寝起きに強いかゆみ。これはまさか、布団やマットレスのダニ?
ある日、起きたら体に強いかゆみ。これはもしかして布団に潜んだダニ・・・?
悪天候で布団やマットレスを干せない日が続くと、ダニが気になりますね。
ダニの予防法と対策について、上級睡眠健康指導士の加賀照虎さんにインタビューしました。加賀さんによると、日々のお手入れが重要だそうです。ダニを増やすような生活をしていないかどうか、チェックしてみましょう。
【上級睡眠健康指導士とは?】
一般社団法人日本睡眠教育機構が養成し認定する資格。睡眠に関する正しい睡眠知識を一般の社会人に伝え、日本国民の健康増進に貢献することを目的に、医師や研究者など睡眠の専門家によって設立されています。加賀先生が持っている上級資格はより難易度が高く、医学的な知識や睡眠のメカニズム、睡眠衛生について深い知識を有しています。
布団やマットレスに潜むダニの種類とは? 人間の血液を吸う訳ではない!?
草むらなどに棲む「マダニ」とは異なり、屋内で繁殖するダニは、とても小さいのが特徴です。
加賀さんによると、寝具に潜むダニで、私たちの健康に影響するのは「チリダニ」と「ツメダニ」の主に2種類。
「チリダニは肉眼で見ることができないほど小さなダニです。マットレスや布団などにいるダニの90%以上は、このチリダニというデータがあります」(加賀さん)
チリダニ自体は人を刺咬したりしませんが、チリダニが死ぬとアレルゲンになってしまうのがやっかいなところ。
「チリダニのフンや死骸は、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、通年性鼻炎などの主要原因といわれています。チリダニが大繁殖し、それらが大量に死ぬと、さまざまな健康被害につながってしまうのです」(加賀さん)
もう一方のツメダニは、布団に潜むダニの占有率でいうとわずか1%ほど。
「数は少ないのですが、ツメダニはチリダニなど他のダニを捕食しています。そして、エサとなるチリダニが大繁殖すると、ツメダニも同じく繁殖して他のダニを盛んに捕食します。このときに、ついでに・・・といいますか、ダニと間違って人に咬みついてしまうのです」(加賀さん)
ダニと間違って、人を咬む・・・! ダニは蚊のように吸血している訳ではなかったんですね。
ダニは普通に暮らしていても屋内のさまざまなところに潜んでいるもの。アレルギーや虫刺されを起こさないためには、ダニの数を増やさないことが大切です。
ダニが繁殖しやすい環境とは? 布団の中綿が天然素材だと・・・?
ダニは以下の3つの条件が揃うと、大繁殖します。
- 温度:20~30℃のあたたかい環境
- 湿度:湿度70%以上の湿った環境
- エサ:フケ、剥がれ落ちた皮膚片、皮脂など
さらに、中材が天然素材でできている寝具(布団やマットレス)も、ダニが好む環境です。
「木綿布団、羊毛布団、真綿(絹)布団など、天然素材の中綿を使った寝具をダニは好みます。特に放湿性が低く、繊維の中に湿気をため込みやすい木綿は、ダニが繁殖しやすい環境といえます」(加賀さん)
こうしたダニの生態から、ダニを繁殖させやすい暮らしをしていないか、次の7項目をチェックしてみましょう。
【ダニ危険度チェック1】ベッドの位置は壁や窓から離れている?
空気の流れが悪い寝室は、マットレスや布団にとって悪条件。寝具に風を当てるためには、ベッドを置く位置が大切です。
「ベッドは壁から最低でも10㎝は離して置きましょう。壁とベッドがくっついていると、汚れやよどんだ空気が溜まりやすく、ダニの繁殖の原因になってしまいます」(加賀さん)
また、窓にベッドをピッタリ付けるのも避けたいですね、と、加賀さん。
窓際は結露の影響を受けやすいため、マットレスや布団に湿気がたまりやすいそう。ダニが好む環境になってしまうので、窓から離した方が良いそうです。
【ダニ危険度チェック2】マットレスや布団を床に直敷きしていない?
マットレスや布団をフローリングや畳などの上に直接敷いていませんか?
マットレスをベッドフレームがない状態で床に直敷きすると、マットレス下面から湿気を放出することができず、ダニが繁殖する原因になります。
また、マットレス・布団の上面は人の体温で暖まりますが、下面はフローリングなどの冷気で冷やされます。そうすると、下面(裏側)が結露して、寝具の中の湿度がぐっと上がり、ダニが好む環境に。
「マットレスの場合は、下にすのこを敷くだけでも通気性が劇的によくなります。布団の場合は除湿シートなどを下に入れましょう。布団の下面が結露しにくくなりますよ」(加賀さん)
【ダニ危険度チェック3】2~3日に1回は干している or 風に当てている?
人は寝ている間にコップ1杯の汗をかくといわれます。湿気を吸収したマットレスや布団は、頻繁に風に当てて乾燥させましょう。ダニの繁殖を防げます。
特に敷布団は寝汗や結露で湿りやすいため、掛け布団よりも頻繁に干しましょう。
綿布団は週2~3回、ポリエステルや羊毛は週1回前後を目安に、表と裏をそれぞれ2時間程度、日陰干しするのがおすすめ、と加賀さん。
「体がよく触れる部分にしっかり風が当たるよう干しましょう。基本は日陰干し。日陰がないときは、布団の側生地が傷んでしまわないよう、シーツをつけたまま天日干しをしてください」(加賀さん)
マットレスの場合は、ベッドフレームから外して2週間に1回程度、立てかけておくのが良いそうです。
マットレスが重い場合は、本などを挟んでマットレスを浮かし、下面に風があたるようにしましょう。
【ダニ危険度チェック4】干したあとはちゃんと掃除機をかけている?
アレルギーの原因になる「チリダニ」のフンや死骸は、掃除機で吸い取るのがベストな方法。
布団叩きなどで叩くのは「ホコリやダニの死骸などのアレルゲンが舞ってしまうため、おすすめしません」と、加賀さんはいいます。
「チリダニが増えると、チリダニをエサにするツメダニも増えます。ですから、まずはこまめに掃除機で吸って、ダニの数そのものを減らしておくことが大事です。ツメダニは人の肌を刺咬しますが、”かゆいな”と感じたときには、すでにチリダニもツメダニも大繁殖している可能性があります」(加賀さん)
マットレスや布団に掃除機をかけることは、ダニそのものを吸い取る以外にも、ダニのエサとなるフケ、アカ、皮膚片や皮脂などを取り除くうえで、とても効果的なのだそうです。
「掃除機の吸引力は、ごく一般的な家庭用掃除機の強さで十分です。必ず寝具専用のアダプターを用意して、部屋の汚れをマットレスや布団につけてしまわないように注意してくださいね」(加賀さん)
【ダニ危険度チェック5】シーツはそっと取り替えている?
私たちの体から出るフケやアカは、特にダニが好むエサなのだそうです。
マットレスや布団にはシーツをかけている人がほとんどですが、シーツの上には無数のフケやアカ、皮膚片などが落ちています。
「フケや皮脂がついたままのシーツを付けっ放しにしておくことは、ダニを繁殖させる主な原因になります。できれば2~3日に1回、難しい場合でも2週間に1回はシーツを替えて洗濯をしましょう」
加賀さんによると、取り替える頻度と同じくらい大切なのは、シーツの「取り替え方」。
「シーツの上にはフケやアカなど、ダニのエサになるものがたくさん落ちているので、マットレスや布団本体に汚れをまき散らしてしまわないよう、シーツはそっと外してください」(加賀さん)
これは盲点ですね。シーツを替える前に、マットレスや布団全体に掃除機をかけてから取り外すのも有効なダニ対策だそうです。
【ダニ危険度チェック6】起きてすぐにベッドメーキングをしていない?
起きた直後のマットレスは湿気でいっぱい。すぐに掛布団をかぶせてベッドを整えてしまうと、マットレスにこもった寝汗などの湿気が逃げにくくなります。
「ベッドカバーを使っている方も多いと思いますが、ベッドカバーは生地の目が詰まっているものが多く、湿気が逃げにくいので、起床してすぐにかけるのは避けましょう。1日のうちで湿度が低いのは、午前11時から午後5時ごろの間。この間はできるだけマットレスの湿気を逃すため、掛布団をはがしておくのがおすすめです」(加賀さん)
起きたらすぐにベッドを整えたい・・・という人は、湿気が少ない足元だけをキレイにベッドメーキングするのを加賀さんはおすすめされています。頭や背中などが触れる部分は、なるべく風に当てる工夫を。
起きた直後の布団をすぐに押し入れに収納することも、ダニ対策ではNG。
「布団にはたくさんの寝汗や結露がしみ込んでいます。さらに押し入れは空気が動きにくい空間のため、布団から出た湿度がこもりやすい場所。湿度が高い状態を保つことは、ダニの繁殖につながります」(加賀さん)
布団はしばらくめくって広げておくのがベストです。
「30分程度でもいいので、掛布団をめくって放置しておくと湿気を逃せます。起きたらすぐに布団を空気に触れさせ、乾燥させてからしまう習慣をつけておくといいですね」(加賀さん)
【ダニ危険度チェック7】寝室はちゃんと換気・掃除されている?
ダニ対策というと寝具のお手入れだけに気を取られてしまいがちですが、寝室の環境も重要なポイント。
朝起きたら寝室の窓やドアを開け、寝ている間に放出された汗や結露をすっきりと換気しましょう。
「寝室は、部屋いっぱいにベッドなどを置いていると、よりいっそう換気が悪くなってマットレスの湿気が逃げにくくなります。布団を敷いたあとの畳も湿気を吸っているため、窓を開けて部屋の風通しをよくしておくことが大切です」(加賀さん)
寝室のホコリもダニが繁殖しやすくなったり、アレルギーを引き起こす要因になります。大きなベッドが置いてあると掃除しづらい場所ですが、こまめに掃除機でベッド下や部屋の隅などに積もったホコリを吸い取っておきましょう。
ダニが増えたときはどうしたら? ダニを退治するための対策4ステップ
ダニの繁殖が疑われたり、なんとなく不快に感じることが増えた際のスペシャルなお手入れ法を加賀さんに聞きました。以下の対策4ステップを、できるだけ2週間~1ヵ月に1回は行いましょう。
ダニ退治の対策 STEP1 側生地(がわきじ)を外して洗う
側生地をマットレスや布団から取り外せる場合は、外して洗濯を。繊維の奥にしみ込んだ汚れが取れ、ダニのエサとなるフケや皮脂を取り除くことができます。
「側生地は基本的に日陰干しです。ただし、日陰干しでも多少縮む可能性があるため、洗濯後に縦横にしっかりと引っ張ってから乾かしましょう。乾燥機の使用はNG。側生地が縮んでしまうと、側生地がマットレスに対して小さくなってしまい、中綿が歪んだりして寝心地が悪くなります」(加賀さん)
側生地が取り外せない場合は、普段からマットレスや布団にシーツや敷きパッドをきちんとかけておくことが重要。そのうえで、加賀さんは「マットレスプロテクター」の使用もおすすめしています。
「マットレスプロテクターは寝装品の中でもマイナーな存在ですが、知らないのはもったいないですよ! 防水加工が施されているため、マットレスを汗や汚れから守ります。これが結果的に防ダニにもつながりますし、何よりマットレスを長持ちさせてくれます。マットレスが新品のときから使い始めるとより効果的です」(加賀さん)
さらに完璧を目指すなら、湿気を取り除いてくれる除湿シートをマットレスや布団の下に敷いておくのもおすすめだそうです。
ダニ退治の対策 STEP2 薬剤を使う
ダニを退治するには、市販されている燻煙タイプやスプレータイプの薬剤の散布も有効。ただし、布団やマットレスに薬剤を使う場合は、そのデメリットもよく知っておく必要があると加賀さんはいいます。
「人によっては化学物質の刺激に弱い方もいらっしゃると思います。肌を刺されるなど明らかにダニの繁殖が認められるときは薬剤が有効ですが、薬剤で処理をしたあとは、シーツや敷きパッドなどで、薬剤がかかった部分が肌に直接触れないようにする工夫が必須です」(加賀さん)
なお、化学物質過敏症の方などは避けた方が良い方法だそうです。
ダニ退治の対策 STEP3 熱でダニを殺す
ダニ退治に最も有効なのは「熱」。ダニは60℃以上の高温で死滅します。
「ガス乾燥機など、高温の乾燥機が使えるコインランドリーを活用しましょう。家庭用の布団乾燥機や衣類乾燥機など、電気のパワーでは60℃以上の高温が出るものは少ないですから」(加賀さん)
布団乾燥機などで一般的な50℃前後だと、ダニの退治には5~6分ほどの時間がかかるそう。また、ダニ退治には、マットレスや布団全体を50℃以上のままキープしておく必要があり、温度ムラがあるとダニが低温の箇所(下面や足元など)に逃げてしまいます。
「外に布団を干しておくくらいでは、布団全体を50℃にキープしておくことはなかなかできません。真夏に毎日、天日にさらしたとしても、やっとダニが1/3くらい減るか減らないか・・・といったところではないでしょうか」(加賀さん)
ダニがあまり繁殖していない状態なら、毎日干すことは「予防にはなる」と加賀さん。
毎日干すと湿気が飛び、ダニのエサとなるフケなども落ちます。布団干しはダニの退治ではなくあくまで「予防」であることを、理解しておく必要がありそうです。
ダニ退治の対策 STEP4 掃除機で吸う
ダニ退治はダニを死滅させる以上に、ダニの死骸などアレルゲンを取り除くことが大切です。
薬剤や熱などでダニを殺したあとこそ、掃除機をしっかりかけてほしい! と、加賀さんは言います。
「日常的にシーツやパッドの上に掃除機をかけるほか、立てかけて風を通したあとや、薬剤や熱を使ってダニ退治をしたあとは、特に側生地の上から直接掃除機をかけましょう。マットレスの縫い目などに沿って、吸引力の設定は強めで、しっかりと掃除機をかけてくださいね」(加賀さん)
ダニ退治の切り札は、プロの布団クリーニングを頼ること!
さまざまなダニ予防&ダニ退治のポイントを教えてくださった加賀さんですが、最もおすすめしている最強のダニ対策は、プロのクリーニングを頼ることだそうです。
「何といっても、高温でしっかり処理し、ダニの死骸をすみずみ取り去ってもらえるのが魅力です。コインランドリーでは入れられる寝具に限りがあります。大型の布団やマットレスに最適な洗浄機器・乾燥機器を持っているのは、やはり専門業者さんですね」(加賀さん)
布団クリーニングに加え、抗菌加工や布団の保管サービスなど、さまざまな付加サービスも魅力のプロのクリーニング。ぜひ一度検討したいですね。
おわりに
ダニはある日突然繁殖します。高温・湿度・汚れの3要素が揃いがちな夏だけでなく、冷たい床や壁、窓との温度差で布団やマットレスが結露しやすくなる冬も、ダニのリスクはゼロではありません。
こまめなお手入れとプロの技術で、ダニの不安がない「快適な眠り」を家族のために整えてあげたいものですね。