泥汚れが落ちにくい理由
そもそも、泥汚れがその他の汚れと比べて落ちにくいのはなぜなのでしょうか?
「泥汚れは『不溶性』の性質を持ち、水にも油にも溶けません。泥汚れは主に細かい砂粒です。砂の粒にはいくら漂白剤などをかけても透明にはなりませんし、水にも油にも溶けませんよね。そのため、洗剤の力で分解することもできないんです。汚れ自体が溶けてくれないので、他の汚れに比べて落ちにくいというわけです」と横倉さん。
汚れには水溶性、不溶性、油溶性の3つの種類がありますが、不溶性の汚れは特に落ちにくいそうです。水溶性の汚れなら水に溶けて大抵は洗濯で落ちますし、油溶性の汚れならベンジンや染み抜き剤などで溶けて落ちやすくなります。不溶性の汚れは溶けたり分解されたりせず、色が付いた粒子がそのまま繊維に残るため落ちにくいのですね。
泥汚れの他には、墨汁や粘土、ススなども不溶性の汚れに当たります。確かに落ちにくい汚れの代表ですね。
また、同じ土の粒子でも、粘土→泥→砂→石と粒が大きくなっていきます。小さな粒ほど繊維の奥に入り込みやすいので落ちにくく、大きな粒子ほど払うだけで落ちてくれます。そのため、泥汚れより砂汚れは落ちやすく、粘土汚れは泥汚れよりさらに落ちにくいというわけです。
さらにもう一つ、泥汚れが落ちにくい理由があると横倉さん。
「布の繊維は拡大すると細かい繊維がよりを作って編み込んだような形状をしています。この網目の中に砂の粒が引っ掛かりやすく、そして離れにくいのです」(横倉さん)
粒の汚れが表面に付いただけであれば、叩けば落ちてくれますが、繊維の網目に入り込むために落ちてくれないというわけなんですね。
このように落としにくい泥汚れ。一体、きれいに落とす方法はあるのでしょうか。具体的に伺っていきましょう。
【泥汚れの落とし方1】まずは汚れを乾燥させる
「まずは衣類の泥汚れを乾かすことで、落としやすくします。泥汚れの気になる部分を乾かした後に叩くことで、乾燥した汚れの大部分は落ちるはずです。泥汚れが衣類全体や広い範囲で付着している場合、汚れた状態でベランダなどで干した後に全体を叩いて汚れを落としましょう」と横倉さん。
汚れは乾くと落ちにくくなる印象がありますが、乾かしてしまって大丈夫なのでしょうか。
横倉さんによると、泥汚れが衣類に付着して取れない場合は、泥が水分を含んでいるか、衣類が濡れているか、その両方の状態が多いのだそう。泥や砂の汚れは元々はただの粒子なので叩けば落ちるはずですが、濡れていると水分が接着剤の役割を果たし、より離れにくくなってしまいます。
また、泥にはミネラル分などの栄養が含まれ、空気に触れて膨らみます。さらに綿素材の衣類は水に濡れると糸が膨らみ、泥が入り込むすき間も増えてしまうそうです。
手早く乾かしたければ、ドラム式乾燥機に入れるのも手だと横倉さん。乾燥機は中で衣類を一旦上に持ち上げて叩き落す動きをするため、泥汚れが落ちやすいのだとか。ただし、乾燥機には泥汚れで故障してしまう機器もあります。事前に使用説明書を確認しましょう。
【泥汚れの落とし方2】粉洗剤か固形せっけんで洗う
泥汚れを乾燥させ、大部分を落とすことができたら次は洗濯。ここで重要なのが、使用する洗剤です。横倉さんのおすすめは粉洗剤か固形せっけん。その理由は、粉洗剤か固形せっけんに使用されている成分が「脂肪酸ナトリウム」であるからだそう。
液体洗剤に使用されている成分は「脂肪酸カリウム」ですが、泥汚れを落とすのに有効なのは「脂肪酸ナトリウム」。この「脂肪酸ナトリウム」に含まれる界面活性剤が、溶けにくい泥や砂なども水の中に引っ張り出してなじませてくれるのだそう。
実際に東京家政大学の研究でも、液体洗剤と比較して粉洗剤の方が泡立ちがよく、泡の安定性が高いことが分かっています※。液体洗剤がすすぎの回数を減らしたり、節水型の洗濯機にも対応できるような商品設計になっていることも影響していると想定されるそうです。
※出典:佐々木麻紀子、藤居眞理子「洗濯用洗剤の性質について」, 東京家政学院大学紀要2012, vol.52
泥汚れ専用の洗剤は強力だが・・・
また、泥汚れ専用の洗剤も多くあります。泥汚れ専用の洗剤には大抵「リン」という成分が使用されています。リンは繊維をほぐす効果があり、繊維の奥に入り込んだ粒子を落ちやすくしてくれます。泥汚れにはダイレクトに効く成分ですが、環境面への配慮から一部の都道府県ではリン入りの洗剤の使用を禁止していることがあります。普通の粉せっけんや粉洗剤であれば、リンが添付されていないので安心して使えますよ。
【泥汚れの落とし方3】手洗いより洗濯機で洗う
「泥汚れは手洗い」という人もいるかもしれませんが、横倉さんによると、基本洗濯機でも汚れは落ちるといいます。また、洗濯機には「縦型」と「ドラム式」の2種類がありますが、「縦型」の方が泥汚れを落とすのには有効だそう。
これは「縦型」の方が洗濯時に使用する水の量が多いため。「縦型」は側面の壁の部分に衣類をこすり付けて洗いますが、「ドラム式」は水の量も少量で、さらに上から下に向かって衣類を叩きつけるようにして洗います。「ドラム式」の場合、叩き洗いのため節水効果が高く衣類が傷みにくいというメリットがありますが、もみ洗いの「縦型」と比べると汚れを落とす力が劣ってしまいます。
泥汚れが多いご家庭の場合、洗濯機を買い替える際には、縦型を選ぶとよいかもしれませんね。
【泥汚れの落とし方4】それでも落ちない汚れは、洗濯板と固形せっけんでこする
ここまでお伝えしてきたように、まずは泥汚れを乾燥させて落とし、粉洗剤か固形せっけんを使用して縦型洗濯機で洗濯することで泥汚れはかなり落ちるはず。しかし、それでも落ちない汚れはどうすればよいのでしょうか。
横倉さん「固形せっけんを塗り込んで洗濯板にこすり付けると落ちることがあります。衣類を物理的にもみ込むことで繊維の奥に入り込んだ粒子を繊維から浮き上がらせるのです。特に靴下のかかとなど落ちにくい場所はこうすることで、汚れがよく浮き上がります。ユニフォームや靴下などの綿製品は基本的に丈夫な作りになっているので、洗濯板でゴシゴシと洗っても大丈夫ですよ」
衣類をもみ洗いする際には、40度くらいのぬるま湯が適しています。または水でもぬるま湯でも問題ありません。
つけ置き洗いは色落ちや色移りに注意!
ひどい泥汚れをつけ置きで落とす方法もありますが、つけ置き洗いには注意が必要です。長時間つけ置きをすることで、色移りや色落ちが発生してしまうことがあります。特にユニフォームなどの場合、学校名を刺繍した部分や背番号などの部分が落ちると見栄えが悪くなります。
これは、小さな洗面器などでつけ置きをすることが大きな要因です。小さな洗面器に折りたたんでつけ置きをすると、重なり合うところが多いため色移りしてしまいます。つけ置きをする際には、できるだけ大きめの容器に衣類を広げた状態ですることをおすすめします。
さらに、洗剤につけ置きする際の時間が記載されている場合にはその時間を守ることも大事です。「30分ほど浸け置き」と書かれているのに一晩浸けこんでしまうと、衣類を傷めたり色落ちしたりとトラブルの原因となるので注意しましょう。
【実験】泥汚れはホームクリーニングでどこまで落ちるのか
実際にどこまで汚れが落ちるのか、部活で真っ黒になった子どもの白靴下を使って実験してみました。汗をかいて水分を含んだ状態で付着しているため、普通に洗ってもなかなか落ちません。まずはベランダで1時間ほど干してみました。
両手で挟んで叩くと、もうもうと砂埃が舞い散ります。
上の写真は、叩いた後の状態のものです。乾かして叩くことでかなりの量が落ちたかと想像できますが、それでもつま先やかかと部分には黒ずみが残っています。
小型洗濯機に入れて粉洗剤を投入し、洗濯機を回してみると水がすぐに黒ずんできました。
洗濯が終わったので靴下の状態を確認しました。全体の黒ずみはかなり落ちて気にならなくなりましたが、かかとなど部分的な黒ずみが残っています。
洗濯洗剤の表示に基づき、30分ほどつけ置きします。つけ置きした後に、再度水を替え、粉洗剤を入れて洗濯機を回しました。
洗濯が終わった段階でかなり白くなっているのが分かります。
乾かすとほとんど新品の状態に。手洗いしなくても、最初に乾かして泥汚れを叩き落とし、洗濯機で洗うことでかなりの泥汚れが落ちることが分かりました。
洗濯前と比較すると一目瞭然。かかとの泥汚れがかなり落ちているのが分かります。
最初からクリーニングに依頼した方がよい場合も
「ここまでお伝えしたように、綿製品の衣類は傷みにくいため、洗濯機や洗濯板でガシガシ洗っても問題ありません。しかし、ウールのセーター、シルクのブラウスなど家庭で洗うのが難しい素材のものに泥汚れが付いてしまった場合にはプロにお任せしましょう。クリーニング屋には専用の染み抜きの機械があり、洋服にダメージを与えずに手作業で泥汚れを抜いていくことができます」と横倉さんは言います。
デリケートな衣類に泥汚れがついたら、迷わずクリーニング店に持ち込むのが鉄則ですね。
おわりに
手ごわい泥汚れですが、落とすコツを知っていれば自宅でもかなりきれいに落とせることが分かりました。泥汚れが気になる方はぜひ試してみてくださいね。