マットレスの役割とは? 寝心地にどう影響する?
私たちは1日の1/3をベッドの上で過ごします。いいマットレスを選ぶと、睡眠の質が上がって生活の質を上げることにもつながります。
まずはマットレスの基本的な役割について、上級睡眠健康指導士の加賀照虎(以下、加賀さん)さんに伺いました。
マットレスの役割1:体圧を分散して腰痛などをやわらげる
横になると体はラクになりますが、人間の体はあちこちがカーブしているため、どうしても特定の部位に圧力がかかってしまいます。
加賀さん「この時、寝具が硬すぎると圧迫感が強くなって、腰や背中など体の至る所に痛みを感じます。理由は、圧力がかかった部位の血流やリンパの流れが止められたり、筋肉に負担がかかったりしてしまうため。そこで、マットレス=やわらかい素材で体の部位にかかる圧力(体圧)を分散して、やわらげてあげる必要があるのです」
マットレスの役割2:寝返りを助けて、疲労回復ができる
マットレスは体を押し返す力=反発性・弾性で、寝返りをしやすくしてくれます。
加賀さん「寝返りは、心地よい寝姿勢を保とうとする、体の自然な動きです。重力がある限り体には圧迫がかかりますし、同じ姿勢でいることは筋肉にとても負担がかかってしまいます。そのため、寝返りをして圧迫をやわらげ、疲労回復を助けているのです。
また、体とマットレスがずっとフィットしていると当然ムレ感も出てきます。布団内の通気を促したり、接着面を変えたりするためにも、人は自然に寝返りをします」
マットレスを選ぶ際は、寝返りがしやすい素材を選ぶことも重要なのですね。
マットレスの種類とそれぞれのメリット・デメリットとは?
いいマットレスとは、自分に合ったマットレスのこと。自分の体に合ったマットレスに出会えると、どんな時もぐっすりと深く眠れて、疲れを回復できます。
マットレスにはさまざまな種類があるため、それらの特徴をつかんで、自分にはどんなマットレスが合っているのかを知ることが大切です。
まずは体が痛くならないなど、好みに合った「硬さ(反発力・反発弾性)」かどうか。さらに「通気性」「体格との相性」「耐久性」「お手入れのしやすさ」などさまざまなポイントがあるため、一つ一つご紹介します。
マットレスの種類は3種類(薄型ノンコイル・ノンコイル・コイルスプリング)
マットレスには大きく分けて3種類あります。それぞれの特徴を、加賀さんに教えていただきました。
加賀さん「ベッドフレームが不要な薄型マットレスは、比較的安価で、折りたためるものも多いため収納もできます。取り扱いが手軽で、布団の下に敷くこともできます。
ノンコイルベッドマットレスは、厚さ15~20㎝ほどのものが主。寝返りがしやすい高反発・高弾性のもの、体をやさしく受け止める低反発のものなど、素材もさまざまそろっています。
コイルスプリングマットレスは、マットレスの中材に反発力のあるコイルやスプリングが入っています。厚さは20~35㎝ほどあり、重厚感・存在感のある寝具を好まれる方に人気です」
ノンコイルマットレスと、コイルスプリングマットレスはどちらがいいの?
ベッドマットレスを選ぶ際、迷ってしまうのが、コイルスプリングはあったほうがいいのか? ということ。
ノンコイルとコイルスプリングの違いについて、加賀さんは「一番大きな違いは価格。寝心地はほぼ大差なく、商品によります」といいます。
以前はベッドマットレスといえば、コイルスプリングマットレスが主流でした。昨今は、処分費が安価なノンコイルマットレスに人気が押されぎみ。ノンコイルマットレスは、部材が少なく重量も軽くて圧縮梱包ができるため、輸送コストが低く商品価格もお手ごろです。ネットで購入する人が増えたことも、ノンコイルマットレス派が増えている理由だそうです。
ノンコイルマットレスは、マットレス本体の素材も豊富です。高弾性のファイバー素材や高反発・低反発のウレタン、ラテックスなどさまざまあり、選択肢の広さも人気の一つとなっています。
【マットレスの選び方1】硬さで選ぶ「迷ったらやわらかめでOK」
やわらかいベッドマットレスと硬いベッドマットレス、どちらが体には良いのでしょう。
加賀さん「まずは好みで選びましょう。長年慣れている寝床を急に変えると、睡眠の質が下がってしまいます。横たわってみて、腰への圧迫感や、沈む込み過ぎる感覚、跳ね返り過ぎる感覚がなければ、好みの硬さに近いもので選んで問題ありません」
これを踏まえた上で「長期的にはやわらかいマットレスに慣れていくほうがいい」と、加賀さん。加齢とともに筋肉が痩せ、各部に圧迫がかかりやすくなるため、徐々にやわらかいマットにしていくのがおすすめだそうです。
【マットレスの選び方2】通気性で選ぶ「側生地は吸湿性の良いものを」
人は寝ている間にコップ1杯分の汗をかきますが、これは睡眠中に体温を下げて体を休めるための生理現象。寝汗でムレて寝苦しくならないよう、マットレスの通気性、マットレスを包む側(がわ)生地の吸湿性・放湿性が快適さのカギになります。
加賀さん「コイルスプリングマットレスは、マットレス内部が中空になっているため、構造上は通気性が良いと言えます。ただし、コイルスプリングを包み込む上層部分や下層部分がウレタンなどで通気性が悪くなっている場合、こもった湿気が外に出にくくなるため注意が必要です。
ノンコイルマットレスなら、ファイバー素材で空気が通るマットレスは通気性が良くおすすめ。寝心地は硬めですが、寝汗やムレを気にせず、清潔さも保てます。
側生地は、吸湿・放湿性のある天然繊維や植物繊維がおすすめ。化学繊維でもメッシュ構造の生地などは、通気性が良いのでおすすめです。また、マットレスの上には敷きパッドやシーツを使いますよね。直接的な寝心地の良さは、肌に最も近い部分の素材が左右します」
【側生地の素材別の特徴】
【マットレスの選び方3】体格に合わせて選ぶ「体格のいい人は硬めを」
ベッドマットレスは体格によっても、相性の良いものとそうでないものがあります。
【体格が大きめ・太めの人】
体重が重いとマットレスに沈み込みやすいため、通常よりもやや硬めのマットレスがおすすめ。
【体格が小さめ・細めの人】
脂肪・筋肉が少ないと圧迫を感じやすいので、通常よりも若干やわらかめのマットレスがおすすめ。
【普通体型の人】
調整の必要なし。自分にとって心地よいものを選ぶ。
身長が高い人はロングサイズのベッドマットレスも。ただし、シーツや敷きパッドなどが特注サイズになってしまうため、割高感があるかもしれません。マットレス幅をシングルでなくセミダブルやダブルにするなど、既成サイズで幅広のものを選ぶと快適性がアップします。
【マットレスの選び方4】耐久性で選ぶ「ウレタン密度は高いものが◎」
一般的なベッドマットレスの寿命は5~8年前後、高品質のものなら10年以上使えます。
ベッドマットレスの「へたり」が生じるのは、ウレタンや綿(わた)の部分。また、コイルスプリングマットレスは、内部の鉄線も徐々に弾性を失っていきます。
購入時に耐久性をチェックしておくと、長く使えて経済的です。耐久性の指標としては、ウレタン密度が目安になるとのこと。「ウレタン密度30D※」などの記載をチェックしておきましょう。
※Dは英語の密度(Density)という言葉の頭文字
ウレタン密度の高いものは、価格もお高め。中には、価格とウレタン密度が釣り合っていないものもあるようなので、注意が必要だそうです。
【マットレスの選び方5】お手入れのしやすさで選ぶ
マットレスは毎日使うため、清潔を保ちたい場所ですね。
マットレスのお手入れのしやすさは「洗えるか」「干せるか」「クリーニングができるか」。丸洗いができるマットレスは、高反発のファイバータイプ以外はほぼなく、基本的には掃除機をかけてゴミを吸い、定期的に干して乾燥させる、プロのクリーニングに頼るなどの方法となります。
加賀さん「ノンコイルマットレスは総じて軽いので、室内で立てかけて干すことができます。コイルスプリングマットレスは一人では動かせないほど重いものもあります。また、ベッドフレームから取り外せないものもありますが、扇風機で風を送るなどして風通しを良くすることで、カビやダニによる汚染を防げます」
ベッドマットレスを長持ちさせる秘訣は、周辺アイテムを上手に活用すること。「敷きパッドやマットレストッパー、除湿シートなどは、寝心地も良くなりベッドマットレスの寿命も伸ばしてくれます」(加賀さん)。
マットレスの買い替え時期の目安とは?
寿命を迎えたベッドマットレスは、寝心地が悪くぐっすりと眠れなくなることもあります。以下の5つの兆候が見られたら、買い替えの時期かもしれません。
1. わたやウレタンフォームなどの詰めものがへたっている
2. スプリングの硬さや底付き感(床の硬さ)を感じる
3. スプリングが劣化している(ヘタリ・軋み音)
4. 表生地の擦り切れ、破れ
5. 汚れやダニ・カビの繁殖
5 については、プロのクリーニングを頼ることで解決できることも。マットレスのお手入れができていない、寝心地の悪さが気になっている、という人は、ぜひ検討してみましょう。
おわりに
ベッドマットレスは種類も豊富で人それぞれの感覚があり、奥の深い世界です。今回取材協力をしてくださった加賀さんのように、睡眠の専門家から教わると、「良い」と思い込んでいた常識は意外にも違っていたことが分かりました。睡眠の質にこだわることは、生活の質にこだわること。生活をもっと楽しみたいと思うなら、ベッドマットレスにこだわってみるのもいいですね。