探究学習とは? 従来の調べ学習との違いとは?
昨今、教育の手法として「探究学習」が関心を集めています。小中学校では「総合的な学習」の授業の中で段階的に実施され、高校では「総合的な探究の時間」として必修科目とされました。
なぜ、今、探究学習が注目されているのでしょうか。従来の調べ学習とはどう違うのでしょうか。探究的なプログラムを提供する、東京・三鷹市の学習塾「探究学舎」の窪田康孝さん(以下、窪田さん)にお話を伺いました。
ーーー探究学習とは、そもそもどのような学習なのでしょうか。
(窪田さん)自ら問いを立て、自分で調べて分析して、自分なりの答えを導き出していくことを「探究学習」と言います。「知りたい」という気持ちは、人間が生まれながらに持っている根源的な欲求です。
従来の「調べ学習」との違いは、探究学習には唯一の正解がないこと。「あらかじめ正解があり、その正解にたどり着くのが学び」だと限定すると、子どもが本来持っていた「もっと知りたい」という気持ちが薄れてしまいます。探究学習では子どもの「知りたい」という気持ちや主体性を大事にしていきます。大人は、子どもの学ぶ意欲を潰さないように、サポートしてあげるのが大切です。
探究学習が注目される理由
ーーーなぜ探究学習が今注目されているのでしょうか。
(窪田さん)最近、VUCA※の時代とも言われますが、社会課題が複雑化し、未来を予測するのが不可能になってきています。AI化や情報技術の進展により社会が変化するスピードは早くなりました。また人々の価値観も多様化し、SDGsやマイノリティへの配慮など、多様で複雑な社会課題に同時に対処していく必要が出てきたのです。
こうした正解のない時代には、知識の価値が下がっていきます。知識があることより、自分で課題を見つけ出し、自ら解決していく力が大切になります。つまり「答えを出す力」よりも、「課題(問い)を作り出す力」の方がより重要視されてきていると言えます。また、課題を設定するには、周りの人たちとの関わりの中で新たな視点を見出すことも重要です。そのために、「主体的で対話的な学び」である「探究学習」が注目されているのです。
※VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語。社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなること
探究学習を始める時期
ーーー探究学習は、公立校では高校から必修になりました。始める時期としては高校生からでよいのでしょうか。
(窪田さん)高校生になると、受験や進路について考える時期になります。「あなたはどう世界と関わっていきますか」「人生をかけて何にエネルギーを使っていきますか」という本質的な課題に向き合い、自分と社会との関わりについてリアルに考えられるようになってきます。
ただ、こうした課題に向き合っていくには、日頃から自分で考える癖をつけておく必要があります。小さい頃から探究学習を取り入れて、考えるトレーニングを行っていくとよいでしょう。
昨今は中学受験や習い事などで小学生の頃から忙しい子も多く、自分で自由に探究していく力が育ちにくい環境にあります。子どもが好きなものに使うエネルギーを失わないよう、大人は子どもが本来持っている好奇心に丁寧に応えてあげたいですね。
家庭で探究学習を取り入れるためのコツ
ーーー家庭で探究学習を取り入れるには、親はどのようなことを意識すればよいのでしょうか。
(窪田さん)日頃から探究する習慣がないと、自ら考えることをしなくなってしまいます。大事なのは考えるトレーニングを意識して行うこと。とは言っても難しく考える必要はなく、「これってどうなんだろう?」「どうしたらもっと上手くいくんだろう?」みたいなシンプルな疑問に自分自身が素直に反応することで大丈夫です。
題材は何でも構いません。例えば、戦うゲームが好きだったら、どうすればより勝てるのか。以前の自分と今の自分はどう違うのか。他のプレイヤーを見ていて強い人の特徴は何なのか。親がいろいろと質問を投げ掛けてみましょう。
探究学習のコツ1「子どもの様子を見守る」
(窪田さん)子どもが学んでみたいことが何なのか、本人の中にしかその答えはありません。親は普段の子どもの様子をよく観察することでそのヒントを見つけやすくなります。何が好きで何に時間を使っているのか。どんな話題が多いのか。親は子どもの興味があることに注目し、一緒にその時間を過ごし、一緒に楽しんであげればよいのです。
探究学習のコツ2「子どものペースに合わせる」
(窪田さん)子どもが新しいことにチャレンジするには、一歩を踏み出すためのエネルギーが必要です。ただ大人のペースに合わせて生活し、自分の意志と関係なしにやらされていることが多いと、子どものエネルギーはどんどん減ってしまいます。
子どもが好きなことをする時間を確保してあげましょう。例えば、ご飯の時間になっても、子どもが何かに集中していたら、その気持ちを尊重して、区切りのよいところまでやらせてあげます。
探究学習のコツ3「少しだけヒントをあげる」
(窪田さん)子どもが主体的に学びたいテーマが見当たらない時は、少しだけヒントを与えることも時には有効です。知識が全くないと子どももアイデアが湧かない場合があるので、最初の一歩は大人が見せてあげるのも一つの手です。
例えば、わが家で段ボールがたくさんあった時、その段ボールを自由に使って「ボールをより遠くまで飛ばせる道具を作るコンテスト」を開催しました。ですが、最初、子どもたちはアイデアが思い浮かばなかったのか、全く手が動きませんでした。そんな時に、私が一つボールを投げる道具を作ったら、子どもたちも興味津々で様子を見にきて、「なるほど! こういう視点があるのか!」と夢中になって工作していました。このように、きっかけは大人が作ってあげるとよいですよ。
探究学舎で実践! 探究学習で大切にしていること
ーーー探究学習は新しい概念で、教える側の大人も慣れていない可能性があります。どのように探究学習を取り入れたらよいのか分からないという方も。探究学舎では探究プログラムを提供する上でどんなことを意識しているのでしょうか。
(窪田さん)探究学舎では、探究学習を提供する上で以下のことを大切にしています。
・驚きと感動の種をまく
・本物であることを大事にする
・難しいことは難しいまま扱う
・子どものどんな問いも答えも許容する
驚きと感動の種をまく
(窪田さん)知ることはいくらでもできますが、大事なのは感じること。子どもは生き物や自然現象を見て感じていることがたくさんあります。知識として正しさを追求するより、あえてデフォルメしてでも、子どもが興味を持ってくれるような伝え方をしています。
本物に触れることを大事にする
(窪田さん)「子どもだから分からないだろう」という考えは一旦捨てて、本物に触れてもらうようにしています。例えば、「食編」という授業では、実際に食肉加工センターに取材に行き、そこでの屠畜の様子を授業で扱いました。それによって、自分たちの食は何があって成り立っているのか感じてもらいたいと思ったからです。
難しいことは難しいまま扱う
(窪田さん)子どもだから理解できないだろうとは思わず、子どもなりに感じることを大切にしています。例えば、経済の話ではリーマンショックなども取り上げました。「お金を稼ぐのは大事だけど、どう思う?」と、資本経済にどんな側面があるのかも一緒に考えました。一つの物事にも「見方や立場によっては良い面と悪い面がある」というモヤモヤ感を感じてもらうことも大切にしています。
子どものどんな問いも答えも許容する
(窪田さん)子どもが出した問いや答えを大人がジャッジすると、子どもはどうしても「正解すること」に意識が向き、自由な知的好奇心にふたをしてしまい、本当に感じたことを言いにくくなってしまいます。子どもの立てた問いや答えがどんなものでも、まずは許容し続けてあげることが大切です。横道に外れたり、失敗したことこそむしろチャンスで、一緒に楽しみます。その繰り返しが「どんな自分もあっていい」という自己肯定感を育てることにもつながります。
探究学習の題材や事例をご紹介!
ーーー探究学習を取り入れやすい題材や事例はありますか。
(窪田さん)最近は公立の学校でも、ディスカッションを取り入れる授業が増えてきています。探究的な学びにつながるので、ディスカッションは良い方法です。ただ、どんな題材でも大人側の探究的なスタンスが重要なのだと思います。大人が評価を与えてしまうとそれが正解になってしまいます。正しいか間違っているかではなく、その子なりの視点で答えにたどり着くのを待ってあげることが大切です。
探究学舎では、小学生向けに「実践探究」という講座を行っており、数カ月かけてその子のやりたいことを個別に伴走しています。ジオラマ作り、塩の精製、ペットボトル飛ばしなど子どもたちは多様な題材を自分で持ち込んで企画しています。
子どもたちを見ていると、子ども同士の会話を通じて周りからインスピレーションを受ける子も多いようです。弊社のような学習塾に通ってみる方法もありますし、ネットなどで他の子どもたちの探究学習の事例を探して子どもと一緒に見てみるのもよいですね。
手洗いロボットを開発した根木あやみちゃんの記事はこちら
おわりに
「探究的な学びを実践する上で大切なのは、大人が急かさないで子どもの答えを待ってあげること」と窪田さん。探究学習には、大人も子どもも余白が必要なのだと感じます。正解のない時代を生きる子どもたちにとって不可欠な、探究する力。学校任せではなく家庭でも育ててあげたいですね。
参考:文部科学省「総合的な学習(探究)の時間」