多肉植物を楽しもう
愛らしいフォルムで、インテリアとしても人気の多肉植物。他の植物に比べて、こまめな水やりが必要ない点も人気の理由の一つです。とはいえ、初めて多肉植物を育てるとなると、「うまく育てられるか不安・・・」「お水をどれくらいあげていいのか分からない・・・」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。そんな方に向けて、多肉植物・サボテンの生産メーカーであり、直営店での販売も行っている株式会社カクト・ロコの代表取締役 野末陽平さんに、初心者にもおすすめの多肉植物の種類や選び方、育て方や楽しみ方を伺いました。
多肉植物とは?
一般的には、葉や茎に水を多量に蓄えることのできる植物のことを「多肉植物」と呼びます。
多肉植物はこの特性から、他の植物では自生できないような雨の少ない過酷な環境でも生息することができます。
野末さん「一言に多肉植物といっても、世界各国に1万以上の種類が自生しています。日本の山岳地帯で育つものや、真夏のように熱いところで育つもの、常春とよばれているような気候が穏やかな場所で育つものなど、種類によって育つ環境は大きく異なります。身近なものだと、サボテンやアロエも多肉植物の一種ですが、主に日本で観賞用の多肉植物といってイメージされることが多いのは、『ベンケイソウ科』と言われる種類になります」
世界中のさまざまな環境に自生している多肉植物のうち、私たちが普段お店で見掛ける葉がぷっくりとした多肉植物は、ほとんどがこの「ベンケイソウ科」と言われる種類なんだそう。
今回は、この「ベンケイソウ科」の多肉植物を中心に選び方や育て方を教えていただきました。
多肉植物を育てる上での心構え
野末さんによると、多肉植物を長く楽しむために、ぜひ知っておいてほしいことがあるそうです。
野末さん「多肉植物は、オブジェのようにかわいらしい見た目や、水をあまりあげなくてもよいことから、つい生き物であることを忘れてしまいがちです。雑貨のような扱いをする方も多いようなのですが、植物なので適した生育環境で育てないと、傷み、枯れてしまうこともあります」
多肉植物は普通の植物と比べるとお手入れが楽な植物ではありますが、「植物としての管理が必要」ということを忘れずに、良い環境で生育できるように気に掛けてあげましょう。育て方については、後半でご紹介します。
初心者におすすめの種類をご紹介
1万種類以上ある多肉植物は、どれを選べばいいのか迷ってしまいますよね。
そこで、初心者の方にも育てやすく、見た目も魅力的な、おすすめの品種を3つ教えていただきました。ご紹介する多肉植物はどれも日本の温暖地であれば屋外で育てられるものなので、初めて多肉植物を育てる方はぜひ参考にしてみてくださいね。
【おすすめの種類1】 エケベリア属 花うらら
多肉植物と聞くと、葉が花のように並んだ上の写真のようなフォルムを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
野末さんによると、見た目がかわいらしいだけでなく、育てやすい点でもおすすめなんだそう。
「エケベリア属は、丈夫で日本でも傷みにくい種類です。その中でも花うららはエケベリアを代表するような見た目で、白みがかったブルーの葉にふちがピンク色なのが特徴的です」(野末さん)
ボリュームがあるお花のようなかわいらしい見た目は、お部屋のインテリアにもぴったりですね。
【おすすめの種類2】セダム属 虹の玉
セダム属も、日本でよく販売されている代表的な多肉植物の一つなのだそう。
野末さん「セダム属も手が掛からず育てやすい種類です。その中でも虹の玉は、厚みがあり艶のある赤い葉が特徴で、多肉植物の中でもとても人気の高い多肉植物です」
光沢のある葉がとても魅力的な虹の玉は、秋には緑色から赤色にきれいに紅葉するそう。季節で違う姿を見られるのもうれしいポイントですね。
【おすすめの種類3】オトンナ属 ルビーネックレス
「オトンナ属の中には日本で育てにくいものもありますが、その中でもルビーネックレスは日本の気候でも育てやすく丈夫な品種です。花うららや虹の玉と違い、茎が長く伸びるのが特徴です」(野末さん)
ルビーネックレスも、秋には葉が緑色から紫色になる紅葉が楽しめるそう。名前の通りネックレスのように葉が垂れ下がる姿が魅力的ですね。
お店で多肉植物を選ぶときに気を付けることは?
せっかく多肉植物を育てるのならば、元気で丈夫なものを選びたいですよね。
野末さんは「お店に多肉植物が入荷されて1~2週間程度のものがおすすめですよ」と教えてくださいました。お店では室内で展示されていることも多く、日が経つにつれて痛みが進んでしまうこともあるからなのだそう。
1~2週間という期間を見抜くのはなかなか難しそうですが、野末さんがおっしゃるには、「野菜を選ぶときと同じく、見た目が瑞々しいものを選ぶのがよい」とのこと。
野末さん「多肉植物を選ぶときは、葉と葉の間がきゅっとしまっていてハリと艶が良く、色が鮮やかなものを選ぶようにしましょう」
多肉植物の基本の育て方
ここからは、初心者でも育てやすい種類であるベンケイソウ科の多肉植物を例に、育て方をご紹介します。
【Step1】鉢と土の準備をしよう
多肉植物を購入する前の準備として、まず鉢と土を準備しましょう。
鉢
野末さん「鉢は基本的に、底穴の開いた通気性の良い鉢を準備しましょう。また、多肉植物は土をあまり必要としない植物なので、植える多肉植物と同じくらいの大きさの鉢を選ぶことがポイントです」
一般的な植物であれば、大きい鉢を用意して、たっぷりの土に植えた方が大きく育ちそうなイメージありますが、多肉植物はもともと岩の割れ目などの土の少ない環境で自生している植物なので、土が多いと逆に根を十分に張ることができず、成長しなくなってしまうのだそう。
土
野末さん「初心者の方は、手に入りやすく扱いやすい一般的な観葉植物用の土を選ぶことをおすすめしています。多肉植物やサボテン用の土も販売されていますが、水はけが良過ぎて根が水を吸収しづらくなってしまうことがあります」
鉢に入れる土の量にもポイントがあるのだとか。
野末さん「土はおおよそ10cm未満の深さにするのがおすすめです。15cmの鉢を買ったときは15cmいっぱいに土を入れるのではなく、下5cmは軽石を入れて、その上の10cmに土を入れるようにすると、土が多くなり過ぎず、多肉植物にとって丁度よい分量になります」
土は最低でも3cm程度の深さがあればよいのだそう。土を入れ過ぎないように気を付けたいですね。
また、他の植物では肥料を使うこともありますが、多肉植物では必要なのでしょうか?
野末さん「多肉植物に肥料を入れた方がよいですか、というご質問をよくいただきますが、多肉植物は土から得られる肥料分だけで十分育てられます。むしろ肥料分が少ない方が、身がしまり、多肉植物らしいぷりっとした見た目になりますよ」
【Step2】日当たりや置き場所を知ろう
野末さん「基本的に多肉植物は日光浴が大事になるアウトドアプランツなので、屋外で栽培すると健康に育ちます。ただ、梅雨時期から真夏にかけての強い日差しが直接当たってしまうと傷んでしまうので、風通しのいい日陰に移してあげましょう」
丈夫な多肉植物を育てるには屋外が一番ですが、インテリアとしてお部屋で育てたい方もいらっしゃいますよね。また、冬の寒さが厳しい地域にお住いの場合は、気温も気になるところです。
野末さん「屋内で育てる場合には、窓際の日光が十分当たる場所に置くようにしましょう。日の当たりにくい場所に置いてしまうと、日光不足から紅葉もせず、「徒長(とちょう)」と呼ばれる、ひょろ長く頼りない成長の仕方をしてしまいます」
多肉植物を枯らしてしまう人は、日の当たりにくいキッチン周りやトイレの中に置いてしまっている場合が多いのだそう。屋内で育てる際は窓際に置いて、できる限り日光が当たるように気を付けたいですね。
【Step3】水やりの仕方を知ろう
あまり水を必要としないという多肉植物。どのように水やりをしたらよいのでしょうか。
野末さんは「ガーデニング用のじょうろなどで水をあげましょう。霧吹きなどは準備せずとも大丈夫です」と教えてくださいました。
野末さん「多肉植物はきちんと土を湿らせないといけないので、ざっと湿らせてざっと乾かす、というのが最適な水やりの仕方です。屋内で育てているものでも、お水をあげる時にはベランダなどに出して、じょうろで底穴から水が流れ出る程度に水をやり、水を外で乾かした後、室内に入れるようにしましょう」
逆に霧吹き程度だと土が湿らず、効果が薄いのだそう。
ただし、水やりの頻度は注意が必要です。
野末さん「屋外で栽培しているのであれば、10日に1回のタイミングで水やりをしましょう。室内の場合は、月に1回程度の頻度で大丈夫です」
水をやり過ぎてしまうと、土の中で雑菌が繁殖したり、徒長にもつながってしまうので、いつお水をあげたか覚えておくようにしたいですね。
また、季節によっても水をあげる頻度が変わるのだとか。
野末さん「多肉植物は丈夫ですが、植物なので、暑さや寒さが続いている中だと免疫力が弱まってしまいます。免疫力が弱っているときには、雑菌に対抗できずに、最悪枯れてしまう可能性もあります。そのため、夏や冬の間は極力水を与えないようにして、葉にしわがよってきた時に少しだけ水をあげるようにしましょう」
【Step4】植え替えをしよう
長い間同じ土のままだと、土に含まれている肥料分がなくなってしまうため、定期的な植え替えをしていきましょう。植え替える手順も手間がかからず簡単です。
野末さん「手順としては、土から多肉植物を抜き、黒っぽくなっている干からびた根を取り除きましょう。その後、新しい土に植え直すだけです」
どれくらいの頻度で植え替えを行えばよいのでしょうか。
野末さん「多肉植物を増やしたい、と思われている方は、1年に1回植え替えを行うのがおすすめです。今の大きさを保ちたい方は、1年半から2年に1回植え替えを行いましょう」
栄養が少なくても生きていけるため、他の植物に比べて植え替えのタイミングも少なめでいいんだそうです。
そして、頻度と合わせて植え替えを行う時期も大切です。
野末さん「植え替えを行う時期は、多肉植物の免疫力が下がる夏や冬を避け、春先や秋口に行うのがおすすめです。どうしても夏や冬に植え替えを行いたいときは、しっかりと根を乾かしてから新しい土に植え替えをすると、雑菌の繁殖を防ぐことができます」
多肉植物の楽しみ方とは?
基本的な育て方について知ったところで、多肉植物の楽しみ方についてご紹介します。多肉植物はその扱いやすさからさまざま楽しみ方があります。
【多肉植物の楽しみ方1】多肉植物の寄せ植えをしてみよう
一見難しそうに見える多肉植物の寄せ植えですが、初心者でも簡単に作ることができるそうです。
野末さん「寄せ植えをする多肉植物を選ぶときは、育て方が似ているものを集めるようにしましょう。おすすめの多肉植物でご紹介した、「花うらら」「虹の玉」「ルビーネックレス」の3つは育て方に大きな違いがないので、寄せ植えをするのにぴったりです」
また、バランスよく寄せ植えをするのにもコツがあるのだとか。
野末さん「品種によって上方向に成長する品種としない品種があります。上方向に成長する品種を手前に置いてしまうと後ろの多肉植物が隠れてしまうので、そのような品種はなるべく後ろに配置することでバランスがよい寄せ植えを作ることができます」
寄せ植えをする多肉植物がどのように成長していくのか、一度確認してから配置を考えるとよいですね。
【多肉植物の楽しみ方2】鉢にこだわってみよう
個性的なフォルムが魅力的な多肉植物ですが、鉢によっても見た目の印象ががらっと変わります。
野末さん「底穴が開いている鉢であればどのような材質のものを選んでも大丈夫です。自分の好きな柄や色を選んで、自由に楽しんでみてくださいね」
例えば、ブリキのような素材の鉢や、カラフルな鉢など、おうちのインテリアに合わせて選ぶのも楽しいですね。
【多肉植物の楽しみ方3】多肉植物を増やしてみよう
多肉植物は生命力が強く、「葉挿し」と呼ばれる方法で簡単に増やすことができます。
野末さん「多肉植物の葉をやさしく手で取って、風通しの良い半日陰に置いておくと、1カ月ほどで根が出てきます。根が出ていることを確認したら乾いた土に挿しましょう」
葉から新たな根を生やして増えていくというのは、多肉植物ならではの特徴ですよね。
野末さん「自分の育てた多肉植物の葉を友達に渡すと、同じ多肉植物が育てられます。多肉植物はコミュニケーションツールの一つにもなるんですよ」
野末さんのお店のお客さまの中にも、自分が育てた多肉植物を葉挿しで増やして、親子三世代で同じ多肉植物を育てて楽しまれている方もいらっしゃるのだそう。自分で楽しむことはもちろん、周りの方と一緒に多肉植物を楽しむこともできますね。
おわりに
「多肉植物の『かわいらしい見た目』と、『植物のお世話』のどちらの面も楽しんでいただけたらうれしいです」と野末さん。
今回の取材を通して、飾って楽しむだけではなく、育てる中でもさまざまな楽しみがあることがよく分かりました。この機会に、ぜひ多肉植物を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。