼ばれる腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)。ランニングなどでひざ関節の屈伸を繰り返すことで、腸脛靭帯が炎症を起こし、ひざの外側に痛みが発生します。また、ふくらはぎの肉離れ、すねの内側が痛くなるシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)などもランナーに多いスポーツ傷害です。
ケガを引き起こす主な原因
ケガの原因は主に以下の3つが挙げられます。ひとつの原因だけではなく、それらが複合してケガを引き起こし、トレーニングが続けられなくなることも。
(1)オーバートレーニング
スポーツなどで生じた疲労が、十分に回復しないまま積み重なって引き起こされる慢性疲労状態を「オーバートレーニング症候群」と言います。まじめで努力家のランナーほど、月間走行距離やベストタイムを目標にし、トレーニングのやり過ぎに陥るケースが・・・。疲労のケアが不十分だとパフォーマンスを発揮できなくなるだけではなくケガの原因となるので、普段から体調のチェックを心がけ、トレーニングの見直しや休息を心がけましょう。
白方さんは「速く走れる市民ランナーがこんなに大勢いるのは日本だけ。海外では3時間を切ったらまるで神様みたいな扱いなのに、日本では大会出場者の3%がフルマラソンを3時間以内に完走するサブ3と言われています。最近は速く走ることばかりに注力し、4時間以内に完走するサブ4、同じく5時間以内に完走するサブ5の人たちが無理な練習をして、ケガをするケースが増えています」と話しています。
(2)動作不良
関節、筋肉、腱に負担がかかる動きがクセになっていると、ケガの原因になります。筋トレやストレッチなどの身体を整えることにはあまり興味がなく、走ることだけが好きという人に、このようなケガが多いそうです。まずは、写真や動画で自分のフォームを知ることから始めてみてはいかがでしょうか。問題点に気づいたら、弱いところはトレーニングで鍛えて硬いところはストレッチで伸ばすなど、ランニングフォームを改善するためのトレーニングを行いましょう。
(3)ウォームアップ&リカバリー不足
マラソンやランニングでは瞬発的なケガは1~2割で、慢性的な疲労から起きるケガがほとんど。毎週のようにフルマラソンに出ているランナーも多く、疲労がたまり、ケガに繋がります。
白方さんは「ケガや故障を予防するために、走る前にストレッチをしたり、身体を温めたりする。そして、走ったあとはケアやリカバリーをする。こういったことを意識できていない人が多いですね。痛くなってからケアをしても、その段階ではすでに故障している可能性が非常に高いです」と話しています。
脚がつる原因とは?
マラソン中に足がつってしまい、思い通りの結果が出せなかったという経験がありませんか? オーバートレーニングやウォームアップ&リカバリー不足で筋肉がパンパンに固く張っている人ほど足がつりやすいのですが、自分がそういう状態であることに気づかず、ペースを上げてしまうことも原因のひとつです。
白方さんもフルマラソンを走ったときは、当日よりも翌日に筋肉が固まるとのこと。「高い負荷をかけたあとにつる人が多いので、しっかりとウォーミングアップをしたり、徐々に負荷をかけたりすることが大事です。昨年マラソン大会へサポートに行ったところ、大会終了後に苦しんでいる人が大勢いました。オーバーペースがいちばんの原因だと思います」と話しています。
疲労回復へのアプローチ
【入浴×スポーツ 第3回】で、ヒートショックプロテイン(HSP70)は熱などの刺激によって現れるたんぱく質で、72時間は継続して出ることをご紹介しました。それをふまえると、レース前後ではどのような入浴方法がおすすめでしょうか?
レース前におすすめの入浴法
陸上界では「レースの前日や当日に長湯をし過ぎると、筋肉が緩み過ぎて走れない」と言われています。日曜のレースであれば、マッサージや治療は水曜日までにし、木曜にぬるめのお湯(41度以下)に入り、しっかりと睡眠を取るようにしましょう。3日前の木曜に入浴することでヒートショックプロテインが発生し、いい状態でレースを迎えることができるでしょう。
レース直前は熱めのシャワーを浴びると、交感神経を刺激したり関節の動きが良くなったりします。また、心拍数が上がり、苦しさを感じにくくなるというメリットも。シャッキとするけれど、筋肉は緩みすぎないことが大切です。入浴の際は、給水と補水も忘れずに!
レース後におすすめの入浴法
慢性的な疲労があるときは、ランニングの後に入浴をしながらのストレッチがおすすめ。「ランニング後はいつもシャワーだけで済ます」という方は、まずはお風呂に入る生活習慣に変えてみましょう。
山を走るようなトレイルランナーは、ランニングとセットで温泉へ行くことも多いようです。ただ身体に高い負荷をかけているときは、あまり長く入らず、短めに入浴をしてください。
<お風呂でもできるストレッチ>
(1)お尻のストレッチ
椅子などに座って、右脚を左脚のひざあたりに置いて、身体を前に倒す。反対側も同様に行う。
(2)脚のストレッチ
立って行う場合は、左脚を前に出して脚を開き、左ひざと左脚のかかとが一直線になるように脚を曲げる。背筋を伸ばしたままゆっくりと上体を前傾させ、ふくらはぎをストレッチする。反対側も行う。
座って行う場合は、左ひざ下を床につけてかかとの上に座る。右脚を曲げて、足裏をひざの真下になるよう床につける。背筋を伸ばしたままゆっくりと上体を前傾させ、ふくらはぎをストレッチする。反対側も行う。
(3)胸のストレッチ
壁の横に立ち、右の手の平とひじを壁につける。その後、壁と反対側に身体をねじるようにして、胸を大きく開く。反対側も行う。
※ストレッチは、安全に十分配慮して行ってください。
おわりに
白方さんによると、意識の高い選手ほど自分の身体に関心を持ち、入浴時に筋肉をチェックしているそうです。「少し疲れている」「疲れている」「非常に疲れている」を感じながら、トレーニングをコントロールしたり、「今日は完全に休んで睡眠をとろう」と判断したりしています。お風呂は疲労を回復するだけではなく、自分の身体と向き合い、身体の声を聞く場所なのですね。