正しい手洗いが大切な理由とは?
「帰ったら手を洗おうね」
「おやつの前に手洗いした?」
家庭で日常的に使う会話ですが、なんでも触りたがる子どもの手は特に汚れが心配です。
ライオン株式会社の衛生マイスターを務める藤井日和さんは「手はいろいろな所に触っています。細菌やウイルスは目に見えないので意識しづらいですが、学校や公園などは大勢で共用するものも多く、その分、感染のリスクも高まります。身を守るためには『まず手洗い』なのです」と、手洗いの重要性を語ります。
細菌やウイルスが付いた手で顔を触れば、目や鼻の粘膜から感染する恐れが。飲み食いすれば、ウイルスを口から入れてしまうことにもなりかねません。外出先から帰宅したときや飲食の前には、必ず手洗いした方がよいですね。
さらに、「実は、家の中も意外な所が汚れています」と藤井さん。
ライオン株式会社が調べたところ、「冷蔵庫の取っ手」「テレビのリモコン」「ぬいぐるみ」の汚れの量は、オフィスのトイレ個室の鍵より多いという結果が。帰宅して手洗いしたらひと安心、とはいかないようです。
参考:ライオン株式会社 Lidea「家の中やぬいぐるみには汚れがいっぱい?食事やおやつ前の手の消毒を習慣に」
そこで押さえておきたいのが、手洗いのタイミング。
藤井さんが挙げるのは、
1. 外出先から帰ったとき
2. 食事やおやつの前後
3. せきやくしゃみをした後、鼻をかんだ後
4. 外の遊具などに触ったとき
5. トイレの後
6. 動物に触った後
7. 病気の人のお世話などをしたとき
8. 調理の前後
の8つの場面。
「例えば帰宅時は、家の中に汚れを持ち込まないために重要ですし、食事や調理の前後の手洗いは、ウイルスなどが体内に入るのを防ぐ意味があります。鼻をかむときは、細菌やウイルスがじかに手につくタイミング。8つは多いように思えるかもしれませんが、ここだけは外さずに手洗いしていただきたいですね」(藤井さん)
そして、せっかく手洗いするなら効果的に汚れを落としたいもの。そこでカギとなるのが「泡」なのだそう。
「泡と泡のすき間は『プラトーボーダー』と呼ばれていて、汚れを吸い寄せる作用があります。泡が細かければ細かいほどプラトーボーダーも多くなり、汚れを効率よく吸い上げることができます」と藤井さん。効果的に手洗いするには、上手に泡立てることが大切なんですね。
手洗いの正しい順序とは?
手洗いを効果的にするために、手洗いの際に意識するとよいポイントがあります。藤井さんに教えていただきました。
洗う前に
腕時計や指輪は洗い残しの原因になります。いきなり水を出すのではなく、まずは手に着けているものを外しましょう。長袖の場合は袖をまくることを忘れずに。これで手首までしっかり洗うことができます。
流水で汚れを落とす
流水で手についた汚れをざっと落とします。
ハンドソープを泡立てる
せっけんやハンドソープを手に取って泡立てます。泡が細かいほど汚れを落とす効果が上がるので、泡立てはできるだけ丁寧にしましょう。泡立てることがまだ上手にできない小さなお子さんには、泡で出てくるハンドソープがおすすめです。
泡をまんべんなく手につける
十分に泡立てたら、手の全体にまんべんなく泡をつけます。
手のひら→手の甲→指の間→親指の付け根→指先と爪→手首、の順ですみずみまで忘れず洗いましょう。
指の間は手を組むように、親指は反対の手で持ってねじるようにすると泡がしっかりつきます。指先は、反対の手のひらの上に指を立てて、円を描くようにして指をこすりつけます。
【ポイント】指先、指と指の間、手首を意識する
手のひらや手の甲は十分に洗えても、指先、指と指の間、手首は見落としがち。ここを意識して洗ってください。
ハンドソープを手に取ってからここまで、丁寧にやると30秒ぐらいかかるそう。一度時間を計ってみて、十分にできたかどうかの目安にするといいかもしれません。
水でしっかりとすすぐ
泡やぬるつきが残らないように流水でしっかりすすぎましょう。すすぎが不十分だと手荒れの原因にもなりかねません。
【ポイント】水の温度に注意
お湯の温度が高いと、手に必要な皮脂まで落としてしまい、手荒れにつながります。
逆に水が冷たすぎる場合、寒い時期には手洗い自体がいいかげんになってしまうことがあります。冬場はぬるま湯にするなど季節によって温度を調節しましょう。
タオルで拭く
清潔なタオルで拭きます。ゴシゴシこすらず、手の水分を吸わせるようにタオルを押し当て、優しく拭きましょう。十分に水気を取ることも重要。こすったり、水気が残ったりしていると手荒れや乾燥の原因になることがあります。
【ポイント】タオルはこまめに交換を
せっかくきれいに手洗いしても、タオルが清潔でなければむしろ手に汚れをつけるようなもの。ぬれたタオルを放置すると細菌が繁殖し、乾いた後でも細菌が残っている可能性があります。こまめな交換を心がけましょう。
正しい手洗いを習慣にするための工夫
正しい手洗いのタイミングと洗い方が分かれば、後は実行するのみ!
小さいお子さんでも正しい手洗いを習慣化するための工夫について、藤井さんに伺いました。
子どもが手洗いしやすい工夫
まず、手洗いする場所がお子さんにとって手洗いしやすい環境かどうかチェックします。
藤井さん「小さいお子さんだと、洗面台が高かったり、蛇口に手が届きにくかったりすると、手洗いしづらくてイヤになってしまう場合があります。背の高さに合わせて踏み台を置いたり、手の届きやすい所にハンドソープを置いたりと、手洗いがスムーズにできる環境を整えましょう」
手洗いしたくなる工夫 「一緒に」「歌う」「ほめる」
水でぬらして3秒で終わり・・・ということもある子どもの手洗い。正しい手洗いを自分からするようになるのが理想ですが、そのための工夫はあるでしょうか?
「子どもは『楽しいこと』は進んでやりますよね。例えば、お子さんと一緒に手洗いしてはいかがでしょうか? 洗面所に一緒に立って、同じタイミングで手洗い。歌を歌いながらやると楽しいですし、十分に時間をかけて手洗いできます。
毎回、毎日できなくても、休日だけでもいいと思います。目標は『どこでも一人で正しく手洗いできるようになること』。年齢に合わせて少しずつできるよう見守りましょう」と藤井さん。
ハンドソープなど、お子さん専用の手洗いグッズを用意したり、好きな香りのものにしたりするのもおすすめです。
そして、手洗いできたらたくさんほめてあげましょう。「えらいね!」「すごいね!」「さすが!」でやる気がアップすれば、習慣化にもつながります。
手洗いを忘れない工夫 「命令よりも『合言葉』」
きちんと洗ってほしくてつい「手洗いはしたの?」「手洗いしなさいよ!」と命令口調になってしまうもの。
藤井さん「ここはお子さんのテンションを上げるような『合言葉』を使いましょう。例えば『きれいきれいした?』『ジャーしに行こうか?』など。『〇〇しなさい』と上からではなく、優しく言われた方がお子さんも素直に聞けるのでは」
手洗いの必要性を伝えることも大切です。「手には汚れがついているのできちんと洗わなければいけない、という理屈が分かれば、手洗いは必要なんだ、と理解してくれると思います」と藤井さん。
「手を洗うとばい菌をやっつけられるよ」「ばい菌で病気になるといけないから手洗いしようね」「家族やお友達を守るためにも手洗いしよう」など、子どもにも分かりやすい言葉を使うのもコツです。
衛生マイスターに聞いた! 正しい手洗いQ&A
手洗いにまつわる疑問について、藤井さんに伺いました。
Q.洗う回数は多いほどいい?
A.回数よりもタイミングが大事です。手を過剰に洗い過ぎると、ばい菌の増殖や侵入を防ぐ皮膚のバリア機能を下げて、手荒れや感染の原因になってしまうことがあります。そのため数多く洗うのではなく、タイミングを押さえた手洗いをすることが肝心です。
Q.手荒れが心配。手荒れしにくい洗い方は?
手荒れしないためは、
- 温水より水で行う
- すすぐときはハンドソープをしっかり流す
- 手を拭くときは肌をこすらずに、タオルに水分を吸わせるように押し当てて、しっかりと水分を取る
- 保湿成分配合のハンドソープを使う
- 手洗いの後にハンドクリームを塗る
などの対策があります。
手洗いの回数が増えて、手荒れに悩む人も多いと思います。手荒れがひどいときは患部に市販の乾燥肌治療薬を塗りましょう。手荒れを放置して悪化する前にケアすることをおすすめします。
Q.せっけんもハンドソープもない・・・。水だけで洗っても効果はある?
水で洗い流すだけでもウイルスはかなり減らせます。流水で15秒洗うだけで、手についたウイルスの数は100分の1に減らせるそうです。
参考:厚生労働省「手洗いのすすめ」
Q.手洗いしたいけど水がない。そんなときは?
汚れ自体が気になる場合はウエットティッシュ、細菌やウイルスが心配なときは手指消毒剤、と使い分けるといいと思います。ただし、胃腸炎の原因になるノロウイルスのように、アルコールが効かない細菌やウイルスもありますので気をつけましょう。
Q.アルコール消毒剤の上手な使い方を教えて!
指先は一番汚れがつきやすいので、消毒剤を手に取ったら手のひらをこすり合わせ、まずは指先を。それから手の甲→指の間→親指→手首、の順ですり込みましょう。
Q.「帰ったらうがい・手洗い」と言うけど、うがいは手洗いの前? 後?
さまざまなものに触る前に、まずは手洗いが基本。ですから、うがいも手洗いの「後」にしましょう。
おわりに
感染予防のためには、なんとなく手洗いするのではなく、正しい洗い方でタイミングを押さえて手洗いすることが重要ということが分かりました。小さいお子さんでも正しく手洗いできるよう、上手に声をかけながら楽しく習慣化できるとよいですね。