お産の専門家が考える出産準備とは?
出産準備というと、ベビーグッズをそろえること、というイメージをお持ちの方がいると思います。しかし実は、妊娠期間というのは、赤ちゃんにとっての準備だけでなく、ママが出産と育児に向かう体と心の準備期間ともいえるのです。
1万件以上のお産に携わってきた助産師であり、働く妊婦の相談経験も豊富なバースコンサルタント・古市菜緒さんに、出産準備についてのアドバイスを伺いました。
出産準備はいつから始めるのがいい?
出産準備には、大きく分けて「出産育児に対する体や心の準備」と、「入院グッズや育児グッズをそろえる準備」の二つがあります。
「出産準備は、妊娠が分かった時がスタートのタイミングです。出産準備を進めることによって、出産と育児に対するイメージができてきますね。具体的な出産のイメージができれば、出産の不安も軽減できます。ベビーグッズをそろえるのは、妊娠中期以降からでいいと思います」(古市さん)
妊娠初期に行うべき出産準備
<妊娠初期の出産準備 妊娠2~4カ月(~15週まで)>
・マタニティーショーツやマタニティーブラを用意
・出産施設を決める(家の近く、里帰りなど情報収集して決定)
・母子手帳をもらう(妊娠11週頃までに)
・勤務先に報告・相談
(今後の仕事の調整やスケジュール調整、産後の働き方についても相談)
古市さんによると、「妊娠初期から用意した方がいいグッズは、マタニティーショーツやマタニティブラ」だそう。妊娠前と同じショーツをはいているときつく感じるようになるので、お腹の保護と、快適に過ごすために早めに準備しておきましょう。
「マタニティブラについては、急激なバストの変化に対応できるマタニティ専用のブラジャーでしっかりサポートする必要があります。産後の授乳ブラとしても使える、サイズ調節が大幅にできるものだと産後も使用できるのでおすすめですね」(古市さん)
また、働いている方は、勤務先への報告も考えておきましょう。
「初期はつわりもあり、体調が安定しない時期なので、できるだけ無理のないように体調を優先して過ごしましょう。そのためには会社に報告し、何かあったら休めるようにしておきたいですね」(古市さん)
妊娠中期に行うべき出産準備
<妊娠中期の出産準備 妊娠5~7カ月(16週~27週まで)>
・体調が落ち着いてきたら、産院や地域の母親学級に参加
・出産に向けたイメージトレーニング
・赤ちゃんグッズなどの下見をする
最近では、母親学級はオンラインでの実施になっているところが多くなっています。出産の心構えをより具体的に聞くことができますので、中期以降は積極的に参加しましょう。
また古市さんは、「出産はイメージが大事」と言います。そのため、妊娠中期、安定期になったら始めたいのが、出産に向けたイメージトレーニングです。
「一般的に、出産は怖い、痛いというイメージで出産に臨む方が多いのですが、怖い、怖いという気持を持ったままでの出産になると本当に難産になってしまいがちなんです。陣痛は大切な赤ちゃんを産み出すためのエネルギーでもあるので、陣痛や出産をプラスに捉えるようなイメージを描くことが大切なのですと、私はいつも妊婦さんたちにお話しています。
『不安はあるけど出産が楽しみ』という気持ちなら、いいお産ができると思います。『出産のときに、自分が落ち着いて呼吸をしている、赤ちゃんが出てきたときにすごく自分がニコニコしている』―そんなイメージをしてみましょう」(古市さん)
授乳についても、この時期から意識し始めてほしいと古市さんは言います。
「大事なのが、自分のおっぱい、乳房の形を意識するということ。自分の乳房で赤ちゃんに母乳をあげるというイメージが湧かない方もいるので、最初は意識をしていただくだけでもいいんです」(古市さん)
また、ベビーグッズの下見もしておけるとよいでしょう。インターネット上でどんな商品があるか調べてみたり、体調がいいときは近くのお店で実際に商品を見に行けると、イメージもしやすいです。
「ベビーグッズの中で高額なものの例というとベビーカーですが、赤ちゃんによってはベビーカーに乗りたがらない子もいます。実際の赤ちゃんの様子や子育てのスタイルが決まってから考えてみてもいいと思います。また、ベビーグッズはどんどん進化しており、うちでは折り畳み式のプレイジム(ベビージム)なども重宝しています」(古市さん)
妊娠後期に行うべき出産準備
<妊娠後期の出産準備 妊娠8カ月~(28週~)>
・入院準備バッグを用意
・出産に向けた体の準備(乳頭マッサージ、会陰マッサージなど)
・母親学級に参加して出産の準備や呼吸法を習う
・入院時の流れを決める
・産後の手続き(出生届、健康保険の加入、児童手当金、出産育児一時金など)の確認
・赤ちゃん退院後の部屋の準備
・育児グッズをそろえる
・小児科を調べておく
・産後の内祝いを考えておく
後期になると、やるべき出産準備リストの数が増えてきますね。
まず、34週になるまでに済ませておきたい重要な準備が、「入院準備バッグ」をセットしておくことです。
「急な破水など入院につながることが増えるのが34週からといわれています。入院準備を一つのバックになるべく収めるようにして、家族全員が分かる場所に置いておきましょう。外出先から緊急入院するということも起こり得るからです」と古市さんはアドバイスします。
入院の準備については産院によって必要な準備が異なります。ホテルのようにアメニティが充実した産院もあれば、自分でいろいろと用意しなければならないところも。下記の『入院準備リスト』を参考に、産院から渡されるリストを必ず確認してください。
古市さん「入院準備として必須ではありませんが、あったら便利なのが、骨盤ベルトです。腰のゆがみを防いだり、腰痛を緩和してくれたりするので重宝します。むくみ防止のため、産院では弾性ストッキングもあるといいですね。後期や産後に足がむくむ方が多いので、履くと足が楽になります」
また、この時期には、出産に向けた体の準備として、乳頭マッサージや会陰マッサージもおすすめとのことです。
「36週に入ったらしっかり乳頭マッサージをしていきましょう。乳頭マッサージによって乳頭や乳輪の伸びがよくなり、赤ちゃんが吸いやすく、乳頭の傷もできにくくなることが期待できます。入浴する前にオイルを乳輪と乳頭に塗布し、指の腹で圧迫しほぐすようにマッサージしましょう。
また、会陰マッサージは、妊娠中に会陰を柔らかくしなやかにしておくことで、お産をスムーズにしたり、産後の負担を和らげるものです。 会陰部にオイルなどを塗布するソフトなマッサージであれば、32週ぐらい(妊娠9カ月)からがおすすめです」(古市さん)
34週までに用意したい! 入院準備品リスト
【お産時に必要なもの】
□飲み物
□寝ながらでも摂取できる食べ物
□ペットボトルストロー
□ヘアゴム
【入院時に必要なもの】
□母子手帳 □診察券
□保険証 □少額のお金
□携帯の充電器 □筆記用具
□印鑑 □必要書類
□洗面グッズ □お風呂グッズ
□スリッパ □コップ
□お箸 □タオル類
□箱ティッシュ □マスク
□時計
【お母さん用品】
□マタニティパジャマ □授乳用ブラジャー
□産褥ショーツ □産褥パッド
□骨盤ベルト □靴下
□弾性ストッキング
【赤ちゃん用品】
□ガーゼハンカチ 3~5枚 □退院時の洋服
□退院時のおくるみ □チャイルドシート(車の場合)
肌着・ウエア
□短肌着 4~5枚
□コンビ肌着 4~5枚
※丈が膝まである肌着で、裾が二股に分かれスナップボタンで留められる
□ツーウェイオール 4~5枚
※スナップの留め方でワンピースとズボンの2通り使える
□おくるみ 2枚
おむつグッズ
□おむつ 1~2パック □おしりふき 3パック
□おむつ用ゴミ箱
授乳グッズ
□哺乳瓶 2本 □哺乳瓶用ゴム乳首 2個
□粉ミルク 1缶 □哺乳瓶消毒アイテム
□哺乳瓶用ブラシ □授乳クッション
ねんねグッズ
□ふとんセット1組 □タオルケット 2枚
お風呂グッズ
□ベビーバス □全身用ベビーソープ
□保湿用ベビークリーム □お臍の消毒セット
ケアグッズ
□ガーゼハンカチ10枚 □ベビー用くし
□ベビー用綿棒 □ベビー用爪切り
□子ども用体温計
※入院の準備は、出産する産院から案内されるリストを確認の上、用意しましょう。
出産後に受けられるサポートを考えておこう
出産は「産んだら終わり」ではなく、ここからが本番で、すぐに育児が始まります。出産直後から得られるサポートについて妊娠中からチェックしておくことも、必要な出産準備の一つといえます。
古市さん「出産のダメージは全治数カ月の交通事故に例えられるほど過酷なものといわれています。里帰り出産なども含め、出産後は家族に手伝ってもらう予定の方も多いと思いますが、それ以外にも産後の自分と赤ちゃんが得られるサポートについて調べておくと、安心して出産を迎えられるでしょう」
家族にサポートしてもらうことが難しい場合は、「産後ケア施設」や「産前産後ヘルパー」などを利用するという方法もあります。
「産後ケア施設は、出産後の産褥期にママと赤ちゃんが適切なケアを受けながら母体の回復をはかるとともに、育児の準備ができる宿泊型施設です。自治体によっては、産後ケア施設の入所や産前産後ヘルパー派遣に公的支援が受けられることもあります」(古市さん)
出産準備期間の注意点
「妊娠後期は安定期とはいえませんので、お腹が張りやすかったりなどの異変も起こりやすくなってきます。日々の体調をよく観察し、頭痛、吐き気などの体調の異変、胎動の様子などに一層気を付けておく必要があります。最も怖い例として、常位胎盤早期剥離という何の前触れもなく胎盤がお腹から剥がれてしまうような症状もありますので、十分注意し、何か異変に気付いたらすぐ産院に相談してください」(古市さん)
また、妊娠後期は体重コントロールが難しくなってくるため、体重管理も含めた健康管理を心掛けながら出産準備を行っていきましょう。
特に高齢出産の方は、気を付けていても、妊娠後期に妊娠高血圧症になる可能性が高くなります。産院と相談しながら、適切なケアを行っていくことが大切です。
「医師から運動しても問題ないと許可があれば、ウォーキングやマタニティスイミング、マタニティヨガなどの軽い有酸素運動を行うのがおすすめです。食事面は、塩分を抑えたバランスの良い食事にしましょう」(古市さん)
お腹の赤ちゃんへのアプローチも大切な出産準備
お腹の赤ちゃんが母体の外からの音がしっかりと聞こえるようになる時期は、妊娠7カ月頃といわれています。「胎教」という言葉だと堅苦しい感じがするかもしれませんが、古市さんによれば、「お腹の赤ちゃんにいっぱい話掛けることが大切」なのだそう。
「聞こえるようになる妊娠7カ月以降にしっかり声を掛けていただきたいのはもちろんですが、赤ちゃんはそれ以前でも、ママの声や周りの様子を、波動で感じているのです。話し掛けてあげることで、胎児に刺激を与え、脳神経の発達を促すことができます。
パパや上のお子さんが声をかけてあげていると、産後に皆がおしゃべりしていても、赤ちゃんが安心して寝てくれたりということもあるようです。お腹の赤ちゃんに何を話したらいいか分からないという方は、絵本を読んであげるのもいいですね」(古市さん)
出産後の仕事復帰にむけて心掛けておきたいポイント
働く女性が出産後スムーズに復職するために、出産前後に心掛けたいこととして何があるでしょうか。
「まずは、仕事復帰の時期を早いうちに明確にすることが大切です」と古市さん。産休・育休を取得中の方は、仕事復帰の時期が決まったら早めに職場に報告しましょう。
「特に産後1年未満で復帰を予定している方は、出産前から保育園を含めた産後の生活について、具体的な計画を立てる必要があります」(古市さん)
産後すぐは、慣れない育児や新しい環境に置かれるため、心身ともに疲労が強い状態です。
「産後に焦らないためにも、産前から仕事復帰のために必要なことを整えておきましょう。子どもの預け先で保育園などを考えている方は、お住まいの自治体に直接問い合わせることをおすすめします。ネットなどで調べるよりも、手続きや、すべきことをより具体的にイメージしやすくなりますよ」(古市さん)
実際育児が始まると、生活スタイルが大きく変わり、出産前に考えていた復帰時期を変更せざるを得ないママたちもいるそうです。
「産後に焦らず対処するために、夫婦や家族との話し合いを大切にし、産休・育休中も職場とスムーズに連絡を取れるように心掛けておきましょう」(古市さん)
おわりに
出産準備はいつから・どんなことをすればいいのかについて、バースコンサルタントの古市菜緒さんに詳しく教えていただきました。特に後期にやることが多くなってきますが、初期は体を大事にする時期でもありますので、あらかじめ準備のイメージだけでもしておくと、慌てずに実際の準備に移行できるでしょう。
幸せな赤ちゃんとの出会いのために、「出産にプラスのイメージを持ちましょう」という古市さんのアドバイスを心に留めつつ、出産準備を進めていきましょう。