小4の壁とは? 実態やどんな問題が起こるのか?
「小4の壁」とは、小学4年生の9〜10歳前後の時に、子どもが抱えやすいさまざまな問題や悩みを指します。「放課後の居場所がなくなる」「学習についていけなくなる」「友人関係が複雑になる」「周りに対し劣等感を感じる」「親と子の衝突が増える」など。「10歳の壁」とも言われています。
また、小4から学童に入れないケースが増えてきます。共働き世帯が増える中で学童保育の待機児童数は増加傾向にあり、特に小学4年生の待機児童数は例年、突出しています。昔は公営の学童保育の対象が10歳未満(おおむね3年生)とされていたのが、「子ども・子育て支援新制度」(2015年4月施行)により、高学年まで対象が拡大されたことが原因で、学童保育の待機児童数の多い地域では、低学年で満員になってしまうこともあります。
子どもを預ける場所がなくなり、仕事を辞めたり、働き方を変える親もいます。習い事や塾の予定を入れて子どもが1人で過ごさなくて済むように対策する家庭も。子どもにとっても安心して過ごせる場がなくなるのは大きな問題ですね。
子育てアドバイザーの宗藤純子さんは、この時期を「男女ともに子どもから大人へと心と体が大きく変化していく、『いわばサナギのような時期』」だと称します。
宗藤さん「8歳から18歳までの思春期は『周囲と関わり合いながら、1人の大人になるのに向けて自我を確立していく時期』です。8、9歳は前思春期、10歳から18歳の思春期時期、10歳からは第二次性徴期が始まり、15歳ぐらいまで、体も大きく変化していきます。
心の面でも、親や先生に反抗したり、暴言や物を壊したりなど、程度の差こそあれ、大人が問題としてとらえる行動が出てくる時期でもありますが、こうした行動の裏には”親の愛情を確認したい”という目的があります。
本当は『お母さん、お父さん、このままの僕で大丈夫かな?』と確認したい。それでもプライドが邪魔してそうは言えない。親に対する反発の気持ちは、自立へ向けてのステップ過程でもあり、そこが安全な基地だからこそ。行動はその子の不安感や不満が爆発しているサインと受け止め、大人の方には冷静に子どもと向き合ってほしいです」
思春期の子こそ「自分は愛されている」という実感がほしい時期。サナギの中の子どもは変容して、自分になろうとしているのです。親は不安な時期を見守り、少しでも認めること。子どもの「ありのままの自分」を受け止めてほしい気持ちを受け入れ、「あなたはあなたでいいのよ」というメッセージを伝えることが大切なのだそうです。
出典:厚生労働省「令和4年放課後児童健全育成事業の実施状況」
思春期の前期に起きる「小4の壁」、どう乗り越える?
小学4年生は8歳から18歳までの思春期において、ちょうど始まりのタイミング。これから10年近く続く思春期、親は子どもとどう向き合っていけば良いのでしょうか。
宗藤さんは「親は不安にならなくて大丈夫」だと言います。子どもが、外に助けを求めるのではなく家庭の中にいるのは、今まで信頼関係が築けてきた証拠。育て直しができる思春期は親子の関わり方を見直す機会です。できることから始めれば良いのだそうです。
本人の意見を聞き、親子で対話する
思春期ではさまざまな問題行動や身体的・精神的な症状を示す子どもが少なくありません。子どもにとって、この時期はそれまでの発達課題をやり直す時期です。
宗藤さん「子どもが自立しようとしている時に本人の意見を聞かずに物事を進めては、反抗するのは当たり前です。『どう思う?』と問いかけて意見を聞くこと。子どもの意見を否定せず、じっくり聞いて対話していく必要があります」
親の意見を押し付けるのはもってのほか。子どもが「何を言っても大丈夫」と感じる環境であれば、安心して自分の気持ちを話せるようになります。親は上からジャッジせず、一緒に考える姿勢が大切なのだと言います。
親が正しい知識を得る
宗藤さんによると、子どもが思春期を迎えるのが不安な親が増えているのだそう。「この時期に子どもの体や心に起こる変化がどのようなものか」、正しい知識を得ることがこうした不安を解消してくれます。昔は女子だけが「性教育」を受けていて異性の体について知る機会が少なかったこともあり、十分な知識を持っていない親も多い状況。性教育は「包括的性教育」として、子どもの人権につながる大切なこととして受け取ってほしいと言います。
「前思春期の8〜9歳になると、男女ともに脳下垂体の前葉部から性腺刺激ホルモンが少しずつ分泌されます。10〜15歳の第二次性徴期の間に女子は月経、男子は精通がきます。月経前に女性がイライラするのは比較的有名ですが、男の子も無意識ですが、イライラしていることは多いんです」(宗藤さん)
また、発達段階に応じて脳は変化し続けますが、その変化が一番大きいのは「胎児、乳幼児、思春期」。
イライラする大きな変化に子ども自身も戸惑いやすいそう。宗藤さんがヒアリングした際、「自分じゃない子がここに(胸のあたりに)いる気がする」と表現した女子もいたと言います。
子ども自身も自分の変化に戸惑う中で、親も適切なサポートをできるよう、本を読んだり、セミナーなどに参加して、思春期特有の子どもの状況を理解しておく必要があります。
今はインターネットの情報が多すぎて、正しい情報が届く前に子どもが作られた情報によって間違った先入観を持ってしまうことも多いもの。親が正しい知識を得て、子どもに読ませたい本があったら渡してみる。一緒に学ぼうと声をかけてみる。親が意識的に子どもと接していくのが大切なのだそうです。
一番不安なのは子ども。甘えも依存も受け止める
10歳〜15歳は、第二次性徴期。思春期の中で体の変化が最も大きい時期です。この時期は、子ども自身の不安も大きくなると宗藤さん。これまで子ども向けのお話会を行ってきた経験から、高学年の子たちが不安を吐露するケースは多いと言います。
この時期は子どもの「自分を受け止めてほしい気持ち」が強くなります。特にそれまでの発達段階で親に甘えたり依存した経験がない子の場合、急に甘えてくることも増えるそう。親は今まで子どもとどう向き合ってきたのかを振り返りつつ「あなたはあなたのままでいいのよ」とメッセージを伝え続ける必要があります。
親以外に「信頼できる大人」と子どもの接点を作る
「思春期の子どもの対応は親だけでやらないことが大切」だと宗藤さんは言います。
宗藤さん「親や先生と子どもの関係はいわば縦の関係です。友達は横の関係。それだけでは、子どもが本音を言える場所がないんです。信頼できる大人と斜めの関係を作るのが大切です」
昔は地域のつながりや祖父母がいましたが、核家族化によりこうした斜めの大人の関係が減ってしまったのだそう。習い事の先生や年上の親族、友達の親など、子どもが心から信頼できる大人と接点を作ってあげることが大切です。
親も完璧でないことを伝える
「1人でがんばりすぎるお母さんが多いですが、お願い上手になると良いですよ」と宗藤さん。
完璧な母親を目指すと苦しくなってしまいます。お願い上手になって夫や子どもたちに「助けて」と声をあげることが大切なのだそうです。
思春期について学んでいる時も「お母さんも学んでこなかったから思春期のことが分からないの。あなたに大切なことを伝えたいから学んでいるのよ」と伝えることで、子どもに真剣に向き合っている姿勢が伝わります。
子どもにとって親が完璧すぎる存在であることも良いとは言えないそう。子どもが本音で話せなくなりがちです。親も完璧ではなく学び続けているのだと伝えることで、お互い本音で話せる環境を作れるのだそうです。
思春期の子どもの親に向けた宗藤さんのメッセージ
親も子も余白のない状態で生きているこの時代、自己肯定感が低い子が多いのだと宗藤さん。子どもが芽生えた自我を大切にしながら「この自分で生きていく」と自信を持たせてあげるには、この時期に親がしっかりと向き合う必要があります。
気にかけてほしいのは「子どもと対等になって衝突しない」「ガミガミ言わない」「追い詰めない」「突き放さない」こと。一度立ち止まって、今の子どもの状況をみて何ができるかを考えてみるのが大切です。
おわりに
宗藤さんは「10歳からの思春期は育て直しの時期」と言います。18歳になって成人してしまうと親ができることは限られてしまいます。思春期はもう1回育て直しができるチャンスと捉えて子どもと向き合っていきたいですね。