ステンレス鍋の焦げはどう落とす?
シンプルで美しいデザインと実用性を兼ね備えた鍋として人気のステンレス鍋。特に多層構造のタイプは熱伝導性も保温性も高く、料理がおいしくできる鍋として人気を博してきました。
使っている人に聞くと、「焦げにくい」と「焦げやすい」に評価が二分するようです。ビタクラフトジャパン株式会社の後藤さんによると、多層構造のステンレス鍋は焦げにくいのが特徴ですが、使いこなすにはちょっとしたコツがいるのだそう。
たとえ焦げたとしても、ステンレスは酸にもアルカリにも熱にも強い金属なので、ツルッと落とすことができるとのこと。焦げた場合の落とし方や上手な使い方について後藤さんに詳しく伺いました。
ステンレス鍋の焦げの落とし方とは?
(1)お湯でふやかし、固まりを取り除く
後藤さん「多少の焦げなら普通にスポンジでこすっても落ちますが、かなり焦げ付いてしまった場合には、まずお湯でふやかします。鍋底に近い部分ほど水分がない状態です。ここをお湯でふやかすことで全体を剥がしやすくするのです」
熱いお湯を鍋に入れてつけ置きしたり、その後、火にかけて沸かし、お湯でふやかしていきましょう。この後、ヘラやブラシなどで固まった部分を取り除きます。焦げ部分がまだ硬ければ、再びお湯でふやかしましょう。
スプーンやフォークの先で力を入れてこすると傷がついてしまいます。ステンレス鍋の場合、傷がついても実用性に影響はありませんが、見た目が気になる方は優しく平たいヘラややわらかいブラシでこすります。
(2)洗剤を使って焦げや汚れを浮かす
後藤さんによると、ステンレス鍋は酸にもアルカリにも強いので、中性洗剤だけでなく、食器用の酸性洗剤やアルカリ性洗剤も使えます。また、洗剤とお湯を鍋に入れて沸かしたり、そのままつけ置きしてもOKとのこと。
他の鍋の場合と比較してみると、アルミ鍋は酸に弱いので、酸性洗剤は使えません。鉄鍋の場合、洗剤を使うと馴染んだ油が剥がれてしまいます。テフロン加工の鍋の場合は、洗剤は使えるものの、つけ置き洗いはできません。ステンレス鍋なら強い洗剤も使えますし、つけ置きもできるので、安心してお手入れできますね。
(3)洗剤を流し、さらにブラシやヘラ、スポンジでこすり落とす
ステンレス鍋にたまったお湯や洗剤液を流し、ブラシやヘラ、スポンジで焦げつきをこすり落としていきます。金属タワシなど傷がつきやすい物は避けた方が無難だそう。スプーンやフォークの先でガリっとこすると傷がついてしまうので、ヘラの広い面やブラシ・スポンジで優しく焦げの部分だけをこすりましょう。焦げが硬すぎたら再度お湯でふやかします。
後藤さん「でこぼこした焼きつきは強くこすらないと取れないんですよね。ステンレスの場合、傷が付いても機能性や耐久性には影響はありませんが、見た目が気になる方も多いです。なるべく焦げ付きに水分を与えてふやかし、やわらかくしてから優しくこすることを意識してください」
(4)落ちない焦げや汚れはクレンザーで落とす
最後に残った焦げや汚れは、クレンザーで落としていきましょう。鍋用のクレンザーなら粒子が細かいため、傷が付きづらいそうです。スポンジにクレンザーをつけて、こすりながら焦げを落としていきます。
後藤さん「焦げ部分だけクレンザーでこすると、その部分が傷になってしまうので、鍋全体を均等な力で円を描くようにこすっていきます。まずは傷が気にならない鍋底の裏側などで試してから、表を磨いていくとよいですよ」
【実験】ステンレス鍋の焦げを落としてみた
上の写真はホワイトシチューを温め直した際、そのまま10分ほどガスコンロにかけっぱなしにしてしまった後のステンレス鍋の様子です。
熱湯を注いでしばらく放置してみましたが、焦げ部分がかたくて剥がれないため、食洗機用のアルカリ性洗剤を加えて火にかけ、沸騰したところで15分ほど放置してみました。
洗剤の入ったお湯を捨ててブラシでこすっていくと、スルスルと焦げが落ちていきました。
一度お湯を流した様子が上の写真です。数分、ブラシでこするだけで、これだけ落ちたのには驚きました。
さらに水とアルカリ性洗剤を入れて火にかけ、沸騰したところでブラシでこすると、ピカピカになりました。
ビフォー(左)とアフター(右)で比較してみると、その差は一目瞭然。クレンザーは使わなくても、かなり汚れが落ちました。
後藤さんによると、クレンザーを使っても焦げ汚れが落ちない場合、鍋を天日干しでカラカラに乾かし、焦げ部分が乾いた際にヘラでこするとペラっと取れることもあるそうです。
ステンレス鍋は焦げやすい? 焦げにくい? 評価が分かれる理由とは
上のグラフはアルミニウム、鉄、ステンレスとチタンの熱伝導率と保温性を比較したもの。「比熱×密度」とあるのが保温性の目安となる数値です。
保温性の高さで比較すると、ステンレスがナンバーワン。ステンレスには「熱しにくく冷めにくい」という特徴があります。アルミニウムの「熱しやすく冷めやすい」という特徴と真逆です。
そのため、ステンレス単層の鍋は、「熱しにくく冷めにくい」ために、食材全体に火が通るのに時間がかかり、焦げやすい性質に。一方、多層構造の鍋というのは、アルミなどの他の金属とステンレスを層として重ねている鍋を指します。
後藤さん「ステンレスはアルミや鉄に比べて熱伝導が良くないので、ビタクラフトの多層構造の鍋ではそれぞれの良いところを取るために重ねています。弊社の鍋は鍋底だけでなく鍋全体を多層構造にしているので、全体が効率良く熱が回ります」
多層構造にすることで、複数の金属の特性を併せ持つ「熱しやすく冷めにくい」鍋に仕上げているのですね。
焦げの原因は、食材の一部に火が入りすぎて水分が飛んでしまうこと。全体が効率良く温まる多層構造のステンレス鍋なら焦げにくく、単層構造のステンレス鍋はより火加減に注意しないと焦げてしまいやすいことになります。多層構造と単層構造のステンレス鍋が存在するために、ステンレス鍋は「焦げやすい」という人と「焦げにくい」という人に評価が分かれるんですね。
なお、ステンレスが酸やアルカリ、熱に強くてお手入れがしやすいという特徴については、単層でも多層でも変わりません。また単層のステンレス鍋の方がお手頃な傾向にあります。お好みやライフスタイルに合わせて選ぶとよいですね。
ステンレスとは?
ステンレスとは鉄を50%以上、クロムを10.5%以上含む合金です。炭素を含む場合は1.2%以下とされています。本来、鉄にはさびやすい性質がありますが、クロムやニッケルを含むことでさびにくくしています。
例えば、ビタクラフトで使用される「18-8ステンレス」とは、鉄に18%のクロムと8%のニッケルが含まれた合金です。クロムの働きによりステンレスの表面は酸化皮膜に覆われ、ニッケルはこの酸化皮膜を安定させる効果を持ちます。
多層構造とは?
多層構造の鍋は、アルミや銅、鉄などをステンレスと重ね、貼り合わせて作られます。一般的には、3〜7枚の層を重ねた鍋が多いようです。
ビタクラフトさんでは、5〜9枚の層を重ねて圧力をかける「高熱圧着法」で接着させていますが、メーカーによって接着剤を使うケースもあるとのこと。接着方法により耐久性も変わります。
なお、ビタクラフトさんの鍋の耐久年数は10年保証ですが、後藤さんによると20〜30年使っている方が多く、中には50年使っている方も。正しく使えば耐久性もアップするそうです。
ステンレス鍋を焦がさない! 上手な使い方とは(多層構造の場合)
上述した通り、多層構造のステンレス鍋の場合、全体に効率良く熱が回る性質があります。鍋の中で対流が起こるため、短時間で調理ができ、味も良く染みるのだそう。また、焼き物、煮物、ご飯もおいしく仕上がると言います。上手な使い方をご紹介いただきました。
煮物やご飯を炊くときは、お鍋は八分目まで!
ふたに蒸気穴がないタイプなら蒸気も熱も逃さないので、一定の圧力がかかり、ご飯や煮物がおいしく仕上がるのだそう。煮こぼれないようにするには、鍋は八分目以上は入れないこと。また煮立った際の火加減もポイントで、弱火にするか火を消して様子をみるのがよいそうです。
なお、ご飯の残りやミネラル分が残って、鍋の底に白い斑点やシミができることもあるそう。この場合は放っといても害はなく、使っていくうちに自然と落ちていきますが、気になる場合はクレンザーとスポンジで磨けば落とせるそうです。
ステーキなどの焼き物はふたを使う
あらかじめステンレス鍋を空だきし予熱します。水滴を落としてみて、水玉となってコロコロ転がる状態になるのが目安です。鉄鍋なら水滴を落としてジュワーっと蒸発すればよいのですが、ステンレス鍋の場合はさらに予熱を加えて水滴が水玉状態に転がるまで待ちます。
油を入れて温まったのを確認したら、ステーキなど食材を入れ弱火にしてふたをし、数分待ちます(ステーキの場合2〜3分)。
水分がなくなると焦げてしまいますし、しっかり火が通らないと裏返す時に鍋肌に張り付いてしまいます。色が変わったタイミングですぐ裏返し、ふたをして焼き上がるのを待ちます。火が通りすぎてしまう場合には火を止めてそのまま待ってOK。保温の力で十分火が通るそうです。
なお、卵で目玉焼きを作る場合には、油を引いて卵を入れてふたをし、すぐ火を止めて置いておくそう。5分待てば焦げ付かないで剥がせるとのことです。
おわりに
ステンレス鍋には、焦げやすいタイプと焦げにくいタイプがありますが、どちらも焦げても落としやすいのが特徴。さらに多層構造のステンレス鍋なら時短料理も可能に。長持ちする鍋なので大切に使っていきたいですね。