夫が包丁で野菜を刻むリズミカルな音が聞こえ、その後ろでは妻がダッチオーブンにお肉を並べています。中央のアイランドキッチンと壁側のキッチン。その間でてきぱきと動く二人の作業があまりにもスムーズなので、しばらく見とれてしまったほどです。
それもそのはず、この二人、出会いはロックバンドの活動でした。ベーシストとドラマー。
息が合わないわけがありません。夫婦にとって、料理は一緒の演奏のようなものでした。
もともとお料理が大好きだった二人。海峡に掛かる橋の見える美しい街で、新築住宅を建てたとき、標準のキッチンでは満足がいかず、オーダーキッチンという選択にふみきったのです。
実は意外なことに、このキッチンづくりの主導を握ったのは夫でした。「キッチンのカウンターに妻を座らせて、料理を作っていけたら・・・」そんな夢があったのです。
テーブルのようなキッチンカウンター。そこに椅子を並べて家族でキッチンを囲みたい。
キッチンはそのためのステージでした。
美しいステンレスのワークトップで、手元を隠すアイランド型の案。テーブル部分と高低差をつけたり、素材を変えたりする案など、多くのプランに迷いました。
けれども最終的にはすっきりとフラットなアイランドキッチンに。
「一人でキッチンに立って、フラットな空間を贅沢に使って、4品~5品の料理を並べていくのは本当に喜びです。先日は母が来て、3人で使ってもまったく狭さを感じませんでした」と言うのは夫。
アイランドの幅は2730mmなので、それだけ見れば、サイズは一般的なキッチンの間口とそう変わりませんが、4方向から使えることで、可動域をぐっと広げているのです。
きゅっとスクエアに曲がった水栓金具は管楽器のようで、 その前に並べたグラスと共に美しく輝きます。
ワークトップのステンレスは、らせん状の磨き傷加工で光沢を抑えてあり、工業的でシャープな美しさがあります。これが使い込んだ楽器のように渋いのです。
出てくる料理は、まるでアドリブ演奏の曲のようです。
夫はイタリア料理やスペイン料理をつくるのが得意。何種類ものおつまみを、ちょこちょこつくっては盛りつけていきます。
直火は鍋が振りやすく、男性的な大胆なお料理もパフォーマンス的に楽しめます。
これも、バンド活動で「人を楽しませる」ことを多く経験してきたからこそ身についた、キッチンを使いこなす技かもしれません。
そしてメニューはクライマックスへ。
ガスコンロのグリルで、専用ダッチオーブンでつくる野菜とお肉の蒸し焼き料理。
前菜を楽しむ間に、じっくりと熱が通されていきます。
普段はごく普通の会社勤めをしている二人。
キッチンではパフォーマーの心に戻って、音楽を奏でるように、料理を楽しむのでした。
実は家が完成した後、二人には新しい家族が増えました。
「忙しい育児生活の中でも、タイマーのある高機能ガスコンロは料理づくりを助けてくれるし、子どもには直火での料理を体験してほしい」と妻。
そして先日、「妻の誕生日に、この新しいキッチンでイタリアンのフルコースをつくって、もてなすことができました」とうれしいお便りも届きました。
オーダーキッチン設計/ステュディオ・カズ http://www.studiokaz.com/
使っているガスコンロ ピピッとコンロ