骨密度ってなに? 骨密度が下がるとどうなるの?
「骨密度とは、骨の強さを判定するための代表的な指標です。骨密度が低下すると、圧迫骨折などの骨折が起こりやすくなります。圧迫骨折とは、上下方向に圧力がかかることで背骨が折れる症状で高齢者に多く、自覚がないうちに骨折してしまっていることもあります」(内田さん)
内田さんのお母さまも、数年前、胸の痛みを感じていくつかの病院を回った際、古い圧迫骨折が痛みの原因だと判明したことがあったのだそう。
骨密度が低下し、自覚のないまま骨折してしまっていたということのないよう、骨密度を定期的に計測していくのがよさそうですね。
骨密度を測ってみよう
骨密度は医療機関などで測定できます。継続的に測定して骨密度の推移を把握しましょう。
内田さん「骨密度を計測する方法はいくつかありますが、おすすめは、DEXA(デキサ)法です。身体の中心部に近い、腰の骨(腰椎)と脚の付け根を測定します。DEXA法は、かかとでの計測と比較してデータの信憑性が高い点が特徴です。整形外科や婦人科で検査できることが多く、所要時間は10分程度。費用は保険適用で3割負担の方の場合3,000円程度で、結果も当日中に分かることが大半です」
どうして骨密度が下がるの?
骨密度低下の主な要因は次の3つです。
- 加齢
- 閉経
- 喫煙、多量飲酒、過度なダイエットなど
それぞれについて説明していきます。
骨密度が下がる要因1:加齢
「女性の骨密度は一般的に20代でピークを迎え、女性ホルモンが減少する40代から骨密度も減少していきます。さらに、50代から60代になると、急激に低下していきます」(内田さん)
そのため、40代を過ぎた頃から定期的に検査をして、骨の状態を確認することが大切だそう。
「60代に入ると、背骨の圧迫骨折が起こることがあります。背筋が伸ばせない、身長が3cm以上縮んだなど、普段と違う様子があれば、整形外科や内科を受診しましょう」(内田さん)
骨密度が下がる要因2:閉経
「女性の場合、エストロゲンというホルモンにより骨量が守られますが、50代を過ぎて閉経を迎えると女性ホルモンが減少し、骨重が低下していきます」(内田さん)
内田さんがご自身の48歳(閉経前)と52歳(閉経後)のデータを基に説明してくださいました。
内田さんの閉経前後の骨密度の変化
上の表の通り、普段から食生活などに気を配っているため、現在48歳でも、骨密度がもっとも多い26.1歳の数値より5~10%も高かった内田さん。そんな内田さんでも、閉経後は大腿部も腰椎も骨密度が減少していることが分かります。
骨密度が下がる要因3:喫煙、多量飲酒、過度なダイエットなど
内田さんによると、喫煙、多量飲酒、過度なダイエットは骨量を下げる要因となるとのこと。
他にも、ステロイド系の薬の使用や、日光に当たらない、運動不足、妊娠なども骨密度低下につながることがあるそうです。
30代も気をつけたい、骨密度が下がる要因
「実は30代でも骨粗しょう症予備軍の方は多いのです」と内田さんは話します。特に若い世代が注意したい骨密度低下の2つの要因について説明していただきました。
日光浴不足
「骨密度を低下させないためには日光に当たることも大切です。しかし、過剰なUVケアは骨の健康を維持するのに必要な皮下のビタミンD生成を妨げるので注意しましょう」(内田さん)
妊娠後骨粗しょう症
妊娠後骨粗しょう症は、妊娠をきっかけに骨密度が低下する症状です。原因はまだ分かっていないとのこと。
「出産6カ月後くらいに腰痛で気づくケースが多いです。MRI検査で6~7カ所骨折していることが分かることもあります。服薬で治療できますが、骨粗しょう症の薬は母乳に出てしまうので、治療中は子どもに母乳を与えられず、身体が痛いので抱っこもできなくなってしまいます」(内田さん)
「妊娠後骨粗しょう症」とは新しく認知され始めた症状です。内田さんは、症状に悩む女性のLINEチャットに参加し、アドバイスを求める人に助言をしたり、病気の認知を広げる活動も行っているそうです。
骨密度を上げるために効果がある栄養素は?
骨密度を上げるには、毎日の食事を見直して改善していくことも大切。
骨密度を上げるために効果的な栄養素は、上の表の通り「カルシウム」「ビタミンD」「ビタミンK」です。
「カルシウムは骨の材料になる栄養素です。そしてビタミンD、Kはそれぞれカルシウムの吸収を助け、吸収したカルシウムが骨に沈着するのに力を発揮します」(内田さん)
この3つの栄養素が含まれる食品ととりやすい方法について、内田さんに教えていただきました。
「カルシウム」を含む食品
カルシウムを最も手軽にとれる食品は牛乳です。
牛乳を飲むことやヨーグルトなどの乳製品全般が苦手な人に内田さんが提案するのが「乳和食(にゅうわしょく)」。
乳和食とは、和食に牛乳や乳製品を加えることです。
「お味噌汁に牛乳を加えると塩分が緩和されてまろやかなお味になり、カルシウムも取れます。スキムミルクをお料理に混ぜ込むこともおすすめです。味も変わりません」(内田さん)
また、内田さんは「魚介類や小松菜もカルシウムを多く含む食品です。魚介類は缶詰でとることもできますよ」とアドバイスします。調理に手間がかかるイメージの魚介類も、缶詰なら下ごしらえ不要で、骨ごと食べることもできるなど、手軽&効率的にとれそうです。
「ビタミンD」を含む食品
ビタミンDは主に魚ときのこに含まれます。
「魚介類ではなく『魚類』である点にご注意ください。貝やエビ、カニ、イカやタコにはビタミンDは含まれていません」(内田さん)
ビタミンDは鮭、アジ、サンマ、サバなど、おなじみの魚に多く含まれています。
なかでも内田さんのおすすめは鮭。
内田さんは「鮭はスーパーフード。一押しです」と言います。ビタミンDが多く含まれることに加え、定番の食材であり食生活に取り入れやすいからです。さまざまな料理に使えるほか、ふりかけとして鮭フレークを使うと手軽で彩りもよくなります。
「きのこは価格も安定していますし、冷凍保存も可能です。また干し椎茸のように乾物だと常備できて使いやすいです。また、ビタミンDは卵にも含まれているので、やはり卵を1日1個食べることは必要なんです」(内田さん)
「ビタミンK」を含む食品
「ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するのを助ける栄養素です。納豆が食べられる方は、1日1パック食べるだけで、必要なビタミンKを楽々摂取できますよ」(内田さん)
納豆以外には、小松菜やニラ、かぶの葉、青じそ、豆苗などにも含まれています。多くはありませんがわかめ、ひじきなどの海藻類にも含まれています。
「そして忘れてはいけないのは、納豆と小松菜にはカルシウムも多い点です。小松菜はカルシウム×ビタミンKの最強野菜です」(内田さん)
ただし、血をサラサラにする薬「ワルファリン」を服用している方は納豆を食べないようにしてください。納豆に豊富に含まれるビタミンKが、ワルファリンの効果を妨げてしまうからです。※
※参考:厚生労働省:2018年5月「高齢者の医薬品適正使用の指針」25頁
高齢者にもおすすめ! 骨密度改善のための簡単レシピ
骨密度を上げることに役立つ栄養素を効率よくとれて、高齢の方でも市販品を使って手軽に作れるメニューを内田さんに教えてもらいました。
サバ缶のキムチ炒め
サバには、ビタミンDの他にカルシウムも多く含まれています。缶詰を使えば下ごしらえも不要。缶詰は買い置きをしておけるのもよいですね。
材料(1人分)
- サバの味噌煮缶・・・160g
- 白菜キムチ・・・120g
- ニラ・・・60g
- モヤシ・・・60g
- 酢・・・大さじ1
- ごま油・・・大さじ1
- おろし生姜・・・小さじ1
- めんつゆ・・・小さじ1
作り方
- ニラは洗って2cm長さに切る
- サバは缶から出し、皿に乗せ、酢をまぶしておく
- 鍋にごま油を熱する
- ごま油でおろしショウガを炒め、香りが立ったらサバを加える
- サバをほぐしながら炒め、キムチ、モヤシを加えてさらに炒める
- 全体を炒めてしんなりしたら、ニラを加える
- 味をみて、薄い場合はめんつゆを加えて味を整える
菜の花の豚肉巻き
「春が旬の菜の花も、非常にカルシウムの多い食材です。菜の花の代わりに小松菜でもおいしくできます」(内田さん)
カットした時の美しさで食欲が湧きますね。一見手の込んだ料理のように見えて、実は簡単に作れるのもポイント。自宅で作って、ご高齢の両親に届けても喜ばれそうです。
材料(2人分)
- 豚もも肉薄切り・・・4枚(160g程度)
- 菜の花・・・1束(200g)
- ごま油・・・大さじ1
- 塩・コショウ・・・適量
- 薄力粉…適量
- ベビーリーフ、パプリカなど・・・適量
作り方
- 菜の花を洗い、根元の汚れているところを切り落とす
- 鍋にたっぷりのお湯をわかし、塩を加える
- 菜の花の太い部分だけを湯につけて10秒ゆで、その後、葉の部分を湯に10秒つけてゆでる
- すぐに冷水にとり、3cm程度に切りそろえておく
- 豚肉に塩・コショウをし、軽く薄力粉をふる
- 5の上に菜の花の根本と葉が交差しないように組み合わせて乗せ、ゆるまないようにしっかりと巻く
- フライパンにごま油を入れて火にかけ、6を入れて焼く
骨密度を上げる運動もご紹介!
運動も骨密度を上げるために有効です。できることから始めましょう。
「特に縦方向に重力がかかるような運動がよいといわれています。ただし、大腿骨骨折のような大きな骨折をして入院治療された後などは、必ず理学療法士に確認してから行ってください」(内田さん)
今回は、整形外科の医師がおすすめする簡単な運動2種を内田さんに紹介していただきました。どちらの運動も、万が一バランスを崩した場合にすぐに手がつけるよう、壁際で行うようにしましょう。
1/4スクワット
おなじみの運動・スクワットですが、こちらは膝の角度を30~40度程度と浅く曲げるやり方です。転倒防止のため、壁際でゆっくり行いましょう。ゆっくり行うことで、脚にじっくり負荷をかける効果も期待できます。目安は1セット5回、一日1~3セットがおすすめです。
- 肩幅に脚を開き、つま先を30度程度開いて立つ
- お尻が後ろに引っ張られるイメージでゆっくり膝を曲げる
- 膝の角度は30~40程度、つま先が膝より前に出ないように注意する
- ゆっくり膝を伸ばし、立ち上がる
かかと落とし
縦方向に重力をかける運動です。この運動の狙いは、骨に刺激を与えることで骨を作る細胞を活性化させること。背伸びをした状態から、かかとを床に落とします。この運動もバランスを崩しやすいので、壁のそばで取り組むようにしましょう。目安は1セット5回、一日1~3セットがおすすめです。
- 肩幅に脚を広げまっすぐに立つ
- ゆっくり、かかとを上げて、ストンッと床に落とす
親世代の骨密度を上げるには「一緒に取り組む」がポイント
新しいメニューや運動習慣を日常生活に取り入れることは、高齢者でなくても難しいものです。内田さんは、子世代、孫世代が一緒に取り組むことをすすめます。
「私は地域の小学校などに出向いて、のべ2,000名以上の保護者の骨密度を測定してきましたが、どの会場でも皆さんがお互いのデータを比較したりしてとても盛り上がります」と内田さん。
親に「これをやって」「これを食べて」とアドバイスするだけでなく、一緒に行うことで、楽しく取り組みながら効果を期待できますね。
食事や運動だけでなく、動画を一緒に見るのも良い方法です。
内田さんがおすすめするのは、2023年10月20日に厚生労働省がリリースしたサイト『骨粗しょう症予防 骨活のすすめ』。
このサイトには年代別に動画が掲載されているので、親世代とともに骨密度アップに取り組むきっかけとして役立ちそうです。
おわりに
管理栄養士の内田祐子さんに、骨密度を上げるための食事や手軽に取り組める運動などをご紹介いただきました。親世代の骨密度維持のポイントは、子どもや孫世代が一緒に取り組むこと。親世代の中には新しいチャレンジを面倒に感じる方もいますが、一緒に取り組むことでハードルが下がります。いつまでも元気で暮らせるようにサポートしていきたいですね。