質のいい睡眠ってどんなもの?
睡眠時間をきちんと取っていても、必ずしも健康的であるとはいえない――。昨今の睡眠科学の発展により、睡眠の奥の深さが少しずつ解明されてきました。
では、良質な睡眠、より健康的な睡眠とはどのようなものなのでしょう。
厚生労働省の資料で示されている睡眠の質の評価指標をもとに、公益財団法人 長寿科学振興財団が示している「質の良い睡眠」は、以下の通りです。
<質の良い睡眠とは>
- 規則正しい睡眠、覚醒のリズムが保たれていて、昼夜のメリハリがはっきりとしている
- 必要な睡眠時間がとれており、日中に眠気や居眠りすることがなく、良好な心身の状態で過ごせる
- 途中で覚醒することが少なく、安定した睡眠が得られる
- 朝は気持ちよくすっきりと目覚める
- 目覚めてからスムーズに行動できる
- 寝床に就いてから、過度に時間をかけすぎずに入眠できる
- 睡眠で熟眠感が得られる
- 日中、過度の疲労感がなく満足度が得られる
スッと入眠でき、眠りが長続きすること。目覚めがよく、日中の眠気が少ないこと。そして眠りによって「熟眠感」を得られることが、質の良い眠りのポイントです。
眠りに入りやすくするポイントは、お風呂で体温を上げておくこと
就寝前から就寝後の直腸温の変化
上記のグラフは、就寝前後の直腸温を示したものです。睡眠が最も深くなるのは、眠りに入った直後。このとき、深部体温(体の内部の体温)が下がると、深い睡眠を得ることができます。
注目してほしいのは、オレンジの線、寝る前に入浴をした人のカーブの落差です。
寝る前にお風呂に入って深部体温を上げておくと、入眠直後にグッと深いカーブを描いて体温が下がっているのがわかりますね。この体温の落差が、深い睡眠につながります。
とはいえ、就寝直前に熱すぎるお湯に入ると、覚醒しやすくなってしまいます。
お湯の温度は40℃以下、就寝の1時間から1時間半前に入浴を済ませておくことがポイントです。
毎日のお風呂、シャワー浴と全身浴はどちらがいいの?
PSQI点数表
では、どのようにお風呂に入るのが、眠りの質を高めるのに有効なのでしょう?
入浴習慣の違いが心身に与える影響を確認するため、健康な成人男女を対象とし、全身浴を行う人とシャワー浴を行う人に分け、生理・心理にどのような違いが現れるか実験を行いました。
実験の流れ
健康な成人男女30名に対して、それまでの入浴習慣の影響を排除するため、1週間のシャワー浴を行う期間を設けます。次に、生理学的検査や、医師の問診などの事前測定を実施し、その後、肩までお湯につかる「全身浴」を行う人とシャワーのみの「シャワー浴」を行う人に、性別ごとに無作為に15名ずつ振り分け、被験者には指定した入浴を1か月間行ってもらったあと、事後測定を行い、事前測定との変化を確認しました。
全身浴がいい理由1 全身浴とシャワー浴とでは「睡眠の質」の改善に差が!
睡眠の質を評価する指標となるピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)という世界的な指針に基づき、値の変化を確認しました。PSQIは、過去1か月間の睡眠の状態について得点化し、数値が低いほど睡眠の質が高いとされ、5.5ポイント以上で睡眠障害の可能性があると評価されます。
下記のグラフは、事前測定において睡眠障害の可能性があると評価された、PSQIの値が5.5以上の被験者15名のPSQI値の変化量を示したものです。
PSQI変化量(事前測定5.5以上)
全身浴はシャワー浴よりもPSQIの値が下がり、シャワー浴よりも睡眠の質が改善された結果となりました。
日本人はお風呂好きといわれますが、近年はシャワー浴のみで済ます人も増えています。でも、全身浴で体を温めることを習慣にすることで、深い眠りがもたらされ、毎日の睡眠の質を高めてくれることが期待できそうです。もちろん、睡眠には入浴以外にも寝室環境や運動、様々な生活習慣が影響するため、トータルで健康的な生活を送ることが大切ですね。
全身浴がいい理由2 副交感神経が優位になってリラックスできる!
ではなぜ、全身浴はシャワー浴より、睡眠の質が上がるのでしょう。
今回の実験では、「自律神経機能」にも全身浴とシャワー浴とで差が見られました。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」という正反対の働きをする2つの神経から構成されています。交感神経は活動しているとき、緊張しているとき、ストレスを感じているときなどに優位に働くもの。一方、副交感神経は休息しているとき、リラックスしているとき、眠っているときなどに優位に働きます。
シャワー浴と全身浴を比較してみると、全身浴はシャワー浴に比べて緊張度が低く、よりリラックスしていることがわかりますね。
全身浴がいい理由3 心臓・血管への負担をやわらげてくれる
拡張期血圧とは「最低血圧」のこと。実験前の事前測定では全身浴とシャワー浴に統計的な差は見られませんでしたが、1か月指定入浴を行ったあとの事後測定では、全身浴の方がシャワー浴よりも低くなる傾向が見られました。また、心拍数についても同様に事前測定では差が見られなかったものが、事後測定では、全身浴のほうがシャワー浴よりも低くなる結果となりました。
全身浴の習慣化は、心臓や血管への負担緩和も期待ができそうですね。
睡眠時間の長さに関わらず、毎日湯船につかる人は眠りへの不満が少ない!
浴槽入浴習慣の有無と睡眠への不満
ほぼ毎日湯船につかる人と、週1回未満しか湯船につからない人の「睡眠への満足度」を比較してみたところ、寝つきや熟眠感について、10ポイント近い違いが表れることも東京ガス都市生活研究所の調査でわかっています。
睡眠が短い場合にも、毎日浴槽入浴する人は週1未満の人と比べて、「寝つきが悪い」「熟睡感がない」という不満を持つ人が少ないという結果が得られています。
質のいい眠りを手に入れて、自分を整える生活を!
家での自由な時間の使い方
東京ガス都市生活研究所が3年ごとに行っている定点観測によると、2017年には生活の力点を仕事よりも余暇におきたいという人が初めて過半数を超えました。
中でも、自由時間は「自分を整えることに使いたい」という人が約5割に達しました。自分を発散したり、自分を表現することよりも、自分を整える暮らしを望む声が高まっていることがわかります。
お風呂は、最も手軽に休息・回復ができて、自分を整えることができる身近なツールです。
40℃以下のぬるめの湯船につかって体を温め、質のいい眠りを手に入れてくださいね。
おわりに
手軽にさっぱりできるシャワー浴は、時間のない現代人にとってありがたいもの。20代の約40%はシャワー浴派というデータもあるほど(東京ガス都市生活研究所/都市生活レポート「現代人の入浴事情2015」)ですが、寒いこの季節こそ「湯船生活」を習慣づけるチャンスです。
お湯をためたり、浴槽の掃除をしたり、なんとなく時間と手間がかかるイメージもある全身浴ですが、質のいい眠り、ひいては、心身を健康的にするために欠かせません。まずは今夜、湯船にたっぷりお湯を張って浸かり、ぐっすり眠ってみませんか?
出典:東京ガス都市生活研究所/都市生活レポート「快適バスライフのすすめ」(2015年9月)
出典:東京ガス都市生活研究所/都市生活レポート「入浴習慣が心身に与える影響~全身浴のすすめ~」(2016年2月)
出典:東京ガス都市生活研究所/都市生活レポート「”自分を整える”暮らし方 30~50代の生活意識と実態」(2019年1月)