シミや汚れの応急処置! 余計なことをしてはいけない!?
「食べ物のシミをつけてしまったときは、まず固形物を乾いたティッシュで取り除くこと」
と教えてくれたのは、ライオン株式会社の大貫和泉さん。繊維製品品質管理士、消費生活アドバイザーなどの資格を持ち、洗濯用洗剤などの製品開発・調査に約20年携わってきた“お洗濯マイスター”。お洗濯のエキスパートです。
例えば、上の写真のようにニットにミートソースが付着してしまった場合、まずティッシュで固形物を取り除きます。そして、シミの性質に合わせて、次の応急処置をします。
水溶性のシミの場合の応急処置とは
(大貫さん)「しょうゆ、コーヒー、ケチャップ、マヨネーズ、酒類、カレー、味噌汁など、水や洗剤で落ちやすいものは“水溶性のシミ”になります。油を使うマヨネーズやカレーが“水溶性”なのは意外かもしれませんが、洗剤でも落ちやすいので、水溶性のシミに入ります。
ミートソースも同様に水溶性ですから、この場合は固形物を取り除いた後に、水で濡らしたティッシュでシミの部分をつまみ取るように、シミの水分を取ってください。こすったり叩いたりすると、シミが広がってしまうため、こすらないようにつまみ取ることがポイントです」
乾いたティッシュでシミの水分をつまみとります。
これで応急処置は完了です。
油溶性のシミの場合の応急処置とは
一方、チョコレート、バター、生クリーム、口紅、ファンデーション、植物油などの食品のシミなど“油溶性のシミ”が付着した場合は? こうした汚れは水よりも、ベンジンやアルコールの有機溶剤で落ちやすい性質があります。
(大貫さん)「水で濡らさずに、乾いたティッシュに油分を移し取るようにしてください。おしぼりなどを使って汚れをふき取りたくなると思いますが、飲食店などのおしぼりは塩素系漂白剤で処理されているケースもあるため、色柄部分が色落ちする可能性があります。乾いたティッシュを使うようにしてください」
「その次は?」と尋ねると、「その場でできる応急処置は、実はこれだけです」と大貫さん。飲食店のトイレに駆け込み、設置されているハンドソープで汚れを落とす――といったことはせず、あくまで上記の対応が◎。自然に乾燥するまで、特に手を加える必要はなく、やるべき応急処置はとてもシンプルだったのです。
(大貫さん)「ただし、放置すればするほど落ちにくくなってしまうので、帰宅後はなるべく早く洗濯をするか、クリーニングに出すようにしてください。これはエリ袖汚れ、皮脂汚れにも言えることです」
シミ・汚れの応急処置後は・・・? 洗濯表示を確認して適切な対応を!
帰宅後、洗濯を行う際は、きちんと洗濯表示を確認しましょう。
(大貫さん)「大前提として、自宅で洗えるかどうかの基準となる“家庭洗濯”の洗濯表示があることを確認してください。表記がなかったり、×印が付いている場合は、手洗いを含め自宅で洗うことはできません。その際は、クリーニング可能なマークがあるかを確認し、クリーニング業者に出してください」
・洗濯機の中に水が溜まっている上図マークが、洗濯表示の中で家庭洗濯ができるかどうかのマーク。
・左図のように「×」があれば、家庭洗濯ができないことを意味します。
・中図の「30」は、「水温(液温)は30°Cを限度とし、洗濯機で洗濯ができる」ことを示します。40と書いてあれば40度が限度になります。
・右図は「手洗いができる」ことを指します。
また、上のように「家庭洗濯」の下に2本の棒線が引いてある図は、手洗いコースやドライコースなど、弱水流コースで洗濯することを推奨しているマーク。「左から右」の矢印は洗濯の強さを表します。右に行くほど、優しく扱うこと(弱水流や手洗い)が望ましいという意味です。
(大貫さん)「自宅で洗濯できる衣類であれば、食べ物のシミの部分に直接『液体酸素系漂白剤』や『シミ用の部分洗い剤』を塗布して、衣類に適した洗濯機のコースで洗うようにしてください。漂白剤を使えない衣類の場合は、液体洗剤を塗布するように。
なお、口紅やファンデーションなど、化粧品はもともと“落ちない”ように作られているもの。油分だけでなく、顔料や香料などさまざまなものが入っているので、『おしゃれ着用洗剤』、もしくは『一般衣類用洗剤』を該当箇所にしっかりと塗布してから洗うようにしてください」」
粉末洗剤と液体洗剤の差異に関しては、粉末の方が「皮脂、ドロ、食べ物汚れなど幅広い汚れに適している」ことが特徴として挙げられ、一方、液体は「皮脂やニオイ汚れの洗浄力に優れている」ことが挙げられるそう。直接、塗布する場合は液体を選ぶようにしましょう。
大貫さんに教わった通り、ミートソースの汚れ箇所に「液体酸素系漂白剤」(ライオン社『ブライトSTRONG』など)を直接塗布し、洗濯機で洗ったところ、しっかり汚れが落ちていました(上の写真)。
食事の最中に汚れやシミが付着すると、「どうしよう・・・」と焦ってしまうものですが、上の対応をして、なるべく早く洗濯をすれば、元通りになる――。水で流したり、ハンドソープでこすることが、かえって衣服にダメージを与えかねない行動だと理解できました。汚れが付着しても焦って対応しないことが肝心というわけです。
(大貫さん)「時間のたった食べこぼしの汚れや、エリ・袖の頑固な黒ずみ汚れに関しては、高濃度液体洗剤 (ライオン社の場合『トップスーパーNANOX』高濃度液体洗剤)を該当箇所に塗布して、一晩放置後、洗濯することをおすすめしています。ただし、標準コースで洗える衣類に限ることと、高濃度液体洗剤の中には一晩放置をうたっていないものもあるため、その点に留意してください」
衣類を洗わずにシミだけ取りたい時のシミ抜き方法
衣類の丸洗いを望まず、あくまで該当箇所だけを洗いたい、シミを取りたいという場合の手順は以下の通りです。
(1)シミの汚れを取るタオルを用意し、その上にシミがついている面を下に向けて置く。
(2)ハンカチやタオルに洗剤液やアルコール・ベンジンなど(※)をつけ、シミの裏からトントンと叩く
※ハンカチやタオルに含ませる洗浄液はシミの種類が水溶性か油溶性かによって変わります。詳しくは以下の手順をご確認ください。シミの成分がわからない時は、まず“油溶性”、次に“水溶性”の順で試していきます。
(大貫さん)「シミの表から叩くと、汚れが中に染み込んでいってしまいます。そのため、シミの裏面から叩くようにしてください」
水溶性のシミの場合
まずは、使用する薬剤を目立たない部分につけて叩きます。
その際、白い布に色が移ったり、色落ちやシミができてしまったりした場合は、家庭では染み抜きができません。専門店に相談しましょう。
かたく折りたたんだハンカチやタオルに、水で薄めた洗剤液(100ccの水におしゃれ着用洗剤2ml溶かしたもの)をつけて、シミの裏側を周囲から内側に向けて叩く。下に敷いているタオルの位置をずらしながら、シミが落ちるまで繰り返す。汚れが落ちたら、別のハンカチに水をつけて、叩いて、洗剤液を落とします。輪ジミを防ぐために、水を付けたハンカチで、シミの周りをぼかすようにふくことがポイント。
油溶性のシミの場合
ハンカチにベンジンや消毒用のアルコールなどをつけて、やはりシミの裏面から叩きます。落ちなかった場合は、水溶性のシミの手順を試すようにします。
※ベンジンやアルコールなどを使用する場合は換気に注意し、近くに火気がないことをお確かめください。
最後は自然乾燥させる
(大貫さん)「シミ抜きした衣類は、必ず自然乾燥させてください。アイロンやドライヤーなどで熱をかけると、シミの成分が残っていた場合、変質して落ちにくくなってしまいます」
完全に汚れが落ちるとは限りませんが、該当箇所だけ洗いたいという場合は、ぜひ以上の手順を覚えておきましょう。
携帯用のシミとり剤を持ち歩いておくと便利!
昨今は水溶性・油溶性のどちらの汚れも落とせる、衣類の本格派シミとり剤があるため、汚れに敏感な人は携帯しておくと便利。この場合、冒頭で説明した固形物を乾いたティッシュで取り除いた後に、本格派シミとり剤を使用する流れになります。
「和服や革製品などには使えませんが、洗えないとされている衣類にも適用できます」と大貫さんが説明するように、つゆ類、調味料をはじめ、口紅やファンデーションにも対応しており、おしゃれ着に汚れが付着した際は、重宝しそうです。
『トップシミとりレスキュー』(シミとり剤)の場合、使い方もいたってカンタンで、
(1)付属の吸収シートを下に敷いて、汚れ部分をシート面に向け、裏側からシミとり剤をあてる。
(2)輪ジミを作らないように、周囲から内側へと円を描くようにトントンと叩く。シートに汚れが落ちていくのを確認したら、吸収シートをずらし、再度叩いていく。
(3)汚れが落ちてきたら、残ったシミとり剤を取り除くために、水で固く絞ったタオルなどで上から叩く。
最後に自然乾燥させれば終了。本格派シミとり剤だけでも、ほとんど汚れが落ちていることが写真からも分かります。お気に入りの服を着ているときなどは、かばんに忍ばせていくと心強い味方になりますね。
干し方に特別なポイントはないものの、カレーが付着してしまった場合、こんなアドバイスをいただきました。
(大貫さん)「カレーのシミは、外干しすると薄くなります。カレーに含まれているクルクミンは、光反応を受けやすい色素成分なんですね。紫外線によって徐々に色素の構造が変わることで、色素本体の色が失われるため、カレーの色が退色していきます。ただし、外干しだけでは汚れは落ちませんから、汚れを落とした上で、外に干すようにしてください」
おさらいすると、
(1)応急処置はシンプルに(シミとり剤を携帯している場合は使用する)。
(2)帰宅後、洗濯表示を確認し、適した対応を。
(3)丸ごと洗わずに、部分的に汚れを落とす場合は、 水で薄めたおしゃれ着用洗剤を。
※油溶性の汚れにはアルコールやベンジンなどを。
(4)自然乾燥させる。
この4つの手順を行うことで、「うわ・・・やっちゃった」と落ち込まなくて済むようになります。
(大貫さん)「応急処置とは、その後落としやすくするための対応です。余計なことをすると縮んでしまったり、色が落ちてしまったりする。不具合を防ぐために、必要以上のことをしないこと。それこそが食べ物のシミをつけてしまったときの応急処置です」
おわりに
ついついトイレに駆け込んで水で落としたり、ハンドソープでこすったりしたくなる、飲食中の突発的なシミ。でも、焦ってはいけません。最低限の処置をして、帰宅後、すぐに対応すれば大丈夫。シミも心配もきれいに水に流れていきますよ。