転勤時、持ち家はどうする? 5つの選択肢を知っておこう
突然、転勤を言い渡されたら「持ち家はどうしたらいいのだろう」と戸惑ってしまうでしょう。また、最近はリモートワークを認める会社も増えており、子育てを優先して自然の豊かな地方に住み替える人も増えています。終身雇用がなくなるなか、転職に伴って住む場所を変える機会も増えるでしょう。
住み替えにあたっては、引っ越し先の住まいの手配など短期間に多くの手続きが必要な中、自宅の扱いは後回しになりがちですが、家は人が住まないとすぐに傷みます。大切な資産である自宅の扱いはしっかりと決めておきたいものです。
転勤中の持ち家の対処法についての選択肢を整理してみました。整理にあたっては、住み替えや金融に詳しい青山学院大学の教授で一般社団法人移住・住みかえ支援機構代表理事である大垣尚司さんのお話を参考にさせていただきました。
家を離れる日が決まっているからこそ、転勤中の自宅をどうするかの対応はスムーズに済ませていきたいところです。家族と一緒に移動するのか単身赴任をするのか? 将来的にまた現在の家に住みたいのか? 住宅ローンがあるのか? などを判断の材料として、自宅の扱いを考えてみてはいかがでしょうか。考えられる選択肢は次の5つです。
- 家族がそのまま住む
- 親戚・知人など、留守宅に住んでくれる信頼できる人を探す
- 売却する
- 賃貸に出す
- 空き家にしておく
選択肢1:家族がそのまま住む
転勤による家族への影響を最低限に抑えたい場合は、単身赴任を選ぶことになります。
メリット
・家族の生活に大きな変化がない
・持ち家はほぼ、従前同様の状態で維持できる
・住宅ローン控除の適用が継続できる
デメリット
・家族が分かれて生活することになる
・生活拠点が複数になるため、支出額が増える
お子さんの学校や介護などの都合上、家族全員での引っ越しが難しい場合は、単身赴任は選択肢の一つとして有力です。引っ越しや転校による家族の心理的負担が避けられることに加え、空き家にすることで生じる家屋の劣化も防げるからです。
また、転勤先が国内である場合は一般的に住宅ローンの契約変更手続きが不要である点や、住宅ローン適用控除がそのまま継続できる点も見逃せないメリットです。
※参考:国税庁「タックスアンサーNo.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」
ただし、注意した方がよいこととしては「住宅ローンがある場合は、転勤後は転勤前よりも家計の支出額が増える傾向があること」。1人住人が減ることによる光熱費・食費の減額より、転勤先で新たに発生する光熱費などの金額の方が大きくなるケースがほとんどだからです。
「家族がそのまま住む」のは、支出の増加も勘案して選択するのがよさそうですね。
この点について、大垣さんは、
「そもそも、欧米だと会社のために家族生活を犠牲にするという発想はないから、転勤で単身赴任を迫られれば、むしろ会社を変えるというのが普通だ。日本についても、現在、これまでのメンバーシップ(就社)型から、ジョブ(就職)型へと働き方の変革が急速に進んでおり、同じ企業の中でキャリアアップのために転勤を受け入れるのが当然という発想そのものが大きく変わっていくのではないか。そうした中、これからはむしろ、生活の質の改善を求めて自発的に移住・住み替えをする時代がくるのではないか」と指摘します。
働き方の変化に伴い、住まい方も変わっていきそうですね。
選択肢2:親族・知人など、留守宅に住んでくれる人を探す
一家で引っ越すことを決定した場合、自宅は空き家状態になります。
ここで気をつけたいのは、家は誰も住まずに放置するとあっという間に劣化が進むということです。住んでもらったほうが家屋そのものを良好な状態にしておけるとは、驚きですね。
大垣さんによれば「家は生き物で、呼吸をしています。空き家にして締め切っていると、半年程度で傷みはじめます」とのこと。
具体的には、次のような点に注意する必要があり、最近は、地球温暖化で劣化のスピードが増しているといいます。
・台所・風呂場・冷暖房等の設備は使わないと急速に劣化
・掃除をしないため、閉め切った状態でもチリやホコリは積もって、それを餌に虫やカビが繁殖。
・換気による空気の入れ替えが行われないため、梅雨時期などには湿気が家の中にこもりやすく、カビも繁殖。木造住宅では、カビや湿気は木を腐らせてしまう原因になる。特にカビ類は、高湿度で一気に繁殖し、クロスや床、天井などの劣化が早くなるほか、床や屋根裏など、見えない部分も大きく劣化。最近の高気密住宅では、家具やクロスが数週間でカビだらけになることも。
もし、留守居をかねて親族や知人など信頼できる人に住んでもらうことができるなら、まずは第一の選択肢になります。
メリット
・第三者に貸し出すわけではないので、家具など家財を置いておける
・転勤が終わり自宅に戻る際に、引き渡しがスムーズである
・必ずしも賃貸借契約を結ぶ必要がないので手続きが簡便である
・人が住み続けるので、家屋が劣化しづらい
デメリット
・タイミングよく住んでくれる親族や知人が見つかるとは限らない。
選択肢3:売却する
転勤の期間が分からない場合や、長期になることが予想される場合、あるいは、住み替えて「売却」の選択肢が頭をよぎるでしょう。特に、ここ数年は、首都圏や大都市圏の中古マンションの中にはかなり値上がりしているところも少なくないそうです。もし、購入時より値上がりしているなら、「売却」も有効な選択肢になりそうです。
メリット
・転勤中に留守宅のメンテナンスをしなくてよい
・売却代金を次の住まいの購入費に充てられる
デメリット
・売却額を充当しても住宅ローンが完済できない場合は、(自宅がなくても)ローンの支払いだけが残る
・転勤終了時に次の自宅を探さなければならない
大垣さんによれば住宅ローンが残っている場合、家の売却価格がローンの残債よりも低く、ローンの返済が残るケースが多いといいます。
「住宅ローンの返済は、元利均等方式といって、金利と元本の合計額が毎月同じになるように毎月少しずつ内訳を調整します。借入残高が大きな最初の頃は、金利の額が大きくなるため元本返済に回せる額が少ないため、借りて10年目では残高はまだ3/4程度にしか減っていません(金利1%の場合)。
これに対して、中古住宅の値段は築浅であっても新築に比べるとかなり減価することが多いため、代金だけでローンを返済できないことも多いのです。
また、家はすぐに売れるとは限らないため、住み替えた先で新たにローンを組んだり、家賃を払いつつ、前のローンも払う必要があるといった状況に追い込まれることも少なくありません」
選択肢4:賃貸に出す
メリット
・空き家にするのと比較して、家屋の傷みが少ない
・家賃収入が見込まれる
デメリット
・適切な契約を締結していないと、転勤終了時にトラブルが発生する可能性あり
・住宅ローンについて、銀行に説明が必要
・住宅借入金等特別控除などの適用が受けられなくなる
住宅ローンがある場合、転勤中にも家賃収入を得られる「賃貸」は魅力的な選択肢です。
「他人に自宅を貸すと、雑に使われてしまいそう。空き家にしておいた方が安心」と考える方も多いと思いますが、上述のように、むしろ人に住んでもらったほうが痛みが少ないのです。
賃貸に出すときのポイント
持ち家を賃貸に出す場合、売却とは異なる注意点があります。いろいろなサービスや制度が利用できれば、自宅が家賃収入をもたらすこともあります。
ここで気になるのは、住宅ローンのこと。
大垣さんによると、住宅ローンは自己居住を前提とするものなので、賃貸すると形式的には資金使途違反になります。
しかし、少なくとも転勤のように一時的な住み替えの場合には、担保である家を劣化させず、また、家賃で円滑な返済が期待できることから、ほとんどの銀行は一時的に賃貸に出しても特段問題視はしません。
ただ、最近は銀行の収益環境が悪化しており、賃貸したことにつけこんで、金利の高い事業用ローンへの借り換えを迫る悪質な銀行があることは事実です。
しかし、住み替えに伴い戻ってこない前提で賃貸専用に改修して運用専用とするといった場合ならともかく、転勤等に伴い自宅を一時的に借りてもらうといった場合は資金使途違反にはあたりませんので、万が一何か言われても、一時的な「転勤」であることを毅然とした態度で銀行に説明してください。
ただし、住宅借入金等特別控除の適用からは外れるので注意しましょう。住宅借入金等特別控除等の適用を受けることができるのは、家屋の所有者または、配偶者、扶養親族その他生計を一にする親族が、その家に住んでいることが条件だからです。
転勤等の場合には戻ってから控除を受けられる場合がありますので、詳しくは以下を参考にしてください。
※参考:国税庁「タックスアンサーNo.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等」
自宅を一時的に賃貸する場合には、もう一つ注意すべきことがあります。
・「定期借家契約」にする
大垣さんによると、自宅に戻る可能性がある場合は、賃貸に関する契約を必ず「定期借家契約」というものにする必要があります。
普通に家を貸して家賃をとる契約は借家契約といい、借地借家法という法律が適用されます。この法律は立場の弱い賃借人を守るために、借家人に、契約の終了時に、改めて同じ期間借りることができる更新権を与えていて、貸主は正当事由と呼ばれる非常に厳しい事情が認められないと契約更新を断ることができません。
つまり、普通に借家契約をしてしまうと、自分が住む必要が生じてもそれだけでは出ていってもらうことができなくなるのです。
これに対し、同じ法律で、契約の際に書面で「定期借家契約」であることを書面で相手方に示して説明した場合は、借家人に契約更新権が認められないという制度が設けられています。この仕組みを使えば、契約終了時に家を明け渡してもらうことができますので、転勤等から自宅に戻ることになっても安心です。
なお、大垣さんが関与されている一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)のマイホーム借り上げ制度は、こうした「一生に一度だけ自宅や相続した家を貸す」という素人の方のために、JTIが家を借り上げて、これを定期借家契約で転貸して運用する仕組みです。
一度入居者が決まったあとは、入居者が契約期間より早く退去してしまった場合に空き家となっても一定の家賃が支払われますし、面倒な入居者対応等もJTIが責任をもって対応してくれます。
制度を利用できる年齢は原則として50歳以上となっていますが、海外転勤の場合、親等から相続した家やあらかじめJTIの認定を受けた長寿命住宅等を活用する場合、地方創生による移住支援金を受けて住み替える場合等、年齢制限が適用されない場合があります。
詳しくは、JTIのホームページ等をご覧下さい。
一般社団法人 移住・住みかえ支援機構
選択肢5:空き家にしておく
多くの人は、家は住まないでおいておくほうが、人が住むより傷まないと考えがちです。しかし、すでに見たように、空き家が傷むスピードは思ったより早いことに注意する必要があります。
メリット
・手続きが少なくて済む
・夏休みなど長期休暇に戻って暮らす場合は転勤先と併せて二拠点生活が楽しめる
デメリット
・家屋が急速に傷むため、換気などのメンテナンスがこまめに必要
・住宅ローンについて、銀行に説明が必要
・住宅借入金等特別控除などの適用が受けられなくなる
転勤等に伴い住所を移すと、納税住所が変わります。自己居住でなくなるため住宅借入金等特別控除などの適用が受けられなくなることには注意しましょう。
空き家を選択する場合、その後の管理やメンテナンスのために度々空き家に通う必要が出てくることも。そうなると、空き家との往復など時間的負担も多くなってしまいます。
そんな方は、空き家向けのサービスを検討するのもおすすめです。
東京ガスの空き家管理サービス「実家のお守り」で、賢く空き家を管理
2022年3月、東京ガスでは、これまでの住宅に関する様々なノウハウを生かし、誰も住んでいない家のお手入れを行うサービス『実家のお守り』をスタートしました。
サービス内容は、月1回空き家を訪問し、換気や通水、草木の確認や草むしり、郵便物の回収などを行った上で、写真報告してくれるというもの。
利用料は月額9,900円(税込)~※。遠方に住んでいて、空き家の管理のために休日を費やしている方や、高い交通費を負担している方にも、ありがたい価格設定ですね。
東京23区や東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の都市部でスタートしています。
草木のお手入れは、近隣からの苦情対策として。また、月1回、人の出入りがあることで、防犯対策にもつながります。
※ベーシックプランの利用料です。プラン詳細はこちらをご確認ください。
おわりに
大垣さんのお話も参考に、転勤中の持ち家の対処法についての選択肢を整理してみました。転勤などで持ち家を空き家にしてしまうと、大切な自宅が急速に傷んでしまいます。「賃貸に出したくないが、家屋の劣化は避けたい」という場合は、空き家のメンテナンスサービスを利用し、転勤などの長期の不在でもご自宅を良い状態でキープしたいですね。