米粉パンは小麦粉のパンと比べて失敗しやすい!? 膨らまない理由とは?
グルテンフリーで、腹持ちがよくヘルシーな米粉。健康志向やアレルギーへの懸念から、米粉で作るパンが注目を集めています。ただ、膨らまなかったり、固く焼き上がってしまったり・・・、米粉でパンを作るとなぜか失敗するという人は少なくないようです。
上の写真は左側がふっくらフワフワに焼けた米粉パン、右側は餅のように固く焼き上がってしまった米粉パンです。右側は膨らみが少ないため、焼き色も付きませんでした。食感もお団子のようでパンとは言えません。せっかく時間をかけて手作りしたのに残念な仕上がりになってしまいました。
米粉でフワフワのパンに仕上げるには、どんな工夫が必要なのでしょうか。米粉専門家の高橋ヒロさんに、米粉パンが失敗しやすい理由や美味しく仕上げる作り方について伺いました。
米粉パンが失敗する理由1「時間をかけてこねてしまう」
高橋さんによると、米粉パンが膨らむメカニズムは小麦粉のパンと全く異なるそうです。
「小麦粉のパンの場合、小麦に含まれる成分が網目状のグルテンを形成し、気泡を閉じ込める役割を果たします。グルテンを生成させるために少量の水で粉を練り、何度も叩いて時間をかけてこねていきますが、米粉パンの場合、同じようにすると石のように固くなってしまいます。米粉パンの場合は多めの水で溶き、5分くらいでドロドロに混ざればOKです。長いこと混ぜていると乾燥してしまいます」(高橋さん)
米粉パンの場合は、主な原料は米粉、水、イースト、砂糖、食塩、油脂。米粉のでんぷん質が粘りになって、中に気泡を含む仕組みです。グルテンで作った気泡と異なり、米粉の気泡はシャボン玉のように壊れやすいのが特徴です(※1)。
高橋さん「米粉パンの教室に来る生徒さんを見ていても、小麦粉のパンのイメージで作る方は失敗しがちです。こねずに短時間でしっかり混ぜるのが大切です」
米粉パンが失敗する理由2「パンに向かない米粉を使っている」
高橋さんによると、米粉パンの失敗例で一番多いのが米粉の種類を間違えてしまうことだそう。小麦粉の場合、用途に応じて薄力粉、強力粉、中力粉など複数の種類がありますが、米粉でも用途に応じて1番、2番、3番と3種類に分類されています(※2)。
米粉の種類とアミロース含有量
高橋さん「パンに適した米粉は2番、アミロース含有量が15%∼25%とちょうど良く、膨らませるのに必要なコシがあります」
米にはアミロースとアミロペクチンの2種類のでんぷんが含まれていますが、品種によりこれらの割合は大きく異なります。
アミロースの割合が少なく、アミロペクチンが多い品種は、粘りが強いご飯になります。冷めても美味しくモチモチした食感は昨今人気で、ミルキークイーンやコシヒカリなど数多くの品種がこちらに含まれます。
逆にアミロースの割合が多いと粘り気が少なく、粒がほぐれやすいご飯になります。米粉パンを作るのに適しているのは、このアミロースの含有量が多い方。しっかりとコシがあり、パンが膨らみやすくなります。こちらはすし飯などにも好まれます。ただ、アミロースの含有量が多すぎると固くなってしまうため、含有量15%∼25%の米粉がパンに適しているとされています。
高橋さん「私がよく使うのはミズホチカラという品種です。パン用と記載のある米粉を使えば間違いありません」
ただ、パン用の米粉には、グルテンなどの添加物が添加されているタイプの商品もあります。そういった添加物を避けたい場合には、購入前に裏の表示をチェックしましょう。
ミルで挽いた粉でパンは作れる?
適した品種のお米だったら、自宅のミルなどで粉砕して米粉にしてからパンを作ることは可能なのでしょうか?
高橋さん「試してみる価値はあると思います。もしかしたらうまくいくかもしれませんね。ただ、絶対に失敗したくないのであれば、市販のパン用米粉を使った方がよいでしょう。米粉の粒子が細かいほど吸水性が高くなり、生地を成形しやすくなるのですが、粒子が細かくてでんぷん損傷が少ない米粉を作るには、高度な製粉技術が必要です。大手の製粉メーカーでは気流式粉砕機という高価な機械が導入されていますが、個人の場合にはそういった機械の利用は難しいので粒子が荒くなってしまいがちです」
また、高橋さんによると生米を一晩、浸水させて作る方法であれば、どんなお米の品種でも問題なく米粉パンにすることができるそうです。
米粉パンが失敗する理由3「添加物を入れずに大きい米粉パンを作ろうとしている」
水、イースト、砂糖、食塩、油脂を原料とするシンプルなレシピの米粉パンを作る時は、小さな焼き型を使うのがポイントだと高橋さん。14cm×6.5cm×4.5cmのミニパウンド型がオススメだそうです。
「失敗したくないのであれば、まずは小さな焼き型で作りましょう。分量が多いと混ぜる間に乾燥しやすくなりますし、膨らみが安定しにくくもなります」(高橋さん)
大きなパンを作りたい場合は、添加物を使うと安定して膨らむそうです。トレハロースなどの増粘多糖剤を使うケースが多いですが、タピオカでんぷん、アルファ化米や米ゲルを5%くらい入れても添加物の代わりになるとのことです。添加物を入れることで翌日になっても固くなりにくくなるというメリットも。
米粉パンのその他の失敗例
高橋さんによると、その他にも以下の理由で失敗するケースがあるそうです。
・発酵させ過ぎてしまい、きめが粗くなってしまう
・イーストが古くて膨らまない
・米粉パンを焼いた後、そのまま置いておいて乾燥させてしまう
高橋さん「小麦粉のパンの場合は2倍ほどに膨らみますが、米粉パンは1.5倍くらいまで膨らめばOKです」
また、米粉パンは乾燥しやすいので、発酵中はラップで包み、焼く時もアルミホイルで包むのがポイントだそう。アルミホイルで包むことで蒸し焼き状態になり、ふっくら焼き上がるとのことです。
上の写真ではガスオーブンの発酵機能を使っています。暖かい日なら常温でも膨らむそうですよ。
失敗した米粉パン、リメイクの方法はある?
米粉パンをしばらく置いて乾燥させてしまったり、固く焼き上がってしまった時は、どうリメイクしたらよいのでしょうか。
高橋さんによると、おろし器で削ってパン粉の代わりに使う方法がオススメだそう。
おせんべいのように固くなってしまうとリメイクは難しいですが、少し固め程度であれば、再度、蒸し器で温めたり、フレンチトーストにする方法もあります。
「ただし、フレンチトーストにする場合、卵液に浸すのは5分ほど。長い時間漬け込むと溶けてきてしまうので気を付けてください」(高橋さん)
米粉パンの保存方法や保存期間
高橋さんによると、「米粉パンの扱いは炊き立てのご飯と同じ」だそう。粗熱が取れたらそのまま放置せず、すぐにラップで包みます。その日のうちに食べるか、カットして密閉袋などに入れた状態で冷凍保存しましょう。
解凍する時は、電子レンジで軽く温めてもよいですが、蒸し器で再度蒸すと美味しくなるとのこと。トーストにしたい場合も蒸した後でカリッと焼きます。
高橋さんの米粉パンのレシピをご紹介!
材料
・米粉(パン用)・・・200g
・砂糖・・・10g
・ドライースト・・・4g
・塩・・・3g
・ぬるま湯・・・160∼180g
・植物油・・・10g
作り方(14cm×6.5cm×高さ4.5cmのミニパウンド型2台分)
・ボウルに米粉、砂糖、ドライイースト、塩を入れ泡立て器で混ぜる
・ボウルに植物油を加えた後、ぬるま湯を少しずつ加えゴムベラで混ぜる
・生地をすくった時にリボン状に垂れるくらいになったら生地の完成
・生地を型に流し入れラップで包み、オーブンの発酵機能(約35度)で15∼30分、1.5倍くらいに膨らむのを待つ
・ラップを剥がし、型の上からクッキングシートとアルミホイルをかぶせて、160度に予熱したオーブンで10分焼く
・温度を200度に上げてさらに15分焼く
・オーブンから取り出してクッキングシートとアルミホイルを剥がし、15分ほど焼いて焼き色を付ける
・焼き上がったら型から外し、網の上で粗熱を取る
・粗熱が取れたらカットする
おわりに
高橋さんが米粉パンにハマった理由は、簡単で短時間で作れるところが魅力だからだそう。小麦粉のパンと違い、こねる必要はなく発酵時間も短く済みます。一度失敗しても難しそうだと思わずに試してみてほしいとのこと。ぜひやってみてくださいね。
※1出典:農研機構「米粉100%パンが膨らむメカニズムの解明とパン製造法への応用」
※2出典:農林水産省「『米粉の用途別基準』及び『米粉製品の普及のための表示に関するガイドライン』の公表について」
参考:高橋 誠, 本間 紀之, 諸橋 敬子, 中村 幸一, 鈴木 保宏, 日本食品科学工学会誌/56 巻 (2009) 7 号/書誌報文「米の品種特性が米粉パン品質に及ぼす影響」