「昼寝の時間」にはメリットがいっぱい!
眠気をこらえて、家事や仕事をこなすのはつらいもの。スッキリしない頭では仕事の効率も下がります。特に昼過ぎに眠くなってしまうのはどうしてなのでしょうか?
睡眠専門医の白濱龍太郎さんによると、日中の眠気は人間の生理現象の一つで、午前中に仕事などで活動した疲れが蓄積したり、昼食後の血糖値の変化によって脳の栄養となるブドウ糖が減少したりする影響で、午後に眠気が強くなると考えられているのだそう。
そしてこの眠気が強まる時間帯には、作業のミスが増えたり、居眠り事故が多発したりすることも分かっているそうです。
そんな午後の眠気を効果的に解消できるのが「昼寝」です。白濱さんは「昼寝は脳の疲れをリセットします。眠気の感じ方は人によって異なりますが、昼寝によって眠気が解消され、午後のパフォーマンスが上がることはさまざまな研究で示されています」と言います。
昼寝には眠気を解消する以外にもさまざまなメリットがあります。午前中に溜まった疲れを軽減し、集中力を高めたり、記憶力を向上させる効果も。ある高校では昼食後に昼寝を取り入れたところ、試験の成績がアップしたというデータもあるそうです!
参考: 生理心理学と精神生理学25(1):45-59,2007「午後の眠気対策としての短時間睡眠」(広島大学大学院総合科学研究科 林光緒・堀忠雄)
昼寝を効果的に取るにはコツがある!
昼寝をするメリットはたくさんありますが、長すぎる昼寝や遅い時間帯の昼寝は、夜の寝つきを悪くし、生活リズムの乱れにつながるそうです。昼寝に適した時間や、上手に昼寝するコツを白濱さんに伺いました。
昼寝をするなら「時間帯」と「時間の長さ」に注意!
白濱さんによると「午後3時までに、30分以内の昼寝を取るのであれば、夜の睡眠に影響しないといわれています」とのこと。
夕方以降の時間帯の昼寝は、本来睡眠を取るべき夜間の寝つきを悪くし、生活リズムを乱しかねません。また、30分以上眠ると、眠りの浅い状態を通り越して深い眠りに入ってしまい、目が覚めても脳がなかなか覚醒しない状態が続くことも。午後も効率的に過ごしたいのに、頭がぼーっとしていては昼寝した意味がありません。
「長すぎる昼寝にはこのほか、認知症やメタボリックシンドロームなどの病気のリスクが高まるという研究データがあります。昼寝をするなら時間を決めましょう」(白濱さん)
昼寝をするときは「光」と「音」に気を付けて
昼寝には、時間帯や時間の長さに注意が必要ということが分かりましたが、限られた時間の中でスムーズに眠りにつくために自分でコントロールできることがあります。それは「光」と「音」に気を付ける、ということ。
自宅とオフィスそれぞれで実践するためのコツを紹介します。
【ポイント1 光を遮断しよう】
明るい環境では目から入る情報を処理しようと脳が活動してしまうので、昼寝をする際には暗い場所の方がおすすめです。周囲を暗くできない場合にはアイマスクを着用すると光が遮断できますし、温かくなるタイプのアイマスクなら、目の周りの緊張がほぐれて一層リラックスできます。
また白濱さんは「昼寝前はスマホチェックを控えましょう」と言います。スマホ画面の光が脳を刺激して、眠りにくくなってしまうためです。
自宅では:カーテンを閉めて・なるべく光が入らない部屋で
オフィスでは:アイマスクを常備
【ポイント2 ゆったりした音楽でリラックスしよう】
昼寝には、周りの音が気にならない静かな場所が適していますが、静かすぎる環境は逆に眠れなくなる要因になるそう。白濱さんによると「無音状態だとつい考えごとをするよう脳が働いてしまうから」とのこと。周囲をうるさく感じる場合には、耳栓で音を遮断するよりも、イヤホンなどでゆったりした音楽を聴く方がリラックスできるそうです。
他にも、首の筋肉が緩むように軽くマッサージしたり、ゆっくりと腹式呼吸を繰り返して呼吸に意識を向けたりすることが眠りにつながります。
自宅では:リラックスできる音楽を流しながら
オフィスでは:イヤホンで音楽を聴きながら
【ポイント3 快適すぎる姿勢は“寝過ごし”の原因に】
自宅や、仮眠ベッドが設置されている職場では体を横たえて昼寝ができますが、白濱さんは「快適“すぎる”姿勢は、寝過ごすことにつながる恐れがあります」と、あまりすすめません。
昼寝の場合は横にならず、机にうつ伏せになるか、椅子に座ったままの姿勢の方が寝過ごさずに済むかもしれません。最近は昼寝用の枕にさまざまな種類があるので、自分に合った枕を用意するのもよいでしょう。
自宅では:寝室に行かずに・ソファで横にならずに
オフィスでは:デスクにうつ伏せて・椅子に座ったままで・昼寝用枕を使って
【ポイント4 目を閉じるだけで休息になる】
「寝なきゃいけない」と思うと逆に眠れなくなりがち。そんなときは「寝れなくてもいいや」という気持ちで目を閉じることも大切なのだそう。
白濱さん「目をつぶると、目から入る情報が遮断されて脳が休まります。たとえ眠れなくても、何もしない『無の時間』を過ごすだけで休息になりますよ」
昼寝から時間どおりに目覚めるコツ
寝すぎてしまったり、目が覚めてもぼーっとして頭が働かなかったりでは、昼寝の時間を無駄にしてしまいます。白濱さんに、スッキリと時間通りに目覚めるコツをいくつか伺いました。
「効果は人によっても異なるので、自分に合った対処法を見つけてください」(白濱さん)
時間どおりに目覚めるコツ1 目覚めの音楽を聞く
眠りに入るときと同様、目覚めのときにも音楽が役に立ちます。特に日本語の歌は、歌詞を聴き取ろうと脳が働いて目が覚めてくるそうです。お気に入りの一曲を目覚めの音楽に選べば気持ち良く起きることができて、午後の仕事の効率が上がるかもしれません。
時間どおりに目覚めるコツ2 光をしっかり浴びる
白濱さんは「不眠症の治療に光照射療法というものがあるように、光には睡眠と覚醒をコントロールする力があります」と、光の影響についても教えてくれました。目が覚めたら明るい光を浴びると、スッキリした目覚めにつながります。オフィスの蛍光灯は高照度なため、職場で昼寝した場合はその光を浴びることでも効果があるそうです。
時間どおりに目覚めるコツ3 昼寝の前にカフェインを取っておく
昼寝の前にカフェイン入りの飲料を飲むことも、スッキリ目覚めるコツです。カフェインには覚醒作用がありますが、効果が表れるのは摂取してから30分ほど経ってから。このため、30分程度の昼寝なら、起きるころにカフェインの効果が出始めます。コーヒーや紅茶、栄養ドリンクなどカフェイン入りの飲料はいずれも効果がありますが、コーヒーの香りには催眠効果があるため、眠るときと起きるとき双方への作用が期待できます。
時間どおりに目覚めるコツ4 顔を洗う・体を動かす
白濱さんは「顔にはさまざまな神経が走っているので、そこを刺激すると頭がスッキリして目が覚めます」と言います。また、体を動かすことでも目が覚めてくるので、立ち上がって歩いたり、ストレッチしたりすることも目覚ましに効果的です。
どうしても昼寝する時間がない場合はこれだけでもOK!
昼寝する時間がどうしても取れない場合、眠気を覚ます方法はあるのでしょうか?
音楽・洗顔・ストレッチで目を覚ます
前述の『昼寝から時間通りに目覚めるコツ』で紹介したような、目覚めに有効な音楽を聞くことや洗顔、体を動かすことなどは、昼寝をしなくても一時的に眠気を抑える効果があるそうです。
昼食を分けて食べる
白濱さんは「食事が眠気に影響している場合には、昼食を複数回に分ける『分食』によって眠気が抑えられる場合があります」と言います。食後には血糖値が上がりますが、1回の食事量を少なくして血糖値を大きく変化させないことが眠気防止につながると考えられています。
眠気のパターンを把握して前もって対処する
「自分の生活パターンに目を向けることで予防できる眠気もあります」(白濱さん)
例えば「午後2時からの会議はいつも寝てしまう」というように決まった時間に眠気が訪れる場合には、あまり眠くなくても事前に昼寝する、という対処法があります。
2~3分でも目をつぶる
昼寝に20~30分も時間が取れない、というときは、2~3分目をつぶるだけでも眠気を解消する効果が得られるそうです。
「少しなら昼寝の時間が取れる場合は、タイマーやアラームを活用するとよいです。移動中の電車やバスの中で、降りる何分か前に“寝落ち”する、という方法でも。ただし、家に帰る電車の中など、夕方以降はなるべくやめましょう。
午後3時以降の昼寝はおすすめできないですが、疲れてしまったときなど、少しぐらいは時間がずれても大丈夫。ただし、眠る時間は30分を超えないようにしてください」(白濱さん)
まずは夜の睡眠を大切にしよう
白濱さんは「昼寝は眠気への対処法であり、夜の睡眠をカバーするものではありません」と強調します。必要な睡眠時間や眠気の感じ方は人それぞれですが、朝起きて夜眠る生活を送っている人にとって、大事な睡眠はやはり夜の時間です。
白濱さん「そもそも夜の睡眠が十分であれば、昼間の眠気が気にならないこともあります。自分の生活パターンを見直して、ちゃんと眠れているか、寝る前にスマホをいじっていないか、などチェックしてみてはどうでしょう」
睡眠の質を上げるために、おすすめなのは入浴です。白濱さんによるとお風呂で体を温めたり、リラックスしたりすることは良質な睡眠にとって非常に効果的なのだそう。忙しい毎日でも、お風呂の時間を惜しまないのが大切とのことです。
以下の記事では、良質な眠りを誘う入浴法や質の高い睡眠と入浴のポイントを紹介しています。こちらも参考にしてみてください。
夜勤やシフト勤務、育児中の人にとって昼寝は貴重な睡眠時間
ここまで伺ってきたお話は、あくまで「朝起きて、夜眠る」という人を対象にしたもの。夜勤やシフト勤務によって明るい時間帯に睡眠を取る人や、育児中で睡眠が不規則な人の場合、昼寝の目的はまったく違うそうです。
白濱さん「シフトワーカーは、自分なりの生活リズムを優先してください。育児中の方は睡眠時間を『足し算』で考えて、赤ちゃんと一緒に眠るなど、寝られるときに少しでも寝るようにしましょう」
おわりに
昼寝の効用と、昼間の眠気を解消するための昼寝の仕方について伺いました。白濱さんは「自分に必要な睡眠時間をきちんと確保することが大前提。その上で、昼寝を上手に取り入れてください」とアドバイスしてくれました。
夜の睡眠を見直しつつ、昼寝もしながら、忙しい毎日をうまく乗り切りたいですね。
ただし、昼間の強い眠気が日常的になっている場合、睡眠時無呼吸症候群などの病気が潜んでいる恐れもあります。気になる方は早めに医療機関を受診してください。