あらためて、長寿祝いって?
長寿祝いとは、その名の通り長寿を迎えたことをお祝いすること。賀寿ともいいます。喜寿や米寿など、名前は知っているけど、「何歳のことを指すのか聞かれると実は分からない」「お祝いのマナーが不安」といった方は少なくないのでは。現代礼法研究所で主宰を務められている岩下宣子さんに、長寿お祝いの由来や気になるマナー、お祝いの仕方についてお話を伺いました。
長寿祝いの由来とは
元々、長寿をお祝いする文化は中国の礼事から伝わったといわれています。
岩下さん「日本では、奈良時代に聖武天皇が初老の賀(満40歳)を祝ったのが始まりだと伝えられています。長寿を尊びお祝いするといった考え方は、この頃に広がったようです」
しかし、昔はお祝いする年齢が今と大きく異なっていたといいます。
「長寿祝いって、昔は40歳くらいでお祝いをしていたんですよ」と、岩下さん。今でこそ日本は長寿の国といわれていますが、昔は今よりもっと寿命が短く、40歳ともなれば初老だったそうです。
岩下さん「長寿祝いは、『長寿にあやかりたい』といった意味もあるんですよ。昔から、健康で長生きができることは憧れでしたから、お祝いするとともに、自分も長生きできますように、といった気持ちも含まれていたんです」
お祝いする年齢が変わっても、そこに込められた意味は変わらずに残っているんですね。
古希、喜寿、傘寿・・・それぞれ何歳でお祝いするの?
長寿祝いの年齢には、それぞれ漢字が当てられていますが、どの漢字が何歳を指しているのか分からない方も多いはず。
ここからは、それぞれの漢字が指す年齢やお祝いの色などをご紹介します。
還暦って何歳? お祝いの色は何色?
還暦は満60歳(数え年だと61歳)のお祝いで、贈り物などにはよく赤色が用いられます。
岩下さん「還暦は還=めぐる、暦=こよみという字の通り、干支が一回りして生まれた年に還る、という意味が込められています。よく、贈り物で赤いちゃんちゃんこが挙げられますが、あれは生まれた年に還るという意味から、『赤ちゃん返り』が連想されたものです。赤色は魔除けの色でもあるので、その意味も込められていると思います」
干支は本来、十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせで出来ており、60通りが存在します。そのため、ちょうど60歳で一巡する、ということなのですね。
また、還暦は別名で華甲(かこう)とも呼びます。これは、華が十の字6つと一の字1つからなるためだそうです。
古希って何歳? お祝いの色は何色?
古希は70歳のお祝いで、贈り物などにはよく紫色が用いられます。
岩下さん「中国の有名な詩人・杜甫が残した詩の一説『人生七十古来稀なり』にもあるように、70歳まで生きることは非常に『稀』であったことから希の字が当てられたといわれています」
お祝いによく用いられる紫には、どういった意味があるのでしょうか?
岩下さんがおっしゃるには、「紫は昔から高貴な色とされ、悪い虫がつきにくい色とされています」とのこと。よくお祝いに用いられるのは、このためですね。
喜寿って何歳? お祝いの色は何色?
喜寿は77歳のお祝いで、贈り物などにはよく紫色が用いられます。
どうしてここだけ10歳区切りではないのでしょうか?
岩下さん「奇数はおめでたい数字とされており、重ねることでより良いことがある、とされているのでお祝いされています。喜寿という呼び方は、喜を草書体で書いたときに「七十七」という言葉が入っているように見えることが由来です。喜寿も、古希と同じく紫色が用いられることが多いですね」
傘寿って何歳? お祝いの色は何色?
傘寿は80歳のお祝いで、贈り物などにはよく黄金色が用いられます。
岩下さん「傘寿という呼び名も、喜寿と同じく略字から来ています。傘の略字は『仐』で、これが八と十に見えるからですね。傘寿では黄金色が用いられることが多いです」
80歳からの人生も輝いてほしい、といった意味を込めて贈り物を選んでみるのもよいですね。
米寿って何歳? お祝いの色は何色?
米寿は88歳のお祝いで、贈り物などには傘寿同様よく黄金色が用いられます。
岩下さん「米寿の88歳は、奇数ではありませんが、八=末広がりで縁起が良い、といったことから、88歳もお祝いの対象になっています。米寿の『米』は、漢字を分解すると八+十+八と見えることから、この漢字が使われています」
卒寿って何歳? お祝いの色は何色?
卒寿は90歳のお祝いで、贈り物などにはよく黄金色や紫色が用いられます。
岩下さん「卒寿の卒の略字が『卆』でこちらも九と十が含まれていることから、この漢字が使われています。贈り物でよく用いられる色は紫、金、白などさまざまで、特に縛りはありませんが、いずれもお祝いの色とされています」
白寿って何歳? お祝いの色は何色?
白寿は99歳のお祝いで、贈り物などにはよく白色が用いられます。
岩下さん「白寿の白は、『百』から1を引くと白になることから来ています。文字からも白を連想される方が多く、よく用いられるのは白色です」
実は色には格があり、白・赤・黒の順で、白の格が一番高いとされています。
百寿って何歳? 百寿以降のお祝いは?
百寿は100歳のお祝いで、贈り物にはよく白色が用いられます。
岩下さん「百寿はその名の通り、100歳のお祝いです。『ひゃくじゅ』とも『ももじゅ』とも読み、100歳=1世紀から字をもらって『紀寿』ともいいます」
百寿以降も、長寿祝いはさまざまにあるそうです。
岩下さん「108歳は茶寿、111歳は皇寿、120歳は大還暦と呼びます。茶寿・皇寿に関しては、漢字の組み合わせが該当する年齢を表していて、大還暦は還暦が2巡することからそう呼ばれています」
長寿祝いの方法とは?
せっかくの長寿祝いですから、ぜひ日頃お世話になっている大切な方に感謝の気持ちを伝えたいものですね。とはいえ、いつどのタイミングで、どのようにお祝いしたらよいのか迷ってしまう方も多いのでは? 岩下さんに、マナーを守りつつ、気持ちを伝えられるお祝いの方法についてお伺いしました。
長寿をお祝いするタイミングは?
還暦の満60歳以降は、数え年でお祝いをするのが一般的です。
岩下さん「数え年とは、おなかにいる時を0歳として、生まれた年を1歳と数え、以降正月を迎えるごとに1歳を加えていく年齢の数え方です。ただ、絶対にその年のタイミングでお祝いしなくてはいけない、というものではありません。それよりも、みんなが集まれるタイミングや、お祝いができるタイミングを大切にしたほうが気持ちは伝わりますよね」
もちろん、何を優先してお祝いのタイミングを決めるのかはその方々次第ですが、マナーにおいて一番大事なのは気持ちだという岩下さんの考え方にのっとると、お祝いされる皆さんで話し合って決めるのがよいのかもしれません。
長寿祝いの過ごし方とは?
岩下さん「贈り物も素敵ですが、何よりもお祝いの気持ちをもつことそのものが一番大事ではないでしょうか。例えば、一堂に集まってお祝いをすれば、同じ時間を過ごすことができ、お祝いの気持ちも伝わりやすいですね。
ただ、高齢で移動が難しい、といった方への配慮は必要です。もし移動が難しい場合には、ご自宅でお祝いをしてあげたり、感染症などが流行しているような場合にはオンラインでお祝いしてあげるのもよいと思いますよ。逆に、まだまだ移動が苦にならないような方であれば、旅行に出掛けるなどの過ごし方もおすすめです」
贈り物をするときのマナーとは?
大切な方の長寿祝いには、気持ちを込めた贈り物を用意したいと思う方も多いはず。贈り物の基本は「相手のことを考えて選ぶこと」ですが、長寿祝いには避けたほうがよいとされているものがあるそうです。
岩下さん「縁起の良くないことを連想させるような贈り物は避けたほうがよいかもしれません。例えば、櫛は『苦』と『死』を連想させます。また、目上の方には、肌着や靴下などは、『肌着が買えないほど困窮している』との解釈もあり、避けたほうがよいとされています」
ただ、これはあくまで一般論だと岩下さんは強くおっしゃいます。
岩下さん「自分の身内の方でしたら、付き合いも長く、好みをよく知っていることが多いですよね。その方に体を温める上質な肌着を送りたい、と思うなら『失礼とは存じますが』など前置きをした上でお渡しすればよいでしょう。失礼といった点では、あまり高価な贈り物は相手に逆に心配を掛けてしまう可能性があります。身の丈に合ったもので十分だと思いますよ」
マナーを守りつつ、感謝やお祝いの気持ちを相手に伝わるように形にすることが大切なんですね。
おわりに
長寿祝いの由来や年齢、贈り物を送る際の注意点などを、現代礼法研究所の岩下宣子さんに伺いました。長寿祝いは、60歳の還暦から、120歳の大還暦までさまざまなものがあり、いずれも縁起の良さにあやかった由来があります。正しい意味や由来を知って、ぜひ素敵な長寿祝いをしてくださいね。