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絵本をよんでいる兄妹

「アニマシオン」とは? 読書への興味を育て、国語力を伸ばす実践方法を専門家が解説

子どもの活字離れが懸念される中、本への興味を育てるための手法として、ゲームやクイズを取り入れながら読書の楽しさを体験する「アニマシオン」が注目されています。アニマシオンの普及活動を行う『アニマシオンクラブ』の副代表で、小学校でアニマシオンを取り入れた授業を行っている藤條 学先生に、アニマシオンの内容や効果、おうちで手軽に行えるアニマシオンの実践方法などを教えていただきました。

最終更新日:2024.12.10

目 次

「アニマシオン」とは?

子供たち

PIXTA

「アニマシオン」はフランス語で 「魂や生命に息を吹き込み、躍動させること」を意味する言葉で、1960年代のフランスで生まれた概念です。

「英語ではanimationと書きますが、アニメーションとつづりは一緒でも、意味は違います。簡単にいうと『誘(いざな)う活動』のことで、フランス語の「アニメーター」は、他者に興味を持たせ、参加に誘い出す活動を行う職業のことを意味します。アニマシオンは、最初はスポーツから始まり、今では幅広いジャンルで、誰かと何かをつなぐような教育活動に近い取り組みを指します」(藤條先生)

今回紹介するのは読書へのアニマシオンですが、藤條先生によると、これは個人で楽しむ読書とはまったく違うものなのだそう。

「読書へのアニマシオン」とは、子どもの読書能力のレベルに沿って、遊びの要素を取り入れた読書への誘いといえます。楽しく読書の体験を増やしながら、読解力を育てていくようにする教育法です。

「読書へのアニマシオンには、『共同で行う』『推理的な要素がある』『活動自体が楽しい』という3つの柱があります」(藤條先生)

そう聞いても、すぐにはイメージできないかもしれませんね。
「読書へのアニマシオン」で実際にどのようなことを行うのか、家庭でも実践できる例とともに藤條先生に教えていただきました。

家庭でも簡単にできる「アニマシオン」実践例をご紹介

『読書へのアニマシオン75の作戦』(M・M・サルト著、柏書房) 、 『子どもの心に本をとどける30のアニマシオン』(岩辺 泰吏著、読書のアニマシオン研究会編集、かもがわ出版)

左:『読書へのアニマシオン75の作戦』(M・M・サルト著、柏書房)
右:『子どもの心に本をとどける30のアニマシオン』(岩辺 泰吏著、読書のアニマシオン研究会編集、かもがわ出版)

『読書へのアニマシオン75の作戦』(M・M・サルト著、柏書房)や、『子どもの心に本をとどける30のアニマシオン』(岩辺 泰吏著、読書のアニマシオン研究会編集、かもがわ出版)といった本では、読書へのアニマシオンの行い方がたくさん紹介されていて、その中には家庭で気軽に取り入れられるアニマシオンもあります。

次に、アニマシオンの実践例を藤條先生に教えていただきました。

クイズ形式で物語を楽しむ「〇×ゲーム」

まず、全員で物語を読みます。読み終わった後、ストーリーに関係した〇×問題を出します。

例)シンデレラはお城から帰る途中に帽子を落としてしまいました。
→ガラスの靴なので×

例)桃太郎の鬼退治に一緒に行ったのは犬、猿、うさぎです。
→うさぎだけが間違っているので×

最初は簡単な問題からスタートして、次第に難しくしていくのがポイント。
大勢で行う場合は、最初は全員立っていて間違った人からその場に座るといったゲームもできます。

物語をしっかり聞いた人が勝利する「ダウトをさがせ」

これは読み聞かせの後に行うゲームです。

1.読み手は最初に「ダウト」として読み間違える場所を決めておきます。

2.一通り読み聞かせます。

3.子どもに「もう一度読むから、読み間違えているところがあったら『ダウト』と言って手を挙げて」と説明します。

4.「ダウト」の声が上がったら、間違えたところの正解を確認してから先に進みます。
明らかに違うものを入れておくと、盛り上がるでしょう。

「このゲームを『ももたろう』で行うとしたら、『昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは、 川へ洗濯に行きました』というように、わざと間違えて読みます」(藤條先生)

想像力を駆使して詩を完成させる「こぼれ落ちた文字」

アニマシオンクラブ代表の岩辺泰吏さんが考案し、藤條先生も授業で実践しているという詩の絵本を使うアニマシオンです。

1.見開きページの1カ所ずつなど、詩の一部を隠します。隠した文章の文字を1字ずつカードに書いておきます。

2.答える側は、他の部分の文章や、挿絵がある場合はそれもヒントにして、隠された箇所の文章を想像し、文字カードを並べ替えて言葉を作ります。

3.答えるときに、なぜその言葉がふさわしいかという理由も話してもらいます。

4.最後に隠していた文章を示して、もう一度通して全員で読みます。

「詩の場合は音読することがとても重要で、音読すると詩のリズムなどの特徴がよく分かります。小学校では『あくま』(作:谷川俊太郎 発行:教育画劇)という絵本でグループごとにこのゲームに取り組んでもらい、とても盛り上がりました」(藤條先生)

子どもの年齢による「アニマシオン」の取り入れ方

女性と子供たち

PIXTA

幼児

普段親しんでいる絵本でアニマシオンに取り組んでみましょう。本を選べるようになってきたら、自分の好きな本を選ばせてやってみるのもおすすめです。

「前述の『〇×クイズ』であれば、童話でもすぐ取り入れられ、簡単な質問であれば3歳くらいから楽しめるでしょう。例えば『うらしまたろう』であれば、『お話にどんな人が出てきたか、〇か×か言ってね』『王子様は出てくるかな?』『亀は出てくるかな?』といった質問をどんどんして、〇か×で答えてもらいます。答え終わったら、『お話をよく聞いていたんだね』と褒めてあげるといいでしょう」(藤條先生)

小学生(低学年~中学年)

小学校入学以降は、学校の教科書を使って、前述の「ダウトをさがせ」のような簡単なアニマシオンに親子で取り組んでみましょう。国語を好きになったり、国語力をアップさせるきっかけ作りにもなります。

「音読カードに家の人がサインをするという宿題を出す小学校は多いと思いますが、自分のクラスでは音読カードをなくし、『明日、アニマシオンするよ』というと、子どもが喜んで音読の宿題をしてくるということもありました」(藤條先生)

小学生(中学年~高学年)

中学年・高学年と年齢が上がり、子どもが精神的に成長してくると、承認欲求が高まってきます。自分の意見を言って他人に認めてもらうような機会をアニマシオンの活動で作ることができます。

『10歳の質問箱 なやみちゃんと55人の大人たち』(編:日本ペンクラブ「子どもの本」委員会 発行:小学館)

『10歳の質問箱 なやみちゃんと55人の大人たち』(編:日本ペンクラブ「子どもの本」委員会 発行:小学館)

「『10歳の質問箱 なやみちゃんと55人の大人たち』(編:日本ペンクラブ「子どもの本」委員会 発行:小学館)を使って、道徳の授業でアニマシオンをしたことがあります。多くの質問が出てくる本なので、質問を1つずつコースターに書いて重ねます。コースターを1枚だけ引いて、砂時計を使って1分間黙って回答を皆で考えます。1分経ったら一人ずつ質問に対する回答に答えていき、1番いい回答だと思った人をみんなで一斉に指さし、その人はコースターをもらえるというゲームです。このようなアニマシオンは家庭でも取り組めるでしょう」(藤條先生)

読書へのアニマシオンにはこんな効果が!

本を読む女の子

PIXTA

遊び心を持って読書の世界に触れられるアニマシオンには、さまざまな効果があるそうです。国語や道徳の授業などでアニマシオンを実践する藤條先生に、子どもたちにとってアニマシオンがどのような効果があるのかを伺いました。

【アニマシオンの効果】本に親しみ、物事への関心を深める

アニマシオンは楽しく、自然に本に親しむことができ、さらに物事への興味を深めることもできます。

「アニマシオンは楽しく活動するのがルールなので、アニマシオンを行ったクラスの子どもたちが『アニマシオンやらないの?』と希望してきたり、アニマシオンで紹介した本に興味を持ってくれたりすることも多いですね。例えば、大豆の学習をして味噌についての本を使ってアニマシオンをしてみると、親しむという段階からさらに興味を持ってくれる様子を感じます」(藤條先生)

アニマシオンは、単に本に親しむだけでなく、本に描かれている題材に興味を持つきっかけになるということですね。

【アニマシオンの効果】国語力を伸ばす

「国語というのは話す力、聞く力、書く力を伸ばす教科でもあります。アニマシオンでゲームやクイズをやったりすると、聞き合ったり話し合ったりする機会を増やすことができます。

また、最近の子どもは本の一字一句を読んでいくということ自体が苦手な傾向がありますが、アニマシオンは本の内容と文字にしっかりと向き合うきっかけになります。そして、本の内容を質問し合うようなやり方もあるので、そういった活動では『どういう質問をすればいいのか』と考えることにより、質問力も上がるでしょう」(藤條先生)

【アニマシオンの効果】集中力がつく

アニマシオンの活動には、さまざまな働きかけや問いかけによって本の世界に入り、集中力が上がるという教育的効果があります。

「今の時代は情報過多でスマホやタブレットの使用時間も長くなりがちですし、子どもが目を閉じて話を聞く機会はあまりないでしょう。僕は時々子どもたちに、『頭のテレビをスイッチ・オン』と呼びかけて、机に伏せて目を閉じて短い物語を聞いてもらいます。低学年は喜んでやってくれる子が多いですが、これもアニマシオンの一種だと思います」(藤條先生)

【アニマシオンの効果】想像力を育てる

アニマシオンでは物語について考える中で、想像力や空想力も培われます。

「算数、理科、社会の問いには答えがあるものですが、国語の質問の中には答えがなく、自分が想像して考えて回答するものがありますね。アニマシオンの活動は『今、登場人物はこういう気持ちだったかもしれない』と深く掘り下げて想像できるきっかけにもなります」(藤條先生)

おうちでアニマシオンを行うときに注意したいこと

男性と女性と子供たち

PIXTA

家庭でアニマシオンを取り入れるときは、アニマシオンはあくまで「楽しむ時間」だということを念頭に置いて行いましょう。回答がすぐ出てこなかったり、答えが間違ったりしていても、怒ったり注意したりしないようにすることが大切です。

「例えば、家族で意見を言い合うアニマシオンをする場合、家族にはヒエラルキーがあるので、子どもの発言が生意気に感じられることもあるかもしれません。そんな場合でも、子どもの日々の生活態度などの注意を持ち出したりせず、一つの人格、個性を持つ人物としてニュートラルな姿勢で話を聞いてあげることが大事だと思っています。自由な意見を引き出せれば、こんなことも言えるようになったんだと、子どもの成長を感じられる機会になるでしょう」(藤條先生)

アニマシオンの前段階には絵本の読み聞かせを

絵本を読む女性と子供たち

PIXTA

一緒に楽しく本や絵本を読みながら、本に親しんでいくアニマシオン。

本格的にアニマシオンに取り組む前段階として、まずは乳幼児期から親が絵本を読み聞かせてあげて、絵本に親しむ素地を作ってあげるといいでしょう。読み聞かせで絵本の世界を体験し、本の楽しさに触れておくと、アニマシオンにもすんなりと入っていけるはずです。

おわりに

「アニマシオンはお母さんやお父さんが絵本を読んであげるとき、子どもと一緒に絵本で遊ぶための手だてともいえます。1冊好きな絵本ができたら、また次の1冊というようにつながっていきます」と藤條先生。簡単なアニマシオンを取り入れて、推理や想像を働かせながら、子どもと本の世界を楽しんでみてください。

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  • この記事取材先プロフィール

    藤條学

    小学校教諭・アニマシオンクラブ副代表

    藤條学

    学校や図書館で使えるアニマシオンの手法を開発・ 普及する団体「アニマシオンクラブ」副代表。本場フランスのアニマシオン活動を視察するなどの豊富な経験を活かして、ワークショップによる体験型月例会の実施、ホームページでの情報提供などを行っている。

    アニマシオンクラブ

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公開日:2024.5.21

最終更新日:2024.12.10

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