GIGAスクール構想でタブレットが配布された学校。子どもの学びはどうなった?
教育の中にICT(情報通信技術)を取り入れる「GIGAスクール構想」。2019年に閣議決定され、それ以降、各小中学校で児童生徒向けの1人1台学習用端末と、高速大容量の通信ネットワークが一体的に整備されてきました。2022年3月1日の時点で、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は0.9人、普通教室の無線LAN整備率が98.8%と、小中学校での環境整備はほぼ完了しています(上のグラフ)。
学校のタブレット導入後、子どもの学ぶ環境はどう変わったのでしょうか。家庭ではどう活用すれば良いのでしょうか。ITジャーナリストでご自身も子育て中の成蹊大学客員教授の高橋暁子さんにお話を伺いました。
タブレット学習の普及が学校や子どもの学びにもたらした影響
高橋さん「元々、GIGAスクール構想の背景として、日本は世界各国に比べて、スマホ利用は多いもののパソコン活用が少ない傾向にあり、IT分野において後れを取りつつあるという危機感がありました。少子化の中で子どもが小さい頃からICTのスキルを身につけ、将来のIT人材を育て、日本の国力を上げていこうという取り組みです」
高橋さん「学校でのタブレット配布はコロナ禍により、一気に前倒しで進みました。NTTドコモ モバイル社会研究所の調査結果でも、パソコンでキーボード入力ができる子はさらに増え、小学生高学年・中学生で約9割(上のグラフ)に。携帯電話の文字入力と並ぶほどのスキルが身についたことがわかります。子どもたちがパソコンのキーボードに慣れたというのは大きな成果の1つでしょう」
高橋さん「また、同調査で情報リテラシーが高まったことや調べ学習に活用されるようになったこともわかっています。コロナ禍で急遽、タブレットが整備され、現場の先生も苦労されたかと思いますが、研究授業や先生同士の情報交換などを通して活用が進んできたようです。今までの一斉学習のような形式だけでなく、子どもの意見をリアルタイムで電子黒板で開示して、共有しながら授業を進めるような双方向な学習の形式も可能になっています。リアルタイム性や双方向性は、タブレット学習の大きなメリットだと思います」
その他、子どもたちがタブレット学習を好み、学習内容に高い関心を持つようになったこともわかっています。タブレットは今や学校現場で欠かせないツールとなりつつあります。
タブレット学習、家庭で活用する際の注意点とは
文部科学省ではタブレット端末の利用ガイドラインを作成しています。「タブレットを使うときの5つの約束」として、「タブレットを使う時は姿勢よくしよう」「30分に1回をタブレットから目を離そう」「寝る前はタブレットを使わないようにしよう」「自分の目を大切にしよう」「ルールを守って使おう」の5つがリーフレットに記載されています。
高橋さん「文部科学省のガイドラインでは大枠のみ定められていて、タブレットの使用時間の制限や使い方の細かなルールは、家庭にゆだねられています。ただ家庭ごとにバラバラのルールだと、子ども同士で不公平感が出て徹底しにくいなどの難点があります。そのため、自治体単位や学校単位で独自のルールを定めているところもあります」
小学校によっては、子ども主体で話し合い、ルールを決めているところもあるそうです。子どもたちが自主的に決めたルールは、より守られる傾向にあるようです。
高橋さん「子どもが自由に使える、1日の可処分時間は意外と短いんです。学校や習い事、塾に加え、食事やお風呂、睡眠時間など生活に必要な時間を削ると、どれだけの時間が残るでしょう。タブレット学習は大切ですが、そればかりに時間を割いてしまうと、野外活動や遊びなど『体験からの学び』が失われてしまいます」
体験からの学びは大切ですし、視力への影響など健康のリスク面も気になります。学びのためのタブレットとはいえ、使いすぎには注意する必要があると言えるでしょう。
また、学校のタブレットの場合、ペアレンタルコントロール機能が使えず、時間外は使えないようにするなどの利用制限をかけることができません。高橋さんは意思の力が弱い子どものうちは、時間外は取り上げてしまうことも検討する必要があると言います。
その他、情報リテラシーについても、しっかり家庭で教える必要があると高橋さんは強調します。学校の一斉指導で教えてもらうのも大切ですが、それだけでなく、日頃、ニュースなどで個別の事例を見ながら親とやり取りの中で学んでいくことも大切だといいます。
以下のような情報リテラシーの基本的な内容は日頃、子どもと話し合い、知っているかどうかを確認しておくと良いでしょう。
- アカウント乗っ取りやなりすましのトラブルがあるため、IDやPWの管理を徹底する
- 詐欺のリスクがあるため不明なサイトはクリックしない
- 個人情報を他人とやり取りしない
- いじめや誹謗中傷など問題行為に加担しない
- 知らない人とネット上でやり取りしない
子どもだけではない、シニアも注意したいネット上のリスク
タブレット利用について注意が必要なのは、子どもだけではありません。祖父母がタブレットを使い始めたら、サポートしてあげる必要があると高橋さん。
高橋さん「シニアは社会経験が豊富なので、つい放ってしまいがちですが、実はネットについてはデビューしたて。情報リテラシーが低いことも多いんです。国際ロマンス詐欺や投資詐欺、フィッシング詐欺、サポート詐欺など、シニアのトラブルはシニアの持つ財力を目当てにした犯罪が多いです。
大事なのは『困ったことがあったらいつでも相談して』と伝えておくこと。つい恥ずかしくて子どもや孫に相談できないというシニアは多いですが、それが原因で被害が拡大してしまいます。子ども世代の方は若い頃からネットに触れて小さな失敗をたくさんして、情報リテラシーを高めてきた経験があります。『ネット上の失敗はよくあることで恥ずかしいことではない』と伝えておいてあげましょう」
出典:文部科学省「GIGAスクール構想の実現へ」