災害時ライフラインが停止?! どうやって調理しますか?
災害はいつ起こるのか予測もつきません。もしもある日突然災害に見舞われ、在宅避難を余儀なくされた時に生活の明暗を分けるのが食料や水などの備蓄です。心身ともに疲弊する被災時では食事に癒され、パワーを充電することができます。けれど、もしも電気、ガス、水道などのライフラインが停止してしまったら?
今回は防災食のプロ、管理栄養士、防災士、災害食専門員の今泉マユ子さん(以下、今泉さん)に、最小限の水やガスで調理ができる災害時に役立つ調理方法について教えていただきました。
専門家に聞く! 在宅避難時に最優先に確保しておくべきものは?
在宅避難となった時、まずは何から手をつけたらいいのか途方に暮れてしまうかもしれません。避難時に確保しておくべきものを今泉さんに伺いました。
(今泉さん)在宅避難時に絶対に必要となるのは水です。私たちの生活は食事をするにも、衛生的な生活をしていく上でも水がないと成り立ちません。一度ペットボトルの水だけで調理をしてみてください。調理に使う水、手や食器を洗うのに使う水など、1回の調理でどれくらいの水が必要になるかが分かります。
次に、被災時に温かい食事を取るためにはカセットコンロとボンベの備蓄も必須です。
水もガスボンベも限りある備蓄です。被災時を健やかに過ごすために、水やエネルギーの使用を最小限に抑えて作る防災レシピを覚えておいて損はありません。
気になる水やガスボンベの備蓄量の目安は?
もしもライフラインが停止した時、復旧まで1週間以上を要する場合が多く、最低3日~7日分の備蓄が望ましい※1とされています。
7日分の備蓄とは一体どのくらいなのでしょうか? 水とガスボンベの備蓄量の目安を今泉さんにお伺いしました。
(今泉さん)水は1人1日3L×7日分=21Lが必要です。注意しなければいけないのは、これは飲料水のみの量だということ。他にも生活用水としてさまざまなシーンで水を必要とします。私たちの生活では、洗面・手洗いに約12L、歯磨きに約6L、食器洗いに約60L、シャワーに約36L ※2もの水を使っているといわれています。また、トイレは性能により水の使用量が大きく異なりますが、1日数回使用することを考えると多くの水を使うことが想像できます。水の使い方は人それぞれなので、朝起きてから夜寝るまでを振り返り、水を使うシーンを書き出してみるといいですね。水を使う優先順位が見えてきます。
日々の生活に必要になるこれらの大量の水を備蓄しておくのは難しいので、水の代わりになるものも揃えておきましょう。ウエットティッシュ 、消毒用アルコール 、体が拭ける大判シート、拭きとり歯磨きシート、災害用の携帯トイレなどの備蓄も忘れてはいけません。
また、ガスや電気が止まった場合、調理にはカセットコンロとボンベが必須となります。ボンベは1人7日間で6本程度※3を目安に備蓄することが推奨されています。
カセットコンロの性能にもよりますが、ボンベ1本で約60分~90分間使用可能です。煮込み料理の他、パスタやうどんを茹でる時には温まった鍋に蓋をしてタオルなどにくるみ、余熱を利用して調理すれば節約になります。
それぞれのご家庭に合わせた備蓄量を考えて準備しておくと安心ですね。
※1,3 出典:農林水産省 災害時に備えた食品ストックガイド
※2 出典:東京都水道局 水の上手な使い方
被災時でもちゃんとご飯。火や水の使用を最小限に抑えられる防災レシピ
在宅避難時は、備蓄状況と相談しながら、限りある食料や資源をなるべく節約しながら調理したいものです。調理中は食材、手、調理器具を洗う、など多くの場面で水を使います。これらの水をほとんど必要としない、また、ガスの使用を最小限に抑えられる調理方法とレシピを今泉さんに教えてもらいました。
(今泉さん)普段の食卓でもおいしくいただける調理方法です。家族で防災について考えながら被災時を想像して試してみてほしいです。
一度試してみると新たな発見がありますよ。
【防災レシピ1】火も水も不要! 「即食レシピ(R)」
即作れて即食べられる「即食レシピ(R)」。調理に必要なのはポリ袋だけです。加熱せずに食べられるレトルト食品や缶詰の中身をポリ袋に入れて、袋の上から手で揉み混むだけで出来上がり。ポリ袋を使うことで調理器具を使わずに素早く、衛生的に調理ができるのも特徴です。
缶詰やレトルト食品は加熱済みなので下処理の必要がありません。しっかりとした味がついているので調味料としてかけたり、和えたり、混ぜたりすれば、料理のバリエーションも広がります。
缶詰×缶詰で! 「いかと大豆とひじきの煮物風」
いか味付き缶、大豆(ドライパック缶)、ひじき(ドライパック缶)を使用します。缶詰と缶詰を上手に組み合わせるだけで栄養価の高い一品が出来上がります。濃いめの味付けの缶詰なら調味料は必要ありません。
乾物が大活躍! 「イタリアン切り干しサラダ」
乾物と野菜ジュースを組み合わせます。
切り干し大根にトマトジュースを加えることで、ジュースの水分で乾物が戻ります。災害時に不足しがちな野菜を乾物とジュースで補うことができます。
もっと「即食レシピ(R)」を知りたい方は、東京ガスの防災レシピ情報サイト「日々のごはん と もしものごはん」で公開していますので、参考にしてみてください。
【防災レシピ2】火を使わない! 「水戻し調理」
「アルファ化米」をご存じですか? これはお米を炊飯後に急速乾燥させて作られたものです。お湯や水で戻すことで食べられるようになります。長期保存可能なので、備蓄リストにぜひ加えておきたい食材です。
また、ラーメン、うどん、焼きそばなどのカップ麺は普段から買い置きしている方も多いと思います。意外と知られていないようですが、実は、お湯が沸かせない場面でも、水で戻して食べられるようになるんです。
アルファ化米の水(野菜ジュース)戻し
お湯だけでなく、水やお茶、ジュースでの水戻しが可能です。特に野菜ジュースやトマトジュースを使うと、被災時に不足しがちなビタミン、ミネラル、食物繊維を補うことができます。
アルファ化米の袋から脱酸素剤、スプーンを取り出し野菜ジュースを入れてよくかき混ぜて80分以上待ちましょう。ちなみに、水で戻す場合は60分で出来上がります。
カップ麺の水戻し
カップ麺に水を入れて約20分待てば出来上がりです。カップ麺の種類、気温によって戻し時間は変わります。ノンフライ麺は時間がかかり、暑い日と寒い日では出来上がりに差が出ます。
塩分過多を防ぐには、スープが別添えになっているカップ麺を選び、戻す水の量を半分にして、スープの量も半分にします。断水しているときは残り汁を捨てられないので、初めから水分量を減らしておくことをおすすめします。
【防災レシピ3】水を節約! 「お湯ポチャレシピ(R)」
材料をポリ袋に入れて湯せんするだけで白米、丼ぶりもの、パスタまで、ホッと心が和む温かい料理が作れる調理方法です。この調理の良いところは、調理に使ったお湯と鍋を何度でも再利用できて水の節約になること。出来上がった料理は、袋ごとお皿に被せていただけばお皿も洗う必要がありません。
「お湯ポチャレシピ(R)」を知りたい方は、東京ガスの防災レシピ情報サイト「日々のごはん と もしものごはん」で公開しています。
災害食には水がなくても食べられるお餅もおすすめ!
他にも災害時に適している食材はあるのでしょうか? 今泉さんに伺いました。
(今泉さん)実は、災害食にはお餅が向いています。米、パスタ、麺類を食べるためには水が必要不可欠ですが、お餅は加熱するだけで食べることができます。主食となるものが水なしで食べられる、ということに気が付けば気持ちが軽くなりますね。特に、米粉を粉末状にして固めたお餅は、ポリ袋に少量の水を一緒に入れて揉むだけで柔らかくなる優れものです。
フライパンにオーブンシートを敷いてから焼けば、洗い物もほとんど出ません。また、保温性の高いスープジャーなどの容器に沸騰したお湯とお餅を入れておくだけで、柔らかく食べられるようになります。容器に高密度ポリエチレン製のポリ袋を被せて、その中で作れば洗い物も出ません。その他、お湯ポチャレシピ(R)でお餅を茹でると10分で柔らかくなります。お米を炊くより早く出来上がるので、ガスの節約にもなりますね。
もっと知りたい! 防災レシピ
東京ガスでは防災レシピの情報サイト「日々のごはん と もしものごはん」では備蓄品をアレンジしたアイデアいっぱいのレシピをご紹介しています。また、もしもの時の対処方法や便利グッズなどをまとめた冊子「こころとおうちに備えて安心『日々のごはん と もしものごはん』」も無料でダウンロードすることができます。
おわりに
水やガスをほとんど使わない調理方法でも、いつもの食事に近いものが作れるというのは発見でした。また、今まで何気なく使っていた水やガスの使い方を、あらためて見直す良い機会になりました。普段から節約しながら使うクセをつけておきたいですね。
参考:農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」