家庭菜園には土づくりが重要
良い野菜をつくるには、良い土を準備する必要があります。土は植物が倒れないように根を固定し、必要な養分や水分を蓄え、茎や葉に供給するなど、野菜の生育に重要な役目を担っているためです。今回はタキイ種苗 広報出版部の桐野さんに、家庭菜園をより楽しむために必要な土の選び方、土づくりに必要なポイントを伺いました。
家庭菜園に最適な土の条件とは?
桐野さんによれば、家庭菜園で野菜を育てる場合、以下の3つの条件を満たしていると、良い土といえるのだそう。
【条件1】保水性と排水性を兼ね備えている
【条件2】土壌の酸度が適度である
【条件3】有機物が多く含まれている
桐野さん「プランターなどで家庭菜園を行う場合は、あらかじめ条件が満たされている野菜栽培専用の土を購入して使うことで、良い土を簡単に準備することができます」
ただし、庭や畑で家庭菜園を行う場合には、そういうわけにはいきませんよね。
では、野菜がよく育つ、良い土をつくるためには、どんなポイントに気を付ければいいのでしょうか? 詳しく教えていただきました。
保水性、排水性が良い団粒構造の土であること
野菜に必要な養分や水分は、根から吸収されています。根が土から養分を吸収し、茎や葉に供給することで、植物は元気な状態が保たれるそうです。そのため、水分や養分を蓄えることのできる保水性の高い土が良いといわれています。
桐野さん「水持ちがよくないと、植物が水分を吸収できなくなるのです。ですので、保水性がないと水をやり続ける必要があります」
また、保水性とともに重要な要素が排水性、いわゆる水はけの良さです。余分な水分を適度に排出することで、根腐れや野菜の育ちが悪くなることを防いでくれる効果があります。
桐野さん「排水性が悪いと空気が入らず土が固くなり、根が張りづらかったり、根から酸素を吸収しづらくなったりします」
この保水性と排水性の両方の機能を兼ね備えているのが、「団粒構造」を持った土です。
団粒構造とは、土の粒がくっつきあい、小さな団子状になった状態のことを指します。団粒構造の土は適度な隙間がたくさんつくられており、水分や新鮮な空気が通りやすい一方で、必要な養分を土の粒の隙間に蓄えておくことができます。そのため、植物の成長に必要な水分や養分を過不足なく確保することができるのです。
団粒構造に対し、土の粒が密集して詰まっている状態や、土の粒がバラバラになっている状態を単粒構造といい、多くは粘土質や砂質の土でつくられています。水が排出されづらい、水はけが良すぎるなどの理由から、家庭菜園では避けた方がよい環境です。
土壌酸度が適度であること
土壌酸度とは、土の酸度を酸性やアルカリ性で示す指標です。
桐野さんによると「最適な土壌は中性」とのことで、中性であれば野菜は栽培しやすいのだそう。
野菜の品種により最適な土壌酸度は多少異なりますが、多くの野菜は中性~微酸性(pH6.0~pH6.5)を好むといわれており、この範囲内であれば、根が必要な養分を吸収しやすくなるようです。
過度に酸性またはアルカリ性に偏ってしまうと、根が養分を吸収しにくくなったり、根の動きが阻害されたりするなど、野菜の成長に悪影響をもたらします。特に、酸性の土壌は植物の根自体を痛めてしまい、作物が欠乏症状を起こす原因になってしまうので注意が必要です。
有機物が多く含まれていること
堆肥などの有機物は、酸度を緩衝し、水分や養分を蓄える機能を強化する作用があります。また、土を豊かにし、病原菌の異常繁殖を防ぐ効果を持つ微生物の餌となり、その活動を盛んにする効果もあるのだとか。
反対に、化成肥料は微生物の餌にはなりません。化成肥料や農薬に頼りすぎると、有機物が減って微生物が減り、土がやせ細ってしまうので注意しましょう。
また、有機物だけではなく、土に生息するミミズも土に良いのだそうです。
桐野さん「ミミズが活動することによって土の中に穴ができますよね。できた穴によって空気の入りやすい土になったり、ミミズが排泄するものによって耕されたような柔らかい土に変わっていきます」
ミミズは昔から益虫(利益をもたらしてくれる虫)と呼ばれており、家庭菜園にとっては育てやすい土にしてくれる味方とも言えますね。
土づくりに欠かせないポイント
良い土の条件が分かったところで、次は実際に土づくりに挑戦してみましょう。土づくりは奥深く、一見専門性が高そうですが、ここでは初心者の方でも取り組めるように3つのポイントに絞って桐野さんにお話を伺いました。
まずは、この3つのポイントをマスターしましょう。
【土づくりのポイント1】酸度調整
野菜の種類によって若干の差はありますが、野菜の多くは中性~微酸性の土でよく育ちます。しかし、自然に土を放置していると、雨などにより酸性の成分が土に染み込み、酸性に傾いていってしまいます。
桐野さん「特に雨の多い日本では土壌が酸性になりやすく、防止策として土壌の調整をしておく必要があります。具体的には、野菜を育てる2週間以上前に、石灰資材を土に散布し、よく混ぜ合わせるように耕しましょう」
石灰資材はアルカリ性の資材で、酸度を中和する働きがあるとのこと。 家庭菜園では、植物の光合成を助けるマグネシウムを含んだ苦土石灰をお勧めします。
桐野さん「石灰には粉状と粒状のものがあります。粉状のものだと風が吹いた際に舞い上がりますので、作業をする際はマスクをするようにしましょう」
なお、より確実に土づくりを行いたい方は、土壌の状態を正確に把握するための市販の測定器や診断キットを活用することもおすすめです。
【土づくりのポイント2】堆肥
堆肥とは、稲わらや家畜のふんなどの有機物を混ぜ、腐熟させたものを指します。土に混ぜ込むことで土がふかふかになり、水はけが良く保水性の高い団粒構造がつくりやすくなります。使用するタイミングは、植え付けの2週間以上前です。1㎡あたりに2kg程度を散布し、土とよく混ぜて耕します。
桐野さん「堆肥になっていない未熟なものを撒いてしまうと、ダイコンやニンジンなどの根菜の場合、先が未熟な堆肥にあたり、又根という2つや3つに分かれた野菜になってしまうこともあるので、必ず完熟(十分に発酵している状態)のものを使用しましょう」
市販のものは、大きく分けて動物性由来のものと植物性由来のものの2種類があり、含まれている成分が異なります。初めての場合は、土壌改良剤や腐葉土と書かれているものを使用すると便利です。
【土づくりのポイント3】肥料
野菜が育つために必要な養分の多くは、土の中に含まれています。
しかし、野菜が特に必要とする、チッソ、リン酸、カリの3要素は自然の中にある量だけでは足りず、それらを補うのが肥料の役割です。
桐野さんによると、基本的な肥料は、肥料の三大要素であるチッソ・リン酸・カリが含まれているものを選ぶとよいとのこと。石灰や堆肥と同様に、野菜を育てる2週間以上前に土に撒き、よく耕しておきましょう。
他にも必要な栄養素としてはカルシウムとマグネシウムが挙げられます。 それぞれの要素の働きは、以下の通りです。
・チッソ:葉と茎の生育の促進
・リン酸:花と実の生育の促進
・カリ:根などの生育の促進
・カルシウム:土の酸度調整など
・マグネシウム:葉の緑化に必要
野菜によってどの栄養素を多く必要とするかは異なりますので、効果を知った上で選ぶとよいでしょう。
肥料は、動物性または植物性の有機物を原料とした有機肥料と、鉱物などの無機物を原料として製造された化学肥料があります。化学肥料の方が、有機肥料に比べて効果が早く利用しやすいなど、どちらも良しあしがありますので、初めての方には2つを併せて加工した有機化成肥料がおすすめです。
おわりに
家庭菜園を行う上でポイントになる土づくりについて、タキイ種苗の桐野さんにお話を伺いました。堆肥や酸度調整など、専門用語的に聞こえるものもありますが、土のことを知れば知るほど、良い野菜の生育には欠かせないことが分かります。 おいしい野菜は、良い土づくりから。家庭菜園を行うときには、土づくりにひと手間をかけて、より本格的に楽しんでみてはいかがでしょうか。