子育ては伸び伸びと、愛情をもってごはんを作ること
――もともとシャンソン歌手だったレミさんですが、結婚後に料理愛好家として活動され始めました。料理を好きになったきっかけはありますか?
レミさん:それは和田さん(夫でイラストレーターの和田誠氏)のおかげ。出会って1週間で結婚したんだけど、はじめて作った料理でも「レミの料理はおいしい」って、いつもいつも褒めてくれるの。どんどんやる気になっちゃって。「なんだ、こんなまずい料理」って言われたら、こうはならなかったわね。言い方ひとつで女房が料理上手になるかどうか。旦那さんは、褒めなきゃね(笑)
――息子さんたちを育てるときに大切にされていたことはありますか?
レミさん:愛情をもってごはんを作ってれば大丈夫。どんなに大変なときでもごはんは作ってたわね。そうすれば、絶対にうまくいくと思っててね。息子が夜中に「お母さん、腹ペコペコだけど、何かある?」って、電話をかけてきたことがあったの。もうパジャマを着てたんだけど、「あるよ!」って言って洋服に着替えて急いでスーパーに行って用意したの。間に合わないから軟らかいおでんの具だけ買って、自分で作ったおいしいタレで上手にごまかして私が作ったみたいにやってね。
ごはんの時に大切にしてたのは、小言を言わないこと。「勉強しなさい」「トマト食べなさい」って言われると、ごはんを食べる時間が嫌になっちゃうかもしれないでしょ。一緒に楽しい食事をすれば、お母さんのことが好きないい子になると思うのよ。
――他に気を付けていたことはありますか?
レミさん:学校から帰って自分の部屋で宿題をして、ごはんの時だけ食卓に来て、自分の部屋に入っちゃうのは、とっても良くないなと思ったの。だから、私がごはんを作ってるところを見せて、台所で宿題をさせてたわね。息子たちに、エプロン姿でトントンごぼうを切ったり、ジャージャー炒めたりしてるのを聞かせて。「お母さん、おなかへった」「もうちょっとだからね」って、君たちのためにごはんを作ってるんだよと耳で覚えさせて。それが良かったと思うのは、(上野)樹里ちゃんとあーちゃん(和田明日香さん)に聞いたら、息子が二人とも料理をやるんだって。手伝えとか言ったことはないけど、お母さんがちゃんと作ってるのを見てたら、そうなったんだと思うの。
――学校の勉強や進路については、どうしていましたか?
レミさん:自由に伸び伸びと育てることが大事だからね。勉強なんてどうでも構わないってね。それがとっても良かったと思うの。長男(和田唱さん)は、勉強しないでギターばかりやってて、明日期末試験だっていうのに、帰ってこない。そしたら御茶ノ水の楽器屋さんからギターのパンフレットを抱えるほど持って帰ってきて、玄関で「お母さん、どれ買ってくれる?」って。そのまま部屋に入ってしんとしてるから勉強してると思ったら、和田さんの古いギターを持ちながら制服のまま寝てるの。和田さんに「大変」って言ったら「これでいいんだよ」って。結局、ギターの道に進んだからね。とにかく夢中になるものを見つけたほうがいいのよね。子どもたちは、黙っていたって考えてるものよ。自分の道を自分で切り開いていったんだからいいんじゃない。
失敗で気付いた、息子と向き合うこと、自分の時間を決めないこと
――子育てで失敗したと思うことはありましたか?
レミさん:ある時、長男がおでこに髪がかかってるわけでもないのにずっと払っていたの。ちょっと変だなと思って、医師の村崎芙蓉子先生に相談したら、チック症だと分かって。そうすると「これは坊やの病気じゃなくて、お母さんの病気よ」と。私は料理が楽しくて一生懸命になると「あっち行きなさい」とやっていたのね。それが良くなかったの。先生の指示通り「お母さん」と呼ばれたら、仕事の手を止めて「はあい」って答えるようにしたら、治っちゃった。それからは、子どもが友達を連れてきたらみんなが遊んでるところに私も入って仕事をするようにしたの。仕事だけを優先してやらないように頑張りましたね。
――子育てで困ったときは、どうしていましたか?
レミさん:私は仕事をしてたから、困ったときはうちの母にも和田さんのお母さんにも近所の人にもみんなに手伝ってもらってましたね。でも何かあれば、和田さんに相談したりね。ママ友が子どもを塾に通わせてると話を聞くと「これじゃいけないのかな」と思う。すると、和田さんが「心配することないよ」っていつも言ってくれて。ほんとに自由にのんびり縛りのない子育てをしてましたね。それが良かったなと思って。うちの和田さんも好きなことを楽しくやってた人生だったし、長男も次男も、そんな感じで伸び伸びやってますね。私、思うんだけど、やるべきこととやりたいことが一致してる人生だったら最高に幸せじゃない?
――レミさんのおおらかな子育ては和田さんの影響だったんですね。料理が子育ての秘訣とおっしゃっていましたが、何か簡単にまねできそうなことはありますか?
レミさん:忙しいときや急いでいるときは、おいしい自家製のたれを常備しておいて、できあいのものに混ぜて上手にごまかしてみたりね。(万能だし醤油の)レミだれやニンニク醤油だれ、そばつゆを作っておいて、冷凍しておくととっても便利なの。でも、いつも手作りのもので慣れてると、到来物のレトルトカレーなんか出したとき「お母さんのじゃないでしょ」って言われちゃう。あんまり手作りしてると、あとが大変だけどね(笑)
――料理が大得意なレミさんですが、苦手な家事はありましたか?
レミさん:昔、泥棒に入られたことがあって、泥棒に「一足先に仲間が入ったかと思った」と言われたほど、掃除が苦手。だって、片付けてもすぐ汚すでしょ。たんすの引き出しから洋服は流れてるし(笑)。でも、全部完ぺきなんて無理よね。それでいいのよ。
好きなことをやることで、お嫁さんたちともいい関係に
――息子さんたちが独立したあと、どんなことに力を注ぎましたか?
レミさん:「子育て、終わっちゃったね」と和田さんに言ったら、「レミにはまだやることがあるよ」って。和田さんが結婚の申し込みに実家に来たときに「レミから歌を取らないでください」って父から言われたらしいの。「だから、CDを作ろう」って。和田さんが作曲してくれて、(ジャズピアニストの)八木正生さんや佐藤允彦さんにアレンジしてもらって。レミパンで儲かったから、そのお金でオーケストラつけてスタジオで歌って。完成したら、父の墓がある横浜の外国人墓地に行って「CDを作りました」と報告してね。もう、すご~い達成感と充実で最高だったわよ。
――独立された息子さんたちとの関係に変化はありましたか?
レミさん:次男は広告代理店を辞めて、レミパンや食育アプリを作る会社をやってるの。二人とも近くに住んでくれていて、お嫁たちもほんとにいい子でさ。あーちゃんは、遊びに行くといつもテーブルの景色が見えなくなるくらいごはんを作ってくれて全部おいしいの。樹里ちゃんもいい子で、ちらし寿司がおいしいって言ったら次の日も作って、お土産にタッパーいっぱいにくれたりね。ふたりともいいやつなのね。
――お嫁さんたちといい関係を築く秘訣はありますか?
レミさん:だってさ、樹里ちゃんもあーちゃんも、学費も食費もお小遣いも一銭もお金をかけないで、あんないい子たちがうちにタダ来てくれたのよ。それは幸せよね。和田さんと勝手に子ども作って、その息子の孫まで産んでくれて。だけどね、普段は関わらないの。放っぽりっぱなしなの。それくらいがいいと思うよ。この前も、あーちゃんに「ごはん食べたあと、なんですぐに帰るんですか? 子どもたちとテレビでも見ていってください」って怒られちゃったわよ(笑)
――自分も周りも含めて、子育て後の人生を楽しむコツを教えてください。
レミさん:息子たち家族といい関係ができてるのも、私が仕事をやってるから。やっぱり、好きなことをもつことは大事よね。人のために、人が喜ぶことをやらなくちゃいけないのよね。テレビや雑誌の連載で料理を作ってると、街で「うちの主人がレミさんの料理が好きなんです」と言われて。ちょっと貢献できてるのかなってうれしいし、料理つながりで仲良くなれるなんてうれしいじゃない。そういうのが、幸せね。
編集後記
平野レミさんの子育ては、とてもシンプル。ごはんを作って、その姿を見せながら共に時間を過ごして、あとは息子さんたちを信じて大らかに見守ること。ご家族とのエピソードを楽しそうにお話ししてくださる姿に、たっぷりの愛情を感じました。
テレビでお見掛けするのと変わらず、取材中も終始パワフルな平野レミさん! お話を伺って、たくさんの元気をもらいました。料理に歌に、夢中になれる大好きなことを持ち続けることで、自分も周りも幸せにしてしまうレミさんから、自分らしく生きるための素敵なヒントをいただきました。レミさん、楽しいお話をありがとうございました!