いつの間にかできてしまう汗染み
毎日洗濯しているのになぜかできてしまう汗染みや黄ばみ。気がついたらお気に入りの服が汚れていて着られなくなったという経験がある方も多いのではないでしょうか。汗染みや黄ばみは、大切な服が台無しになってしまうだけでなく、イヤなニオイの原因になることも。
いつの間にかできてなかなか落ちない汗染みですが、自宅にあるものを使って簡単に落とす方法があります。今回は、国家資格のクリーニング師であり「洗濯ハカセ」としても知られる神崎健輔さんに、汗染みの原因や、すぐにできる染み抜き方法を伺いました。
汗染みには「原因」と「段階」がある!
「汗染みは、洗濯で落としきれなかった汚れが蓄積したもの。また、汗染みは段階を経てできていくものなんです」と神崎さん。詳しくご説明していきます。
汗染みの第1段階
汗染みの最初の段階は、汗の皮脂が付着した状態です。汗の主成分は水分と皮脂などの油分で、皮脂の中にはタンパク質も含まれています。衣類に汗がついても水分は蒸発していきますが、タンパク質は生地に付着し、それを油分が膜を張るように覆ってしまいます。
「この状態で洗濯しても、皮脂の油分が水から汚れを守るような形になり、汚れは落ちにくくなっています。もちろん、洗濯用洗剤を入れているので、うまくいけば皮脂の油分を引き剝がし、タンパク質の汚れまでアプローチすることもできます。
ただ、汗の水分が蒸発して油分とタンパク質が乾燥して固くなっている状態では、じわじわと時間をかけて油分を溶かしていかなければなりません。洗濯の時間が短いと油分を溶かしきれずに洗濯が終わってしまい、うっすらと汚れた状態で乾燥させることになってしまいます」(神崎さん)
汗染みの第2段階
第1段階のように、衣類の汗汚れを完全に落としきっていない状態で着用すると、また同じ場所に汚れがついてしまいます。
「これが繰り返されて、だんだん見える汚れに変わっていきます」(神崎さん)
これが汗染みの第2段階です。
汗染みの第3段階
「第1段階、第2段階でも汚れに気づかず、対処せずに放置していると、蓄積された汚れが酸化していきます。それによって最終的には汚れ自体が繊維の色そのものを黄ばませていくのです」(神崎さん)
ちゃんと洗濯しているつもりでもなぜか汗染みができてしまうのには、このような理由があったのです。
【専門家が教える】汗染みの落とし方
汗染みができていることに気づいても、汚れがこびりついて黄ばんでいるのか(第2段階)、汚れがすでに酸化し繊維の色そのものが黄ばんでしまっているのか(第3段階)、洗濯のプロでなければ見た目だけでどの段階の汗染みなのかを判断することは困難です。そのため、まずは以下の手順で洗ってみてください。
方法1 洗濯用せっけんで汚れた箇所をこすって洗う
比較的軽めの汚れであれば、洗濯用の固形せっけんを使って落とすことができます。
「まずは洗濯用せっけんで黄ばみのある箇所をこすって、もみ洗いします。この時、繊維に沿って縦方向にこするのがコツ。その後は通常通り、洗濯機で洗います。せっけんでこすることで、物理的な力を使って汚れを剝がしていくようなイメージです」(神崎さん)
方法2 酸素系漂白剤と重曹を混ぜて汚れた部分に塗り込む
方法1で汚れが落ちなかった場合、液体の酸素系漂白剤と重曹を混ぜて汚れた部分に塗り込む方法を試してみてください。
「液体の酸素系漂白剤と重曹を1:1で混ぜ合わせ、汚れている部分に塗り込みます。手荒れ防止のため、ゴム手袋を着用しましょう。10分ほどそのまま放置したら、いつも通り洗濯機で洗います」(神崎さん)
実際に試してみたところ、この方法でYシャツの襟周りの汚れを落とすことができました。
方法3 つけ置きする
方法1も2も試したけれど汗染みが落ちないという時には、つけ置き洗いを試してみてください。
まず、バケツまたは洗面器に約40℃のお湯を張り、水量に合わせた分量の粉末酸素系漂白剤を溶かします。注意書きに記載された分量を計って入れましょう。粉末の酸素系漂白剤は洗浄力が強いため、色柄物の場合は液体の酸素系漂白剤を使用してください。
そこに汗染みのついた衣類を入れ、30分〜1時間つけ置きします。
「ポイントは水の温度とつけ置きの時間です」と神崎さん。
染み抜きの世界には『温度・濃度・時間』という言葉があり、水温、洗剤の濃度、つけ置きの時間が重要だとされているのだそう。
「ただ、的確な洗剤の『濃度』というのはプロの肌感覚なので、定量的に示すことは難しいです。そのため、家庭で染み抜きを行う場合のポイントになるのが『温度』と『時間』です。酸素系漂白剤の場合、泡が発生して化学反応が起きやすい温度は30度〜50度です。温度を上げすぎると急激に化学反応が起こり、生地に負担がかかってしまいますので、汗染みを落とす場合のつけ置きは40度がベストなんです。
また、つけおき時間については、30分〜1時間で一度、汚れの度合いをチェックして、もう少し長い時間つけ置きしたい場合は、一度湯を換えて再度酸素系漂白剤を溶かしてからつけ置きしてみてください」(神崎さん)
汗染み落としで塩素系漂白剤を使う時の注意点
染み抜きをする際によく使われる塩素系漂白剤。汗染みにも有効ですが、柄物や色物のワイシャツに使うと色が抜けてしまうくらい強力です。使用する際は、白い衣類だけに使いましょう。ただ、素材によっては塩素系漂白剤が使えないものもあるので、必ず洗濯表示を確認しましょう。
汗染みが起こりやすい夏によくある失敗が、衣類に日焼け止めクリームがついているのに気づかずに、汗染み落としのために塩素系漂白剤を使ってしまうこと。なんと染みを落とすつもりが、逆にピンクの染みができてしまうことも!
「これは布地がピンク色に染まった訳ではなく、日焼け止めクリームの成分が漂白剤に反応してピンク色になっているだけです。だから、日焼け止めクリームさえ落としてしまえば元に戻せます」(神崎さん)
日焼け止めクリームでピンクの染みになった部分は、クリームの油分を落とすために油分に強い(純せっけん分の多い)洗濯用固形せっけんまたは食器用洗剤を使って洗います。
固形せっけんまたは食器用洗剤をピンク色に変色した部分に塗り込み、ぬるめのお湯で洗い流せば落とせるそうです。
食器用洗剤をピンクのしみに塗り込みます。
ぬるま湯で洗い流すとキレイになりました。
汗染みを作らないための予防法
できれば汗染み落としの手間は避けたいもの。汗染みを作らないための予防法はあるのでしょうか。
「方法としては、衣類の汗染みができやすい部分にあらかじめベビーパウダーを軽くつけておくのがおすすめです。ベビーパウダーが汗を吸収してくれるので、洗濯したときに汗がキレイに落ちやすく、染みになりにくいです」(神崎さん)
ただし、夏によく使われる制汗スプレーには注意が必要だそう。
「制汗スプレーの成分は衣類に付着すると落ちにくく、黄ばみに変わってしまう可能性があります。制汗スプレーを使用する場合は、先に服にベビーパウダーをはたいておいたり、洗濯時に酸素系漂白剤を一緒に入れたりするようにしてください。また、夏はスピードコースで洗いたいという方もいるとは思いますが、やはり標準コースである程度時間をかけて洗うほうがきれいに仕上がります」(神崎さん)
おわりに
汗染みができた服はもう着られないと思っていましたが、家にあるもので簡単に落とせることが分かりました。お気に入りの服を長く気持ちよく着るためにお手入れは必須。今回ご紹介した汗染みの落とし方や汗染みを作らないための対策は、どれも手軽に試せるものばかりなので、ぜひ参考にして日頃からこまめにお手入れしてみてください。