雨漏り発生! その応急処置方法とは?
大切な自宅が雨漏りするとショックを受け、慌てる方も多いでしょう。
特定非営利活動法人 雨漏り診断士協会の理事長・蓮見恵一さんによると、そんな時に思い出してほしいのが、「雨漏りは、雨がやめば必ず一旦は止まる」ということなのだそう。
蓮見さん「雨が降り続く中、慌てて業者を探してよく分からないまま修理を依頼することで、後々トラブルに発展する場合もあります。冷静な判断を失った状態で決断しないようにしましょう」
雨漏りをしていて、まだ雨が降っているという時にやるべきことは次の2つだそうです。
【雨漏りが起こったら】雨水を受けて流す
まずは落ち着いて被害の拡大を防ぐこと。家具や電化製品が雨水による被害を受けないよう、とりあえず雨水を受け止めて処理するのが先決です。
「豪雨の中、屋根に上がってブルーシートを被せるなどということは大変危険です。漏れてきた雨水をバケツやタオルで一度受け止めて流しながら、雨が止むのを待ちましょう」(蓮見さん)
ビニールシートを床に敷き、大きめのバケツをセットします。バケツの中に、使い古しのタオルや雑巾を敷いておけば、雨水の跳ね返りを防ぐことができます。
また蓮見さんによると、コーキング材で雨水を抑えるという方法は、根本的な解決にはならず、そもそも雨が降っている時には使えないのだとか。まずはバケツなどを使いながら、雨漏りによる被害を抑えることが重要です。
【雨漏りが起こったら】雨漏りの状況を記録する
雨が降っている時にもう一つすべきことは、雨漏りについての情報を記録しておくことです。
「雨漏りしている場所はもちろん、降雨や風の状況(時間・強さ、向き)、雨が降り出してから雨漏りに至るまでの時間、浸出する雨水の量など、気付くことがあれば何でもメモや写真に残しておくことはとても大事です。雨漏り診断時の問診(ヒアリング)においても、貴重な情報となりますのでぜひ記録しておいてください」(蓮見さん)
後になると思い出せないこともあるので、できるだけ細かくメモしておきましょう。 スマートフォンで動画を撮っておくのもおすすめです。
増えている雨漏りの危険性 もしものために知っておきたいこと
日本では台風による被害のほか、近年は短時間で多量の雨が降る「ゲリラ豪雨」も増えています。ウェザーニュースが発表した「ゲリラ雷雨まとめ調査2022」によると、2022年7〜9月の全国のゲリラ雷雨の発生回数は計75,680回で、2021年に比べ約1.2倍だったとのこと。
参考:ウェザーニュース「2022年のゲリラ雷雨は全国でおよそ7.6万回発生、昨年比約20%増」
自宅で雨漏りが起こる可能性も高まっているといえるでしょう。もし雨漏りが起こったら、どうすればよいのでしょうか。
家庭でできる対策や修理業者を選ぶ際のポイントなどを蓮見さんに教えていただきました。
雨漏りの補修や根本的対策を自力で行うことは困難
「雨漏りを見つけると、すぐに修理しなくてはと慌ててしまう方も多いと思います。しかし適切な修理を実施するためには、まず原因を究明することが重要です」(蓮見さん)
雨漏りをそのままにしておくと「家が傷んでしまう」「これ以上ひどくなったら」と不安になり、とりあえずホームセンターなどでコーキング材などを購入して、自力で修理しようとしてしまいがちです。
「応急処置だけでも自分の手で、という気持ちは理解できます。しかし雨漏りには実にいろいろな原因があり、建物の表面から入り込んだ雨水が、速やかに流れ出せずに雨漏りにつながることも考えられます。シーリング材(コーキング材)による処置が、大切な雨水の出口を塞ぎ、被害を拡大させる場合もありますし、使用する材料の選択を誤ると、後々の修理の折に余計な手間や費用がかかることもあるので、注意が必要です」(蓮見さん)
適切な修理を実施するためには、その前の原因究明が重要とのことから、自力での補修や対策を優先することは困難と言えます。
雨漏りの原因究明には、高度な知識が必要
「雨漏り発生に至る要因は非常に多岐に渡ります。地震、飛来・落下物などによる屋根や壁の損傷、経年による建物構成材料の劣化などによって、建物内へ雨水の浸入を許すことになります。しかし、そのような表面的に明らかな損傷や劣化だけが雨漏りの原因とは限りません。何事もないように見える壁面や開口部、設備配管の貫通部などが思わぬ原因となる場合も多々あります。雨漏りの原因究明には、建物の構造や構成材料、雨仕舞のしくみ*1、建物の形状や気象条件による雨がかり*2の可能性など、幅広い知識が必要なのです」(蓮見さん)
*1 屋根と壁の各所に凝らされた雨水処理の工夫
*2 建物の外部で、雨が降ると常時濡れる状況やその部分
雨漏り診断士協会では、雨漏り原因の究明に散水調査を行うことを推奨しています。雨漏り原因について多くの仮説を立てて、実際の降雨に近い状況で散水を行い、雨漏りの再現をする方法だそうで、建物内を流れる雨水の経路などを考慮して行うため、高度の知識や経験を要するとのことです。
雨漏り修理を業者に依頼する時に注意すべきこと
雨漏りの修理は、まず原因を正しく特定し、それに即した形で行うことが重要です。
「まず原因究明が最優先事項であり、そこを介さずして適切な修理や雨漏り解決はあり得ません。繰り返される雨漏り、関連するトラブルの多くは原因究明を軽視した結果といえます。雨漏り解決のためには調査・診断をまず優先し、その結果に基づく適切な修理提案があってしかるべきです。
ただし、そこはケースバイケースでもあるので、原因究明を省略した修理提案に至るならば、その理由を明確に説明して理解を得ることが、業者側の責務と言えます。雨漏り診断・調査は、前述の通り幅広い知識や経験を必要とします。当然ながら、能力・時間を費やす業務として、基本的に費用がかかるものと理解しておきましょう」と蓮見さん。
逆に原因究明をしっかり行う業者は、比較的施工もしっかりしていることが多いそうです。原因究明を重視した調査を行い、丁寧に説明する業者を選ぶことが大切です。
雨漏り修理の費用目安は?
気になる修理費用ですが、蓮見さんによると、「優先事項である雨漏り診断・調査、更にはその後の修理に至るまで、雨漏りの種類や修理方法は多岐にわたるため、相場の提示は簡単なことではありません」とのこと。ただし、実務経験に添って金額を提示してくれる業者もいるそうです。
とはいうものの、内容に見合った料金で施工を行ってくれる業者を見極めるのは簡単なことではありません。そのため雨漏り修理を依頼する前に知っておきたいことを蓮見さんに教えてもらいました。
複数の業者に見積書を依頼する
雨漏りの修理は、住宅を建てたハウスメーカーや工務店、リフォーム会社、屋根や外壁塗装などの専門業者、雨漏りの専門家など、見積もりの依頼先がいくつかあります。複数の業者に相談し、雨漏りに関する見解を比較検討しましょう。
「複数の業者に見積りを依頼する、というと金額の比較だけを意識してしまいがちです。大切なことは原因究明や調査を重視しているかという点です。金額ばかりに目を奪われず、雨漏りについてしっかりと説明できる業者を選んでください」と蓮見さん。提出された見積書の内容について、不明点を理解できるまで説明してくれることが大事だそうです。
また、築10年以内の住宅であれば「雨水の浸入を防止する部分」は瑕疵担保責任を負うと「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)で定められています。該当する方は、住宅を施工した会社に連絡しましょう。
参考:国土交通省 住宅の品質確保の促進等に関する法律
業者任せにせず、しっかり説明を受ける
「込み入ったことや専門的なことを言われて、『分からないので任せます』と、理解できないまま進めるのは良くありません。業者側には説明責任があります。調査や修理の内容を依頼者がきちんと理解できるまで説明するのが、しっかりとした業者です」(蓮見さん)
雨漏りの調査、修理で後悔しないために、不明点は質問し、解りやすく論理的に説明してくれる業者を選ぶことが大切です。
業者には、得手不得手があることも知っておく
建物の設計や施工の方法や構造には地域性もあります。また、木造住宅に関する経験が豊富な業者、鉄筋コンクリート住宅の経験が豊富な業者など、得手不得手がある場合も。
「依頼する前に、どのような建物の構造・規模を得意としているのかを尋ねてみてもよいでしょう」(蓮見さん)
また、建築の設計や施工に関わる方でも、「雨漏り」に関することには精通していない場合もありますので、情報収集にも注意が必要とのことです。
飛び込み営業に対しても冷静な判断を
豪雨の後に突然、「屋根に不具合があるように見受けられます」と業者が現れることがあります。突然の言葉にショックを受けて慌ててしまうのも無理はないですが、ここでも「冷静な判断」が重要とのことです。
「雨だけではなく、強風、地震などがあった時、無用な調査や工事を勧められるケースが後を絶ちません。気を付けていただければと思います」(蓮見さん)
雨漏りの被害を最小限に抑えるためのポイントとは?
家庭では雨漏りの根本的な解決は難しいとお伝えしました。しかし、雨漏りしないための事前の対策や、万が一雨漏りが起こった時に、被害を最小限に防ぐための応急処置は可能です。
雨漏りを防ぐために日頃から心掛けたいこととして、蓮見さんが教えてくれたのは以下の2点です。
その1.「建物の定点観測」を習慣づける
蓮見さん「ぜひご自宅の定点観測を、日頃から心掛けていただきたいです。今まで見えなかったひび割れなどの損傷や、激しく雨が掛かる部位などを観測することが、雨漏りの予防や原因究明に役立つこともあります。気になった箇所があれば、メモや写真に残しておくことをおすすめします」
その2.雨水がたまらないようにメンテナンスをする
蓮見さん「雨水が速やかに流れていることは、雨漏り防止の観点として重要なポイントとなります。当然ながら建物各所に雨水が溜まると、雨漏りへと発展する可能性が高まりますので、軒先の雨どいのあふれや屋上・ベランダの排水口の詰まりに留意し、こまめに掃除をしましょう」
おわりに
実際に起こると、多くの方がパニックに陥ってしまう自宅の雨漏り。雨漏り診断のプロである蓮見さんに、雨漏りしている最中にすべきこと、修理を依頼するときに知っておくべきことなどを詳しく教えていただきました。「雨漏りは、雨がやめば必ず一旦は止まります」という言葉を心に留めておき、冷静に対処していきましょう。