おうちコーヒーを楽しむ
新型コロナウイルスの影響で、テレワークが増えたり、外出の機会が大幅に減ったため、家で過ごす時間が格段に増え、おうち時間を充実させるという楽しみを見つけた方も多いのではないでしょうか?
そんな中、注目を集めているのが「おうちコーヒー」。
せっかく家でコーヒーを楽しむなら、格別な1杯を楽しみたいですよね。
今回は、ワールドバリスタチャンピオン・コーヒーコンサルタントの井崎英典さんに、コーヒーの楽しみ方や美味しいコーヒーの淹れ方を教えていただきました。
コーヒーの美味しい飲み方とは?
ー井崎さんにとって、コーヒーはどのような存在ですか?
僕は、コーヒーほど人生を豊かにしてくれるものはないんじゃないかと思っています。
飲む時々のシーンによって、全然違った顔を見せるのがコーヒーですよね。例えば、平日の仕事中に飲むコーヒーと休日にゆっくり飲むコーヒーは違うもの。
平日は、ぱっと作ったコーヒーで仕事に集中するために。そして、休日はゆったりと時間をかけて作ったコーヒーで贅沢な時間を過ごす。そういった違いを楽しむことも、人生を豊かにすることなんじゃないかと思うんです。
そういう意味でも、コーヒーを入れるのに細かい決まりとか、ルールが重要なのではなくて、「何度でも」美味しいコーヒーを楽しむことが大切だと思っています。
美味しいコーヒーを淹れるポイントは「数字」
ー「何度でも美味しいコーヒー」を楽しむためにはどうしたらよいですか?
コーヒーって、変数の多い飲み物なんです。変数と言っているのは、例えば豆・水・量・挽き方・時間。その1つ1つの要素で、味が変わってくる飲み物だということです。
だからこそ大切なのは、数字です。
しかし、何でもかんでもレシピの通りに忠実に作ってください、というわけではありません。
例えば家で作ったときに、「あれ? 今日のコーヒーはいつもより美味しいぞ?」って思うことがありますよね。
そのコーヒーを淹れたとき、豆の量は何グラムだったか、水は何℃だったか、水の量はどのくらいだったか覚えていますか?
おそらく、目分量で適当に作ってしまっている方が多いんじゃないかと思います。でも、そうするとその美味しいコーヒーは二度と飲めない。なぜなら「再現性」がなくなってしまうからです。
「再現性」というと少し冷たい感じを受けるかもしれませんが、そうではありません。数字ってコンパスのようなものだと思うんですよ。もうちょっと濃い方が好きだなという時に、どれくらい濃いものが好きなのか分かっていないと再現できない。なので、数字を大切にしている、ということです。
暮らしを豊かにするために、つまり美味しいと感じたコーヒーを何度でも楽しむために、「数字を大切にする」ことがすごく重要なんですよね。
ー自分でコーヒーを淹れてみて、美味しいと感じる「数字」を見つけていくということでしょうか?
その通りです。僕はレシピで●グラム~●グラムとお伝えしますが、そもそもその数字すら絶対じゃないんですよ。
薄めが好きな人もいるし、もっと濃いめが好きな人もいる。ただ標準的な数字から始めてもらうと自分好みの味わいに出会いやすいかもしれないと思っているので、目安の数字を出しています。
ドリップで美味しいコーヒーを淹れる方法
▼ステップ1 コーヒー豆を量る
コーヒー豆の目安量は、お湯100gに対して豆6~8gです。
濃いめが好きなら8g 薄めが好きなら6gというように、好みの重さを探してみましょう。
▼ステップ2 こだわりの水で「最適な温度」のお湯を用意する
ミネラルの含有量が1リットルあたり30mg – 60mg/Lの軟水だと、コーヒーの風味や質感がしっかりと引き出されます。
92℃基準で±4℃が目安です。
浅煎り豆の場合:96~92℃ 深煎り豆の場合:92~88℃
▼ステップ3 ドリッパーを準備する
挽いたコーヒーの粉をドリッパーに入れる前に、ペーパーフィルターをセットした状態でドリッパーと抽出器具を温めます。
ペーパーフィルターに一度湯通しすると、ドリッパーとカラフェを同時に温めることができ、狙いの抽出温度を保持しやすくなります。
コーヒーの粉をドリッパーに入れたら、お湯を均等に行き渡らせるために、ドリッパーの側面をたたいて、盛り上がっている部分の粉を平らにしておくのもポイントです。
▼ステップ4 お湯は3回に分けて注ぐ
お湯300gの場合(2杯分)
1投目(蒸らし:1分) お湯全体の20%(お湯300gのレシピなら60g)
2投目(本抽出:1分) お湯全体の20%(お湯300gのレシピなら60g)
3投目(本抽出:落ちきるまで) お湯全体の60%(お湯300gのレシピなら180g)
ゆっくり真ん中から円を描くようにお湯を注ぎ、フィルターの縁までしっかりとお湯が当たるように全体に注ぎましょう。
コーヒーを美味しくいただくための数字の秘密とは?
ー例えば、これでお気に入りの一杯の豆の量が決まったら、これを倍にした量で何杯分も作っていいのでしょうか?
いいえ、コーヒーの層が厚くなるとお湯が通るスピードが遅くなるので、どうしても限界の杯数があるんです。多くても1回で400gまで、約3杯までが理想的ですね。
ーアイスコーヒーや、カフェオレを作る場合の豆の量は通常と同じでいいですか?
いえ、どちらもお気に入りのレシピの2倍量で作ると美味しくなります。
コーヒーに投資する
ー数字を大切にする、といっても、やっぱり抽出器具にもこだわったほうがいいのかな・・・なんて思うのですがどうでしょう? 家で淹れる場合も、器具をそろえた方がいいですか?
コーヒーを淹れるのは、投資と一緒ですね。最初から大金は投資しない。最初は小さく始めて、楽しくなってきたら投資をする、というのでいいと思います。つまり、最初から全部揃える必要はないですよ。
私も家で飲むときは、コーヒーケトルではないものを使っていたりします。最初は家にあるもので始めてみて、「もっと美味しいコーヒーが飲みたいな」と思えば、いろいろな器具を揃えていけばよいのではないでしょうか。
注ぐ先もサーバーを買わなくても、マグカップに直接でもいいんです。
ーそうなんですね! 器具をそろえる順番はありますか?
まずは、数字をチェックすることが大切なのでコーヒー豆を量るスケールでしょうか。一般的なキッチンスケールでよいので、既にご家庭で持っている方も多いかもしれませんね。
次は、コーヒーミルです。やっぱり挽きたては何よりも美味しいので、おすすめしたいですね。
あとは、本当に好みの問題です。
例えばペーパードリップのように油分を除いて、「風味」「酸味」を感じたい人もいるし、フレンチプレスを使って淹れたコーヒーのような油分に由来する「香り」まで感じたい人もいます。
いろんな器具を試してみて、気に入ったものを使うといいと思っています。
コーヒー豆も好みを見つける
ーコーヒー豆の選び方のコツってありますか?
コーヒー豆を選ぶ時は、焙煎度合いの好みを見つけるといいでしょう。
浅煎りだとコーヒーの風味や酸味が、逆に深煎りだと、苦味やボディが感じられます。実はコーヒーの浅煎り、深煎りというのは明確な基準がないんです。お店によって違うので、そのお店での好みを見つけるといいと思います。
ーコーヒー豆の産地で選ぶといいのでしょうか?
コーヒー豆は、いわば日本人のお米のようなものなんです。お米も産地だけで選ばないですよね? 産地にこだわりすぎるのではなく、自分の好みの銘柄と焙煎度合いを見つけるといいと思います。
自分のコーヒー豆の好みを見つけたら、抽出の濃さも大事ですね。焙煎度合いと抽出の濃さの好みを見つけることで、美味しいと感じるコーヒーにたどり着けると思います。
コーヒー豆の保存方法
ーコーヒー豆の保存方法を教えていただけますか?
コーヒー豆は冷凍保存が良いです。挽く前も挽いてからも同じです。コーヒー豆は、温度が低いほど酸化のスピードが遅くなります。実は最近の研究で、冷凍した豆を挽いたほうが、豆の挽き目が均一になった、という結果も出たんです。
コーヒー豆は、ほとんど水分を含まないので腐りません。そのため、賞味期限を1年と長く設定されているものもあるんですが、実は、ずっと酸化が進んでいます。
コーヒーも生鮮食品だと思って保存してほしいですね。豆を挽いた状態で2週間くらいなら冷暗所でも平気ですがそれ以上の場合はやはり冷凍保存がいいです。
豆を挽くと表面積が圧倒的に広くなるので、特に酸化が早くなるんです。挽いてからは、早めに飲み切るのがいいですね。
ーコーヒー専門店で豆を挽いてもらってもいいんでしょうか?
もちろんです。自分で豆を挽くのが理想的ではありますが、自宅で飲み切れる1週間分のコーヒー豆を専門店で購入して、お店で挽いてもらうのもいいですね。
さらにコーヒーを美味しくいただくひと工夫
ーさらにコーヒーを美味しく楽しむ方法はありますか?
原則としては本当に、自由に楽しんでほしいと思っています。
でも、ちょっとしたコツはあります。コーヒーを抽出したら、ポットやカップの中のコーヒーを1回混ぜることです。
実はコーヒーは、抽出後、上澄みと沈殿している部分で濃さに違いがあるんですよ。
抽出前半=抽出される成分が濃い=カップの中で沈む
抽出後半=抽出される成分が薄い=カップの中で浮かぶ
だからコーヒーを淹れて飲む前に、スプーンでくるっとかき混ぜると味が均一になるんです。
またコーヒーの油分が好きな方は、フレンチプレスなどを使ってもいいかもしれませんね。
カップで楽しむコーヒーの贅沢な時間
ー確かに、1杯目と2杯目で味が違うなって思ったことがあります。カップにもこだわりはありますか?
中身が同じでも、カップによって味わいが変わるんです。人間はコーヒーをたしなむ時、知覚全てを使っているんですよ。世界選手権(ワールドバリスタチャンピオンシップ)の際に、コーヒーに合わせてカップを作ってもらうこともありました。
【深煎りコーヒー】
・飲み口が厚めのトラディショナルなマグカップがおすすめ
・カップも若干重たい方がよりコーヒーのコクが感じられる
【浅煎りコーヒー】
・飲み口が薄めのものがおすすめ
・カップは若干軽い方が、よりコーヒーの酸や繊細な味が感じられる
ここまでこだわれたら、究極の贅沢です。もちろん無理することはなくて、家にあるカップでコーヒーとの組み合わせを楽しんでいただけたらいいのかなと思います。
ー大変失礼なんですが・・・井崎さんはインスタントコーヒーを飲むことってないんですか?
インスタントコーヒーが悪いとかじゃなくて、今までお話してきたような手順が決まっていると、インスタントと同じレベルの手軽さで普通のコーヒーが飲めるんですね。
好きな人はインスタントコーヒーを飲んだらいいし、「本当は豆のコーヒーから飲みたいけど面倒くさい」のであれば、手順を決めてぱっと作れるようになったら楽ですよね。
私たちは、おうちでコーヒーを楽しめる人がどんどん増えたらいいなと思って、ZOOMで「#BrewHomeおうちコーヒー」というクラウドカフェを月に2~3回程度開催しています。これは、おうちで淹れたコーヒーやテイクアウト・デリバリー・インスタントでもいいので、皆さんにそれぞれコーヒーを準備していただいて同じ時を過ごす、というWebお茶会です。会話に参加してもいいですし、ビデオを停止してラジオのように聞き流すもよし、のんびり自由な時間を過ごしていただこうと思い、開催しています。
こんな時代だからこそ、コーヒーがもっと世界を豊かにすることができるのではないかと思っているんです。
おわりに
ほんのちょっとの工夫で美味しいコーヒーが飲める方法を、「ワールドバリスタチャンピオン」井崎英典さんに伺いました。井崎さんのおいしいコーヒーを飲む「コツ」は、簡単にまねできるテクニックばかり。すぐにでも実践してみたくなりますね。おうちコーヒーで贅沢な時間を過ごしましょう。
参考:クラウドカフェ #BrewHomeおうちコーヒー