古いコーヒー豆は胃もたれの原因に?
古くなったコーヒー豆。見た目の変化は分かりづらいですが、コーヒーを抽出してみると香りが薄かったり、エグ味や酸味が気になることもありますよね。そもそもコーヒー豆が「劣化している」というのは、どのような状態なのでしょうか。UCCコーヒーアカデミーで講師を務める早川 契史さん(はやかわ ひさしさん 以下、早川さん)に伺いました。
「新鮮なコーヒー豆を使ってハンドドリップすると、お湯をかけたときにモコモコと粉が膨らむのを見たことがある方も多いのではないでしょうか? あれは、新鮮なコーヒー豆に含まれる炭酸ガスによって、豆が持ち上がるからなんです。劣化して時間が経ったコーヒー豆は、炭酸ガスが抜けきってしまうので膨らまなくなります」(早川さん)
劣化したコーヒー豆で抽出したコーヒーを飲んでも大丈夫なのでしょうか。また、肝心の味や風味にはどんな変化があるのでしょうか。
「コーヒー豆は非常に乾燥しているため、腐ったりすることは滅多になく、焙煎から数年経っても飲むことはできます。ただし、コーヒー豆が劣化すると、豆特有の甘みや香りがなくなり、コーヒーがおいしく味わえない状態になっていきます」(早川さん)
飲んだときに不快な酸味を感じたら、コーヒー豆が劣化していると考えてよいとのこと。深煎りのコーヒー豆の場合、コーヒーの抽出液に油分が出やすいため、酸化した油によって胃もたれを引き起こすこともあるそうです。
コーヒー豆が劣化する原因とは?
早川さんによると、コーヒー豆の劣化は、「酸化」「温度」「湿気」「紫外線」によって起きるそう。
「1つ目の要因は『酸化』です。コーヒー豆が酸素に触れて酸化すると、風味が落ちて本来の味が損なわれてしまいます。2つ目に、保存時の『温度』が高ければ高いほど劣化のスピードが早まります」(早川さん)
コーヒー豆を保存する環境の気温が10℃高ければ劣化スピードが2.4倍速くなり、逆に10℃低ければ2.4倍長持ちするそう。特に深煎りの豆は油分が出やすく、気温が5℃以上になると油分が融解し始めてしまうとのこと。油分が融解して酸化するのを防止するには、冷蔵庫や冷凍庫での保存が適しているとのことです。
「『湿気』も劣化を早める要因です。コーヒー豆を高温多湿の状態に置いておくと豆が柔らかくなります。それにより、上手く豆を挽けなかったり、グラインダーの故障に繋がることも。水分があることでおいしい香りが抜け、酸化も促進されてしまいます。『紫外線』も避けて保存したほうがよいでしょう」(早川さん)
コーヒー豆が水分を含むと香りや風味が落ちるだけでなく、カビも心配ですね。「酸化」「高温」「湿気」「紫外線」を防ぐ、保存方法を次にご紹介します。
コーヒー豆の正しい保存方法・保存容器の選び方
では、コーヒーを最適な状態でおいしく楽しむには、どのようにコーヒー豆を保存したらよいのでしょうか。
早川さんによると、コーヒー豆は、常温・冷蔵・冷凍で保存できますが、特に劣化を防げるのが冷凍保存だそう。上の表に簡単にメリット・デメリットをまとめていますが、それぞれの保存方法について早川さんに詳しく教えていただきました。
コーヒー豆の常温保存のメリット
「常温で保存するメリットは、なんと言ってもすぐに使えることです」と早川さん。ただし、常温保存の場合には、涼しくて暗い場所に保存し、なるべく早く飲み切る必要があると言います。
「家庭では常温でキッチン周りにコーヒー豆を保存しているという方も多いと思いますが、キッチンには熱くなる電化製品が多いですよね。熱を持つ機器の周辺に置いておくと、高温で劣化を早めてしまいます」(早川さん)
コーヒー豆の冷蔵保存のメリット
「冷蔵庫での保存は、気軽に使えることがメリットと言えます。一方、デメリットはコーヒー豆に他の食品のニオイが移りやすいことです」(早川さん)
コーヒー豆はスポンジのような「多孔性」構造になっており、ニオイを吸いやすい性質があります。そのため、冷蔵保存の際には、なるべく密閉性の高い容器に入れて保存する必要があるそうです。
冷蔵庫の中でコーヒー豆を保存する場所は、チルド室など比較的温度が低い場所の方が劣化スピードも遅くなるとのことです。
コーヒー豆の冷凍保存のメリット
早川さんが一番おすすめと語るのが冷凍保存。
「冷凍庫で保存するメリットは、劣化をほぼ止められることです。長期保存に向いている方法で、半年くらいは劣化を止めることができるのではないでしょうか。デメリットは、冷えている豆を使う前に常温に戻さなければいけないことですね」(早川さん)
また、冷凍庫から出したときに結露のリスクもあるので、まとめて保存してしまうと出し入れする度に劣化が進んでしまいます。1回に使う分ずつ小分けにして冷凍保存するのがよいそうです。
コーヒー豆の賞味期限
さらに、コーヒーをおいしく飲める賞味期限はどれくらいなのか、未開封時・開封時それぞれについて教えていただきました。
「豆・粉に関わらず、未開封であればパッケージに記載のある賞味期限を目安にしてみてください。開封後は、豆の状態であれば1カ月以内に飲み切るのがおすすめです。粉の場合は挽いてから1週間以内と言われることが多いですが、実際は粉にした瞬間から6割ほど香りが失われ、いわゆる劣化が始まります」(早川さん)
ちなみに、早川さんいわく、「コーヒー豆を買ってきて飲む直前に挽く」のが最もおいしく味わえる方法だそう。挽いた粉をためておくのは控えましょう。
コーヒー豆に適した保存容器とは? ガラス製はNGだった!?
コーヒーの保存容器としては、缶、陶器、ステンレス、ガラス製、プラスチック製など多様な種類がありますね。コーヒー豆をできるだけ長くおいしい状態で保存するには、どんな容器が向いているのでしょうか。
「重要なのは、コーヒーの劣化要因である『紫外線(光)』を遮断できる容器であること。遮光性のある陶器や、ステンレスのもの、缶がおすすめです。ゴムパッキンが付いている容器であれば密封性も保つことができて、なお良いですね」
意外にもガラス製やプラスチック製の容器は、紫外線(光)を通しやすいため、あまり適していないそうです。
さらにおいしく保存するためのコツは、コーヒー豆が入っていたパッケージごと容器に入れておくこと。保存効果がさらに高まり、劣化を防ぐことができるそうです。
なお、コーヒー豆は時間とともに中から炭酸ガスが抜けていくため、通常の袋だと破れてしまうことも。そのため、コーヒー豆のパッケージにはバルブ(逆止弁)が付いていることが多いそうです。内側から炭酸ガスを逃し、外側からは空気を通さないバルブが重要な役割を果たしているのだそうです。
コーヒーのおいしい淹れ方
せっかく正しい方法で保存したコーヒー豆ですから、ドリップにもこだわりたいですよね。おいしく淹れるコツを早川さんにお聞きしました。
「冷蔵庫や冷凍庫で保存していたコーヒー豆を使う際、必ず15~20℃の常温に戻してから使うこと。冷たいままの豆からコーヒーを淹れると、お湯が冷えた粉に触れることで温度が下がって『低温抽出』となり、味わいのバランスが崩れてしまうこともあるんです」(早川さん)
以下は、ペーパードリップでのおいしいコーヒーの淹れ方を紹介している動画です。
UCCさんのサイトに記載があった淹れ方※も参考にしつつ、実際に冷凍していた豆でコーヒーを抽出してみました。冷凍した豆を30分ほど置いておくと挽くことができる状態になっていました。前日に冷蔵庫に移しておけば、すぐ挽けるのでより時短になりますね。
・コーヒーの粉をドリッパーの上に乗せ、粉に少量のお湯を含ませる
カップの上に乗せたドリッパーにフィルターをセット。フィルターにコーヒーの粉を入れたら、少量のお湯を、そっと乗せるように注ぎ、粉全体に均一にお湯を含ませ、20秒ほど蒸らします。
・コーヒー粉の中心に、小さな「の」の字を描くようにゆっくりと注いでいく
冷凍して1カ月以上経ったコーヒー豆でしたが、お湯を注ぐとモコモコと膨らんでくれました。
一方、常温で1カ月保存したコーヒー豆では、上の写真のようにお湯を注いでも膨らみませんでした。冷凍するだけでこれだけ新鮮さが保てるのですね。
また、「ハンドドリップはお湯の注ぎ方次第」と早川さんは言います。慣れていないと注ぎ方によって味が大きく変わり、日によっておいしさにばらつきが出てしまうこともあり得るとのことです。
※出典:UCC上島珈琲株式会社 「おいしいコーヒーの淹れ方」
味が安定したおいしいコーヒーを飲むためには、機械を活用する方法も。
「丹念に淹れるハンドドリップと、まったく同じ方法を再現した『UCCドリップポッド』のようなマシンも出てきています。また、コーヒーのカプセルが一つ一つパッケージ化されているので、開けるまで新鮮な状態が保たれているのもよいところですね。味にブレが出ず、いつでもおいしいコーヒーが楽しめますよ」(早川さん)
今回、早川さんにハンドドリップでのおいしい注ぎ方を教えていただきましたが、忙しい人には、ハンドドリップを再現したドリップポッドもおすすめ。時間がなくてもおいしいコーヒーを味わえるのはうれしいですね。
コーヒー豆の消費期限が過ぎてしまった場合
正しく保存していても、「つい忘れてしまい、コーヒー豆の消費期限が過ぎてしまった」ということも。コーヒー豆はおいしいうちに使い切るのが一番ですが、もし劣化してしまった場合、飲む以外にも使い道があるのでしょうか。
「コーヒー豆はニオイを吸着しやすい性質があるので、脱臭剤や消臭剤として活用できます。古くなった豆をメッシュの袋などに入れ、ニオイの気になる場所に置いてみてください」(早川さん)
脱臭・消臭剤は、コーヒーを淹れた後のかすでも作れるそうです。その場合、天日干しをする、オーブンの上に置いておくなどしてサラサラになるまでしっかり乾燥させてから使うことがポイントなのだそうです。
UCCさんの研究によると、乾いたコーヒー抽出かすのアンモニア吸着率はなんと活性炭の倍以上!※
トイレの消臭剤としても力を発揮してくれそうですね。
※出典:UCC上島珈琲株式会社 「UCCの研究活動:抽出かすの活用方法」
コーヒー豆の豆知識:豆と粉、どちらで買うのがおすすめ?
コーヒーは同じ銘柄の豆であれば、大抵、豆の状態と粉の状態で市販されています。豆で買った場合は風味が長持ちするというメリットがありますし、粉の場合は挽く必要がないため、手軽に楽しめるというメリットがあります。ライフスタイルや好みに合わせて選ぶとよいですね。
おわりに
おいしいコーヒーは、おうち時間をぐっと豊かなものにしてくれます。早川さんに教えていただいた方法を参考に、コーヒー豆を正しい方法と容器で保存して、新鮮なおいしさを楽しんでみてください。