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【教育研究家に聞く】今話題の「モンテッソーリ教育」その効果とは? 家庭でできるポイント

「モンテッソーリ教育」をご存じですか? 今、将棋で活躍中の藤井聡太棋士が幼稚園で受けていたということでも話題になっていますね。一体どんな教育なのか? 効果とは? 気になりますね。また、デメリットや注意点、幼稚園・保育園の選び方、家庭で取り入れるポイントについて、教育研究家・征矢里沙さんにご紹介いただきました。

最終更新日:2024.1.22

目 次

【教育の効果の前に】そもそも、モンテッソーリ教育の始まりとは?

モンテッソーリ教育は、約100年前に、マリア・モンテッソーリ(1870-1952年)という女性によって創始されました。

彼女はイタリア初の女性医師となったのち、知的障害児や貧困の子ども達の教育に関わりました。その中で、「子ども達の『感覚』を使った新しい教育」として確立されていったのが、モンテッソーリ教育です。

現在モンテッソーリ教育は、世界117ヵ国以上に広がっており、何らかの形で取り入れている教育機関が、国内で約2千、世界で約2万ヵ所あると言われています。
その卒業生には、Amazonやgoogleの創立メンバーなど、多くの著名人がいるそうです。
日本では保育園・幼稚園が中心ですが、欧米では小学校~高校まで取り入れている学校もあります。

私は『生きる力』をはぐくむ教育研究家として、日本全国で数多くのモンテッソーリ幼稚園・保育園を見学・取材し、先生や保護者の方にインタビューをしてきました。
そのときの経験も合わせて、モンテッソーリ教育の内容と効果について解説していきます。

【モンテッソーリ教育の効果 その1】子どもの「自立」の力をはぐくむ

さくらがおかモンテッソーリスクール

さくらがおかモンテッソーリスクール(提供:NPO法人いきはぐ)

モンテッソーリ教育の園のお部屋に入って、すぐに分かる特徴は、きちんと整理して置いてある数多くの「教具」です。子ども達は、自分で好きな「教具」を選び、基本的に自分一人で、心ゆくまでそれに取り組みます。

私から見たモンテッソーリ教育の一番大切なポイントは、それは「子どもが自分一人でするのを手伝う」ということです。

医師であったモンテッソーリは、科学的な視点から子どもを観察し、「子どもは生まれつき、自分自身を成長させる力を備えている」と考えました。それを、大人が助けるための方法として考案されたのが「教具」です。教具は、子どもの発達段階と興味に合わせて作られていて、かつ自分で選び、自分で選ぶようになっています。

先生は何かを教え込むのではなく、一人ひとりの子どもに必要なサポートを見極めて、「一人でするのをサポート」するのが役割です。子どもが「自分で自分を発達させる」ことで、自分に自信を持ち、自立していけるよう導くこと、それがモンテッソーリ教育の基本だと言えます。

「自分からやる」「自分で考える」力を育てる

考える子ども

PIXTA

こうして育った「自立」の力は、色々なことが自分でできるといった能力の発達はもちろん、「自分で考える」「自分で選ぶ」力を育てるようです。

モンテッソーリ幼稚園に子どもを通わせていたお母さんのインタビューでは、
「理科が大好きで、普通は親が行かせるような学外の理科のワークショップなどに、親が何も言わなくても、1人で進んでいくなど、自分が興味のあることに1人で行くのを嫌がらないんです。園に通ったおかげでベースがしっかりしているなと感じています」
というお話を聞きました。

また他のお母さんからは、
「自分を信じる心が育まれていると感じることが多々あります。例えば、学校などで周りの子が何か違うことや悪いことをしていても、正しいと思える自分の選択肢をもてていると感じたことがあったからです」
という声がありました。

小学生以上になっても、親や友達に合わせるという受け身の行動だけでなく、自分で考え、自分で行動する力が育つと感じている親御さんの声がありました。

【モンテッソーリ教育の効果 その2】子どもの「集中力」をはぐくむ

亀田平和の園保育園

亀田平和の園保育園(提供:NPO法人いきはぐ)

マリア・モンテッソーリは、0~6歳の子どもは、特定の時期に、ある物事に対して特に興味を持つことを発見しました。 その時期を「敏感期」と呼び、子ども興味の対象となることを「言語」「数」「秩序」「感覚」「運動」「小さいもの」「社会性」などと分類しました。

そして、それぞれの敏感期に子どもがやりたがる活動を、子どもの成長にとって大事なことという意味で、「仕事」と呼びました。 モンテッソーリ教育では、この「仕事」を「心ゆくまでやる」、ということを大切にしています。

子どもには、それぞれ自分のペースがあります。モンテッソーリ教育では一人ひとりが違うことをやるため、集団の都合で時間を区切ることがないそうです。自分のペースで心ゆくまで、自分のやりたいことに集中する体験をたくさんすることで、集中力が育まれると言われています。

「集中することの楽しさ」を体験する

虫眼鏡で花を観察する

PIXTA

集中力を身につけることの意味は、ただ何かを効率よくやり遂げる、というだけではありません。
アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」という理論があります。「夢中になって、我を忘れて、何かに取り組んでいる状態」を「フロー状態」と呼び、この状態に入ると、効率がいいどころか、信じられないような高い能力を発揮することがあるといいます。また、その状態に入っているときは、「幸福感」や「高揚感」に包まれるといいます。

モンテッソーリ教育は、この「フロー状態」を子ども達に体験させられる環境を整えていると感じました。

実際に私が訪れたモンテッソーリ園でも、先生方から、
「体験入園でも、子ども自身が夢中になって帰りたがらないこともあります。そんな、子どもたちの幸せな時間を、たっぷり提供してあげたいと思います。」というお話を聞きました。

さくらがおかモンテッソーリスクール

さくらがおかモンテッソーリスクール(提供:NPO法人いきはぐ)

また別の園の先生も、
「子どもたちが、自ら自分を高めていくことを楽しみ、満足して、目を輝かせていること・・・それができる環境を作ること、子どもたちにとって幸せな空間であることを、この園では大事にしています」
と語っていました。

マリア・モンテッソーリも存命中、自分の園を見回っては、「今日も子ども達は幸福でしたか?」といつも尋ねていたそうです。モンテッソーリ教育では、仕事を通して何かができるようになるという成果よりも、そのプロセス自体が重視されていると言えます。

「集中することの楽しさ」をたくさん体験することこそが、学校に行ったり大人になっても、集中力を発揮して成果を出すことにつながると言えそうです。

参考:天外伺朗著「『生きる力』の強い子を育てる」、飛鳥新社、発行日2011/11/1

【モンテッソーリ教育の効果 その3】縦割り保育で「コミュニケーション能力」をはぐくむ

亀田平和の園保育園

亀田平和の園保育園(提供:NPO法人いきはぐ)

モンテッソーリ教育を行う幼稚園・保育園の多くは、縦割り保育です。保育園だと低年齢クラスは細かく分けている場合も多いですが、3歳~5歳は縦割りが基本です。

これは、教具や仕事を、それぞれの子どもが自分自身の「敏感期」に基づいて選べるように、年齢で細かく区切らないようにしているからだそうです。

また、子ども同士の関わりや、社会性も大切にされています。お互いの仕事を見て興味をもったり、使いたい教具を譲り合ったり、上の子が下の子に教えてあげたりできる環境になっています。

身支度・食事・掃除などでも、年長さんがリーダーシップを取ることで、大人が指示しなくても、子ども達同士でコミュニケーションをし合いながらやるようにしている園が多いようです。

今求められる、「縦割りクラス」の意味

見つめ合う子ども

PIXTA

今は昔に比べると兄弟・姉妹の数が減ってきています。少子化の影響で、近所の子と遊ぶ機会も、昔に比べて少なくなってきていますね。

そんな中、モンテッソーリ教育の園を選んだお母さん達からは、
「うちの子は兄弟がいないので、縦割りクラスで疑似体験ができるのもいいと思います」
という声や、

「違う年齢の子と遊べたり、上の子を見て背伸びしたり、下の子への思いやりが育つのがいいと思います」
という声を聞きました。

実際に見学していても、上の子が下の子に名札の付け方を教えてあげたり、エプロンの紐を結んであげたりする姿をよく見かけました。年齢を超えた関わりやコミュニケーションの体験をすることは、お互いの成長に役立つといえそうですね。

参考:NPO法人いきはぐ「モンテッソーリ教育とは?」

モンテッソーリ教育の効果に、デメリットや注意点は?

悩む女性

PIXTA

上記のような効果があると言われる反面、デメリットと捉えられるものもあるようです。
ただ、メリットとデメリットは同じ現象の裏表なので、何を目的にするかによって見方が変わるともいえます。

園や先生・保育者によって、教育の質が違う

手を繋ぐ先生と子どもたち

※写真はイメージです

「モンテッソーリ教育」をうたっている幼稚園・保育園は非常にたくさんあり、モンテッソーリ教育としての質は様々です。

モンテッソーリ教育には教師の資格があり、教員養成が世界中で行われています。
日本では、「国際モンテッソーリ協会(AMI)」が認定する国際的な資格や、国内の団体である「日本モンテッソーリ協会」が認定する資格などが取得できます。こうした資格を持った先生が、どれくらいその園にいるのか、が一つのポイントになります。

ただ、資格だけで保育の質は測れないという話を、現場の園長先生からお聞きしたこともあります。まずは、その園の現場を見学し、先生や子ども達の様子をしっかり見て、自分の考え方や子どもと、その園が合っているかどうかを考えてみることをおすすめします。

集団行動が苦手になる?

手を上げる生徒たち

PIXTA

モンテッソーリ教育では「自立」を大切にし、「仕事」も個人で取り組むのが基本です。
そのため、「皆で同じ時間に同じことをやる」という経験が、他の幼稚園・保育園に比べれば少ない場合もあります。

もちろん、モンテッソーリ教育の幼稚園でも、ずっと「仕事」の時間というわけではなく、皆で一緒に一つのことに取り組む時間も作っているところが多いです。ただ、方針として「一人ひとりが自立する」ことを念頭に置いているため、皆で取り組む場合も、一人ひとりの違いを尊重しています。

それに対して、一般の小学校に入ると、同じ時間に同じことをやり、集団行動が増えるので、戸惑う子どももいるようです。ただ、徐々に自分なりの協調の仕方を身に着けていくことが多いようです。

体育が苦手になる?

運動会のリレー競技

PIXTA

モンテッソーリ教育は、基本的に室内でやることを前提としたメソッドです。
これは、もともとモンテッソーリ教育が、都会の狭い場所でもできるメソッドとして開発されたことに関係があるとか。そのため、体育や運動、あるいは野外活動などは、あまり中心的ではない場合も多いようです。

ただ、モンテッソーリ教育の現場では、その対策として、あえて全身を使った運動や、屋外での活動を、各園の独自の取り組みとして行っています。
また、そうした全身運動や野外活動においても、「一人でするのを手伝う」という方針で行うことで、よりモンテッソーリ教育としての効果を高めているようです。

家庭でできる、モンテッソーリ教育の効果的な取り入れ方

笑顔の親子

PIXTA

モンテッソーリ教育の効果に興味はあるけど、その幼稚園・保育園には通うことができない・・・という方もいますよね。
教具にはこだわらず、おうちでモンテッソーリ教育のエッセンスを取り入れるポイントをお伝えします。

「一人でするのを手伝う」ことで、自立を促す

着替えをする子ども

PIXTA

子どもが何かやろうとするとき、親がやってあげた方が早いことはたくさんあります。
例えば、着替えをする、汚した床を拭く・・・など。そうした一つ一つのことを、なるべく「子どもが自力でできるような環境を整える」のが、モンテッソーリ流です。

例えば、着替えを自分でしやすいように、ボタンが大きいなど着替えやすい服を用意したり、前と後ろが分かりやすいマークを付ける。床や机を拭けるように、子どもサイズの雑巾を、子どもが自分で出しやすいところに置いておく、などなど。

窓掃除をする子ども

PIXTA

子どもは、大人の真似をしたがることがよくあります。そんなとき、おもちゃでのおままごとだけに留まるのでもなく、「子どもサイズの本物」を用意してあげることも大切だと、モンテッソーリ教育では考えられています。

ただ、親として非常に根気が要ることなので、全部やろうと思う必要はありません。まずは一つだけやってみる、という気持ちでいいと思います。

また、モンテッソーリ教育では、「子どもが自分で選ぶこと」、つまり、自分がやりたくて、進んでやるときでないと意味がないと考えます。「自分でやりなさい」と強制するのではなく、子ども自身のやりたい気持ち、できそうなタイミングを伺いながらやってみるとよいのではないでしょうか。

「夢中になっていること」を止めずに、集中力を高める

電車のおもちゃで遊ぶ子ども

PIXTA

子どもが何か一つのことに集中し、夢中になっているとき、それを邪魔せずに見守るだけで、モンテッソーリ教育のエッセンスを実践しているといっても過言ではありません。

乳児なら例えば、「穴の中に何か入れる」とか、「高いところから物を落とす」といったこと。もう少し大きくなれば、それこそ将棋であったり、虫の観察であったり、プラモデルだったり。

親から見て「何がそんなに面白いの?」ということでも、子どもが夢中になっていれば、それには能力の発達の面で意味のあることなのだ、というのがモンテッソーリ教育の考え方です。

できるだけ、気が済むまで続けられるよう、あるいは繰り返せるようにするのが理想です。そのとき、穴に入れてもよさそう物を用意してあげる、という手助けがあるといいと思います。

携帯ゲームをする子どもたち

PIXTA

ただし、「テレビ・動画・ゲーム」については、少し注意が必要です。
ミハイ・チクセントミハイのフロー理論によると、フロー状態は、「適度な難易度」があることに、自分から積極的に取り組んでいるときに起こると言われています。

テレビや動画は、どうしても受身になりがちです。ゲームはものによりますが、癒しを求めて、あえて難易度の低いものをやるときもあります。それはそれで必要なときもあるかもしれませんが、モンテッソーリ教育的な意味とは違ってきます。その子が自分で選ぶことを尊重しつつ、能動的に取り組んでいることを応援するのが大切です。

モンテッソーリ教育が効果的なのは「早期教育」だから?

笑顔の女の子

photo AC

こうして紹介すると、将棋の藤井四段の才能が開花したのも頷ける感じがしますね。
ただ、モンテッソーリ教育は、早期から高い能力を開発させるための、いわゆる「早期教育」なのかといえば、そうではないと私は考えています。

マリア・モンテッソーリが目指していたものは、何よりも、子ども自身の自立や幸福にあり、そのために乳幼児期の適切なタイミングでの教育が大切だと考えていたのです。活躍している多くの卒業生も、モンテッソーリ教育ではもちろん、家庭においても、「自分がやりたいこと」に思いっきり取り組みながら育った結果ではないでしょうか。

「子どもは生まれつき、自分自身を成長させる力を備えている」という、マリア・モンテッソーリの発見に基づいて、あくまで子どもの主体性の手助けすることが、モンテッソーリ教育の一番のポイントなのです。

おわりに

おんぶで見つめ合う親子

PIXTA

モンテッソーリ教育の効果や、デメリット・注意点、家庭で取り入れる方法などをご紹介しました。
「教具」や「仕事」などの専門的なことをしなくても、そのエッセンスを、家庭で少し心がけるだけで意味があると思います。モンテッソーリ教育は歴史が長く、いろいろな本もたくさん出ています。興味があれば、ぜひ読んでみて下さいね。

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公開日:2017.7.14

最終更新日:2024.1.22

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