エアコンの設定温度=室温にならない!?
エアコンが必要な季節になると、悩んでしまいがちなのがエアコンの設定温度です。
「エアコンの設定温度を、夏は28℃、冬は20℃にしているという方も多いのではないでしょうか。この温度は、環境省がCO2排出量削減に向けたアクションとして、適性を損なわない範囲で省エネルギーを目指すために、夏季は室温28℃、冬季は20℃を推奨していることから周知されています。しかし、この、夏は28℃、冬は20℃という温度は『室温』を指しており、エアコンの設定温度ではないのです。」(森重さん)
では、どのようにすれば快適な室温に設定できて、それを維持できるのでしょうか。森重さんに解説していただきました。
快適な室温にするための設定方法
森重さんによると「例えば、常に室温を28℃にしたい場合は、エアコンの設定温度はそれより少し低く27℃程度にしておくのがおすすめです」とのこと。
「エアコンは、スイッチをいれると、まず設定された温度に到達するまで稼働します。そして設定温度に達すると、一旦その動きを弱めて設定温度を保つ仕組みです。
しかし、設定温度を維持している間に、夏だと屋外からの熱や、室内にいる人の熱、稼働している家電製品の発する熱によって、室内の温度が設定温度以上になることがあります。温度の上昇を感知すると、エアコンは設定温度を保つために運転をコントロールしますが、設定温度まで下げようとコントロールしている間は28℃以上になっている場合もあります」(森重さん)
そのため、常に室温を28℃以下に保って快適に過ごしたい場合は、エアコンの設定温度は27℃程度にしておく必要があるというわけです。
設定温度を下げる前に風量を強くしてみる
「暑いと感じたら、風を自分の方に向けるか、設定温度を下げる前に風量を強くしてください。そうすることで体感温度が低くなるので、設定温度を下げる必要がなくなることもあります」(森重さん)
エアコンは風量を強くする際よりも、設定温度を下げる際により多くの電力が必要です。そのため、省エネの観点からも風量が弱い際は、強くしてみるのがおすすめです。
参考:ダイキン工業株式会社「エアコン節電情報」
サーキュレーターで温度ムラを解消する
「エアコンは天井付近に設置されていることが多いため、例えば冷房の場合、床に近いところは温度が低く、天井付近は温度が高いという温度ムラができ、室温調節のために過剰に稼働してしまうことがあります。このように室内の温度ムラができると、快適性が下がるだけではなく、エアコンへの負荷も大きくなってしまう可能性があります。
部屋全体を涼しく、または暖かくするためには、空気を循環させることが大切です。エアコンの風向を水平にした状態で、サーキュレーターを使用して室内の空気を拡散してください。サーキュレーターや扇風機を使うと快適な温度を維持しやすいだけではなく、必要以上のエアコンの運転を避けられるので省エネにもつながりやすいです」(森重さん)
暖房についてもサーキュレーターの使用がおすすめとのこと。暖気は最も暖かくしたい床付近には届きにくいですが、サーキュレーターを使用すると足元の温度を約2℃アップできます。
参考:ダイキン工業株式会社「エアコン暖房の賢い使い方を提案せよ!」
温度だけではなく湿度もチェック
自分にとって心地良いと感じられる室温を知るにはどうしたらいいのでしょうか。
「快適に過ごすためには、温度だけではなく湿度のコントロールも大切です。
大人が快適に過ごせる湿度の目安は40%~60%です。湿度が高すぎる場合は、汗が蒸発しにくくなるので体温が下がりづらくなり、体感温度が上がります」(森重さん)
温度計ではなく温湿度計を用意して、自分が快適に感じられる温度と湿度を確認して、それを元にエアコンの設定温度を決めるのがおすすめです。
赤ちゃんや子どもに適したエアコンの使用法は?
赤ちゃんや子どもは、大人とは体感温度が異なります。特に赤ちゃんは、汗腺が未発達で体温調節がうまくできず、言葉で不快を伝えることもできないため、十分な配慮が必要です。
「赤ちゃんやお子さまがいるご家庭では、冷房も暖房も強くしすぎないことが大切です。また、エアコンの風が直接身体にあたると冷えやのぼせ、乾燥の原因になる可能性もありますので風向きにも気をつけてください。エアコンを運転する時は、赤ちゃんが寝ている位置に直接風があたらないよう確認することをおすすめします」(森重さん)
高齢者は暑さ指数(WBGT)を意識して温度の調整を
「ご高齢の方は、皮膚の温度センサーが弱まり、発汗量や血流量増加の速度が遅いなどの理由から、暑さや寒さを感じにくいと言われています。そのため、『暑く感じないから大丈夫』と体感だけで判断せずに、熱中症対策のためにも温湿度計で、温度と室温をチェックしながらエアコンを使っていただきたいです」(森重さん)
また、熱中症リスクを避けるために、ぜひ暑さ指数(WBGT)も参考にしてほしいとのこと。
WBGTは、熱中症を予防することを目的としてアメリカで提案された指標です。環境省の「熱中症予防情報」では、WBGTの詳細説明とともに、全国の暑さ指数(実況と予測)が発表されています。
WBGTは屋外で計測される数値ですが、室内では、日本生気象学会が作成している室内用のWBGT簡易推定図が参考になります。
「WBGT25以上、28未満は警戒値であり、運動や激しい作業をする際は定期的に十分な休息が必要となります。しかし、高齢者の場合は、警戒値であるWBGT25以上になっても不快に感じないこともあります。
室内用のWBGT簡易推定図Ver.4によると、気温36℃以上の場合は、湿度に関わりなく熱中症リスクがあります。35℃以上の猛暑日はもちろん、推奨されている室温28℃でも暑く感じる場合は、命を守るためにエアコンをご使用ください」(森重さん)
睡眠時のエアコン温度設定はどうすればいい?
寝室でエアコンを使う際、設定温度の他に、タイマー設定をした方がよいのか悩む方も多いでしょう。そもそも就寝時に適した室温とは何度くらいなのでしょうか。
「体感温度に個人差があるので明確な適温とは言えませんが、国立大学法人奈良女子大学の久保博子教授によると、『室温が低すぎるとぐっすり眠れないので、夏用の薄い寝間着を着て、薄い寝具を使ったうえで、26~28℃くらいの室温にすると快眠につながります』とのことです。
冬の場合、環境省ではウォームビズとして室温20℃を推奨していますが、WHOによると、冬期の室温は18℃以上が健康的でいられる温度としています」(森重さん)
また、タイマーについて森重さんは「熱帯夜など、気温がかなり高い場合は、タイマーの使用はあまり推奨しません」とのこと。
もしタイマーを使うなら、就寝する1時間前からエアコンを稼働させて寝室の温度を下げた上で、就寝後3時間はエアコンを稼働させておくように設定すると、比較的過ごしやすく深い眠りが確保できるそうです。
「快適な睡眠と同時に熱中症対策を考えれば、やはり猛暑の時期はエアコンをつけっぱなしにしたほうが、朝も気持ちよく目覚めていただけます。何度も睡眠が中断されてしまうのは健康にもよくありませんし、エアコンを切ったりつけたりするほうが消費電力が大きくなる可能性もあります」(森重さん)
参照:ダイキン工業株式会社「熱帯夜の困りごとと解決法」
勉強部屋を快適な温度にするには湿度に注意
オフィスや勉強部屋など集中して作業を行いたい場でも、省エネの観点では設定温度を下げすぎないことが推奨されています。作業効率も考えて快適な環境にするためにはどうすればいいのでしょうか。
「理化学研究所とダイキンで2017年から行っている『快適で健康な空間づくりに向けた共同研究』では、室温28℃でも湿度55%以下に保てば快適性が向上するという結果でした。
しかし、梅雨から夏にかけて湿度は70%くらいに上がることもあるので、エアコンの機能や天候にもよりますが、55%以下に湿度を落とすのが難しいこともあります。
室内の湿度を下げるために、可能な限り窓や扉を開けて換気を行うのもおすすめです」(森重さん)
室温を調整したのに過ごしにくいと感じたら、湿度を落とせないか見直し、一度換気をしてみることも有効なのだそうです。
参考:ダイキン工業株式会社「室温28℃でも湿度を下げれば疲労軽減に有効であることを実証」
エアコンで冷暖房を行うときに注意したいこと
快適で健康的に過ごすには、エアコンの機能を上手に活用することや、正しいお手入れを行い、買い替え時期を把握することが大切です。森重さんに解説していただきました。
自動運転機能を活用する
森重さんによると、自分にとって快適な室温を把握した方は、エアコンの自動運転を活用するのもおすすめだそう。
自動運転とは、設定した室温になるように、自動でエアコンが調節してくれる機能です。風量のコントロールはもちろん、冷房から除湿などモードの切り替えも自動でエアコンが行います。
「エアコンは運転を開始した後、設定された室温に調節するまでが最も消費電力がかかります。そのため、省エネの観点からも暑さや寒さが厳しい季節には、こまめにエアコンを入り切りするよりも、自動運転モードにしておくほうが快適ですし、経済的にもおすすめです」(森重さん)
タイマー機能を使う時は注意して
「熱帯夜にタイマー機能を使うことはあまりおすすめしないといいましたが、帰宅した時に部屋が冷えていて欲しい方などはタイマー機能を使っていただくと帰宅直後も快適にすごしていただけます」(森重さん)
しかし、例えば猛暑日に長時間不在にする場合などは熱気が部屋中に溜まっているため、一度換気してからエアコンを使用するほうが、電力の消費量も抑えられる可能性があるとのこと。タイマー機能は省エネも考えつつ活用しましょう。
適切なお手入れで冷暖房効率を高める
「フィルターにほこりがついてしまうと、それだけエアコンから放出される空気の量が減ってしまいます。それによって設定温度に到達するまでに時間がかかってしまい、無駄な電力が必要になります。こういった状況を防ぐためにも、ぜひ2週間に1度はフィルターのお掃除をしていただきたいです。
面倒だと感じる方もいるかもしれませんが、フィルターをはずして掃除機でほこりを吸い取るだけです。ほこりがかなり蓄積している状態でなければ、5分程度で済みます」(森重さん)
また、フィルターの奥、エアコン内部にある熱交換機部分も汚れた場合は掃除が必要とのこと。
「エアコン内部のお掃除については推奨されるタイミングというのはありません。汚れが目についた場合や、エアコン運転時にニオイが気になる場合などにお掃除してください。
ただし、エアコン内部は、一般の方がご自身で掃除しようとすると、万が一の場合によっては火事になることも。室内機内部をエアコン洗浄スプレーで洗浄するなどした場合、火災の原因にもなると言われています。また、熱交換器部分を壊してしまうことでかえって運転効率を悪くしてしまう可能性があります。そのため、掃除は専門業者に依頼してください」(森重さん)
フィルターの掃除とともに重要なのが室外機の周囲の掃除です。
「実はエアコンの心臓部と呼べるのは室外機なのです。室外機がファンを回すことで室内の熱気を排出しています。室外機の機能を妨げないよう、室外機の前や上に物を置かないようにしてください。また、周囲を掃除して排水ホースがつまっていないかも随時確認してください」(森重さん)
エアコンのフィルターや室外機の掃除方法については以下の記事も参考にしてみてください。
エアコンは適切な時期に買い換えを
「エアコンの設計上の標準使用期間は10年間です。これはダイキンの製品だけではなく、今のところは、日本の他のメーカーも同様です。エアコン本体か、室外機の側面か裏に標準使用期間を表示したシールが貼ってありますので確認してみてください」(森重さん)
このことからも、エアコンは10年経ったら買い替えることが推奨されます。しかし森重さんによると、「調査の結果では、実際の使用期間は平均で13年間程度」だったそう。
「買い替えに際して気になる価格帯や性能・省エネ効果の違いですが、製品によっては、やはり性能に差があります。例えば、除湿性能などは、湿度〇〇%まで除湿というように調整できますが、エアコンの種類によってはそのような調整ができないこともあります。
また、室温を適温に保つ自動運転の機能ですが、お客様の状況や好みによって適温を保ってくれる製品もあります。ダイキンの高価格帯エアコンは、より快適に過ごせるように室内の床や壁の温度を検知・推測し、過去の運転履歴を参考にしながら運転する『AI快適自動運転』を備えています」(森重さん)
また、以下の表のように、省エネ効果を考えた場合も10年間使用するなら、経済的にも高価格帯商品がおすすめといえるそうです。
「ダイキンが2023年に販売したモデルを比較すると、Eシリーズと省エネ性の高いRXシリーズの機種では消費電力は年間で約3割の差があります。そのため、10年間使用すれば電気料金を考慮すると出費に大きな差がない場合もございます」(森重さん)
物価高騰が続く中、エアコン買い換えの際には、本体価格や性能だけではなく、電気代などのランニングコストも含めて検討することが必要だと言えそうです。
おわりに
空調メーカーであるダイキン工業の森重雄己さんに、真夏や真冬になると気になるエアコンの設定温度について、また、エアコンの快適で健康的な使用方法について伺いました。省エネにも配慮しつつ、状況に適した室温を維持できるように使用していきましょう。