避難が必要になる目安は?

提供:五十嵐浩子
地震が発生したとき、避難すべきか判断に迷うこともあるでしょう。どのような状況であれば避難するべきなのか、避難が必要となる目安を五十嵐さんに伺いました。
避難指示が出たとき
「政府や自治体から避難指示が出たときは、速やかに避難しましょう。避難指示や警報が出ていなくても、津波の被害が想定される地域であったり、建物の安全が判断できないなど、その場にとどまることに危険を感じるのであれば避難したほうがよいでしょう」(五十嵐さん)
建物倒壊の危険や不安があるとき
建物に被害がなくて、在宅避難ができるなら自宅にいたいという人もいると思います。しかし安全であるかどうかを自己判断するのは難しいと五十嵐さんは言います。
「壁に亀裂が入っていたり、天井が崩れかけていたりする場合は迷わず避難しましょう。一方で建物に損傷がないように見える場合でも、安全かどうかを自己判断するのは危険です。
一見、建物が無事であっても、そこにとどまっていて不安を感じるようであれば避難所に避難したほうがよいでしょう」(五十嵐さん)
津波がくる恐れがあるとき
「警報や注意報の有無にかかわらず、海岸や河川に近く、津波の被害が想定される地域にいるときは速やかに避難しましょう。逃げられる方から率先して逃げ、『津波がくるぞ』と声を掛け合って避難するのがベストです」(五十嵐さん)
ライフラインが遮断されたとき
停電や断水など、ライフラインが遮断されていると自宅で生活をするのは難しくなります。五十嵐さんは実際に経験した被災体験を次のように語ります。
「私は東日本大震災のとき、福島県浪江町に住んでいました。被災したとき建物は大丈夫だったのですが、家の中がぐちゃぐちゃになってしまいました。最初は避難するつもりはなかったので家の中を片づけていたのですが、停電のため掃除機が使えないなど片づけが進まず、余震が続いていたこともあり近くの中学校に避難しました」(五十嵐さん)
ライフラインが遮断されると精神的にもダメージを受けます。自宅にいて不安を感じる場合は、迷わず避難したほうがよいそうです。
避難移動を始めるタイミングは?

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いざ避難するときには、どのようなタイミングで移動するのがよいのでしょうか。五十嵐さんに避難するときの注意点を伺いました。
「地震災害では、大きな地震のあとに余震が続いたり、本震よりも大きな余震がきたりすることもあります。大きな揺れが収まり、安全が確認できたら避難しましょう。
ただし、避難する具体的なタイミングは、個々の判断になります。例えば、家族と一緒に自宅にいるときなら、揺れが収まるのを待ってから、家族でどう行動するのかを決めることもあるでしょう。
避難すると決めたら防災リュックなど必要なものを持って、すぐに出発しましょう。安全に避難できると思ったタイミングが、避難するタイミングです」(五十嵐さん)
避難する前にやるべきこと

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地震災害時には、火災をはじめとした二次災害が多く発生しています。二次災害を発生させないために、家を離れる前にやるべきことを五十嵐さんに伺いました。
ブレーカーを落とす
地震で停電が発生した場合、電気が復旧したときに起きる「通電火災」に注意が必要です。
通電火災とは地震の揺れで転倒・破損した電気機器に通電することで、漏電やショート、可燃物への引火を引き起こす火災のことをいいます。
「まだ停電しておらず電気が通っている場合でも、避難で家を空けるならブレーカーは落としておいたほうがよいでしょう。
ブレーカーを落とすことで冷蔵庫の中の食品がダメになってしまうことが心配なら、クーラーボックスや発泡スチロールの箱に移し替えておくと、ある程度は保存できます。車で避難する人なら、保冷箱ごと車に積んで行ってもいいでしょう。食材によっては、避難先の炊き出しに使ってもらうこともできます」(五十嵐さん)
ガスの元栓を閉める
「地震では揺れだけでなく、火災が起きるのが一番怖いです。ガス漏れによる火災を予防する対策として、ガスの元栓は必ず閉めておきましょう」(五十嵐さん)
水道の元栓を閉める
「停電が発生すると、地域の下水処理場の処理ができなくなり、浄水が滞ってしまうことがあります。水道の元栓を閉めておくことで、泥や濁った水が家の水道へ逆流することを防げます」(五十嵐さん)
家の戸締まりをする
「避難するために家を空けると、空き巣に入られる危険もあります。空き巣被害を防ぐためにも、家の戸締まりは忘れずにしておきましょう」(五十嵐さん)
地域によっては「避難済み」の目印を出しておく
「地域性にもよりますが、『無事に避難を完了しています』という目印を家の外につける地域もあります。特に津波の被害が予想される地域には多いです。
震災のときは自治会の役員など、全員が避難できているかを確認する人たちが一軒一軒回ってくれるので、そのときに『避難済み』の目印を出しておくことで、『この家は声をかけなくてもいいな』と判断しやすくなります。
目印の出し方はハンカチを結ぶなど、それぞれの自治会ごとのルールに従います。
ただ、この目印を出すことで空き巣に対しても留守だとわかってしまうため、自治会のルールで決められていないのであれば、特にやる必要はないかなと思います」(五十嵐さん)
そのルールの有無は、自治会に事前に確認しておいたほうがよいのでしょうか?
「町内会に入っていれば、その中で話し合いがあったり、回覧板に書いてあると思います。ルールの確認だけでなく、要支援の家族を抱えている家庭は、自治会にあらかじめ届けておくのがよいでしょう。避難時にお手伝いの支援を受けることができます。
自分の力で避難できる人はよいですが、要介護の家族がいたり、子どもが多いなど、避難に不安がある人は事前に相談しておくとよいと思います」(五十嵐さん)
連絡すべき相手の電話番号がわかるようにしておく
震災時は電話やSNS、連絡アプリなど、回線が混雑して使えなくなることがあります。そのようなとき、家族などに、避難することや避難場所について連絡したい場合、どうすればよいのでしょうか。
「家族間の伝言には、災害伝言ダイヤル(171)がよいと思います。相手の電話番号でメッセージを聞くことができます。ただ連絡を取りたい相手の電話番号を記憶しているかどうかが問題です。
よく電話をかける相手でも、電話番号をスマホに登録しているだけで、記憶していない方が多いのではないでしょうか。
非常時に備えて、大事な人の電話番号はしっかり記憶しておくか、連絡先メモを作成しておくのがよいでしょう」(五十嵐さん)
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災害時の連絡手段はどうする? 知っておきたい備えを防災士が解説
避難するときに注意すること

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いざ避難するときは、どのようなことに注意すればよいのかを五十嵐さんに伺いました。
安全で動きやすい服装で避難する
安全に避難するためには、服装にも気をつける必要があります。
「底が厚く平らで歩きやすい靴をはき、ヘルメットや防災頭巾などを装着して頭を守ります。ケガを防止するため、夏でも長袖・長ズボンで避難するのがよいでしょう。冬はマフラー、手袋など防寒具を身につけて避難すれば荷物も減らせます。
また、子どもには明るい色の服を着せることをおすすめします。避難所など大勢の人がいる場所で見つけやすいからです」(五十嵐さん)
指示に従い避難する
政府や自治体から避難指示が出ている場合は、指示に従って避難する必要があります。しかしそのとき、必ずしも集団で避難すべきではないと五十嵐さんは言います。
「どういった状況を想定しているかにもよりますが、津波の浸水被害が確定している地域など、その場所にとどまることが危ない場合はすぐに避難しましょう。その際、周囲の人と声を掛け合うことは大切ですが、みんなでそろって避難する必要はありません。
津波の場合は緊急性が高いので、逃げられる人が率先して逃げ、周囲に声をかけていくほうが大切です。『みんなが逃げないから逃げない』という判断は怖いので、集団ではなく個々で避難しましょう」(五十嵐さん)
避難に車を使うかどうかは地域による
「津波の到来が予想される地域では、車で避難することは避けましょう。みんなが車で一斉に同じ方向に逃げると渋滞が発生します。東日本大震災のときもこの渋滞が起きたせいで、車の中にいたまま津波で流された人がとても多かったのです。津波のおそれがあるときは、なるべく高いところに徒歩で避難するのがベストです。
一方、津波災害がない地域では車で避難してもよいと思います。車があると避難所でもプライベートな空間を持つことができます」(五十嵐さん)
忘れ物をしても取りに戻らない
「地震で避難するときは、家に忘れ物をしても安全が確認できるまで決して取りに戻ってはいけません。東日本大震災のときは、津波警報が鳴っても『まだ大丈夫』と、忘れ物を取りに戻って亡くなられた方がとても多かったのです。
また、建物が危険なレベルなのに無理に入って、余震で建物が崩れて亡くなってしまったケースもあります。そのため自分では大丈夫と思っても、安全性が確認できるまでは忘れ物は取りに戻らないようにしてください」(五十嵐さん)
エレベーターは使用しない
「エレベーターは地震を感知すると停止するため、避難には使わないでください。乗っているときに地震が発生した場合は、すべての階のボタンを押すと一番近い階に止まるので、ドアが開いたら外に出ます。揺れによる誤作動で床からずれた位置で止まることもあるため、降りるときは必ず足元を確認しましょう」(五十嵐さん)
電線に触れないよう注意する
「地震が起こると、電柱が倒れて電線が切れたり、電線が道路や歩道に垂れてきたりすることがあります。感電する恐れがあるので、決して電線には触れないようにしてください」(五十嵐さん)
昼間はもちろん、特に夜間の避難では注意したいですね。
落下物や倒壊などに注意する

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「地震の揺れが激しいと、ガラスや瓦、看板などが落ちてくる恐れがあるため、注意が必要です。以前は、揺れている最中は、かがんで頭を守り、体を丸める『ダンゴムシポーズ』が推奨されていましたが、これだと落下物に対応できず危険です。最近では、膝をついてしゃがみ、キョロキョロして周囲の安全確認をする『うさぎさんのポーズ』がよいとされています。倒れてくるものはないか、落ちてくるものはないかを確認しながら逃げる場所を探します。まずは、『見る』ことが大事。やみくもに頭を守るより、周囲の状況をしっかり確認してほしいと思います」(五十嵐さん)
海や河川には近づかない
「地震が起きたときには、海だけでなく河川にも近づかないでください。川は津波がないと思われがちですが、津波によって海水が川をさかのぼってくることがあるため、とても危険です」(五十嵐さん)
信号機の不点灯に注意
「停電すると信号機も消灯してしまうので、交通の混乱が起こります。信号機のある道路を使って避難するときは注意してください。平常時であれば警察がすぐに出動して手信号で誘導してくれますが、非常時は対応できないことが多いため、各自が気をつけるしかありません」(五十嵐さん)
避難経路の選び方

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いざというとき、安全に避難するためには、あらかじめ避難経路をチェックしておくことが大切だと五十嵐さん。避難経路の選び方について五十嵐さんにポイントを伺いました。
避難場所を調べておく
「避難できる場所を調べるには、お住まいの地域のハザードマップを使うのがよいでしょう。ハザードマップが手元にない場合は、自治体のホームページでも確認できますよ」(五十嵐さん)
自宅から近い避難場所を調べておくことは基本ですが、災害の内容によって避難場所が変わることを知っておく必要があると五十嵐さんは言います。
「避難場所には、一時の身の安全を確保する場所(公園など)、生活をするための避難所(学校の体育館、公民館など)とさまざまな種類があります。加えて、地震避難と津波避難では避難する場所が異なります。地震避難の場合は頑丈な建物や、倒れてくるものがない広い場所などが避難先になりますが、津波避難はなるべく高い場所に逃れることが必要になります。
実際、東日本大震災のときは多くの方が普段の避難所に避難し、津波に巻き込まれてしまいました。ただ避難場所というだけではなく、それがどのようなときに避難できる場所なのかを調べておきましょう」(五十嵐さん)
避難経路を歩いてチェックしておく
「避難経路は、家族がどのようにして避難するのかを想定して決めてください。例えば子どもがいたりペットを飼っていたりすることで、どの道を選ぶか変わってくると思います。ベビーカーや車いすを使う家族がいる場合などは、距離が短くても、高低差や階段があるルートは使えないこともあります」(五十嵐さん)
そして、避難経路を決めるだけでなく、実際に歩いてチェックしてほしいと五十嵐さん。
「地図には載っていないブロック塀や看板など、倒れたり崩れたりするものがないかを確認しながら歩いてみましょう。『ここは危ないよね』『この塀が壊れるとこの道は使えなくなるかも』など、家族ぐるみで確認しておくのがよいでしょう」(五十嵐さん)
また子どもやペット連れのなどの場合は、避難時の荷物が多くなるため、防災リュックなどを実際に背負ってみて、無理なく運べるかを確認しておくことも大切だそうです。
避難場所を複数決めておく
五十嵐さんによると、あらかじめ決めていた避難経路が土砂災害で通れなくなるなど、決めていた避難場所にたどり着けないこともあるのだそう。そういった場合に備え、避難場所はいくつか決めておくと安心とのこと。
また、家族がバラバラの場所で被災した場合に備えて、避難場所について話し合っておくことが重要だそう。
「家族で相談して、『こういうときはここに避難する』という行動の優先順位を決めておくことをおすすめします。特に、子どもが通学中に災害に遭った場合はどこにいけばよいのかは話し合っておきましょう。学校から帰る途中なら家に帰るのか、学校に戻ったほうが安全なのかなど、『この時間帯やこの状況だったら、あなたはここに避難してね』というように共有しておきます。例えば、通学路を通って避難することを決めておくと再会しやすくなります」(五十嵐さん)
おわりに
実体験に基づいた五十嵐さんのリアルなお話を伺って、地震発生時に安全に避難するためには、平時から避難するときの注意点を知って、理解しておくことが重要だとわかりました。地震はいつどこで起こるか予測ができません。ぜひ機会を設けて、家族で災害時の避難について話し合い、避難場所や避難経路は家族一緒に確認してみましょう。