ウォーキングってなに? 散歩とは違うの?
ウォーキングとは、主に「健康のため」という目的を持って歩くこと。ジョギングなどの「走る」動作と比べてひざや腰への負担が少なく、体力に自信がなくても手軽に取り組めるのがポイントです。
健康運動指導士で一般社団法人ケア・ウォーキング普及会代表理事の黒田恵美子さんは、「『いつでも・どこでも』『一人でも・仲間とでも』『世界中どこでも』できるのがウォーキング」とその魅力を語ります。
同じ歩くことでも、「散歩」は、ぶらぶらと歩いたり、特に目的もなく歩き回ったりすることをいいます。目的を持って歩くウォーキングとは異なるわけですが、逆にいうと、意識の仕方によっては散歩を「ウォーキング」に変えられるということ。
黒田さんは「ウォーキングをすると体に良いことがたくさんあります。歩くことを楽しみながら続けてほしい」と呼び掛けます。
参考:公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」ウォーキングの効果と方法
ウォーキングの効果をより高めたいなら「時間」に注目!
ウォーキングを習慣づけると、筋力や心肺機能が向上し、体力アップにつながります。一定の時間続ければ体脂肪が燃焼してダイエットになりますし、ストレス解消やリラックス効果など、精神面への良い影響も確認されています。
そして実は、時間帯やタイミングによってウォーキングの効果に違いがあるそうです。目的に合わせて時間を選べば、ウォーキングの効果をより高めることができますね。
参考:厚生労働省「e-ヘルスネット」
朝と夜ではウォーキングの効果が変わる!
ウォーキングの効果が時間帯によって違うのは、自律神経への作用が関係しているそうです。朝と夜の効果の違いを黒田さんに伺いました。
やる気アップ! 一日の生活リズムを整える「朝のウォーキング」
朝は一日のスタート。「朝日をしっかり浴びてウォーキングすれば、眠っていた身体を目覚めさせ、やる気が出ます」と黒田さん。
朝日を浴びると脳内でセロトニンという物質が分泌されます。セロトニンは自律神経に働き掛けて、精神安定ややる気アップの効果をもたらします。リズミカルな運動によって活性化する特徴もあるので、一定のリズムで行うウォーキングが効果的なのです。
ストレス解消! リラックス効果もある「夜のウォーキング」
では、夜のウォーキングにはどんな効果があるのでしょうか。
「心と脳にたまった一日のストレスが、ウォーキングによって解消できます」と黒田さん。
夜は自律神経の働きで心身共にリラックスしやすい状態にあり、ウォーキングによって睡眠の質を上げる効果もあるそうです。「あまり頑張り過ぎず、ゆったり歩きましょう。呼吸はゆっくり、吐く息を長めにするといいですよ」(黒田さん)
食事の前と後、ウォーキングするならどちらがいいの?
食事の前と後など、タイミングによって効果に違いはあるのでしょうか?
「食事の前後による効果の違いには、主に血糖値が関係します」と黒田さん。
血糖値は一般的に、食事の前は低く、食後に高くなります。どちらのタイミングで運動するかによって消費するエネルギー源が変わり、効果の違いに表れるわけです。
「食事の前のウォーキング」はダイエットしたい人向き
「痩せるのが目的なら、食事の前のウォーキングが効果的」と黒田さん。
血糖値が低いと、エネルギー源として糖の代わりに脂肪を使うからです。
また、ウォーキングを続ける時間が長いほど脂肪燃焼効果は高まりますが、空腹時のウォーキングには注意すべき点も。「歩く前に必ず水分を取りましょう。また健康状態によっては低血糖を引き起こす恐れもあるので、体調には十分注意してください」(黒田さん)
「食事の後のウォーキング」は健康増進や肥満防止が期待できる
食後のウォーキングは、血中の糖をエネルギーとして消費します。このため、血糖値を下げたり、食事で取った糖質が脂肪になるのを防いだりして糖尿病などの発症リスクを下げる効果や肥満を予防する効果があるのです。
ただし、食後すぐのウォーキングは胃の消化活動を妨げるのでNG。
黒田さん「血糖値が上がるタイミングも考慮して、食後は30分から1時間後に始めるのがおすすめです」
ウォーキングは一日どの程度の時間が効果的?
「運動を始めてから20分ほど経たなければ有酸素運動にならない」「効果があるのは30分以上続けた場合」などと聞いたことがありませんか?
実はこれは昔の話。最近では、有酸素運動になる時間に個人差があることが分かってきたそうで、「〇分続けなければダメ、と考える必要はありません」と黒田さん。
また、脂肪燃焼効果は、運動したトータルの時間が同じであれば効果は変わらないという研究結果が出ています。たとえば、30分の運動と10分ずつ3回行う運動では効果に違いがない、ということ。「ウォーキングを続けていけるよう、自分がやりやすい方法が一番です」(黒田さん)
黒田さんおすすめは「10分のウォーキング」から
10分は歩数にすると1000歩程度。ここからスタートすると無理がありません。
「それでも、ウォーキングの翌日は『疲れて寝てしまう』『どこかが痛む』など支障が出たら、ウォーキングする時間や頻度を少なくしてみてください。極端にいえば、1分でも2分でも、ゼロよりは効果があります。2、3週間と続けて身体が慣れてきたら、さらにプラス10分・・・と、徐々に時間を増やしていけばよいと思います」(黒田さん)
慣れてきたら「20分の“早歩き”」を取り入れると効果的!
長時間運動すれば、その分効果が高まりそうですが、黒田さんによると、実は、時間だけ長くしても効果はいまひとつで、大事な要素は「強度」、つまり歩く速さなのだそう。
「私が皆さんにおすすめしているのは『20分』の早歩き。運動と病気の関係を調べた『中之条研究※』では、1日の目標歩数が8000歩で、その中に早歩きを20分入れるのがよいとしています。 早歩きというのは、ややきついと感じるくらいの速さのこと。人によって違ってよいのです」 (黒田さん)
「20分も早歩きはムリ…」な人は1分からでもスタートしてみよう!
ウォーキングで効果を得るのは「20分の早歩き」がよいと分かりましたが、「いきなりそんなには無理…」という人はどうすればよいのでしょう?
黒田さんは「まずは、1分から3分くらいの早歩きを行うことを意識して。トータルで20分になることを目指しましょう」とアドバイスします。細切れでも大丈夫、と思えば同じ20分でもハードルが下がりますね。
※中之条研究…群馬県中之条町で65歳以上の全住民約5000人を対象に2000年から行っている日常的な身体活動と心身の健康に関する大規模な調査研究。
参考:厚生労働省「運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書」(平成 25年3月)
参考:e-ヘルスネット「内臓脂肪減少のための運動」
参考:東京都健康長寿医療センター「研究所NEWS」No.265 2014.11
【実践編】 ウォーキングのポイント
いよいよウォーキングの実践編です! 実際にウォーキングを始める前の準備や、歩くポイントなどを黒田さんに伺いました。
ウォーキング前にはストレッチなど準備体操をしよう
歩き始める前には「簡単でよいので必ず準備体操を。ふくらはぎのストレッチと肩回しぐらいで大丈夫」と黒田さん。
足を前後に開くと、後ろ脚のふくらはぎのストレッチができます。肩は腕と一緒に回せばOK。あまり勢いをつけずに、ストレッチする部位を意識して行うとよいでしょう。
そして歩く前には靴ひもをチェック。つま先部分は少し余裕を持って、足の甲はしっかり締めるとよいそうです。
姿勢にこだわり過ぎずウォーキングしよう
「いかにも『ウォーキングしています』という姿勢が正しいとは限りません」と黒田さん。歩幅を急に広げたり、姿勢を意識して背筋をピンと伸ばしたりすると、歩く動作に無理が出てしまい、身体を痛める恐れがあるそうです。
黒田さんが初心者にウォーキングを指導する際の注意点は、主に2つ。
1つは「直線を踏まないようにまっすぐ歩く」
これは、目の前の道に一本の直線が伸びていて、その直線を踏まないように歩くイメージ。足と足の間ががに股のように広がり過ぎたり、逆に千鳥足のように交差したりしないための方法です。
もう1つは「腕は身体に平行に、肘を伸ばして後ろに振るようにする」
「この2つに気を付けると、前に進む歩き方が自然にできるようになり、結果的に正しい姿勢になりますよ」(黒田さん)
ウォーキングから帰ったら足裏マッサージをしよう
ウォーキングを終えて帰宅したら、足裏をマッサージして疲労を取りましょう。
「長い時間歩くほど、疲労やむくみが下にたまります。それを解消するのが足裏マッサージです」と黒田さん。
足裏にゴルフボールを当ててゴロゴロ転がすのが黒田流。椅子に座り、床に置いたボールを足裏で転がしてもいいですし、床に座った姿勢で、手に持ったボールを足裏で転がせば「手のマッサージにもなるのでおすすめ」と黒田さん。
ゴルフボールの代わりに、青竹踏みや健康サンダルのように凹凸があるもので足裏を刺激しても効果がありますし、手でもむだけでもOKです。
また、ウォーキング後のシャワーやお風呂も疲労回復効果を高めます。朝のウォーキング後に熱めのシャワーを浴びれば頭がスッキリ。夜はぬるめのお湯にすればリラックス効果があります。シャワーをふくらはぎに当ててマッサージするのも気持ちよさそうです。
<参考>
東京ガス都市生活研究所の調査によると、40℃のお湯に10分浸かれば筋肉の疲れが緩和しやすくなります。また、寝つきをよくする効果もあります。
ウォーキングを無理なく長続きさせるには
ウォーキングには良い効果がたくさんあることが分かりましたが、気になるのは「続けられるかどうか」ではないでしょうか。体力面の不安や、挫折した経験があればなおさらです。
ウォーキング初心者にありがちなのが「頑張り過ぎてしまうこと」と黒田さんは指摘します。これでは無理をして身体を痛め、結局挫折・・・ということにつながりがち。ウォーキングを無理なく続けるコツを黒田さんに伺いました。
ウォーキングを始める前に普段の歩数を確認しておく
黒田さんは「まずは自分の体力を把握しましょう」とアドバイスします。そのためには、まず自分が日常的に歩いている歩数を調べること。歩数計やスマホのアプリで調べることができます。
ウォーキングに適した靴を選ぶ
また、自分の足に合った靴を履くことも重要です。
「昔に比べて歩く機会が少ない現代人は足が弱っていますので、靴選びはとても重要です。ウォーキングをしてどこかを痛めた場合、靴が原因ということも多いもの。続けたいと思う方こそきちんとした靴を用意しましょう」(黒田さん)
靴を選ぶ際は、まず自分の足の縦寸(サイズ)と横幅(ワイズ)を計測して、足に合うものを選ぶことが大切です。黒田さんは「『足が楽だから』と大きすぎる靴を履くと足のアーチがなくなり、偏平足や開張足、外反母趾や巻き爪、魚の目やタコなどの足のトラブルに見舞われることもあります」と注意を促します。
ウォーキングに適した靴のポイントとしては、
- 地面からの衝撃を吸収するソール(靴底)である
- 立体のインソール(中底・中敷き)が入っている
- かかとが後ろからしっかり覆われてぐらつかない
- 靴ひもを締めると足の甲の骨がまとまって支えられる
- 足のローリング(足運び)がしやすい
などをチェックするとよいそうです。
健康を目指してウォーキングを始めたはずなのに、ひざや腰を痛めてしまっては本末転倒です。購入する際には、上級シューフィッターやスポーツメーカーの専門店などでアドバイスを受けながら、自分の足に合った靴を履きましょう。
ウォーキングはいきなり歩き過ぎず、楽しめる範囲で続ける
「頑張り過ぎること」が身体を痛める原因になることは前述のとおりですが、弊害はそれだけではありません。
「頑張って目標を高くし過ぎると、達成できず、そのたびに『これじゃダメだ』と自分を否定してしまう。これでは楽しいはずがありません。継続に必要なのは努力ではなく『楽しさ』。無理のない目標設定によって、疲れ過ぎず、気持ちよくウォーキングできてこそ『また明日も歩こう』と思えるわけです」(黒田さん)
「また歩こう」の繰り返しが、習慣化につながるわけですね!
目的や目標を持ってウォーキングする
高すぎる目標は挫折につながりますが、長続きするには目標が必要です。
それにはウォーキングの目的を明確にすることが重要。
「『痩せたい』『体力をつけたい』など人によって目的は違いますよね。『1年後の山登りのために体力をつけたい』など具体的な目的があれば、そのための目標を立てればよいわけです」(黒田さん)
目標はモチベーションの維持につながりますし、体力を把握していれば無理な目標設定のせいでくじけることもなくなりますね。
ウォーキングの成果を“ご褒美”にする
自分に合った目標を定めたら「次に必要なのは『ご褒美』です」と黒田さん。
ご褒美といっても、ウォーキング後のケーキやビールではありません! 黒田さんがいうご褒美とは「ウォーキングの成果を意識的に自覚すること」
具体的にいうと、ウォーキングの後に「ああ、すごく気持ちよかった!」と感じることや「おかげでよく眠れたなあ」「朝の目覚めがスッキリ!」などのように、ウォーキングの効果を自覚すること。声に出すのもよいそうです。
あるいは、毎日の歩数を確認して「私すごい! 毎日〇〇〇歩も歩いてる!」と声に出すのも満足感を得られておすすめ。黒田さんは「続けるためには、目標を達成できない挫折感や達成するための努力より、達成した満足感や楽しさの方がはるかに効果的。自分で楽しみを見つけつつ、ウォーキングを続けてください」と長続きするコツを教えてくれました。
おわりに
黒田さんから、ウォーキングの効果や時間との関係、歩き方や続けるためのコツを伺いました。黒田さんのアドバイスを参考に、ウォーキングを生活に取り入れて、健やかな毎日を過ごせるとよいですね。
なお、本記事は健康な方を対象にしたものです。高血圧や心臓・血管の疾患など、健康に不安がある方は注意が必要です。事前に医師に相談することをおすすめします。