マミートラックって何?
マミートラックとは、出産・育児を理由に女性が補助的な業務に滞留している働き方のこと。※
補助的業務のみを担当し、昇進や昇格のないキャリアコースを、陸上競技場の周回コース「トラック」になぞらえて表現した言葉です。
これに対して岩橋さんは「マミートラックという言葉には、明確な定義があるわけではありません。『責任が限定的な働き方』や『時間に制約がある働き方』という事実があるだけ。それをマミートラックと表現することで、事実以上に悲観的に捉えられている印象があります」と話します。
「いわゆるマミートラックと呼ばれるポジションは、総務や人事などの部門や、その他、補助的な業務が多い印象です。業務上、営業目標などのプレッシャーや、お取り引き先対応が比較的少なく『穏やかな働き方』が実現しやすいポジションで、会社側の好意や配慮により配属される場合も多いです」(岩橋さん)
※出典:厚生労働省 労働政策審議会 雇用均等分科会「女性の活躍推進の現状と課題」
マミートラックのメリット
マイナス面が強調されがちなマミートラックですが、メリットを見出すことも可能です。マミートラックならではのメリットも理解していれば、例え自分の意志ではなくマミートラック的ポジションに異動になったとしても、いたずらに悲観的にならず将来の働き方も見据えてキャリアプランを考えていくことができるでしょう。
部署内でお互いに助け合えるから、心理的に働きやすい
子育て中の女性が多く配属されている部門では、お互い助け合う関係がつくりやすいのも特徴です。例えば子どもの急な体調不良で早退するときなどにも、チームワークで対応しやすいといったこともあります。「子育てしながら仕事をしていることで、自分だけがいつも他の人に迷惑をかけている」という精神的な負担を減らせることは大きなメリットです。
仕事に対する自分の考え方に気付ける
岩橋さんは、マミートラックのメリットとして、「仕事に対する自分の考え方に気付ける」ということを挙げます。
また、「まず自分が何を大切にしたいのか、何をやりたいのかを明確にすることが重要」だと続けます。
ただ、それを明確にすることは難しく、マミートラックが気付くきっかけになることも。
「独身時代を含め『なぜ働き続けるのか』といったことを深く考えることなく働いている方も多いのではないでしょうか。でも、出産を機にマミートラック的な部署へ異動したことで『私って本当は以前の仕事が好きだったんだな』とか『誰でもできるような仕事をしているままでは嫌だな』、あるいは『誇りを持って働く自分の背中を子どもに見せたい! 』『もっと責任がある仕事がしたい』といった、それまで意識していなかった仕事に対しての自分の思いに気付くこともあります」(岩橋さん)
新しい仕事や人と出会う機会になる
また、岩橋さんは今まで経験したことのない業務を担当できる点もマミートラックのメリットだと言います。そのひとつの例として、岩橋さん自身のことを教えてくれました。
岩橋さんは、出産前は広告・プロモーション等の業務を担当。しかし出産・育児休暇を取得して復職した時に配属されたのは人事部門だったそう。
自分にとって広告業務はとても合う仕事だったという岩橋さんですが、育児休暇中に女性の働き方に興味を持ちはじめ、「人事も面白そうだな」と思っていた矢先に人事部門配属となり、新しい領域で心機一転頑張ろうと思ったそうです。このことからも「偶発的ではありますが、新しい部署での新しい人との出会いも見逃せないメリットです」と岩橋さんは話します。
マミートラックの「収入」「出世」以外の問題点
マミートラックのポジションは補助的で責任が限定的な業務が中心になるため、「収入が上がりにくい」「昇格しにくい」「仕事にやりがいを感じにくい」という側面があります。それが「マミートラック」という言葉が否定的な意味で使われる要因ともなっています。
このことに加え、岩橋さんはさらなる問題点を指摘します。それは、現実をネガティブに解釈することにより「幸福感」が下がってしまうということです。
「ワーキングマザー界隈では、『マミートラック』や『小1の壁』(子どもが小学校に入学すると保育園に預けていた時より仕事と育児の両立がしにくくなる)といったキャッチーな単語が多用されることが多く、それによって自分が不幸な状況に陥っているという感覚を持ってしまう人も多いのです」と岩橋さん。
もともと仕事に大きなやりがいを求めたり、出世を望んだりしていなかった人も、「マミートラック」という言葉を知り、自分がそのポジションに居ると感じることで、「不幸せ」に感じてしまうことがあるというわけです。
不本意なマミートラックに乗らない・抜け出したい時には
マミートラックにはメリットもあり、また、意識の持ち方によるデメリットがあることは先述しましたが、それでも、自分では望んでいないマミートラックに乗ってしまった場合はどのようにすれば抜け出せるのでしょうか? また、マミートラックに入り込まないよう未然に防ぐ方策はあるのでしょうか?
岩橋さんは、重要なのは周囲の人とのコミュニケーションだといいます。
例えば、出産後復職したときに「違和感を感じる部署に配属されてしまった場合には、『本当は○○がやりたい』『もっと責任のある仕事がしたい』など、自分の希望を上司に伝えることが重要です」(岩橋さん)
同意が得られなかった場合でも、複数回に渡って自分の意思を繰り返し伝えることを岩橋さんは勧めます。
「例えば営業のお仕事の場合、お客さんにたった1回断られただけで諦めてしまう人は少ないと思います。次は電話をかけてみよう、もう1回行ってみよう、など次の接点やアプローチ方法を探していきますよね。マミートラックから抜け出したいと思うのなら、何回もコミュニケーションを重ねて、自分の希望をしっかり伝えていきましょう」(岩橋さん)
出産後同じ会社に復職して、かつ、マミートラックに入り込まないようにするためには、「『本当はコレがやりたい』『次のポジションはココ』など、自分の希望を明確にしてコミュニケーションを深めていけば、意外に何とかなるものです」と岩橋さんは言います。
不本意なマミートラックに乗らない、あるいはマミートラックから脱出するためには、自分の描くキャリアを見据え、転職を選択する方法だってあります。諦めることなく、自分の希望を上司や周囲の人に伝え続け行動していくことが重要だということですね。
「『マミートラック』や『小1の壁』などの言葉に踊らされず、自分で自分の働き方を決めていくことが大切です。そのためにも、一度これまでの自分を振り返って考えてみるのもいいですね」(岩橋さん)
おわりに
補助的で責任が限定的な業務が中心のマミートラックは、プライベートを重視するライフスタイルを目指す方にはメリットのある働き方です。一方、意に反してマミートラックに乗ってしまった場合は、会社や周囲の人と密接にコミュニケーションをとっていくことが抜け出す糸口になりそうです。自分自身がどういった働き方をしたいのかを明確にし、自身の希望を上司や周囲の方に伝え、お互いに理解を深めることが、満足できるキャリアプラン構築には欠かせないということですね。