ボードゲームとは?
子どもの思考力が鍛えられるというボードゲーム。ボードゲームに期待できる教育効果とは具体的にどんなものなのでしょうか? 日本ボードゲーム教育協会理事の財津康輔さん、坪内康将さん、伊與田一成さんに伺いました。
財津さんは、ボードゲームの定義を「コマやサイコロ、カードなどの実物を使って、実際に手で動かしながら進行するゲーム」と言います。パソコンや携帯ゲーム機などの電源を使うデジタルゲームに対して、アナログゲームと呼ばれることもあります。
将棋やトランプ、すごろく、オセロなど昔ながらのボードゲームや、マンガなどを題材にしたトレーディングカード、プレーヤーがお互いに交渉したり協力したりしながら目標達成を目指すゲームなど、さまざまなジャンルがあるボードゲーム。遊び方も勝つための戦略も多種多様で、頭の使い方にはゲームごとに工夫が必要です。
ボードゲームに期待できる教育効果とは?
同協会は「ボードゲームの活用が子どもの豊かな学びにつながる」と考え、ボードゲームが持つ「学びの要素」について研究しています。
その中で、子どもがボードゲームで遊ぶことによって身につく力には「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「創造力」の3つがあると考えています。
論理的思考力が身につく
論理的思考力とは、物事を筋道立てて考えていく力のこと。
「ボードゲームには『勝つ』という目的があります。プレーヤーは勝つために、そのときどきで情報を収集・分析し、計画・戦略・戦術を立てることが必要です」(財津さん)
古典的なボードゲームである「将棋」を例に挙げると、将棋の最終目標は「相手の王を詰ませること」。
「そこまでの道筋は無数にあります。相手の動きを予想して、自分のコマをどの位置に動かすか考えるのが『論理的思考』。ボードゲームを楽しむことによって、こういった力が自然に鍛えられるのです」(財津さん)
コミュニケーション力が育つ
「ボードゲームはコミュニケーション能力をフルに活用する場でもあります。ゲームの中では、人の意見を聞いて、調整したり交渉したりする場面があります。自分の考えを表明する場合には『どのように表現するか』だけでなく、それを『他の人がどのように受け取るか』も考えることが必要です」(財津さん)
また、ボードゲームはさまざまな感情を体験する場でもあります。
「勝ってうれしい、負けて悔しい、といった感情のほかにも、ゲーム中にジレンマを抱えて悩むことも多くあります。そういった気持ちをどう扱うかということもボードゲームで経験できることの一つです」(財津さん)
創造力が身につく
創造力とは、新しく価値を生み出す力のこと。大きな発明や発見だけでなく、日常のちょっとした思いつきも創造力によるものといえます。
「例えば、あるお題についてヒントを出して相手が当てるようなボードゲームでは、ヒントを出す側は、相手に当ててもらえるよう工夫します。一方、当てる側も、ヒントの内容に限らず、言い方やしぐさなど、言葉以外の情報も手掛かりにして正解を探ります。相手の考えを想像し、答えを見つける過程で創造力が求められるのです」(財津さん)
隠れた能力が開花することもある
子どもたちがボードゲームで遊ぶうちに、物事に対して積極的になったり、いつの間にか新しい能力を身につけていたりということもあるそうです。
「例えば『人狼ゲーム』は『だます陣営(人狼)』と『うそを見抜く陣営(村人・市民)』に分かれて、対話をしながら進めていくゲームですが、対話ができないと負けてしまうので、無口では勝てません。また、普段は真面目で正直な子でも、『だます側』になったら敵をあざむくためにうそをつかなければなりません。ボードゲームを楽しむようになったことで、無口で引っ込み思案だった子が、学級委員に立候補するほど積極性が増したという例もあるんですよ」(伊與田さん)
他にも、ボードゲームの中で点数やお金を扱うことで、それまでなかなか身につかなかった計算力だけでなく損得や効率の考え方まで身についたという例も。
「ボードゲームが、子どもが何か身につける際の新しい手段にもなりえると思います」(坪内さん)
「そもそも一人で画面に向かうデジタルゲームと違い、ボードゲームはその場にいるみんなで進めていく必要があります。そのため、遊びを通して主体性や積極性が学べるのです」(財津さん)
専門家おすすめのボードゲーム9選!
ボードゲームで楽しく遊ぶためには、子どもの発達段階に合った内容のものを選ぶことが重要です。財津さんに、年齢別のおすすめゲームを教えていただきました。
幼児におすすめのボードゲーム
幼児期のお子さんにゲームを選ぶ際のポイントは次の4つ。
- コマなどが大きい(手に持ちやすい)
- カラフルで目を引くデザイン(視覚的に興味を引きやすい)
- プレーヤー全員がゲーム全体を同じように見渡せる(全員が視点を共有できる)
- プレイ時間が短い(1回10~15分程度)
例えば、カードを何枚も手に持って、さらに他人に見られないようにするのは幼児期の小さい子にはかなり難しいことです。そのため、カードをめくって場に出すだけなど、操作が単純なものがおすすめです。
小さいうちは親子で遊ぶ場面が多いので、2人から遊べるボードゲームを紹介していただきました。
レインボースネーク(虹色のヘビ)
カラフルなヘビの体の一部が描かれたカードを使って1匹のヘビを完成させるゲーム。
カードを1枚ずつめくって場に出すだけなので、小さい子でも参加可能。色・形の認識、カードを出す場所の選択などを通して論理的思考力の基礎を育むことができます。
はじめてのゲーム・果樹園
果樹園にあるフルーツを、カラスに横取りされないよう皆で協力しながら採取していくゲーム。
参加者同士に勝ち負けがなく、目安のプレイ時間も10分程度と短いので小さい子も一緒に楽しめます。色の認識、順番などの基本ルールが身につきます。
窓ふき職人
いろいろな形・大きさの窓が並んだ盤面から、指定された形・大きさの窓をいち早く探すゲーム。
目で見た情報を把握して、いかに早く見つけるかという初歩的な判断力が問われます。カードの向きによって窓の見え方が変わるため、大人でも間違うという意外な難しさも魅力なのだとか。
小学校低学年におすすめのボードゲーム
学童期に入ると、手指の使い方が発達し、カードを持ったままプレイできるようになってきます。
「自分以外の物事にも少しずつ関心を持つようになる時期なので、相手の手札を予想することが勝利につながるゲームを選ぶとよいでしょう」(財津さん)
ペンギンパーティ
5色のペンギンカードを順に出してピラミッド状に並べていきます。ピラミッドに置けるのは下段と同じ色のカードだけで、手札が出せなくなったら負け。
出せる手札はあるけど、他のプレーヤーを負かすためには出したくない・・・というジレンマの中で選択を迫られる場面もあり、他の人の手札を想像したり、次の展開を予想する思考力とともに、冷静な判断力も問われるゲームです。
ゆかいなふくろ
手札の数字カードをタイミングよく場に出して、場に出ているカードを獲得していきます。カードの数字と同じタイミング(「3」なら3番目、「4」なら4番目)で手札を出した人が場のカードを獲得でき、獲得枚数が多い人が勝ち。
カードが獲得できるよう、出す順番を考える思考力が問われます。基本のルールと正反対の「獲得した枚数が多いほど負け」というやり方も存在するので、両方のルールで勝つためには頭の切り替えが必要。
ハゲタカのえじき
手札になる数字カードを使って得点カードを獲得していくゲーム。
得点カードを獲得するにはその場で一番大きな数字を出す必要がありますが、同じカードが2枚以上出ると、その次に大きな数字カードを出した人が得点カードを獲得します。
得点カードを獲得するために強いカードを出したいけど、他の人と同じ数字カードは出せない・・・とジレンマを抱えながらプレイすることに。論理的思考力に加え、柔軟性や忍耐力など精神面も鍛えられます。
小学校高学年におすすめのボードゲーム
小学校高学年になると、論理的思考力もかなり発達していきます。自分なりの考えを持ち、柔軟な発想力で大人が負かされてしまうことも。
この年齢層におすすめなのは、プレーヤーみんなで協力して目標を達成する「協力型」のゲームや、計画性を必要とするゲーム、他のプレーヤーの動きを予測しながら戦略を立てて進めていくゲームなど。プレイ時間が長めでも最後まで集中してできるでしょう。
花火:スターマイン
皆で協力しながら、指定された色の花火カードを正しい順番に出し、花火を完成させるゲーム。
自分の手札を裏返して持つため、自分のカードが自分で見えず、他のプレーヤーのカードだけが見えるというルールなので、他のプレーヤーからの断片的な情報を手掛かりに手札を出す必要があり、記憶力や推理力が求められます。
宝石の煌(きらめ)き
各プレーヤーが宝石商になって、宝石や鉱山などの資源を獲得して得点を稼いでいくゲーム。
1人がある得点に達した時点でゲーム終了なので、勝つためには短期・中長期の計画をしっかり立てる必要があります。状況に応じて計画を変更したり、駆け引きしたりする場面もあり、高度なコミュニケーション能力・論理的思考力が問われます。
チケット・トゥ・ライド
盤面の地図に路線図が描かれており、特定の駅と駅を早くつないで高得点を目指すゲーム。
カードに記された目的地の路線をつなぐと得点になりますが、達成できないと得点分が逆にマイナスになるペナルティーが課されます。他のプレーヤーに邪魔されずに目指す路線をつなぐため、つなぎ方を工夫したり、他のプレーヤーの目的を推理したり、といった思考力が求められます。
子供とボードゲームで遊ぶときに気をつけたいこと
子どもと楽しくボードゲームで遊ぶために知っておきたいことを伺いました。
親子で一緒に遊ぶ場合の注意点
親も本気でやる
大人が子どもと遊ぶときに特に大切にしたいのは「本気で遊ぶこと」だと財津さんは強調します。
「特に小さい子ほど親の様子に敏感なもの。『子どもの遊び』と決めつけず、親も本気で遊ぶ姿を見せることはとても大事。また、ゲーム中の親の様子から、失敗しても危険なことが何も起きないのだということが伝わります。ボードゲームの場は安全で安心できると分かれば子どもも積極的にチャレンジするようになります」(財津さん)
子どもとの遊びでは親はどうしても手加減しがちですが、それはよいのでしょうか。
「なぜ手加減が必要かを考えて、勝つ喜びを味あわせたい、など理由があればいいと思います。ただしバレるとしらけてしまうので、手加減は細心の注意を払って行ってください。その一方で、試行錯誤も学びのうち。負けて悔しい、と感じる体験も素晴らしいことです。
とはいえ、小さいうちは自分で感情をコントロールできないので、『悔しかったね』と子どもの気持ちを代弁したり、気持ちの切り替えができるようフォローしたりということをくり返してはいかがでしょうか」(財津さん)
熱くなり過ぎない、過度にアドバイスしない
伊與田さんは大人側の配慮として「熱くなり過ぎないこと」「過度にアドバイスしないこと」の2つを挙げます。
「大人がゲームに熱中すると、子どものせいで中断されたりスムーズに進まなかったりすると怒りを感じてしまうことがありますよね。そうならないように大人は気持ちにゆとりを持ちましょう。過度なアドバイスもNG。子どもの創造性をうばうことになりますし、実はそのアドバイスが最善の手段ではないことも多いです」 (伊與田さん)
子供が飽きてしまった時には?
ゲームの途中で子どもが飽きてしまったり、機嫌が悪くなったりするのもよくあること。とはいえ、できれば楽しく続けたいものです。
原因として多いのは、ゲームの選び方に問題がある場合。年齢の割にルールが複雑なため理解できなかったり、プレイ時間が長すぎたりするのかもしれません。
「負けそうになってイライラしたり、負けるのがイヤで途中で抜けてしまったりすることもよくあります」(坪内さん)
こういった場合には「無理に続けさせる必要はない」というのが同協会の見解。
「お子さんの特性とゲームが合っていなかっただけ、ということもあります。また、その時点ではできなくても、後になってできるようになりお子さんの成長に気づくこともあります」(財津さん)
坪内さんは「負けそうになってイライラするのは、逆に言うと先を見通す力があるということ。負けたくないから途中で抜ける、というのも一つの行動力といえます」と指摘します。
「いつでもやめてよい、ということが安心材料になることもあります。ただ、他のプレーヤーがどう感じるかも考えてほしいので、そこを伝えておくことも大事です」(財津さん)
子供同士で遊ばせる場合の注意点は?
子ども同士で遊んでいるときには、親は「見守る」のが基本です。
ただし、相手に手を出したり、言葉で傷つけたりするようなときは大人の介入が必要。また、ルールを聞かれた場合など、子どもからの問いかけには対応してかまいませんが、それ以外は見守りにとどめましょう。
「大人から見ると、ハラハラしたり、ルールが間違っていたりすることがありますが、子どもたちの中で合意ができていれば子どもたちに任せましょう」(財津さん)
子どもと同じ部屋にいたとしても、ボードゲーム中の子どもたちは魔法陣に囲まれて別世界にいる、と考えるとよいかもしれませんね。
子ども同士で楽しく遊ぶために、財津さんがおすすめしているのは「『この人とまた遊びたい』と思われるようにふるまおう」と親が子どもと約束すること。
ボードゲームは誰かと一緒でなければ遊べませんから、こういった約束をすることで、自分勝手なことをしたり、他の人を傷つけたりしないよう子どもが気を付けるようになります。
おわりに
ボードゲームという遊びの中に、さまざまな学びの要素があることが分かりました。それでも「一番大事なのは楽しむこと」だと財津さんは強調します。
今回は、子どもとボードゲームを行う際のコツや、年齢別のおすすめゲームを紹介していただきました。楽しみながらさまざまな力が鍛えられれば一石二鳥。ボードゲームは遊びながらコミュニケーションも深められるので、外出できない休日などに親子で楽しんでみてはいかがでしょうか。