デジタルデトックスとは?
「デジタルデトックス」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?
スマホやPC、タブレットといったデジタル機器が普段の生活や学校でも欠かせない存在となっている今、なぜ子どもたちにとってデジタルデトックスが必要なのでしょうか。「DIGITAL DETOX JAPAN」の理事の森下彰大さんにお話を伺いました。
まず、デジタルデトックスとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
森下さん「“デトックス”(解毒)という言葉からイメージしやすいと思いますが、デジタル機器から一定の距離を置いて使用しないことにより、心身のストレスを軽減することを指しています」
といっても、デジタル機器を全て手放して生活するといったことだけがデジタルデトックスの方法ではないそうです。
「普段の生活の中でデジタル機器を使用する場所や時間を制限する、たとえば食事中はスマホをみない、仕事中はSNSの通知をオフにするといったこともデジタルデトックスの取り組みだといえます」(森下さん)
デジタルデトックスはいつ頃・誰が始めたの?
デジタルデトックスという言葉は2013年、オンライン版オックスフォード辞典に登録され、市民権を得たといえます。
森下さん「誰か提唱者がいて始まったということではないのですが、それ以前からヨーロッパではデジタル漬けの生活を問題視する動きがありました。その流れを受けて、アメリカでもデジタル機器を持ち込まず、キャンプや宿泊施設に行くという取り組みが始まっていきました」
森下さんによると、日本でもデジタル機器とのより良い距離の取り方を学んでいく必要があるけれど、現在は個人の自助努力に委ねられている状態で、デジタル機器依存の問題を感じながらも対処の仕方が分からない方が多いのではないかとのことです。
デジタルデトックスはなぜ必要?
スマホをはじめとしたデジタル機器が生活にも仕事にも欠かせない中、なぜデジタルデトックスが注目されてきているのでしょうか?
デジタル依存の危険性
「気づくとスマホばかり見ている」「トイレや寝室にスマホを持っていく習慣がある」そういう方は、デジタル依存に陥っている可能性があります。
子どもの場合、デジタル機器を自由に使える環境にあって、外で遊ぶこともなく室内で画面ばかり見ていることも。言い聞かせても、引き離すことが難しくなってしまうケースは依存度が高いと言えるでしょう。
森下さん「脳は新しい情報が大好きで、常に新しい情報に反応します。例えば、ゲーム、SNS、ニュースなどでランダムに刺激を与えられると依存しやすいです。子どもの場合、自制心を司る脳の前頭前野はまだ発達過程のため、依存性の強いものに対して、コントロールがきかなくなる可能性があります」
デジタル依存に陥ると、以下のようなリスクがあります。
【デジタル依存のリスク1】SNSの多用による問題
昨今、SNS上でのコミュニケーションに疲れてしまっているという話もよく耳にします。
2017年には既にピッツバーグ大学の研究チームが、SNSをよく利用する人は社会的孤立を感じやすいという研究結果を発表しています。
SNSは人と人を密につなげるツールですが、SNSにより孤独が深まるとしたら、皮肉としか言いようがありません。
出典:ピッツバーグ大学「More social connection online tied to increasing feelings of isolation」
【デジタル依存のリスク2】睡眠の質の低下を招く
布団に入ってスマホを見ていたら眠れなくなってしまったという経験のある方も多いのではないでしょうか。
スマートフォンやパソコンのLED照明に含まれているブルーライトは強すぎるため、脳が活性化してしまい睡眠のリズムに影響する可能性があるといわれています。
【デジタル依存のリスク3】直接的なコミュニケーション不足に陥る
人と話している時にもついスマホを見てしまい相手の顔を見ていない。そんなことはないでしょうか?
2021年に日本でもベストセラーになったアンデシュ・ハンセンの著作『スマホ脳』では、テーブルを挟んで会話した時、スマホを机に置いてしまうと会話を楽しめず、相手に共感もしにくく信頼できないと感じるという研究※が取り上げられています。
スマホが介在することで、直接的なコミュニケーションが取りにくくなってしまっているのかもしれません。
※出典:セージ・ジャーナル「Can you connect with me now? How the presence of mobile communication technology influences face-to-face conversation quality」
【デジタル依存のリスク4】集中力が下がる
スマホが常に気になっているとマルチタスクになり、集中力が低下すると考えられています。宮城県仙台市で行われた「学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト」では、スマホを見る時間が長いと、学習効果が落ちる可能性があるという調査結果も公表されています。
出典:学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト「スマートフォン・携帯電話の長時間使用が学力に悪影響を与える!」
親子で始めるデジタルデトックス
子どもにデジタルデトックスをさせるには、どうしたらよいのでしょうか。
森下さん「デジタル機器は、子どもの願いを何でも叶えてくれて楽しませてくれます。一方的に取り上げてしまうと、子どもにとっても、親子関係にとってもよくありません。デジタルデトックスは子どもだけにやらせるのではなく、パパやママも一緒に取り組んで、家族のコミュニケーションの時間を増やすようにしましょう」
つまり、デジタル依存の問題は子どもだけでなく親も自分自身のことだと捉え、家族でデジタルデトックスに取り組むことがポイントになります。
日常の中にデジタルデトックスを取り入れるには、続けられるルールを作って、それを守っていくことが大切です。親子で話し合いながら、試しながら、より良いルール作りを目指しましょう。
デジタル機器を使わない時間を決める
デジタル機器を使用する時間に制限を設け、定期的に使用しない時間を決めましょう。具体的には、食事中、就寝前には使用禁止、スクリーンタイムによる使用時間の制限などを設定するのがよいでしょう。
デジタル機器を使わない場所を決める
家の中でデジタル機器を使わない部屋を決めるのもよいでしょう。
森下さんによると、デジタルデトックスを始めたばかりなら、まずは寝室に持ち込むのをやめること。その他に、中学生や高校生なら食事の席やトイレ、小さいお子さんの場合、親の目の届く場所でのみ使用させるようにするなど工夫するのが良いようです。
家族全員でルールを守ることが大切
親子一緒にデジタルデトックスに取り組み、親子のより良い時間を作るためには、子どもにルールを守らせるだけでなく、親も一緒にルールを守りましょう。デジタルデトックスは家族全員で行うのが理想です。
デジタルデトックス中の過ごし方のヒント
親子でデジタルデトックスを行う時には、デジタル機器から離れることで不安になったりしない過ごし方を考えましょう。またデジタルデトックス中だからこその楽しみを見い出すことが、デジタルデトックスを成功させる決め手にもなります。
視線を交し合いコミュニケーションを
デジタル機器に取られていた時間を取り戻すことによって、直接的なコミュニケーションの機会が生まれます。視線を交わし合い、ゆっくりと会話するだけでも親子の信頼関係が育まれ、子どもにとっては何よりの楽しい時間になります。
家族で一緒に楽しめることを探す
旅行やキャンプ、家族で楽しめるスポーツ、散歩、アナログゲームなど、リフレッシュできる楽しみを探しましょう。
また、デジタル機器から離れて、家族で企業館に行ってみるというのもいいでしょう。東京ガスの企業館「がすてなーに ガスの科学館」がおすすめです。
東京ガス「がすてなーに ガスの科学館(豊洲)」とは?
「がすてなーに ガスの科学館」では「自分で見て、聞いて、触って、嗅いで」と五感を駆使して楽しみながら理解する体験型展示物に加え、個性豊かなコミュニケーターによる、展示物やプログラムを提供しています。
やってみた! 親子でデジタルデトックス
森下さんよりアドバイスをいただき、筆者が小学5年生の娘と一緒にデジタルデトックスを実践してみました!
今回決めたルール
ルールを決めるにあたり、なぜデジタルデトックスが必要かを娘に話しました。
森下さん「日本では全ての小学生に1人1台タブレット端末を配布することになりましたが、デジタル機器によるリスクを十分に伝えていません。便利だし、楽しいけれど、使い過ぎてしまうと良くないこともあります。休みながら使わないといけないことを説明しましょう」
娘に話してみると、意外にも納得したようにうなずき「確かに夢中になってしまう。ずっと使っているのはよくないかも」と同意してくれました。子どもはデジタル機器に順応するのが早くて熱中しますが、娘もそういう状態がよいとは心から思ってはいなかったようです。
娘が主に使っているデジタル機器はタブレット端末で、アプリゲームでよく遊んでいます。そのため、以下のようなルールを設けました。
【ルールその1】寝室にデジタル機器を持ち込まず、目覚まし時計を置く
初めてデジタルデトックスを行う際、森下さんが推奨しているのは、寝室にデジタル機器を持ち込まないこと。また、目覚まし時計を使って持ち込まずに済む仕組み作りをすることです。わが家でもまずここから始めることにしました。
【ルールその2】就寝30分前、電車の中、食事中は使用禁止
筆者も娘も電車に乗ることが多く、その時間に筆者のほうがスマホばかり見てしまいがちです。ここは、娘に本気であることを伝えるために、あえて電車の中も使用禁止にしました。
【ルールその3】スクリーンタイムでゲームを1時間までに設定
「1時間までね」と伝えるだけで守るのは難しいのでスクリーンタイムを使い、1時間しか使えないようにしました。筆者自身もTwitterを15分に制限します。
途中経過
【開始から2日目】
春休み中のため、散歩でも行こうと思っていましたがあいにくの雨。お駄賃をあげて娘にお掃除を手伝ってもらい、新学期の準備をしました。今までは長時間自宅にいるとゲームの時間が長くなりましたが、有意義に時間を使うことができました。
ただ筆者のほうがSNSに連絡がきているのではないかと気になって、ムズムズするような感覚が・・・。スマホとタブレット端末を別室に置いていましたが、思ったよりその存在感が大きいなと感じました。
【開始から7日目】
今日は友達の家に親子で遊びに行きました。日中はゲームで遊ぶこともありましたが、夕方から公園に。桜や雪柳など春のお花が咲いていて心地良く、子どもたちも伸び伸びと身体を使って飽きずに遊んでいました。
スクリーンタイムで制限した結果、Twitterは気にならなくなりました。しかし、友達や習い事、学校関連の連絡で使っているLINEの使用時間が思ったよりも長く、連絡用とはいえ、実際にそんなに必要なのかな? と思いました。そこで、LINEも1時間に制限してみました。
【開始から10日目】
新学期が始まりました。娘は寝起きが悪く、場合によっては険悪な雰囲気になってしまうこともあったのですが、目覚まし時計の音ですんなりと起きることができました。しっかり頭が起きているようで、着替え、食事、歯磨きなどもスムーズです。寝室からデジタル機器を無くしたのは良かったのだと思います!
筆者の仕事についても、スマホを机に置かないほうがやるべきことに集中できて時間も早く終わると感じました。
初めてのデジタルデトックス 親子の感想
始めてからまだ2週間ですが、思ったよりも大きな影響がありました。
「朝だるい感じがなくなって楽に起きられた。ゲームも好きだし、パソコンにも興味があるけれど、外で遊ぶのもやっぱり楽しいなって思った」というのが娘の感想でした。
筆者はまず自分が使っているつもりが、いつの間にかデジタル機器に振り回されていたのだと気付いたのが衝撃でした。また、デジタルデトックス自体はとてもシンプルなのですが、習慣となっていることを変えるのはとても難しかったです。子どもと一緒だからこそ、頑張れた面がありました。
おわりに
森下さんによると、「スティーブ・ジョブズなどITリテラシーが高い人ほど、実は自分の子どもに対してデジタル機器の使用を制限したり、ルールを設けたりしています」とのこと。
デジタル機器は便利ですが、お子さんの脳への影響や依存性を認識しておくことが大切です。デジタル機器に振り回されるのではなく、しっかり必要なだけ使いこなせるよう、付き合い方を見直すためにも、デジタルデトックスを上手に生活に取り入れていけるとよいですね。
また、デジタルデトックスによってデジタル機器を休ませることは、電気を使わない時間が増えるということ。そこで、この機会に電気代についても見直してみませんか?
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